キンジ・ア・ライブ   作:赤須

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祝お気に入り100人突破! うれしいです! 
こんなにも読者に読んでいただけるとは思いもしませんでした。
皆さんには感謝で一杯ですね。




Ⅶ弾 その名は十香

時刻は17時20分。避難していく生徒たちの目から可能な限り避けて琴里と令音、そして俺は一旦空中に浮遊する戦艦―――<フラクシナス>に搭乗した。

艦橋から映し出される映像を見て、出現した精霊がどこに現れたかを探りを入れた。

 

軍服に着替えた琴里と令音は何やら軍事用語らしき言葉を交えており、

画面に映る情報のパラメーターを見つめている。

 

「なぁ……この数値ってなんだ?」

 

「そんなの、あとで説明するわ。士道にはすぐに働いてもらうから準備なさい」

 

「うっ」

 

俺の問いをあっさりと切り捨てた我が妹の琴里は、

艦長が座るべく席にどっかりと腰を下ろし、口にチュッパチャプスを頬張りながらクルーに指示を繰り出す。

 

「―――もう彼を実践に投入するのですか、司令」

 

琴里の座る席の隣で、彼……つまり俺のことをあの神無月が述べていた。

 

「相手は精霊。失敗すれば確実に死にます。訓練は十分なのでしぉ―――げふっ!?」

 

語っていた神無月が言葉に途切れを生み出していた。

その理由は……まぁ、琴里が神無月に腹パンをしたからなんだがな。

 

「私の判断にケチをつけるなんて、偉くなったものねぇ神無月。罰として今からいいと言うまで豚語で喋りなさい」

 

「ぶ、ブヒィ」

 

見ていると嬉しそうだな、おい。

神無月の恍惚な表情に俺はげんなりと彼を見ていた。

 

「だが琴里。俺も神無月の言うことは確かだとは思うぞ。訓練が不十分なヤツはいざという時に咄嗟には動けないんだから」

 

「まあね。ていうか、士道……豚の言葉が理解できるの? さすが豚レベルの男ね」

 

「……豚を甘く見るなよ。きれい好きで知能も高いんだぞ」

 

「そのくらい知ってるわよ。だから有能な部下である神無月や、尊敬する兄の士道に、最大の敬意を払って豚という呼称にしているのよ。豚。この豚」

 

兄を尊敬しているのなら、そういう言い方はないんじゃないのか?

と、俺は思うのだが……、まあアリアとかココにドベやら亀やら例えられたり、

何かしらと罵ってくるから多少は慣れているしな。

その話は脇に置いておこう。

 

「……そんなことよりも精霊の方を何とかしたほうがいいんじゃないのか?」

 

「わかってるわ。それと、士道。あなたかなりラッキーよ」

 

琴里は視線をスクリーンに目を向け、映し出されている地図にアイコンらしきものが、赤いのと黄色いのが画面上で動き回っている。

たぶん、これは精霊とASTの戦いを表しているのだろう。

 

「赤いのが精霊。黄色いのがASTよ」

 

「で、何がラッキーなんだ?」

 

「ASTの様子を見なさい。さっきから動きの反応が見られないでしょう?」

 

「ああ、そうだな」

 

赤いアイコン……精霊もまた動かないでいる。

場所は俺の通う来禅高校に出現しているわけなのだが、

それをASTは攻撃するのではなく、学校の外で待ち構えているのだ。

動きからしておそらく……

 

「ASTは何かしらの理由で攻撃できないのか? 学校の建造物が壊れたりするのを恐れて、とか」

 

「半分正解で半分不正解よ。ASTは攻撃ができない。理由は彼女らが着込んでいるCR-ユニットは狭い空間での戦闘は不向きだから。それと建造物はいくら壊そうとも復興部隊が1、2日で建て替えちゃうから別にそこは気にしなくてもいいのよ」

 

なるほどな。確かにあの形状の機械を纏ったヤツらは動かないんじゃなく、動けない。

小回りが利かず、自慢の機動力を殺してしまうからという理由で……

つまり、今のこの状況こそが精霊と接触ができる絶好の機会ってことか。

 

「じゃ、早速行きましょうか。―――士道、インカムは外していないわよね」

 

「ああ、ちゃんと付けている」

 

「よろしい。カメラも一緒に送るから、困ったときはサインとして、インカムを二回小突いてちょうだい。サポートも万全だから」

 

サポート、か。そういや<フラクシナス>って俺をサポートするために作られた組織だって聞いたが、具体的にどうサポートするんだ?

