1年Dクラス、比企谷HACHIMAN   作:いろはす@

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最終話:ゆえに奉仕部は本物である

「お疲れ様。由比ヶ浜さん、葉山君」

 

 

校門を出ると、私はふたりを労った。

 

 

「うん・・・ゆきのんも、お疲れ様」

 

 

「雪乃ちゃんこそ、大変だったね・・・」

 

 

応じるふたりも、さすがにあまり元気がない。葉山君の雪乃ちゃん呼びも、いまはツッコむのさえ面倒に感じる。

 

 

予定通り坂柳さんの逆鱗に触れた私たちはいま、退学処分を受けてあの学校を出たところだ。それでも今回は、近年稀に見るソフトな結末だったと言えるだろう。入学当日に退学とか、史上最速RTA達成ね。

 

 

「ヒッキー、大丈夫かな・・・」

 

 

心配そうに振り返る由比ヶ浜さん。彼女にあんな顔をさせるなんて、本当に罪作りなひと。次回は八雪で激甘な目に遭わせてあげるから、覚悟しておきなさい・・・いえ、これはあくまでも由比ヶ浜さんのためであって間違っても私の個人的な感情なんてこれっぽっちも含まれていないわ。(早口言葉)

 

 

「もう、クロスオーバーものは嫌だし・・・」

 

 

「僕も暫くは遠慮したいかな」

 

 

・・・ってことは、いずれはまた出演する気があるのね、葉山君。

 

 

「今度は原作準拠の二次小説に出たいな。次は私たちの出番ネ~」

 

 

「中の人が混乱してるわよ、由比ヶ浜さん」

 

 

「ひぇーい!は、榛名は大丈夫です!」

 

 

「全然、大丈夫じゃないようだけれど・・・?」

 

 

限界が来たらしい彼女はそっとしておいて、私は話題を変えた。

 

 

「ところで葉山君、あなたずいぶん失礼な言動を繰り返していたけれど、まさか私情が混じったりしていなかったわよね?」

 

 

彼が比企谷君に対して、何やら複雑な感情を抱いているのはわかっている。果たしてそれは、男子特有の敵愾心なのか、それとも・・・あなたがはっきりしない態度をとるから、いつもキマシタワ~!(海老名さん)のネタにされるのよ・・・

 

 

「えっ!!も、もちろんだよ雪乃ちゃん。あくまでも演出の一環さ。それに、それを言うなら君だって・・・」

 

 

「私はいいのよ、部長なのだから。あとその呼び方やめて」

 

 

「ゆきのん、なんか怒ってる?」

 

 

早くも回復した由比ヶ浜さんが会話に加わる。

 

 

「私が?いいえ、比企谷君がほかの女子と二次小説(イチャコラ)していることになんて、全然怒っていないわ」

 

 

「全然怒ってるじゃん・・・」

 

 

「由比ヶ浜さん、正しい日本語を使いなさい」

 

 

奉仕部部員である以上、きちんとした言葉遣いは徹底してもらわなければ。もちろん、彼もね。

 

 

「もう!ゆきのんったら素直じゃないなぁ・・・えい!」ムギュ!

 

 

「きゃ?!ち、ちょっと暑苦しいわ・・・離れて、由比ヶ浜さん」

 

 

「いいじゃん!ゆきのん、大好き!」

 

 

「ははは・・・雪乃ちゃんと結衣は仲良しだね」

 

 

百合の花咲くふたりの横で、爽やかなイケメンスマイルを浮かべる葉山隼人。しかし彼とて男の子。眼の前で三次元の絡みを見せつけられ、実は色々と暴発寸前なのであった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜さんに抱きつかれ、その双丘に圧倒的な敗北感を味わいながら私は思う・・・部室に戻ったら、とびっきりの紅茶を用意して比企谷君の帰りを待ちましょう。たぶん彼のことだから「うっす」とか言いながら無愛想に入って来るのでしょうけれど・・・

 

 

そうよ!今の由比ヶ浜さんみたいに、だ、抱きついてみたりしたらどうかしら?え?逆効果ですって?

