1年Dクラス、比企谷HACHIMAN   作:いろはす@

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後日譚:やはり材木座のライトノベルはまちがっている

あの学校から帰還して数日。なぜだか奉仕部は、修学旅行前の雰囲気を取り戻していた。まぁ、お互いあれだけの姿を晒し合ったのだから、もはや対立する意味など無い。俺たちの悩みなんて、所詮その程度のものだったわけだ。本物?相互依存?あんなものは単なる中二病の甘噛みだ。(ばっさり)

 

 

さてと、最高傑作(綾小路)の真似ではないが、今日からまた、平穏な事なかれ主義の学生生活を謳歌するとしますか・・・

 

 

しかし、俺の願いは僅か数分で、あえなく打ち砕かれた。

 

 

「頼も〜う!我こそは剣豪将軍こと、材木座義輝である!奉仕部の諸将、馳せ参じたまえ!」

 

 

いきなり入り口を開け放つ、ロングコートの眼鏡デブ。もちろん面識なんて、無い。(断言)

 

 

「なんかキモいの来たし・・・」

 

 

「はぁ・・・材木座君、入る時はノックをして・・・比企谷君、あなたにお客さんよ」

 

 

「いや、俺にあんな知り合いは居ない。部屋を間違えてんじゃね?」

 

 

無関係を主張する俺に対し、仰々しい態度で続ける中二。

 

 

「八幡よ。おぬし、あちら(よう実)では両手に花でウハウハ状態だったそうではないか。HACHIMANタグを逆手に取った狼藉の数々、この義輝が成敗してくれよう」

 

 

「それ以上言ったら、明日から体育のペア組んでやらねぇからな」

 

 

「なっ?!ゆ、許してはちえも〜ん!」

 

 

「それで何の用なのかしら?材木座君」

 

 

全てをスルーして用件を問う雪ノ下。強い。むしろYUKINONタグが必要なんじゃね?知らんけど。

 

 

「おお!そうであった。ふははははっ!何を隠そう、我も『よう実』の二次小説を書いてみたのである!これがまた、小学館ガガガ文庫ライトノベル大賞間違いなしの傑作に仕上がったゆえ、お主らに試し読みの名誉を与えてやろうと、ここに持参した次第」

 

 

懲りずにまたかよ。

 

 

「そんなに自信作なら、さっさと発表したらいいだろ。ピクシブにでもハーメルンにでも」

 

 

「ふはははははっ!我、急降下爆撃ならぬ無言の低評価爆撃を受けたりしたら、メンタルがブロークンしてしまうなり!ましてや、非ログイン状態で言いたい放題の酷評コメントでも入れられた日には、ショックで夜に8時間しか寝られなくなるまである。けぷこんけぷこん」

 

 

「要するに、作品の出来に自信が無いのね」

 

 

「ぎくうっ?!」

 

 

その反応の時点でもう、一次選考で落とされるのは確実だろ。

 

 

「分かったわ。ちょうどいまは他に依頼も無いから、この話、受けましょう」

 

 

「ゆきのん、受けちゃうんだ?!」

 

 

「さすがは雪ノ下殿!わかっておられるではないか!いざ、刮目せよ!」

 

 

はいはい・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

突然だが、これからオレが出す問いについて考えてみてほしい。

 

 

この世の中、果たして人間は教頭なのだろうか?明治の偉人、福沢愉吉は言った。天は人の上に人を造らず・・・

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ギャグ小説か?これ。まず、人類が全員教頭先生ってことはさすがにないだろうな。あと愉吉って誰よ?」

 

 

「ひゃん?」

 

 

その姿に似合わぬキュートな悲鳴を漏らす材木座。

 

 

「キモ・・・」

 

 

容赦ないガハマさん。

 

 

「おそらく単純な変換ミスでしょう。文章の推敲が足りないわね。早くも赤信号点滅だけれど、取り敢えず先に進みましょうか」

 

 

「ばぐぅ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

桜舞う4月。オレは入学式へ向かうため、東京駅の循環バス乗り場に居た。領域干渉魔法で周囲を探っていると、車庫の方角から巨大な質量を伴うディーゼル車が接近してくるのを感知した。それはやがて目の前で停止し、前後のドアが開く。どうやら、乗れ、ということらしい。左右に敵影が無いことを確認し、オレはロングコートを靡かせて前のドアから素早く車内へ侵入。ヒップホルスターからCAD(PASMO)を抜き放った。

 

 

「単刀直入に言う。このバスに乗って高度育成高等学校まで行きたい」

 

 

