あの〜犬神じゃが……寝てたらなんか人類滅んどらんか?   作:黒葉 傘

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長い間更新を空けてしまい申し訳ありません。
執筆再開します!


犬神様と完璧な薬

 ゴリゴリと何かを擦り潰す鈍い音がする。

 その音で孤狼は目を覚ました、大口を開けてあくびをしながら目をこすった。

 窓から差し込む夕陽が孤狼の顔を照らす。

 どうやら机に突っ伏して寝ていたようで、机には彼女のよだれがべったりとついていた。

 孤狼は何食わぬ顔で、口元を拭う。

 

「布巾、貸そうか?」

 

 顔を上げると真っ白な少女が薬研を挽いていた。

 先程から聞こえていた音は彼女が薬を挽く音だったらしい。

 孤狼は彼女から布巾を受け取ると机を拭く。

 そんな孤狼の横を料理を持った店員が通り過ぎていった。

 周りを見渡すとここはどこかの料亭だった。

 まだ夕食には早い時間帯だというのに店内は客で賑わっており、それなりに繁盛しているようだ。

 だがそれらの客も店員もまるで孤狼たちが見えないかのように、その机自体が存在しないかのように動いていた。

 

「孤狼、君がこの料亭の料理を振る舞いたいと言うから来たんだ。満腹になったから昼寝とは随分無責任じゃないかい」

 

「なはは、すまんのう」

 

 薬を挽く手を止めずに少女が孤狼を睨みつける。

 机には空になった皿が積まれており、それを見て孤狼はようやく事態を把握した。

 鳥神、蛇神、鹿神、狐神、兎神、仲の良い5匹を誘い食事をしていたのだった。

 だというのに食事を終えた自分はいち早く昼寝へとしゃれ込んでしまい、彼らを放っておいてしまったらしい。

 招待した客に対してあまりにも無責任だったと自覚した孤狼は気まずそうに頭を掻いた。

 周りを見渡してみると席についているのは白い少女、兎神の因幡しかいない、他の神はもう帰ってしまったのだろうか。

 

「暁宴と翠なら散歩に出たよ、白楊はそのお目付役だ。美琴は……どこへ行ったのやら、声もかけずに消えてしまった」

 

「あの女狐ならいつもの人間観察じゃろ」

 

 孤狼は眠気を払うように大きく伸びをした。

 どうやら自分を待ってくれていたのは因幡だけのようだ。

 といってもこの兎神が動かなかったのは、薬を作るのに机があった方が都合がいいというだけで、孤狼への優しさなど微塵もないだろうが。

 

「お主はいつも薬を挽いておるのぉ。いったい何の薬を作っておるんじゃ」

 

「全てだよ」

 

「すべてとはまた大きく出たの」

 

 因幡は手を止めると真面目腐った顔で孤狼を見つめた。

 

「この世の全ての病を治す。そんな神の御業を創造しているんだ。私は薬神だからね」

 

「それは……また難しそうな話しじゃ」

 

「もうできてるけどね」

 

「んぇ?」

 

「もうできてはいるんだ」

 

 彼女の表情は変わらない。

 どうやら冗談の類ではないようだ。

 孤狼は眠たげに伏せていた耳を起こした。

 

「でもそれは私の理想とは程遠い、だからこうして未だに試行錯誤を繰り返している」

 

 孤狼を見返す顔は不満げだ。

 全ての病を治すという神技をもってしても、その兎を満足させることはできないらしい。

 

「なんだか理想が高いというか、生真面目じゃのう」

 

 武の神域を目指す孤狼とて、こうやって昼寝もする。

 もっと気楽に取り組めばいいのに、と思わずにはいられない孤狼だった。

 

「何が不満なんじゃ?」

 

 孤狼にとって病を治せるというならそれは良薬だった。

 全てを治せるのに、まだ高みを目指す因幡を理解できない。

 孤狼の問いに因幡は髪をかき上げる。

 その顔は一層憂鬱そうだ。

 

「そうだね……私たち神や物の怪のような力を持つ生き物、それと人間のようなごく一般的な動物、何が違うと思う」

 