と、俺の表情から大体の考えを察したのだろう琴里はニヤリと笑みを作る。

 

「安心しなさい。<フラクシナス>のクルーは優秀な人材が豊富なのよ」

 

バサッと上着を翻し、誇らしげな表情で立ち上がる琴里は艦橋の下側にいるクルーに人差し指で指す。

 

「五度もの結婚を経験した恋愛マスター・<早すぎた倦怠期(バッドマリッジ)>川越!」

 

トサカみたいな頭をしたゴツイ男が決めポーズを取った。

いや、それってバツ4だよなっ?

 

「夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る、<社長(シャチョサン)>幹本!」

 

お酒の入ったグラスを口元に当てて飲む髪の薄い男。

明らかにお金の力だろっ、それ!

 

「恋のライバルに次々と不幸が。午前二時の女・<藁人形(ネイルノッカー)>椎崎!」

 

藁人形らしき物を手元にだし、釘に刺さったかのような冷たい瞳をした女。

なぜだか知らんが、白雪が頭に浮かび上がったのは気のせいだろか。

 

「100人の嫁を持つ男・<次元を超える者(ディメンション・ブレイカー)>中津川!」

 

眼鏡をかけており、少し小太りな男。オープンフィンガーグローブを付けた手で髪を翻す。

100人って……ちゃんと3次元に存在してるだろうな?

 

「愛が深すぎた故に、今や法律で愛する彼の半径500m以内に近づけなくなった女・<保護観察処分(ディープラヴ)>箕輪!」

 

手に写真。茶髪のクセッ毛が強い女。

ストーカーだよな。ストーカーと言いたいんだよなっ?

 

…………確かにどれも選り取り見取りの個性的なメンバーだ。

だが、あまりにも個性過ぎて逆に……

 

「……帰りたくなった」

 

もう、突っ込むところが多すぎて何を言えばいいのやら……

 

「……皆、クルーとしての腕は確かなんだ」

 

「他にも見えない精鋭が付いているわ。<創造と想像の芸術家(イマジンアート)>や<やりすぎた純愛(アメイジング・ピュア)>などいるわ」

 

それだけを聞いた俺は「それを俺にどう反応すれば?」の言葉を最後に艦橋のドアに向かった。

 

「グッドラック。おにーちゃん」

 

「ああ」

 

グッと親指を立てる琴里に、俺は苦笑いしながら手を振って出ていく。

 

(さて……ここからが本番だな……)

 

なんたって相手は精霊。しかも数日前に会ったあの精霊。

どこぞの凶悪なピンク武偵に比べればどうってことないぜ。

 

 

 

 

 

俺はこの<フラクシナス>の下部に備えられている顕現装置(リアライザ)を使った転送機の部屋に向かった。この転送機は指定位置の射線上に遮蔽物がなければ瞬間移動(イマジナリジャンプ)が可能だという。そこんところはやっぱ藍幇(ランパン)香港ので戦った猴の奥義と原理が似ているな。

 

……ともかく、校舎内にいるって話だから行ってみるか。

それに改めてみたが、空間震ってのはとんでもない破壊力を持っているな。

あらゆる物を根こそぎ捥ぎ取ってしまう感じ……

 

そんな思いを胸に抱きながら一瞬にして学校に辿り着いた俺はこの廃墟に等しいボロボロの学校に入る。

もちろん、ASTに見つからないよう前世の探偵科(インケスタ)で習った抜き足(スニーキング)と強襲科時代の感覚を思い出しながら、目的地まで走る。

 

『精霊の反応はそこの階段上がって三階、手前から四番目の教室よ』

 

「わかった」

 

言われたとおりに向かっていく俺は、世界を破壊するという精霊を目にしているので、一度立ち止まって呼吸を整える。

 

「……ここ、俺の教室か」

 

精霊というのは神のみぞ知る、ってわけじゃねえが突然現れて、突然消える。

出現する場所なんて特定すらできないのだ。ただ空間震が現れるときに起こる余波でしか分からない。

そんな精霊がまさか教室……それも俺のクラスに現れるなんて思ってもみなかったのだ。

 

静かに教室内に入る俺……しかし――――――!