しかしオレのクイックドローは、思わぬひとことによって破られた。

 

 

「お客様、当バスは後乗りです」

 

 

「?」

 

 

見れば、他の客は皆一列に並び、後ろのドアから乗り込んでいる。

 

 

「なるほど。理解した」

 

 

オレはフィンガーグローブを填めた薬指で眼鏡の中央を押さえると、何食わぬ顔でバスを降り、列の最後尾についた。そしてこの瞬間、オレはホワイトルームで習った内容が完璧ではないことを知ったのである。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始発のバスに乗るだけなのに、なんかエージェントの特殊ミッションみたいになってない?しかもこれだけ文字数使っといて、結局まだ乗れてないよね?」

 

 

「うぐうっ」

 

 

「よう実の世界に魔法は存在しないし、綾小路君はコートやグローブなんて身につけていないわ。眼鏡もね。原作を充分読み込めていない証拠よ。しかも作中設定は4月なのでしょう?」

 

 

「はうっ?!」

 

 

「てかこれってさ、お前の実体験じゃね?」

 

 

「ぐばぁ!!」

 

 

大きなダメージを受ける将軍。

 

 

「な、なかなかやるではないか。さすがは我が盟友。だがこの程度は想定内。お次は激アツ戦闘シーンだぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

龍園の高速ストレート(ギャラクティカマグナム)が迫る。だが遅い。オレはそれを右手で受け止めた。

 

 

「なっ?!」

 

 

驚愕しつつも、さらに体重を乗せたフック(ギャラクティカファントム)を繰り出す龍園だったが、それすらもオレの左手に防がれる。そのままヤツの両拳を握り潰すように、オレは力をこめた。

 

 

「ぐあぁ!?!な、なんて握力していやがる・・・!」

 

 

あまりの痛みに喜悦の表情を浮かべる龍園。その体勢のままで、オレはヤツの顔面に連続パンチを打ち込んだ。堪らず膝をつく龍園へ、とどめの冗談回し蹴り(大回転旋風脚)を放つと、ついにヤツはゆっくりと膝をつき、意識を手放した。

 

 

「やっぱりてめぇが、謎の存在W・・・」

 

 

「だったらどうする?」

 

 

「クククッ・・・今日は俺の負けだが、次は必ず潰してやるぜ・・・www」

 

 

「そうか・・・まぁ、楽しみにしている」

 

 

「へっ!その顔で言うセリフかよ・・・」ガクッ

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかがかな?臨場感溢れるバトルシーンと、ついに明らかとなる謎の存在Wの正体!さあ、思う存分講評してみるがよいぞ」

 

 

「はぁ・・・」

 

 

雪ノ下がこめかみに指を当てて、ため息をついた。わかる、わかるぞ、その気持ち。てか材木座、お前中1国語あたりからやり直せ。

 

 

「材木座君、この場面なのだけれど、ふたりがお互いどんな体勢になっているか、あなた分かっているのかしら?」

 

 

「これはしたり。我が書いたのであるから当然であろう」

 

 

「そう、なら余計なお世話かとは思うけど、依頼を受けたのだから念のため言わせてもらうわ。龍園君のパンチを受け止めて両手がふさがった状態から、綾小路君はどうやってパンチを出したのかしら。しかも両腕をクロスさせたまま」

 

 

「ばうっ?」

 

 

「次に、相手の両拳を握ったままで、自らの身体を捻って回し蹴りを出せるものなの?人体の構造上、不可能だわ」

 

 

「ひくっ!?」

 

 

「それと、冗談回し蹴りってどんな技?」

 

 

「ぶひぃっ」

 

 

すでに満身創痍の剣豪将軍を、さらなる攻撃が襲う。

 

 

「あと、龍園君が立て続けに2回膝をついているけれど、これだと彼、地面にめり込んでしまうわ。ついでに言うと、単なる突きや蹴りに変なルビ振るのやめて。読みづらいわ」

 

 

「たうわっ」

 

 

「さらに付け加えるなら、龍園君は意識を手放したあとも会話を続けているわね。彼はテレパシーが使えるのかしら。で、未知の存在をわざわざ『W』で表す意図も理解できないわwww」

 

 

「ぱごっ」

 

 

ノーガード戦法で被弾し続ける材木座。もはや滅多斬り状態である。つか、ゆきのん半端ないって。

 

 

「それと、最後にこれは確認なのだけれど・・・痛みを感じて『苦悶』ではなく『喜悦』の表情を浮かべる龍園君は、そういう嗜好の持ち主なのかしら?」

 

 

「ぴぎぃ・・・」

 