 因幡は自身の髪をサッと払うとそこには白く輝く兎耳が現れた。

 彼女が見た目通りの人間ではないことを示すそれを孤狼はキラキラとした目で眺める。

 

「お主の耳ふわふわしてて好きじゃ!」

 

「ありがと、私の質問聞いてた?」

 

 尻尾を振る孤狼を嗜める因幡。

 だからこの仔犬の前で耳を出すのは嫌なのだとでも言いたげだ。

 

「神性だ、違うのは神性の有無だよ。物の怪も少量とはいえ私たちと同じものを有している」

 

 彼女はため息をつくと顔を寄せてくる孤狼を押し返した。

 

「不老の肉体、再生力、権能、それらは神性から由来する。肉を入れ物とし神性が生き物の形を獲得した物が神であり、神性を取り込んだ地上の動物が物の怪だ」

 

「蛇神が好きそうな話じゃな」

 

 自分たちの根源の理解、神とは何でどこから生じたのか、知神たる蛇神が好きそうな話だ。

 蛇神、翠は一代限りの奇妙な生態を持つ神という生物の存在理由についていつも嗅ぎ回っていた。

 なぜ生まれたのか、神という生き物はどこへ向かうのか彼はいつも調べている。

 

「まぁ、あいつと議論を重ねて出し合った結論だからね」

 

「どおりで」

 

 知的好奇心で動く翠と、病や薬について日々研究する因幡は何かと馬が合うらしく、よく顔を突き合わせては議論しているのを見たことがある。

 孤狼はそういった話は苦手なのでそういう時は隅に引っ込んで邪魔しないようにしていた。

 

「神性とは他と次元の異なる生態であり、一般的な生命体が生きるのに必要とするエネルギーの類を必要とせず、完全に独立している」

 

「んーまぁ、そうかのう」

 

 飲食、睡眠、生殖、他の生物が行って当然のそれを神は必要としない。

 食事も睡眠もただの娯楽であり、神が子を成すことはない。

 いままでそれに大した疑問を持ったことはなかった孤狼だが、よくよく考えると異常な生命体だ。

 生命としての前提を神は持ち合わせていない。

 

「孤狼、私たちが病気にかかったことがあるかい?」

 

「ん…………ないの」

 

「そうだ、我々は人間のように肉体に依存した生物とは理が違う。病原菌とは生命活動をする肉体に作用するものであり、私たちの根源は肉体ではなく神性だ」

 

 いつだってそうだった。

 病に伏し助けを求めるのは人間で、神々がそれに罹ったことなどない。

 神性に傷がつかない限り、神は不倒であり、神性を傷つけられるのは神性のみ。

 孤狼にもだんだん話が読めてきた。

 

「つまり、人間に神性を与えれば、病などに悩む必要などない、そういうことじゃろ?」

 

「簡単に言えばね。その血に神性を取り込むほど人は肉体への依存を失っていく」

 

 神に近づけば人はあらゆる外敵に抗体を持つことになる、病、外傷、老いさえも。

 もちろんただ単に神性を投与すればいいという話ではないだろう。

 拒絶反応もあるだろう。

 肉体と神性をうまく馴染ませなければならない。

 だが因幡がもうできた、と言うのだから彼女は人間に神性を付与する術を確立したのだろう。

 そして孤狼にもその技術の欠点は容易に想像がついた。

 

「でも、そうやって全てを克服したそれは……果たして人間と呼べるのかな」

 

「じゃな」

 

 孤狼が愛しているのは決して不滅の化け物などではない。

 限りある命だからこそ愛おしく思う、その想いは兎神も同じらしい。

 

「人は人のまま命を全うして欲しい。私たちみたいにな化け物になる必要はないんだ」

 

 だからこそ、その薬は不完全なのだろう。

 人は人のままに、それでいて病を根絶できる薬を兎神は求めていた。

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

 ゆらゆらと浮かぶ兎の前足。

 そこから香る匂いも、萎びても分かるその毛並みには覚えがあった。

 人化を解いたら仲間の中で一際小さかったその姿を、孤狼は覚えている。

 

「なぜ忘れておったのじゃろうな、いや考えないようにしていたと言うべきか」

 

 種子の感染が神による呪いだと分かった時点で……この薬に疑問を抱くべきだったのかもしれない。

 神性に作用するこれは何だと。

 因幡がまだ生きていて、どうにかしてくれているのかと思っていた。

 

「人間を生かし続けていたのはお主の神性か」

 

 今も彼女は生きているのだろうか?

