冴えないOLが美少年幽霊に、な憑かれた件について 作:紗蘭花
喪女OL
「お疲れ様です、お先に失礼します。」
いつもの職場。普通のどこにでもあるような何の変哲もない小さな事務所。
時計は定時の6時を指しており、外はすっかり暗くなっていた。
もう上がる時間。
何の問題もなくいつも通りに仕事を終えた私は帰り支度を終え、その場にいる上司や同僚に帰りの挨拶をする。
「おう、お疲れさん。」
上司がそう返してきたので軽く会釈をしてその場を後にし、帰路を急ぐ。
まあ、別に急いだって誰かが待っている訳ではないし何の予定もないのだが、仕事が終わったらさっさと家に帰る。
これが私の中のいつもの鉄則だ。
特にこれといった趣味はないし、友達も恋人もいない。
今まで誰かから好かれた事もなかったし、本当、いつも冴えないのだ。
つまらない人間なのかもしれないけど、これが私。
でも今の職場は仕事も自分に合っているし、人間関係も取り立てて悪くはない。
今の職場自体には不満は全くない。
そう。職場自体には。
問題は、その帰り道。ある場所で私は一旦足を止める。
「いつ通っても不気味だな、ここは...」
近道になるからと、いつも使っている場所があるのだ。
それがこの、不気味な雰囲気の漂う墓地である。
道を挟むように両側に墓が立っていて、街頭は点いてはいるけど薄暗い。夜だから当然だけど。
人通りはいつもまばらで、たまに見掛ける程度だ。
でもこの不気味さから肝試しとしても心霊スポットとしても一部の人達からは人気があったりするらしい。
そんな人、1度も見た事ないけど。
とにかくまあ、わざわざここを通らなくたって道はあるのだが、ここを通った方がかなりの近道になる。
だって仕事帰りで疲れているんだから早く帰れる方を選ぶに越した事はない。
だから多少不気味でもこの場所を通っているのだ。
私は霊感を持っている訳でもないから大丈夫だと信じて。
「いつもすみません、通りまーす。」
そうボソッと囁き、足を踏み入れる。私の他に人はいない。
そして墓と墓の間を歩いていく。
相変わらず不気味だけど・・・まあ、見慣れれば何とか行ける。
でもどうして墓場って、こうも不気味な場所だと思っちゃうんだろうなあ。
生きてる人間だって怖い人は沢山いるのに。
と、色々と考えながら歩いていると・・・
「!・・・何コレ・・・・・・」
一つのお墓が目についた。
これは誰かのいたずらなのだろうか。
その墓の周りにだけ、ゴミが捨てられている。
それだけではない。
「これはひどい・・・」
赤文字で、バカ、なんて書かれている。
赤文字というところが不気味な感じを出しているけど何でバカなんて書いたんだろ・・・
そういえばニュースとかでやっていたけど、人のお墓からお供え物を盗んだり、ゴミを捨てていく人が最近多いらしい。
罰当たりな事だと思っていない人が多いのか。
今までニュースで見ただけだったけど、こうして実際に目の当たりにすると少しショックだな。
こういうのって、管理人に連絡した方がいいのかな。
でもそれらしい看板は見当たらないし私は部外者だし・・・でもとりあえず。
私は自分のバッグの中を漁った。
確かいつ入れたか分からないコンビニの袋が・・・あ、あった!
見つけた袋を取り出して、ゴミを片付ける。
小さい袋だけど、ゴミは全部入った。
あとは・・・
赤い落書き、落ちるかな。何で書いたんだろう、コレ。
持っていたウェットティッシュで擦る。
あ、結構落ちるな。
ティッシュに赤いのが着いたため、とりあえずこれで落とせそうだ。
このまま擦っていき・・・
「よし、これで大丈夫だ!!」
綺麗になったお墓を見て、どこか嬉しい気持ちに浸る。
全然知らないお墓なんだけどな。
まあ、これで大丈夫だし帰ろう。
さっきのゴミをごみ箱に入れて私はその場を後にした。
だいぶ時間掛かっちゃったな。
帰路を急ぎ、自宅である安アパートにたどり着く。
鍵を開けて家の中に入った。
「はあ、ただいま」
一人暮らしだけど、やっと帰れたという安堵感に声を出す。
そのまま部屋の電気を点けるとそこにはいつもの私の部屋、が・・・
ん?・・・・・・・・・・え!!?
