キンジ・ア・ライブ   作:赤須

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Ⅳ弾 ラタトスク機関

視界が白くなり、景色が一変した。

俺の周りには機械仕掛けのモノが多く配置されている。

 

(……まるでボストーク号の中みたいだな)

 

ヒステリアモードが継続中であった俺は辺りを見渡しながら状況判断する。

あの時、俺はあの精霊と軍隊らしき人間たちの戦場に立っていた。

 

それを中断させたが、いつの間にかここにいる。

この感覚は瞬間移動か……

 

猴が見せたそれと似ている。この世界では科学の力でやり遂げてしまうのか。

 

俺はその場で考え事をしていると、こちらに近づいてくる人物に気づく。

 

「やあ、よく来てくれたね」

 

人物……それも女性のようだ。

目元に隈が出来ており、髪もボサッとしているが、

それを正せば輝くような容姿をしていた。

 

軍服を装い、傷だらけのクマが胸ポケットから覗かせている。

 

「来てくれた、じゃなくて呼び出したの間違いじゃないかな?」

 

「……ん、そうだね」

 

なんだかボォ―――とした感じの女性のようだ。

大人っぽい雰囲気もあるにはあるんだが、その不健康そうな表情から、

HSS的にも心配しがちな気を使いたくなるな。

 

「……まあ安心してくれ。私は村雨令音。ここで解析官をやっている。まず敵じゃないことは確かだよ」

 

「……敵じゃないなら教えてくれないかな、ここがどこなのかを」

 

これほどの技術があるんだから、きっと何か裏がありそうな組織なんだろうな。

そう考えた俺は令音にそう言うと、目の前の令音は俺に背を向けて顔を半分だけ振り向き、口が開いた。

 

「……ここは<フラクシナス>だ。……まあついてきてみれば分かるさ。ちょうど紹介したい人がいるから、気になることはその人に詳しいこと聞くといい」

 

出入口から出ようと令音は歩き出す、が……その千鳥足のような歩き方に、

俺は急いで倒れそうな彼女を支えようとするが、どうにか自力で立ち直したようだ。

 

「大丈夫か」

 

「……ああ、すまない。最近寝不足でね」

 

「その隈から相当みたいだね。どのくらい寝てないんだ?」

 

令音は指をあごに当てながら考える素振りをし、

指を三本立てた。3日か……確かにそれは寝てないな。

 

「…………30年、かな?」

 

「さ、30年ッ」

 

け、桁が違うぞ。明らかに日じゃなくて年が……

かと言って、ヒステリアモードになった俺はそんな失礼なことを言えず、

ただ苦笑いするしかなかったのだが、令音は差し当たって気にしてなさそうだ。

 

「……まあ、最後に睡眠をとった日が思い出せないのは本当だ。どうも不眠症気味でね」

 

「はぁ……」

 

「……と、失礼。薬の時間だ。どうにもこれを飲まないと気が済まないのでね」

 

「失礼ですが、その薬って何の薬ですか?」

 

「睡眠薬だが?」

 

そう言いながら令音は上着の内側から、ピルケースを取り出し、

開けた状態を保ちながら口の中に錠剤を放り込む。

その量は……ジーサードが上空ガリオンで戦ったとき飲んだ薬レベルの量……!

 

「れ、令音さんっ?」

 

ヒステリアモードの論理的思考力から、反射神経の類をもって脳裏を回転させる。

 

(睡眠薬を大量に飲む……つまり、Overdode―――略してOD。そのODによる不適切な飲み方をすると、幻覚や記憶障害に繋がるという。また肝臓にも負担がかかるとし、使い続けることでボロボロになっていく……そしてもっとも有名な呼吸中枢麻痺で亡くなる例が……)

 

無駄にフル回転させた俺はハッと気づき、

急いで彼女の名前を呼ぼうとしたが、もう遅い。

 

バリバリグシャグシャバキバキ……ゴクン、と……

 

「令音さんっ、そんなに飲むと大量摂取で死ぬぞっ?」

 

「……ああ、驚かせてすまないね。私はどうにも薬の効き目が悪くて、このくらい飲まないと眠れなさそうなんだ。……まあ、眠れないのだが」

 