 ガラスの中に浮かぶ彼女の肉を見て前向きになるのは難しい。

 

「ワクチンを打ち込むたびに人間は少しずつ神性を摂取してたわけね……これってどうなの?」

 

「………………」

 

 種子は神である孤狼にも根を張った、だから神性を取り込んだところで種子に完全な耐性を得ることはできないだろう。

 おまけに小さな前足がこんなに干からびるくらい培養を繰り返した出涸らしだ、神性といってもたかがしれてる。

 だが……種子の成長を阻害する、そのくらいの効果だったら期待できるのかもしれない。

 倫理観を捨て置けば効果的ではある。

 効果的ではあるが、誰がこんなことを。

 これでは神の死骸という腐肉に群がる蠅同然だ。

 

『僕だよ』

 

「うん?」

 

「あ!」

 

 突如として空中に画面が投影される。

 その画面には首を吊る妙な少年とエトの姿が映っていた。

 

『先輩と僕じゃん。やっほー』

 

「やっほー僕」

 

 画面の中のエトが呼びかけてくる。

 孤狼の肩に乗った人形も手を振りかえして答えた。

 どこの映像だろう?

 エトがいるということは彼女が調査に行っているビルでの映像だろうか。

 どうやら都市の中枢と工場が中継で繋がったらしい。

 

『神が2匹も来てくれたんだから、ちゃんと歓迎しなきゃねDr.として』

 

 少年が縄を軋ませながら揺れる、首が締まっているようにしか見えないが苦しそうにはちっとも見えない。

 とてつもなく妙な様子だが、孤狼にとってはそれより気になることがあった。

 

「翠、翠じゃろ!久しぶりじゃなー」

 

 孤狼にはその姿は見覚えがあった。

 翠、その少年は孤狼の知る蛇神の化身にそっくりだった。

 そのことに孤狼は若干安堵した。

 かつての友がワクチンの材料に使われていたとしても、それが見知った友の手による物なら何か理由があるのも推し量れるというものだ。

 それにエトが懸念していた問題も霧散する。

 翠は神なのだから薬を独占などしないだろう。

 

『ん……あぁ、久しぶり、それとも初めましてと言った方がいいのかな?』

 

 ところが明るい孤狼とは異なり翠らしき少年は何だか歯切れが悪い。

 というか何だか戸惑っている様子。

 首を吊っているし……なんだか変な感じだ。

 

『孤狼だよね?君死んだと思ってたんだけど生きてたの』

 

「はぁ?勝手に殺すでない」

 

 何だか牛神にも似たようなことを言われた。

 神と会うたびに生きていて驚かれるのことに憤りを覚える孤狼。

 長年姿を見せなかったのは孤狼だし、寝坊したとは恥ずかしくて言えないのだけど。

 死人扱いされるとなんだか不服なのだった。

 

『ごめんごめん、まさか今になって神と再会できるとは思わなくてね。この島国に残っている神はもういないと思っていたから』

 

「この島?海の向こうには神はおらんじゃろ」

 

『…………』

 

 どうだろうね、とばかりにDr.は眉を上げた。

 え?いるの神、海の向こうに。

 

『僕の知らない全く新しい神が誕生してるのも驚きだ。君誰?どこから来たの?その神性どこ由来?』

 

『ぅえ?』

 

「相変わらず好奇心旺盛じゃなーお主は」

 

 かつての友人は今も変わらず好奇心に突き動かされているようだ。

 変わらぬその様子に安堵を覚えると同時に、孤狼は何だか懐かしくなった。

 自分も世界も変わったことはたくさんある、だけど変わらないものもあるのかもしれない。

 

「この都市を、人類種存続機構を作ったのはお主じゃったんだな、翠」

 

『うん、この都市を想像したのは蛇神、翠だよ。僕はその責を引き継いだんだ』

 

「……?妙な言い方をするの。お主が翠じゃろうが」

 

『先輩、彼はロボットだよ』

 

「は?」

 

 画面の向こうのエトの言葉に孤狼は固まる。

 ロボット?