 

虚空に生み出されたと思われる光がパァと輝いたかと思えば、

次の瞬間に、殺気と衝撃破が飛んでくる。

 

「……ッ」

 

『士道!』

 

それは躱さずとも当たらない攻撃だったのだが、これは威嚇。

これ以上近づいてくるなという合図なのか?

 

「……」

 

見ればまさに夜のお姫様だな。だが、その表情には感情という感情がなく、あるとすれば悲しみに溢れた憂鬱そうな表情にある。

 

(それに……まるで、昔のアリアみたいだな。独奏曲(アリア)のように1人で戦っている感じ、それと似ている)

 

表情から捉えられるのはそれだけだ。

ここからは話し合わないとわからないだろう。

 

すると、俺の右耳に付けられたインカムから琴里の声が流れてくる。

 

『見たところ、迎撃の意図はないみたね。やろうと思えば、壁ごと士道を吹き飛ばすなんて簡単だし―――逆に時間を空けて機嫌を損ねるのも困るわ。とりあえず行きなさい』

 

「……」

 

見れば精霊の少女は俺を疑念と警戒の眼差しをこちらに向けてきていた。

ここは戦意がないということを示したほうが早そうだな。

 

「俺は敵じゃない。落ち着い――――――」

 

一歩前に出て教室に踏み入れた俺は両手を上げながら敵意がないことを示そうとした。

しかし、飛び交う瓦礫の破片とつんざく音と共に衝撃波が俺のすぐ横に通る。

それは俺を足止めするには十分すぎるものであった。

 

「―――止まれ」

 

「……!」

 

恐ろしく畏怖感を思わせる言葉に、俺は思わず絶句する。

少女は構わず、ただ警戒心を抱きながら人差し指を俺に小さなエネルギー体の玉を作り出す。

 

「……お前は、何者だ」

 

確かこういうシーンって「まず人に名を訪ねるときはまず自分から名乗れ」とか前世でワトソンに言われたことがあったけな。

だが、確かこの女は数日前にもそれを聞いて名がないと言ってたし、

たぶんだが、名乗れって言われても答えられないだろう。

ここはどうするべきか……

 

だが目の前の少女はこの沈黙に苛々が募ったようでご立腹なご様子。

さらに瞳を鋭くし、その刃のように突き刺さる視線が痛く感じた。

 

「……もう一度聞く。お前は、何者だ」

 

「……俺は五河士道だ。この前会っただろ」

 

もし、このとき俺が通りすがりの一般人だと言って命乞いなどすれば、

仮に助かっても、それで話し合いができず擦れ違うだけで終わりだ。

 

しかも相手は俺を敵視している。半信半疑の言葉をかければそれこそ敵だと判断されかねない。

 

ここはこっちが名乗った方が話も進むし、妥当だろう。

少しぐらいの失敗なら後援者である<フラクシナス>のサポートがある。

 

「む、そういえばお前……前に一度会ったことがあるな」

 

「ああ、数日前……街中で一度な」

 

「おお、あの時メカメカ団と戦っていた時に割ってきた人間か」

 

「め、メカメカ団……っ? ASTのことか……」

 

「うむ、たぶんそれだ」

 

少女は先ほど冷えていた瞳を緩めながら掌にポンッと手を打つと、

カチャリ カチャリ と鎧の関節部の軋みを鳴らしながら俺に近づいてくる。

そして――――――

 

「ぐっ……?」

 

俺の頭に鷲掴みで壁に抑え込まれ、押し付ける衝撃に声が喘ぐ。

そして、少女は俺の顔を覗き込むように見つめてくる。

あまりにも近く、それが近くで見れば見るほど美少女に見えてしまう……

 

