「すごい人だかりだな」
「はい、すぐには無理そうですね・・・」
バスは定刻通りに学校へ着いた。そしていま、俺たちはクラス分けが表示された掲示板の前に居る・・・のだが、同じ新入生たちがひしめき合って、近付くことさえままならない。もう少し高い位置に貼り出してくれたら、こっからでも見えるんだが。つか、最新デジタルツールを完備した国立高校にしては、ずいぶんアナログなやり方だな。
「俺が見てくる。待ってろ」
「はい、お願いしますね」
早速、らしくない行動に出るHACHIMAN。この無自覚系タラシめが!
「あの・・・わたくしの名前も探して頂けませんか?」
その声に振り向くと、杖を片手にした小柄な美少女が佇んでいた。一見儚げな雰囲気だが、その奥に何やら危険なものが垣間見える。あ、これは触らぬ神に・・・
「ああ、任せてくれ。名前、聞いてもいいか?」
ぐはぁ?!飛んで火に入る夏の虫・・・あなた勝手に何を口走ってるんですHACHIMANさん?!
「有り難うございます。わたくしは坂柳有栖と申します」
はぁ・・・仕方ない。さっさと終わらせて逃げるか。で、それなりに高い身長を活かし、ジェントルマンを演じようとしたのだが・・・
しくじった・・・男子は上の方に掲示されていたので、自分の名前はすぐに見つかった。が、女子は下の方に書いてあったため、人垣に隠れて見えないのだ。ちぃ!まさか衆人環視の下で割り込む勇気は無いし・・・おい!そこのデカブツ!さっさとどけよ・・・ひょえ?!グラサンの黒人さん!?!キューン…(失神)
「有り難うございました、HACHIMAN君」
「いや、役に立てず済まない」
「いいえ、ご親切、痛み入ります」
「あ、あぁ・・・」
美少女ふたりにお礼を言われ、さすがのHACHIMANも歯切れが悪い。いや、もともと俺のせいじゃないし。
状況を説明しよう。結局、俺がもたついてる間に、椎名が自力で掲示板を確認してしまったのである。(爆)彼女はCクラスで坂柳はAクラスだったらしい。因みに俺はDクラスだ。やはり、慣れないことはやるもんじゃないな。それもこれも全部、暴走するHACHIMANのせい・・・ええい!いちいちローマ字表記するの面倒臭いから、今後は『ハチ』にするわ。(事後承諾)
「うう・・・もう、ハチ君とは会えないのですね」
いや、さすがにそれは大げさだろ。
「そんなことはないぞ。あとで一緒に図書館へ行こう。ひよりとは、もっと話したいことがあるからな」
さらりと名前呼び。爆発しろ!あ、それだと俺も巻き添えだ。
「は、はいっ!!わ、私も・・・出来ればずっと一緒に居たいです」ボソッ
ん?何か言ったか?最後の方は声が小さくて、よく聞こえなかった・・・ことにしておこう。(お約束)
「あと、ハチ君さえ良ければ・・・」
潤んだ上目遣いでせがまれ、椎名と連絡先を交換したのは気のせいだ、きっと。俺のスマホに家族以外の女子の連絡先が入るわけがない。
なんか、爆死確定の深夜アニメタイトルが出来ちゃったよ・・・
「ふふふ・・・おふたりはずいぶんと、仲がよろしいようで」
あと、目だけ笑っていない坂柳の微笑みも気のせい・・・だよね?
内心冷や汗をかきながらも、坂柳に向けて手を伸ばす。念のため言っておくが、これは
「?」
可愛らしく疑問符を浮かべる有栖さん。まさしく天使のような可憐さだが、背中に黒い羽根が・・・ウソですごめんなさい。
「荷物重いだろ?教室まで持つわ。嫌なら別に構わんけど」
予防線を張りつつ、助力を申し出る。やっぱ言動が捻くれてるよなぁ、俺。実はさっきからずっと気になっていたのだ。華奢な彼女には些か大き過ぎる、その通学かばんに。
「ひゃん?!!・・・あ、有り難うございます。で、では、お願いできますか・・・?」
なぜかそれっきり沈黙してしまった坂柳。女子とふたりっきりになると、必ず会話が途切れて気まずくなる。これ、
泣ける。あと、どうして椎名まで付いてくるんだろう?