 これが……?

 孤狼にとってそれは精巧すぎてとてもロボットに見えなかった。

 

『そうだね。僕は代理として彼に設計された機械、ということになるね』

 

「え……じゃぁ翠は?あいつはどこへ行ったんじゃ?」

 

『死んだよ』

 

 死んだ。

 その一言が重く犬神にのし掛かった。

 神は不老だ。

 自然死することなどない。

 神が死んだということはそれは即ち神性でもって殺された、ということだ。

 自身の前で死んだ牛神の姿が頭を掠める。

 主神は人類の抹殺を神々に命じた、そして逆らうのならばそれは神ではないと反対する神を敵と見做した。

 友であった翠が人類を抹殺する姿など孤狼には想像できなかった。

 

「こ、殺され……たのか?」

 

 翠は、主神に逆らったのだろうか?

 孤狼と同じように。

 

『いや、彼は自死を選んだんだ孤狼』

 

 自死……?

 この都市の主人であるロボットは手を叩いた。

 その合図とともに映像に映る部屋の壁が稼働する。

 壁が開き、隠されていたカプセルが姿を現した。

 たくさんのチューブに繋がれた、かつての神だった大蛇の死体が……その中にいた。

 

『彼は自ら薬の材料になったんだ』

 

「完全なワクチン……」

 

 肩の上の小さなエトがつぶやいた。

 ワクチン工場の人間達が言っていた、ワクチンの完成品……その材料がこれか。

 神を遺骸使った、人のためのワクチン。

 

「人を変異させる薬が完成品とは到底思えんな」

 

『おや、詳しいね孤狼』

 

 Dr.は意外そうに眉を上げた。

 その表情がかつての友人にそっくりで、孤狼は妙な気分になる。

 本当に翠は死んだのか、死体を目の当たりにしてもその実感が湧かなかった。

 

「そんな薬は数世紀前に兎神が製造法を確立しておるじゃろうが。あやつがそんなもののために命を落とすはずがない」

 

 孤狼の知る蛇神は賢い蛇だった。

 知神の名を持ち、常に好奇心を忘れぬ友人だった。

 いつどんな時でも知を探求する神。

 そんな神がこのような不完全な解決法に身を捧げるほど愚かだったとは思えない。

 

『そうだね。この薬は兎神がかつて失敗作だとして捨てた代物だ。翠もこんなもので満足しはしないだろう』

 

「なら!」

 

『でも、もう期限が迫っているんだ』

 

「期限?なんの期限じゃ?」

 

『死体の消費期限だよ』

 

「は………………?」

 

 Dr.はカプセルに収まった蛇神の死体へ目を向ける。

 その大蛇の死体はまだ生きているかのように生前通りの姿だった。

 だがそれは保存処置を施しているからに過ぎない。

 

『知っているかい?神は不死でなくとも神性は不滅なんだよ』

 

 神性は神が死んでも、消滅することはない。

 そうDr.は言う。

 つまりこの神の遺骸にはまだ蛇神の神性が宿っていると。

 

『でも、ただの死体では神性をとどめておくことは難しい。神が死んだ時点で神性は次の宿主を探し始めてしまう。処置は施したけど、これ以上彼の神性を遺骸に留めておくことは難しいんだ』

 

 つまり、それが神の遺骸からただの肉に変わる前に薬の培養を始めなくてはいけない、ということだろう。

 だがそもそも、なぜ彼は自死を選んだ?