 

 

その時、私のスマートフォンが着信を知らせた。こんなタイミングで誰かしら・・・

 

 

「!?!」

 

 

表示された名前を見て、即座に通話ボタンを押す。

 

 

「うっす」

 

 

いま、いちばん聞きたいと思っていたその声。あまりやる気を感じさせないその口調。こみ上げる想いを抑えきれず、私は・・・

 

 

「ひ、比企谷君?!どうしたの?何かあったの?おなか壊した?それとも虐められた?着替えを忘れたのなら、いまからすぐに持って行くわ!」

 

 

「お前は俺の母ちゃんか・・・?」

 

 

思わず取り乱してしまった私を、彼は独特の言い回しで気遣ってくれる。

 

 

「ご、ごめんなさい・・・でも、せっかくならお母さんじゃなくて、お、お嫁さんがいいわ」

 

 

ひゃ?!私ったら何を?!

 

 

「雪ノ下、相当疲れているみたいだな。あとで癒してやろうか?」

 

 

「・・・あなた、まだちょっとハチ君残ってない?」

 

 

「うっせ。こっちも色々大変だったんだよ。キャラぐらいブレるわ」

 

 

遠慮のない遣り取りが、いまは心地よい。できれば、このままずっと・・・

 

 

「大変だったとは、椎名さんたちのことかしら?」

 

 

「まぁ、それもあるにはある・・・」

 

 

言葉を濁す彼に、私は畳みかけた。

 

 

「はっきりしなさい。あなた、あのHACHIMANなのでしょう?」

 

 

ほんと、ハチと八幡のギャップが大きすぎるわね。

 

 

「いやその、なんだ・・・あっち(よう実)の独身女性教師ふたりがマジモードになっちまったっつーか・・・好き好きアピールが凄いんだよ。俺、どこでミスったんだろう・・・」

 

 

「なっ?!そ、そんなこと、絶対に許さないわよっ!あの行き遅れ泥棒猫どもめがっ・・・!!」

 

 

「うぉ?!声がでけぇよ!てか、もとより俺の守備範囲外だ。あと雪ノ下、お前キャラ変わってない?」

 

 

いまはそれどころじゃないわ。すぐに確かめないと!

 

 

「そんなことより何歳までなの?白状なさい!」

 

 

「は?なにを?」

 

 

相変わらず無自覚な彼。やっぱり私が傍に居てあげないと・・・

 

 

「その・・・あ、あなたの守備範囲よ!返答によっては通報するわ!」

 

 

「はぁ?そんなのお前には関係ないだr・・・はい、16歳~25歳です」

 

 

「よろしい」

 

 

こちらの怒気が伝わったのか、割と素直に答える比企谷君。ていうか、良かった・・・

 

 

内心、ほっとしている自分がいた。まさかとは思っていたけれど、彼のシスコンぶりを知る身としては、上限14歳までとか言い出しかねない危険性を感じていたのだ。大丈夫、まだあと8年もあるわ。それまでに・・・(๑•̀ㅂ•́)و✧ ヨッシャー!

 

 

「それで、どうしてこんなに早く終わったの?無人島試験あたりまでは続ける予定だったんじゃ・・・」

 

 

「今回は、なんかあっさり夢オチだったんだよ。知らんけど」

 

 

はぁ・・・ずいぶんと適当な結末ね。まあいいわ、おかげで彼にすぐ会えるのだから・・・うぅ、ぐすっ・・・不意に嗚咽が漏れた。あれ?私、泣いてる?

 

 

無理のあるキャラ改変。規格外の強力な敵。外界から隔離された完全アウェーの教室。そしてひしめく美少女たち。そんな過酷な戦場から、彼が無事に帰って来てくれた・・・たったそれだけのことなのに、張り詰めていたものが緩んでしまったらしい・・・

 

 

「どうした?ハチに罵倒されすぎて、へこたれちまったのか?氷の女王がきいてあきれるぜ」

 

 

お願いだから、ここは茶化さないで。いまはただ、優しい言葉が欲しいだけなの・・・

 

 

「とても心配していたのよ・・・少しはひとの気持ち、考えて・・・!」 

 

 

思わず語気が荒くなる。

 

 

「うっ!その、済まん・・・」

 

 

またやってしまった・・・彼も疲れているだろうに、私は自分のことばかりを・・・

 

 