ああ、この人……前世の俺と同じで薬が効かない体質なのかな。

ワトソンくんちゃんから薬漬けにされても不思議とすぐ治ったし……

 

「……まあでも甘くて美味しいから、いいんだがね」

 

「それって、ラムネとか飴じゃないのかな……」

 

彼女なりの個性というべきなのだろうか。

こう言った人は、まあ前世にはたくさんいたからな。

今更驚くことじゃないか。

 

「……とりあえず、ついてきたまえ」

 

「わ、わかりました」

 

そう応えた俺は令音の後を追い、

続いて歩く形で目的地とやらに案内してもらっている。

 

シャーロックと決着をつけるためにボストーク号に侵入した際、

見た光景とはまた違うな。いや、これが合っているんだ。

あの時は博物館や美術館のような感じだったからな。これが本当の潜水艦やら飛行艇だったら相当なものだよ。

 

「……ここだ」

 

令音の指す方向に俺は視線を向けると、そこには電子パネル付きの扉が配置されていた。パネルの暗証番号なんだろう―――令音はそれを解除し、扉をスライドで開かせる。

 

「……さ、入りたまえ」

 

言葉に従い、俺は一歩……二歩と進んでいく。

そして、俺の視界に移った光景とは――――――

 

「こ、これは……!」

 

まるで映画の特撮やアニメに出てくる、宇宙戦艦のような光景だった。

艦橋から半楕円に広がった床。その中心には戦艦でいうお約束の艦長専用の席が備わっている。また、その奥も数人ものクルーらしき人物たちが目の前の画面に向けて集中していた。

 

「……連れてきたよ」

 

「ご苦労様です」

 

姿勢を保つことすら難しいらしい令音は、目の前のウェーブの掛かった金髪美形の男性に話しかけ、男性のほうも令音とは真逆の正しき姿勢を保ちながら礼をする。

 

あの甘いマスクや礼儀正しいというところから不知火を彷彿させるな。

この世界でいう不知火ポジションってところか……

 

「初めまして。私はここの副司令官。神無月恭平と申します。以後お見知り置きを」

 

俺の前に立った彼は再び姿勢を正して軽く礼をする。

うん、不知火ポジション的な存在だな。

 

ただヒステリアモードの俺は男に対しては至って普通なので、

ここは軽く頷く。

すると、男性―――神無月が艦長席のいる方向に声をかける。

 

「司令、村雨解析官が戻りました」

 

神無月がそう言うと、艦長席に座っていた人物がこちらにイスごと向けてきた。

 

「―――歓迎するわ。ようこそ、<ラタトスク>へ」

 

その声は俺の聞き覚えにあった。

しかも見覚えもある。紅色のツインテールに、緋色に光る瞳、アリアと同じくらいの幼児体型。そして何よりもあの口に咥えているチュッパチャプス。

口調・髪留めのリボン・姿・雰囲気からいつもの俺が知っている人物とは掛け離れているが、ヒステリアモードの俺には分かるんだ。

 

彼女が妹の五河琴里だっていうことを……

 

「……ずいぶんと雰囲気から恰好まで変わったね。俺の妹……琴里。これはどういうことなのか説明してくれないかな?」

 

こういう事態は結構慣れっこなので、俺は口元の両端に微笑を浮かべながら、

可愛い妹の方を向いて口を開く。

 

対する琴里はムッとした表情で俺を見つめてくるが、

いやはや、いつもの妹とまったく違う雰囲気だから意標を突かれるな。

こういう妹の姿も可愛いとな。雰囲気からしてアリアと少し似ているが……

 

「そういう士道こそ雰囲気がまるで正反対に入れ替わったみたいじゃない。どうしたの、そのキザな喋り方。その辺に落ちているモノでも食べたのかしら」

 

「俺は至って普通だよ。……それに今は俺が先に質問しているんだ。なぜ君がここにいるのかを……」

 

あれほど甘えん坊で寂しがり屋な琴里が、強気な雰囲気であるのはお互い様だろう?