「じゃあな」
Aクラスの前まで来た俺は、坂柳にカバンを手渡して踵を返そうとした。他クラスの入り口まで遠征とか、ぼっちにはハードモードすぎるクエストだ。ましてやバスからここまでの出来事で、俺のHPはもはや全損寸前。一刻も早く、はじまりの街に戻ってポーションを摂らないと、ナーヴギアにチンされちゃう・・・
「ま、待って下さい!」
ん?なに?まさか君の席までかばん持って行かないと、このダンジョンはクリアできないとか?さすがにそれはキツいから、あとはそこら辺のクラスメートにでも頼んでくれ。
「連絡先を交換しましょう」
「は?」
椎名に続き、坂柳お前もか?!(ユリウス・カエサル)
顔を赤らめながら切り出す有栖さん。うん、彼女も入学初日で多少舞い上がってるんだろう。あとで冷静になったら『何このアドレス?削除しとこ』ってなるんですね分かります。だからハチマンは勘違いなんてしないよ?俺のスマホに家族以外の女子の連絡先が入るわけがない2。てか第2期あるのかよ?
「どうした?何かトラブルか?」
だがしかし、文字通り勘違いしたらしい大柄な男子が、Aクラスの教室から出て来た・・・ってハゲ?!ハゲですっ!!
「俺は葛城康平という者だ。どんな事情かは知らないが、お前、彼女の荷物に何をしようとしている?返答次第では、学校側に報告させてもらうぞ?」
まだ坂柳のかばんを持ったままだった俺に、厳しい表情で詰め寄ってくるハゲ。事情は知らんとか言いながら、既に変質者扱いされてるんですけど?これはかつて総武小学校で、クラスの備品が無くなったら必ず俺のせいになってたのと同じ流れだ。そしてそんな時、幼い八幡は無闇にきょどって自らの罪状(もちろん冤罪)を補完するまでが、毎度のお約束だった。
やっぱ泣ける・・・( ノД`)シクシク…
「そこまでにして頂きましょうか。葛城ハゲ平君」
ひとり悲しく黒歴史を発掘していたら、間近で発せられた絶対零度のセリフで目が覚めた。
「彼は大切なおもちゃ・・・コホン!お友達で、親切にわたくしのかばんをここまで持ってきて下さったのです。それをそのように決めつけるとは、一体どのような了見なのでしょうか」
「うっ・・・!?」
正面切っての反論に、言葉を詰まらせる葛城。そして、そのか弱い外見からは想像もつかない威圧感を伴って、坂柳有栖はそこに佇んでいた。めちゃくちゃ怖い。((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
「ええ、坂柳さんの言う通りです。これ以上、私の大切なお友達を中傷するのなら、むしろあなたを学校側に通報しなければなりません」
表現のベクトルは違うものの、やはり凄まじい怒気を放つ椎名ひより。こっちもやばいわ・・・((;゚Д゚))ガクブル…
「す、済まない。どうやら俺の早とちりだったみたいだ。謝罪する」
で、女子ふたりからの業火に、潔く非を認めた葛城ハゲ平ではあったのだが・・・坂柳に対して頭を下げている時点で、火に油を注いでるだけだな・・・
「どうやらあなたは、自分が誰に謝罪すべきなのかさえ分からない、哀れな愚か者のようですね」
「うぐっ?!」
やっぱりね・・・つか、喜んでくれ小町。お兄ちゃん、いつの間にか美少女のお友達がふたりも出来てたみたいだよ。あ、いまの八幡的に超ポイント高い?あと、ツッコミを入れなきゃならない場所が多すぎて、むしろ何も言えないまである。まぁ、取り敢えずはご愁傷様だな、ハゲ平君。たぶんお前の学園生活、終わったぞ?
「なっ・・・?!き、貴様・・・」
ひゃ?!し、しまった!どうやら最後の方は声に出てたらしい。テヘペロ♪(キモッ)
「ふふふっ・・・いまのハチ君のセリフに免じて、この場は水に流しましょう。では、また後ほど」
かばんを受け取り、優雅に一礼してから教室に入ってゆく坂柳。こりゃAクラスは間違いなく、彼女の独裁体制になるだろう。ま、知らんけど。あと葛城、いまさら狼狽えても後の祭りだぜ。ふはははは!大の男が慌てふためく姿は実に醜いねぇ。(誰だよ?)
「急ぎましょう。そろそろ予鈴が鳴りますよ」
「そうだな。入学初日から遅刻じゃ、さすがにマズいわ」
椎名に促され、俺たちは足早にそれぞれの教室へと向かった。本気で怒ってくれたふたりには、あとでお礼を考えとかないとな・・・
「ひゃっ?!」
「にゃん?!」
注意力が散慢になっていた俺は、Bクラスの前で見知らぬ女子生徒とぶつかってしまった。てか、変な声が出ちゃって超恥ずかしいんですけど、それ以前に『にゃん』って、いくらなんでもあざとすぎるだろ・・・
ふぁっ?!?