「わ、私こそごめんなさい。じゃあ、また部室で・・・」

 

 

無理やり会話を切り上げる。名残惜しいけれど、これ以上彼と話していたら、私はきっと心の内をさらけ出してしまうだろう。

 

 

「あ、あぁ・・・あとでな」

 

 

彼が通話を終わらせる気配がした。

 

 

「ひ、比企谷君?!」

 

 

「お、おう?」

 

 

あれ?私はいま、どうして彼を呼び止めたのだろう・・・

 

 

「は、早く帰って来てね」

 

 

「わ、わきゃった」

 

 

動揺した彼の言葉を最後に、スマートフォンは沈黙した。なにかいま、取り返しのつかないことを口走ってしまったような気もするのだけれど・・・それこそ気のせいよね?

 

 

視線を感じて顔を上げると、そこには生暖かい目をした葉山君と由比ヶ浜さんの姿が・・・

 

 

「そんな顔もできるんだね、雪乃ちゃん」

 

 

「ゆきのん、新妻感半端ない・・・幸せオーラ出まくりだし・・・」

 

 

ふたりの指摘に愕然とする。いまの会話、全部聞かれて、いえ、見られてた?!な、なにか言い訳をしなくては・・・

 

 

我知らず、顔に熱を感じる。恥ずかしくて体中が火照っている。それもこれも、全部あなたのせい。こうなったらもう、駅前のららぽーとくらいじゃ足りないわ。ディスティニーランドで一緒にパンさんパレードを見たあと、猫カフェにも付き合ってもらうわよ。それから・・・

 

 

はっ?!いいえこれはデートなんかじゃないわ部長権限で開催するふたりだけの単なる反省会よ!(またも早口言葉)

 

 

「で、でもゆきのん、私だって負けないから!ヒッキーのハートを掴むのは、このワタシデース!」

 

 

やっぱり彼女、まだ本調子じゃないようね・・・

 

 

と、その時、またも私のスマートフォンが鳴った。もう、誰なの?ほんと空気が読めない人ね・・・って、ブラボーワン(平塚先生)からの着信だ。経験上、無視をするとどこまでも追いかけてくるので、仕方なく応答する。

 

 

「はい、こちらイーグルワン」

 

 

「おお!雪ノ下か。喜びたまえ。早速だが、またまた二次小説への出演依頼が来たぞ」

 

 

こちらの口撃をスルーした顧問の言葉に、私は思わず耳を疑った。

 

 

「・・・先生、私たちはハーメルンでの任務を終えたばかりなんですが・・・」

 

 

「話は最後まで聞きたまえ。今度はpixivへの出演なんだ。聞いて驚くなよ?なんと君たちの役回りはヒロイン候補!最高傑作を退学させるためにあの学校へ派遣された、可憐なホワイトルーム生という設定だ。しかも、ラストでは比企谷と綾小路が校舎の屋上で戦う胸熱展開なんだぞ?」

 

 

はぁ・・・そのパターン・・・たぶん比企谷君は、ホワイトルームの敵対勢力によって育てられた怪物設定なのでしょう?最近、彼の影響で二次小説に触れる機会が増えたから、直ぐに先が読めてしまう。甚だ遺憾なのだけれど。

 

 

「平塚先生、それ、続きがありますよね?」

 

 

「うっ?!な、なぜわかった・・・?」

 

 

やっぱり・・・

 

 

「オホン!じ、実を言うとだな・・・君と由比ヶ浜は特別棟で龍園一味から触手責めを受けて失神、リタイアとなる。早い話が、読者向けサービスシーンの担当だ。まぁ、アニメ第2期の影響もあってか、メインヒロインは軽井沢の独走状態だからな。ふはははっ・・・」

 

 

「・・・」

 

 

触手もの、キマシタワー!ケホケホ!てか、なんて脚本なの?HACHIMANものよりも、さらに酷いわ。作品タグの時点で完全アウトでしょうけれど、そもそも特別棟にタコさんなんて居るわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は密かに決意したのだった。こうなったらもう、自分で二次小説を書いてみるしかない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

(本編おわり)




次回後日譚『やはり材木座のライトノベルはまちがっている』

もはや、あらすじを説明するまでもないようね・・・
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