その純粋で真っ白な肌、夜空のように照らす鎧に合う端正なスタイル、鎧を夜空と例えるなら、この髪は星々の輝きに例えてもいいぐらい美しく、また彼女から発するいい匂いが、俺の血流を熱くした。

ドクンッ ドクンッ と、俺の心臓から体中に広がって流れる血が暴れて、

とうとう―――

 

――――――なっちまったな。ヒステリアモードに。

 

「……―――見据えた手を……確か、私を殺さないと言ったな。だが騙されないぞ。お前はあの時、底知れぬ力を感じた。私が畏怖するほどにな」

 

底知れぬ力……俺のヒステリアモードのことを言っているのか……?

アリア並の勘のいい仔猫ちゃんだ。俺は「ふっ」と笑みを浮かべ、少女の見つめてくる視線を逆に見つめ返す。

 

「―――それは誤解だよ」

 

「……!?」

 

表情からして感じたのだろう? ヒステリアモードの俺を……

雰囲気の変化に気づいた少女は目を広げながら頭を離し、後退った。

 

「誤解というのは、どういうことだ人間」

 

「そのままの意味だよ。俺は君を殺しになんか来ていない。むしろ助けに来た、と言ったほうがいいかな?」

 

「たす、けに……来ただと?」

 

「ああ、そうだ。人間は、君たちを殺そうとするばかりの人たちだけじゃない。君を救おうとしている人たちだっている。今、君の目の前にいるこの俺のようにね」

 

少女は疑いつつも何かを言いたそうなその目で俺を見つめてくる。

その沈黙の中から、少女の口が開く。

 

「……そうなのか?」

 

「女性に嘘つくほど、俺は器用じゃないさ」

 

「だ、だが私が会った人間たちは、皆私は死なねばならないと言っていたぞ」

 

「……?」

 

それを聞いて、ふと疑問に思った。

彼女は今、「みんな」と言った。これは人間と話したということになる。

しかも「あった人間たち」とも呟いたところから、

俺のこの疑問から得た推理が正しければ……

 

「それは間違いだよ。だって君はAST……君の言うメカメカ団しか見たことがないはずだ。違うかい?」

 

「……確かにそうだが」

 

―――やっぱりな。単純な推理というよりも推理にならなかったな。

彼女はASTのような標的に向かって攻撃する軍人しか見てこなかったんだ。

要するに彼女以前に精霊が出現することで発令される空間震警報。

 

そして空間震というのは隣界に存在する精霊が、世界に現れる際に起こさせ、災害を齎せる現象のこと。だが、市民は精霊が起こしただなんて知らないし、精霊が存在すること自体知らないのだ。また空間震がいつどこで発生するかわからない。

しかもソ連や中国、モンゴルが一夜にして大陸の一部を削ぎ、億を超える人民が被害にあったのだから。

 

それらのパズルピースが繋ぐことでわかる答えは、

 

警報が鳴れば市民は必ず非難する。空間震という意味不明な現象に恐れてだ。

それに琴里から聞いたのだが、見つかれば速やかに保護される。

だから彼女という精霊は俺らのような市民を、まだ見たことがなく、俺らのような精霊を救いたいと思ってくれる人間を彼女は知らないのだ。

 

きっと、彼女は孤独に戦い続けてきたのだろう。

辛かったのだろう。誰にも必要とされず、誰からも必要とされていない。

そんな自分が嫌だったのだろう。

 

俺も、必死でアリアや兄さんの隣で戦いたいと思っていたから、

 

……その気持ちはわかるんだ。

 

「じゃあ教えてあげるよ。君を襲ってくる人間……ASTしか見たことがないみたいだけど、ホントは君が思っているよりも人間ってヤツはいい人たちがたくさんいるんだ」

 

「……本当、なのか?」

 

「ああ、本当だ。彼らは君を殺しに来ないし、疎まれたりしない。中には君を救おうとしている者もいるからね。…………もしそれが嘘だと思うのなら、俺に刃を向ければいいさ」

 

『し、士道、落ち着きなさい!』

 

暫く黙っていた琴里がようやく声に出してきた。

だが、もう遅い。それに……

 