誰かいる!!!13、14くらいの男の子が・・・・・・強盗?!
「あ!おかえりなさい、冴奈さん!!」
その少年は明るい口調で私の名前を・・・
「って誰だー!!まさか・・・強盗?」
家に盗むような金や物なんてない!と思いながらも、携帯を取り出し、震えながらも通報の準備をする。
「わああ!待って!待って下さい!冴奈さん!」
慌てた様子でそう叫ぶ不審な少年。慌ててるのはこっちだってば!
あれ?・・・・・・でも何だか悪意は感じない。不思議とそう直感した。
ひとまず携帯を置いて、私はヤツをまじまじと見つめた。
「うわ・・・!」
その少年の顔を見た途端、私は思わず声を上げてしまった。
なぜかというと・・・・・・・・・すごく。
すごく整った顔!とてつもなく美少年だったからである。
◇◇◇◇◇◇◇
とにかく、落ち着きを取り戻した私は不法侵入してきた少年と向かい合って座る。
とりあえずヤツの言い分を聞こうではないか。
ヤツはその整った眉を下げながら、口を開いた。
「ごめんなさい。驚かせてしまって!僕は
ヤツはそう名乗った。
「ふーん、ゆうれい君か。ていうか君、どうやって部屋に入ってきたの?鍵、開いてた?」
「えーと、僕、実は・・・・・・」
私の質問に、ゆうれい君はなぜかもじもじする。
内心可愛いとは思うけど、もじもじしてないで答えてほしい。
「・・・て、あれ?」
改めて彼を見てみると、普通の人間ではないようだ。
だって身体が透けているのだから。
「もしかすると、君は・・・幽霊、なの?」
まさかね、と思いながらもそう聞くと、
「えへへ、はい!」
彼はなぜか照れながらも、肯定した。
おかしいな。私、今まで幽霊って見た事ないし、全然霊感なんてないんだけど。
「まあ、それはそれとして、どうしてここに来たの?私と君は知り合いだったっけ?」
私にこんな美少年の知り合いなんていない。
「僕が幽霊だって事、驚かないんですね。」
「もう十分に驚いたからね。」
「結構あっさりしているんですね。僕がここに来たのは、さっきはお墓を綺麗にしてくれたでしょう?それでお礼に、と思って・・・」
お墓って、さっきの荒らされていたお墓か。ひどかったもんな、あれは。
「という事はまさか、あれは君の・・・・・・・」
「あ、あれは僕のお墓ではないんですけどね!」
軽い口調でそう答えるゆうれい君。
違うんかい!お前の墓じゃなかったんかい!!
そう心の中でツッコミを入れる。
「じゃあどうしてわざわざお礼に来てくれたの。自分のお墓じゃないのに。」
「・・・優しくて立派な人なんだな、と思ったからですよ。冴奈さん。」
ゆうれい君は真顔でしみじみと答えた。
「本当にありがとうございました!」
そして私に向かって深々と礼をする。
そうされると、照れるやらどうしていいやら。でもそこまで言われると、やっぱり嬉しいかな。
「私はそんな立派な人間じゃないよ。それにお墓を掃除したのだってたまたまだし。ただ、あんな事をしたヤツにムカついただけ。でもわざわざお礼に来てくれてありがとう。・・・さ、もう用が済んだのなら帰りな。」
もうこれでお別れだ。
「いいえ!」
そう、ゆうれい君が声を上げた。
「僕は冴奈さんに・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
「これからもよろしくお願いします!!」
ゆうれい君は微笑んだ。その顔はやっぱりとてつもなく美少年で・・・・・・って・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
それってどういう・・・・・・?
私は呆気に取られるが、ようやくどういう事なのか理解する。
「ちょっと!困るよ!・・・ついていくって、漢字が!!」
断るが、ゆうれい君はにこにこと笑っている。
そう。
あろうことか、私は幽霊に取り憑かれてしまったのだ!