 神の遺骸を使った薬は失敗作だと分かっているはずなのに。

 

「そもそも翠が死ななければ消費期限など存在せぬだろうが」

 

『蛇神が死んだのは主神から姿を隠すためだよ。彼女は人類の絶滅を望む側だからね』

 

「主神様から?」

 

『彼女にとって、人類の存続を望む神は敵だからね。蛇神は死んだことにした方が僕も動きやすい』

 

 やはり、孤狼の想像した通り蛇神も主神と敵対したようだ。

 牛神も、犬神を敵対神として抹殺しようとした。

 犬神が変わらず人類の守護者だったから。

 どうして神は人間の敵になってしまったのだろう、そのことがずっと分からない。

 主神はずっと人間を見守ってきたはずなのに。

 

「動きやすいって……そもそもお主は何のために作られたんじゃ?」

 

『僕はDr.この都市の運営を神から命じられた自立型思考ユニットだ。僕は神の知恵を移植され神の代理としての役割を持つ。その設計理念は兎神の足跡を追い、作りかけだった神の薬を完成させること。神の遺骸を使ったワクチン製作は失敗時のサブプランだと言えるね』

 

 作りかけだった神の薬…………孤狼は緑の液体の中に浮かぶ兎の前足を横目に見つめる。

 やはり兎神はもういないのだろうか…………だから蛇神がその後を引き継いだ?

 そしてその蛇神も死に、今は代理の機械が薬の製作を引き継いでいる。

 もう遺体に神性を留めておけない……か。

 いったい翠が死んでから何年の月日が流れたのだろう。

 この機械はどれだけの年数薬を研究し続けたのだろう?

 

「薬は……完成しなかったんじゃな」

 

 Dr.が都市の人間に約束したワクチンの完成品、その約束の日こそ遺体の神性が保てる限界期限。

 神の遺骸を使ったワクチンを作るというサブプランに移っているということは、兎神が望んでいたような薬は完成しなかったのだろう。

 

『そうだね。作戦は失敗し、もう人間の神化へとフェーズは移行している』

 

 無茶苦茶だ。

 この機械は種子の侵食に対抗するために人間を不老の生き物へと改造しようとしている。

 確かに絶滅よりマシなのかもしれない。

 でも…………

 

「それは人間と言えるのかのう?」

 

『倫理の話は分からないよ。ただ僕は当初の命令に従って動いているにすぎない』

 

 孤狼の疑問などDr.には関係がない。

 彼はそうプログラムされ、指示通りに使命を全うするだけだ。

 

「これだから機械は融通がきかないのぉ」

 

「プログラムに忠実で素晴らしいね」

 

 いくら外見と言動はそれらしくとも、やはり作り物なのだと実感させられる。

 本物の翠だったならば他に道がなくとも、答えを追求し続けていただろう。

 やはりこやつは当初の命令に忠実な機械であり友ではない。

 

「何が足りない。お主はずっと1人であったが、今はここに神が2匹いる。なんとかできるかもしれぬぞ」

 

『無理だよ』

 

「やってみなければ分からん」

 

 薬の開発は専門外だとか言っている場合ではなかった。

 今ここが分岐点だ。

 神の愛した人間という生命体の存続の。

 

『どう足掻いても足りないんだ』

 

「何が足りぬ?」

 

『兎神の知見、そして鹿神の遺骸』

 

「む…………」

 

 兎神はここにはいない、生死も分からない。

 そして鹿神は……どうなんだろう?死んでいるのは確実だが……

 

「エト?」

 

 鹿神の娘だと言うエトを見る。

 彼の死を見届けたと言う彼女ならその死体のありかを知っているかもしれない。

 

「…………」

 

 だが彼女は首を振った。

 エト自身も父の遺骸がどこにあるか分からないらしい。

 

『正確には兎神の残した自立型支援UAVユニットMoと、鹿神の神性だけどね』

 

「むむ………………?」

 

 なんだか聞き覚えのある単語の孤狼は固まる。

 

「なんじゃって?」

 

『だからMoっていう兎神が使っていたロボットに薬の研究資料が残っているはずなんだ。それと種子と同格の神性を持つ鹿神の神性があれば多分なんとかなるはずなんだ。だけどそんなものがここにあるはずないじゃん!!』

 

「…………あるぞ」

 

『え?』

 

「たぶん…………それ両方ここに揃っておるぞ」

 

 Dr.は信じられないものを見るように固まった。

 

『は???』

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