……ここで逃げるなんて、そんなの男じゃないだろ。

 

琴里には悪いが、ここは通させてもらうぞ。

 

「だから、君は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生きてていいんだよ……!」

 

俺は啖呵を切るかのように言い放った。

そして、少女の方は……

 

「…………」

 

俺の言葉にどう感じ取ったのか知らないが、

少女は俺から視線を外し、踵を返して背を向ける。

 

「……し、シドーとかいったな」

 

「ああ」

 

「……それは、その……本当なのか? 私は生きてて、よいのか?」

 

先ほどの暗い表情とは思えないほどの明るみが出た表情……

少女は、何かを求めているかのような子犬の目をしていた。

俺は彼女の心を傷つけないよう、優しく、トーンの低い声で答える。

 

「もちろんだ」

 

「本当に、本当か?」

 

「俺は男だ。男に二言はない」

 

視線を彼女に、少女は再び俺の方へ向き直した。

気難しそうな表情で眉を曲げながら腕を組み口を開かせる。

 

「……ふんっ、誰がそんな言葉に惑われるか。ばーか ばーか」

 

予想外の返答に俺は驚き、思わず苦笑いしてしまう。

 

「……だがまあ、あれだ。お前にどんな腹があるかわからぬが、人間がこの私の戦闘を中断させ、あげく今は私を救おうなどと、こんなバカな人間は初めてだな。……一応信用しておいてやる」

 

「はは、それは嬉しい限りだね。光栄だよ」

 

「勘違いするな。私はシドーのそのくだらない妄言に、嘘か本当か確かめるだけだ」

 

「それでも嬉しいよ」

 

俺は頬を掻くフリで耳元に収まっているインカムに2度突く。

すると、そこから琴里の声が聞こえてきた。

 

『―――士道……まさか私たちのサポートなしにここまで発展させるなんて上出来よ。正直、驚いたわ。そのまま続けて』

 

「了解」

 

と、少女に聞こえないよう返事をした俺は視線を少女に向けた。

気づけば少女はこの教室内を歩き回り、興味深そうな瞳で見つめている。

 

「そういえばシドー。私に名前がないのは知っているな」

 

「あ、ああ……それがどうしたんだい?」

 

「話すときに呼び合う名前が必要であろう。シドー……お前は、私に何と呼びたい」

 

「え……っ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ、これまたヘビーなの来たわね」

 

……流石のおにーちゃんでも無理よね。

さっきまで順調だったし、ここで勝機を潰すのは得策ではない。

スクリーンからも選択肢が表示されない。

AIの作動に名前の案を出すのは情報量が重いのだろう。

 

(ここは隠れた精鋭でも使おうかしら……)

 

そう考えていた琴里は席から立ち上がり、クルーたちに目掛けて声を上げた。

 

「総員! 今すぐ彼女の名前を考えて私の端末に送りなさい! 隠れた精鋭も使うのよ!」

 

と、言ってからスクリーンの画面上から何名かのクルーや、マイ・リトル・シードを使用している精鋭たちからの立案が送信されてきた。

 

【理子 美鏡 和美 ひかり ジュリー 理香 凛 優華

 美佐子 麻里 ロゼ 彩香 智恵美 トメ 知世子 紫陽

 あかね 碧羽 みづち 萌香 星姫 ミー子 陽子 

 ラウラ 夜空 アルミン 麗 レベッカ ……etcetc……】

 

「川越! 美佐子って別れた奥さんの名前じゃない!」

 

「す、すみません……思いつかなかったもので……」

 

<早すぎた倦怠期>と呼ばれた川越が申し訳なさそうに言ってくる。

 

「……たくっ、他は……麗鐘? 幹本、なんて読むのこれ」

 

麗鐘(くららべる)です!」

 

<社長>さんが自信に溢れた声で口にする。

それに対し、琴里はげんなりと表情に変えて息を吐く。

もうこれはスルーでいいわね。

 

「で、このラウラとか夜空とかアルミンってどこかで聞いたことがあるような気がするけど……気のせいか聞いていいかしら? <創造と想像の芸術家>、橘」

 