と告げるように俺は視線を琴里に向け、琴里の答えを待つ。

 

「それは答えられないわ」

 

「兄である俺にもか?」

 

「ええ」

 

琴里の足を組み、まるで女王様のようなスタイルで座りながら答える。

だが、それを俺は「はぁ」と溜息を吐きながら目の前の女性……琴里に向けてヤレヤレと欧米風に動作を送る。

 

「……女性に隠し事はつきものだ。これ以上のことは聞かないよ」

 

「賢明ね」

 

これでも武偵だからね。

依頼されていない以上は深入りは禁物って昔、

不知火が言っていたような気がするよ。

 

「話を変えるけど、なぜ……俺を呼んだんだい? 一般人の俺が入るべきところじゃなさそうだけど……」

 

前世の世界では、否定したいがどうやらココに存在自体が一般人じゃないらしい。だが、この世界においての俺は武偵じゃなければ特別……HSSが何故かついてきちゃったのはよく分からないが、それを除けば普通の高校生だ。

 

映画の舞台に立てるような男じゃない。

 

琴里はモニタリングに画面を表示させ、俺はそれを覗き込む。

その画面には先ほどの精霊とCR-ユニットを装備したあの人たちが映し出されていた。

 

「まあ、士道の言いたいことは一理あるけど、それはいずれわかるわ。その前に精霊やASTの存在を教え込まないとね。喜びなさい、私直々のご伝授よ。お礼ならあとで私の靴底を舐めていいわよ」

 

どうやら俺の知っている琴里はどこか遠くの星に行ってしまったようだ。

変わっているからある程度は予想はしていたが……これは裏表の入れ替わりが激しいというか、理子と同じくらいの変わりようだぞ。

 

その時、俺の近くにいた男性が琴里の方に向けて……

 

「ほ、本当ですか!?」

 

会話の相手が俺だったのに、

割り込んで喜びに溢れた満面の表情の神無月だった。

 

そして何を言っているんだ。あんたは……

まさかだとは思うが、そういう趣味があるのか。

不知火っぽいから油断していたな。

 

「あんたじゃない!」

 

琴里は両手を組み、片方に捻り一気に溜め込んだ力を肘に集中させて神無月の鳩尾に向ける。

 

「あでぶぅ……ッ!?」

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

とりあえず大事ないか聞いてみると、神無月は痛そうに脇腹を抑えつつも、

満面の笑顔だったのに、俺は少し頬を引き攣る。

 

神無月は微笑ましく、グッと片方の手を俺に向けて親指を立てた。

 

「おっと、心配しなくても大丈夫ですよー。我々の業界ではご褒美なのです!」

 

シュタッと立ち上がる神無月にヒステリアモードの俺でも流石に言葉も出なかった。

そもそも、この業界に対する疑念が生まれたのは確かだ。

 

琴里はそれらをスルーし、画面上のモニターに指を向けた。

 

「士道、こっちがAST……この機械仕掛けを身に着けた人間のことよ」

 

「ああ……CR-ユニットという装備のことか」

 

「あら、もう知っているのね……話が早いわ。そしてこっちが空間震を引き起こす特殊災害指定生命体―――精霊よ」

 

今度はあの悲しそうな表情をしていた少女を指した。

あれが精霊だったのか、見た目が人間の姿なのに精霊……

 

「この2つの存在が争っているけど、実際には精霊には強大すぎて手は出せるけど、足が出ないって感じね。よくて撃退。最悪で全滅はおろかその場周辺が吹き飛ぶわ」

 

確かにあのASTと呼ばれる折紙がいた複数の軍人が1人の少女……精霊か。

その精霊に押されていたから、当然精霊の強さっていうのがハッキリ分かるな。

 

「要はASTってのは精霊を殺すってことね」

 

「なるほど」

 

精霊と呼ばれる存在がどれほど危険なのかわかった。

そしてASTに関しても精霊専門の部隊でその場に飛んで行って対処する。

この2つの存在がこの世界においての特別なモノらしい。

 

だが、どうにも頂けない所がある。

どうして対処する。という方法だけなのかを……

 

「琴里、それは殺すだけなのかい?」

 

「ASTからしてはそうかもしれないわね」

 

AST……鳶一折紙がいたあの組織。

機械を纏い部隊を動かして戦う自衛隊みたいな組織が、

あの悲しげな少女に攻撃しなくてはならないのか。

 

他に方法はあるはずだ。

ゆっくりと思考を張り巡らせる。

ヒステリアモードは可能な限り女性を傷つけず、

守る体質なのだ。だから、彼女を救いたい。

 