 

武士の情けだ。そろそろ介錯してやれ、雪ノ下。

 

 

「ところで由比ヶ浜さん、貴女もなにか言いなさい」

 

 

あ、ガハマさんのこと、すっかり忘れてたわ。

 

 

「あはは・・・えっと、私、活字恐怖症?っていうか・・・中二君の小説も、アニメ化とかされたら見ても良いかな、なんて」

 

 

その言葉に、ガバッと起き上がる材木座。まだ生きてたのか・・・

 

 

「よ、よくぞ申した由比ヶ浜殿!当然、映像化も考慮した作りにしてあるのだ!その際、由比ヶ浜殿にはぜひとも、一之瀬帆波殿のCVを担当して頂きたいでござる!」

 

 

が、そんなヤツの言葉を粉々にする氷の女王。

 

 

「キャスティングの前に、まずは受賞作を書くべきではないかしら」

 

 

「ぐふぅ・・・ま、まだまだぁ・・・次はみんなお待ちかね、サービスシーン。震えて待て」

 

 

てか、まだやるのかよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、八幡」

 

 

材木座をサンドバッグにした翌日。机に突っ伏して結界を張っていた俺は、天使の囁きに顔を上げた。そこには、マイスイートエンジェル戸塚エルの微笑みが。

 

 

「向こうでは大活躍だったって聞いたよ。さすがHACHIMANだね。でも、椎名さんたちにはちょっと嫉妬しちゃうな」プンプン

 

 

可愛らしく怒りをアピールする彩加。(名前呼び)その言葉だけで、俺とジオンはあと5時間は戦える。てか、6時間目までは保たないのかよ。

 

 

あんなもの(HACHIMAN)は、ただの飾りだ。偉い人にはそれがわからんのさ。そんなことより、毎朝味噌汁を作ってくれないか?」

 

 

「え?!もう、八幡ったら!ボク、本当に怒るよ?」

 

 

お願いしますいますぐ思いっきり引っぱたいて下さいごめんなさい。

 

 

なぜだかあざとい後輩が出てきたところで、担任の平塚先生が現れた。

 

 

「お前たち、席に着け」

 

 

「あ、じゃあ八幡、またあとでね」

 

 

小さく手を振る戸塚を見送り、仕方なく姿勢を正す。ホントはもう一度イヤホンを付けて、スリープモードに入りたいんだが・・・このひとの場合、無警告で鉄拳制裁が飛んでくるからな・・・

 

 

「みんな喜べ。このクラスに転校生が来ることになった。それも、とびきりかわいい銀髪女子だ」

 

 

そう言いながら、なぜだか一瞬、俺を見詰める先生。そんなフラグは要らないから!

 

 

期待に盛り上がるクラスメートを横目に、俺の態度は変わらない。ついこの間『とびきりとか、かわいいとかという言葉には絶対に騙されるなよ、八幡!』と、泣きながら父親が力説していたからだ。てかなにがあったんだよ、父ちゃん。

 

 

俺が身内の黒歴史を思い出している間に、ひとりの美少女が教壇に立っていた。ほぅ・・・

 

 

 

 

 

は?ナゼアナタガココニ?

 

 

 

 

 

「はじめまして。東京都高度育成高等学校から転校して来ました、椎名ひよりと申します。趣味はガンダム関連書籍を読破すること、特技はガンプラの製作、好きなものはマゼラアタックです。部活動は奉仕部への入部を希望していますので、宜しくお願いしますね、ハチ君?」

 

 

「銀髪美少女だ!」

 

 

「ガノタ系女子!?」

 

 

「うそ・・・なんでひよりんが?」

 

 

「クソッ!ハチ君って誰なんだよ?!」

 

 

「ついに我の母になってくれるかも知れない女性が・・・!!」

 

 

異様な空気に包まれる教室。俺はステルスヒッキーの出力を120%まで上げた。HACHIMANなんて居ない。ありゃ二次創作だ。いいね?

 

 

「椎名の席は・・・比企谷の隣だな」

 

 

なん・・・だと?!

 

 

気付けば隣に空席が!ちょっと待って!ついさっきまでこんなの無かったぞ?!

 

 

ゆっくりと歩み寄ってきた椎名が隣に座り、俺に向かって微笑む。

 

 

「改めて宜しくお願いします。あとで部活の方も案内して下さいね、八幡君?」

 

 

そして返事の代わりに、俺はそっと呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようこそ八幡(HACHIMAN)の教室へ、と。

 

 

 

 

 

 

 

(おわり)




最後までお読み頂き、有難うございました。

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