「ははっ、もちろん声ゆ―――あべしっ!?」

 

淡々と答える<創造と想像の芸術家>の橘は最後まで喋りきることなく、琴里からドロップキックをもらってノックダウン。

 

「聞くまでもなかったようね。まったく、もっと彼女に相応しい名前があるでしょう……たとえば―――トメとか!」

 

ふふっ、これなら古風っぽくていいネーミングだと思うけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……今頃になって思い出した。妹のネーミングセンスが悪いことを……

かつて捨てられた犬を拾ってきて、それに名前を付けた時のネーミングが『太郎』だった。まあ犬や猫ならまだいいが、彼女に対してトメはないんじゃないかな……?

流石のヒステリアモードの俺も苦笑いどころじゃなかった。

 

「おい、早く決めんか。トメとかフミとかやめろよ。無性にバカされたような気分になるから」

 

『あっれー? おっかしいなー』

 

全国のトメさんやフミさんには悪いが、現代においては仕方ないことである。

それと琴里、あとでちゃんと教え込まないとな。

 

と、そんなことよりも早くこの娘の名前を考えないと。

前世にいたかなめは妹ということで5秒で考えた名前なんだが、

あれは遠山家に関連するものだから、すぐに思いついた名前であって、

この少女は遠山家ではないため、「金」がついた名前にするべきではないと思う。

 

では、どうするべきか…………そもそも、出会った少女に名前を求めてくるというのは予想外だ。いや、普通に考えてそんなケースはかなめも入れて2度目なんだが、まさか2度も味わうとは思わなかったぞ。

しかし……時は一刻と過ぎていく……早く決めなければ彼女の機嫌が悪くなってしまう。

 

(……名前、名前、名前………………)

 

何かキッカケなこととか、彼女と出来事があればいいんだが……

いくらヒステリアモードでも女の子の名前を考えるのは想定外だろうな。

理由はともかく、HSSを以てしても女の子の名前を咄嗟に思い浮かべるのは難しいらしい。

 

 

 

ふと、俺は彼女との出会いを思い出していた。

あの時の衝撃的な出会いは、アリアと並ぶファンタジーな出会い方だったよな。

それにASTやら<ラタトスク機関>とか秘密結社がいて、俺はそれを1日で彼らと繰り広げてきたのだ。

その出会いのキッカケがキッカケなら、彼女なんだよな。

 

……この娘と初めて会ったのは4月10日だっけ。

それが俺の第2の人生において、何もかもが変化した1日……

 

そうだな……4月、10日……この10日を取ろう。

そして「とおか」―――ただこれだと味付けないので、

漢字に変換させて考えていくと―――

 

「―――十香、なんてのはどうかな?」

 

さすがの俺でも金子(きんこ)ちゃんは出さないが、

ネーミングセンスに今一自信がないんだよな、俺。

 

「……ん、まあ……良い」

 

少女は「十香」という名前を認め、首を縦に振りながら腕を組んだ。

 

「それで、この『トーカ』とは、どう書くのだ? どうやら人間は言葉だけではなく、字で情報を交わしているそうではないか」

 

「ああ、『とおか』というのはこういう字だよ」

 

俺は近くの黒板にまで歩き、一本のチョークをもって彼女の名を書き始める。

それが『十香』と書かれ、少女もその横に何かの力をもってして黒板に刻み込む。

同じ『十香』と……

 

その刻まれた少女の名を見つめていると、少女―――十香は俺の近くにやってくる。

 

「シドー……」

 

「どうしたんだ?」

 

気づけば、この少女の表情はあの凍り付いた悲しげな頃とはまるで違っていた。

今は、そう……和やかで、暖かみのある笑顔だった。

 

「―――十香」

 

少女は自分の名を口にした。

 

「十香。私の名だ。素敵だろう?」

 

「気に入ってくれて嬉しい限りだよ」

 

見ていてもわかる。十香が喜んでいることを……

 

彼女の口元の両端が吊り上がっていることを……

 

その笑顔の表情から十香は再び自分の名前を言った。

 

こんな俺でも、その意図が分かった。

 