となれば、戦い以外で解決となれば限られてくる。

まずは存在自体に関わらないこと。

つまりは嵐が通り過ぎるのを待つというのを、

ただ実行すること。

 

だが、相手に対してそれは平和的にはならない。

だったら……

 

 

 

「……話し合うということはできないのか?」

 

「あれは災厄を齎す怪物よ。世界に現れるだけで汚染される癌みたいな最恐最悪の猛毒よ?」

 

あの娘の孤独な感じ。それはアリアと同じ雰囲気だった。

放ってはおけない。あんな顔をする女性が俺たちの敵ではあるはずがないとな。

俺は瞼を閉じ、黙考しながら数秒間黙り込む。

 

「……」

 

そして、俺はゆっくりと目を開けた。

 

「俺はあいつが好き好んで物を破壊するような娘じゃないと思うよ。それに琴里、彼女らを癌呼ばわりするのはやめてほしいな」

 

「災厄の精霊に対して、彼女……ねぇ。ずいぶんと精霊に肩を持つじゃない。……もしかして惚れちゃった?」

 

「―――かもしれないね。だけど、俺は女性には平等で愛することにしている。それぞれの個性が魅力になって輝かせ、それが宝石のように美しさが増していくんだ。だから、俺の考え……Talks(話し合い)だ」

 

自然と呟いた言葉に琴里は一笑に付した。

 

「そう。なら、士道……手伝ってあげる」

 

「……?」

 

首を傾げながら俺はどういうことなのか表情で琴里を見つめる。

 

「私たちが、それを手伝ってあげるわ。<ラタトスク機関>の総力を以て、士道をサポートしてあげるの」

 

「俺を、サポート……?」

 

ヒステリアモードから理解するに、司令であり妹こと琴里は、

組織を率いて俺をサポートとかするが、その理由……つまり、なぜ俺が選ばれたのかがまだわからないのだ。

 

あの精霊だって、かつて戦った閻と同じくらいの脅威を持ち、

ただの人間である俺が勝てるかどうか分からないのだ。

 

話し合いにするにしても、応じれば良いものの、応じなければこちらに危険が及ぶのは明白にして必然。それを琴里は俺に言っている。

 

察するに、俺という何かがあるのだろうと感じたからなのではないかと考えられる。

昔、アリアからもその俺に特別な何かを感じたらしく、ああやってしつこく追い回されていたのを思い出すな。それと同じ感じがする。

 

「ええ、そうよ―――私たち<ラタトスク>はそもそも士道のために作られた組織だから」

 

「俺の、ために……? ――――――待て、その前に聞きたいことがあったんだ」

 

そろそろヒステリアモードが解ける頃だろう。その前に聞いておくべきことは聞いておかないとな……

 

「……なにかしら?」

 

「精霊を対話するだけなら他の奴らでも良かったんじゃないか。そもそも何故俺なんだ」

 

「士道が特別だからよ」

 

「り、理由になってないぞ」

 

横目になった俺に琴里はニッと笑いながら肩を竦めた。

 

「まあ、さっき言った通り理由はいずれ分かるってこと。それに私たちは知識から策略、技術に人員による総力で士道の行動を後押してあげるって言っているのよ。まさか1人で何の用意もなく精霊とASTに挑むわけ……?」

 

「……」

 

納得はしたくないが理解はできるな。武偵において準備は絶対において必要なモノ。

備えあれば憂いなしって言うしな。

 

……それとどうやら、ヒステリアモードも解除されたようだ。

その影響で頭痛もするし、やたら眠い……。

とりあえず、最後にこれだけ聞いておこう。

 

「……そう、だな。じゃあ、お言葉に甘えてお前たちの力を借りるとする。だが、対話っていうが、具体的に何をすりゃいいんだ?」

 

そう聞くと、琴里は小さく微笑みを作った。

 

「それはね……――――――精霊に、恋をさせるの」

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁっ!?」

 




更新遅れてしまい、申し訳ないッス!

今回遅れた理由は、戦闘以外でのヒスキンの描写が難しくて、
書き直しが多かったらなのと、リアルが忙しくて執筆する時間がなかったことですね。



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