気付けば俺は、よろめいた相手の少女を抱き止めていた。あの一瞬に反応できるとか、どんな反射神経してるんだよ。いや、自慢じゃないが、文科系の俺にこんな動きが出来るはずないわ。この素速い身のこなしは・・・
間違いない、
「あーその、わ、悪い。だ、大丈夫か?」
しかし、イケメンな行動にそぐわないコミュ障な一面を晒す八幡。だって仕方がないだろ!ガワはハチでも中身は俺なんだから!(逆ギレ)
「う、うん、大丈夫だよ。私の方こそ、ごめんね」
恥ずかしそうに呟く女生徒は、ストロベリーブロンドの髪をした、これまた圧倒的な美少女だった。うん、この娘だったら
「そうか。怪我が無くてなによりだ。お前みたいな美少女に万が一のことがあったら、男として責任を取らなきゃいけないからな」
出たわね
「にゃ?!わ、私が、び、びしょ・・・?」
ストーップ!椎名の時と同じ流れだけど、それ以上絶対言うなよ?!!バキッ!!(下ネタフラグをへし折った音)
そして・・・
「自己紹介が遅れて済まない。俺は比企谷HACHIMANだ。宜しくな」
ふぅ、どうやら最悪の事態は避けられたようだ。またもやさらりと名乗りながら、自然な笑顔まで浮かべるハチ。勝手にやってろ。ふははははっ!男の嫉妬は見苦しいねぇ。(だから誰?)
「にゃ?ふにゃーん・・・はっ?!い、いけない・・・わ、私は一之瀬帆波です・・・」
なぜか危うくトリップしかけた彼女は、ぎりぎりのところで立ち直った。
「そ、そうだ!これも何かの縁だし、連絡先を交換してくれないかな?」
「ああ、もちろんだ。ちょうど俺も、同じことを考えていたところだしな」
「そ、そうだったんだね。嬉しいなぁ・・・って、た、大変!?」
いきなり叫ぶと、俺の右手を掴む一之瀬。え?なに?やっぱ変態さん扱いで、このまま背負い投げとかされちゃうの?
「比企谷君、怪我してる?!私がよろめいたから、そのせいで・・・」
見ると、右手に小さな切り傷が出来ていた。ちょっとばかり痛い。たぶんさっき、彼女を抱き止めた際にリュックサックの金具にでも引っ掛けたのだろう。
「問題ない、かすり傷だ。舐めときゃ治る。それに一之瀬を助けることが出来たんだ。むしろ名誉の負傷さ」
あまりに臭いセリフに、言ってる俺自身が恥ずかしくて顔から火が出そう。
「にゃっ?で、でも・・・」
「俺が望んで行動した結果だ。一之瀬が気に病む必要はない」
いま俺、変な鳥肌が立ってるんですが・・・今日はぽかぽか陽気の4月だったよね?
「・・・う、うん!分かった。そういうことにしておくよ。じゃあまたあとでね、比企谷君!」
にわかに会話を切り上げた一之瀬は、社交辞令のひとことを残すと、顔を赤らめ慌てたように教室へと入って行った。見るからに善人っぽい娘だったから、かなり我慢して俺に付き合ってくれていたのだろう。済まん一之瀬、もうお前と関わることはないと思うが、頑張ってくれ。Bクラスは彼女が纏めることになりそうだな。
ん?急に寒気が・・・見れば、椎名がジト目でこちらを睨んでいる。
「ど、どうした?」
咄嗟に気の利いた言葉など出るはずもなく、若干吃りながら問いかけるも・・・
「し、知りません・・・!またあとで」ボソッ
ぷいっとそっぽを向き、すたすたとCクラスへ入ってゆくひよりさん。なんで?いまの俺になんか彼女を怒らせる要素有った?助けて、ハチえも〜ん!
しかし、それに答える声は無く・・・(使えねぇ・・・)
ごめんな小町。お兄ちゃん早速、お友達契約を解除されちゃったみたいだよ。これって更新料倍額支払えば、契約延長してもらえるのかしらん?やっぱりこの世はお金がすべてなんですね知ってました。
泣ける・・・
キーンコーンカーンコーン♫
へっ?!これって本鈴じゃね?いつの間にか辺りに人影はなく、静まり返った廊下と各教室から漏れるざわめきが、事態の深刻さを物語っていた・・・
ダッシュでDクラスに辿り着き(と言っても僅か数歩だが)入り口に手を掛けた俺は、一度ゆっくりと深呼吸した。さぁ、見せてもらおうか!新しいHACHIMANの性能とやらを!(爆散確定)
次回第4話『やはり俺の自己紹介はまちがっている』
Sシステム?あぁ、監視カメラのデータをもとに翌月分のチャージ額が決められる、例の電子決済サービスのことね。(機密漏洩)