「シドー」

 

「十香」

 

俺は彼女の名を言った。

十香の笑顔は、どうやら見たのはこれが初めてだ。

無表情で感情の知らないレキと同じく、笑顔を知らないやつが、笑顔を知り、その表情をすることで、普段見る誰かの笑顔とはまた違う、格別な感じが、今俺の中にドクンッと昂らせる。

 

が、その時、俺の右耳から親愛なる妹の声が聞こえ始めた。

どうやら俺は十香に集中しすぎていて、妹からの声に気付かなかったらしい。

我ながら兄として恥ずかしいよ。妹の声に気付かないなんて……

 

『―――どう! 士道!』

 

「どうしたんだ?」

 

琴里の声が届いたことをインカムに2度突いて伝える。

彼女の溜息が俺の耳に流れ込み、呆れながらもその司令官としての威厳に伴った口ぶりを彼女はそれを保ちながら俺に話しかける。

 

『やっと気づいたわね。この昼行燈っ。さっきから床に伏せなさいって言っているでしょ!』

 

床に伏せる……? 

 

その疑念を抱き始めた……―――次の瞬間、爆発音と銃声、そこから地に流れる薬莢の音。それが勇ましく、俊敏なる集団が俺たちに襲い掛かっていた。

 

否、それは違っていた。どうやら狙いは俺ではなく、十香だった。

敵はAST。俺のような一般人が精霊の傍にいれば速やかに保護のはず。

それが攻撃してきているということは気づいていないということだ。

 

対する十香は、その不思議なバリア的な見えない壁が彼女たちの総攻撃を防いでいた。

ガガガガガガガガガガ―――ッ!! と、バリアがそれらを防ぎ、弾かれた銃弾がクラスの教室を瞬くも弾痕を生み出していく。

 

俺と兄さんの2人でシャーロックに挑んだあの戦い、冪乗弾幕戦を思い出すな。

 

『どうやら外からの攻撃みたいね。精霊を燻り出すためじゃないかしら。もしくは校舎ごと吹っ飛ばして平地に変えるつもりかも』

 

……確かに、それはありえる。ASTの着ている装備―――CR-ユニットは狭い空間での戦闘は向かないからな。

それに壊しても直す。復興部隊がいるから、これくらいの強攻策なんて惜しみなく使うだろう。

 

そんな俺に対し、十香は先ほど笑っていたあの顔ではなく、前の顔になっていた。

 

「―――十香!」

 

「……し、シドー!」

 

ASTの猛攻に気を集中していたからなのか、十香は俺の呼びかけに驚いていた。

あの懐かしいような煩いような銃撃は兎も角……俺は十香の近くに行こうとした、が……

 

「早く逃げろ、シドー。私と一緒にいては、同胞に討たれることになるぞ」

 

十香は銃撃が止んだのを機に俺に話しかけてくる。

 

……同胞、ね。確かに俺は人間やめましたとしてはヤツらとはある意味では同類なのだろう。あいつらASTはCR-ユニットを装着することで、俺と同じ人間をやめた力を手に入れることができるのだからな。

 

だが、それが何だというんだ。確かに今の俺はヒステリアモード……100人ものFBIの捜査官から逃げられる体質。それがヒステリア・サヴァン・シンドローム……通称・HSS。逃げようと思えば逃げられるさ。

しかし―――

 

『選択肢は2つよ。逃げるか、留まるか』

 

琴里の声が聞こえた。逃げる? この俺にか?

 

「……ここで逃げたら男が廃るってもんだろ? 琴里」

 

妹の名前だけを小声に俺は口にする。

 

『馬鹿ね』

 

「ああ、確かに俺は頭の悪い高校生だが……」

 

俺は一度間を空け、十香の方を見やる。

 

「それでも、女の子1人救えないような程、俺は馬鹿じゃないんでね」

 

『一応これでも褒めているのよ。それと1つアドバイス―――死にたくなかったら、精霊とできるだけ近くにいることね』

 

それだけ聞いて、俺は静かに一歩前に踏み出す。

十香はこれに瞳を大きく開かせ、少し驚いたかのような表情をする。

 

「何をしている? 早く逃げろ」

 

「……俺はただの高校生でも男であることには変わりない。だから女の子1人を置いて逃げるようなことはしないよ。それに、俺は君のことをもっと知りたいんだ。もちろん、君が知りたいことは俺が答えてあげるからさ。―――あのメカメカ団のことは気にしなくてもいい」

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃撃と爆撃、それが見舞われている中、俺と十香は座りながら話していた。

人間のことを聞く十香に俺は応える。その好奇心に溢れた表情は、満足そうな顔であった。

 

『数値が安定してきたわ。これなら精霊の情報を引き出せるかもしれない。可能なら聞いてちょうだい』

 

「―――十香」

 

「なんだ?」

 

「君は、どういう存在なんだ?」

 

十香に質問するが、彼女は眉を顰め気難しそうな顔をする。

 

「…………知らん」

 

帰ってきた答えが「知らない」、か。

聞けば自分が存在することに自覚を持ったのはけっこう前で、

自分でも知らないうちにいた(・・)そうだ。

記憶も薄ら薄らでほとんど覚えておらず、自分の正体すら掴めずにいる。

それが精霊の本質なのかはまだ分からないが、彼女の場合はそうなのだろう。

 

「まあ、無理には聞かないよ。おかげで少し君のことを理解できたよ」

 

「うむ。私もシドーがいう人間の情報を得られたぞ」

 

とはいっても、聞いてきた内容はそんな大したことじゃないんだけどね。

 

『士道、チャンスよ』

 

「……どういうことだ?」

 

『精霊の機嫌メーターが70を超えたわ。今がその踏み込める機会よ』

 

ああ、そういうことか。

つまり俺は彼女にデートを誘え、と言っているんだな。

ヒステリアモードもそう長くはもたないだろうし、

話せるだけ話してみようか……話すといっても口説く感じで……

 

「十香」

 

「ん、なんだ」

 

「今度、そうだな……明日……俺とデートしに行かないか?」

 

「デェト? それは一体なんだ」

 

ああ、そっか。彼女は精霊だから知らないのか。

もしこれが通常の俺だったら戸惑って慌ててたかもね。

よかったよ、こっちの俺で。

 

「デートとはね……――――――」

 

『―――士道! ASTが動いたわ!』

 

「……!」

 

張りがある琴里の声に俺は一瞬驚き、飛んでくる人影から俺は後方にバックステップで遠退いた。

 

現れる人影から光の剣を横に一閃、薙ぎ払うと、高い身体能力に重みを重ねてそれを十香に叩き込もうとしている。

その正体とは、鳶一折紙だった。

 

「……無粋な!」

 

折紙の渾身の一撃を十香は鎧を纏った籠手で受け止め、

それを折紙ごと振り払う。

 

「……っ」

 

歯を噛みしめ、吹っ飛ばされる折紙は即座に態勢を整え、

床につき、俺の近くに立って光剣を構えなおす。

 

「……盾にとるなんて、許さない」

 

「ちっ……また貴様か」

 

十香はチラと俺に視線を向け、唇を動かす。

読唇術で読み取った結果、あれは『逃げろ』と言っていた。

 

「―――<鏖殺公(サンダルフォン)>!」

 

次の瞬間、無の床から黄金に輝く玉座が顕現される。

そして玉座の背凭れの上に突き刺さった剣を抜き取り、

 

『士道、離脱よ! <フラクシナス>で回収するわ。できるだけ2人から離れなさい!』

 

「……っ、わかった」

 

俺は速やかに教室から出た。次の瞬間、眩く紫色の奇蹟が俺の背後で起こり始める。

その衝撃に俺は一瞬体ごと浮かび上がり、俺は回収された―――

 

 

 

 

 




更新遅れてしまい申し訳ないです<(_ _)>
でも1万文字以上書けたからそれで許してね?

それと今回はシリアスな笑いが取れるように頑張りましたが、
未熟な自分なのでやはり上手くいきませんね。



話が変わりますが、キンちゃんは流石です。
あれ、フラクシナスのサポートは? って感じです。
これもヒステリアモードの力なのでしょう。

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