過労スタッフとサーヴァント(病み)の日常   作:かゆ、うま2世

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女の家と書いて…

そう……あれは、仕事中だったと思う

ドアから──ノックの音が聞こえたんだ。あいつらいつもノックも無しに入ってきたりいつのまにか居たりするから、ノックなんて珍しいな、なんて思いながら扉を開けたんだ

 

 

「はーい……」

「どうも」

 

 

ドアを開ける。そこに居たのは──トラロックだった

現代的な服を着て、扉の前で佇むその姿はまるで……遊びに来た女友達のような…いや、もっと別の関係性のような…

 

とにかく、一番大事なのは…

 

 

──そんなトラロックを見た瞬間、脳内に"存在しない記憶"が溢れ出したことなんだ

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

「……雨すご」

 

 

狭いが、一人暮らしの俺には充分なスペースを持つアパートの一室で呟く。カーテンを閉めても尚聞こえる雨音を聞きながら、何をするでもなくただ自堕落に時が過ぎるのを待っている

予報には無かった大雨。大学が休みだったのが幸いし、俺はこの奇襲を避けることができた

 

雨は好きだ。正確には、雨音が。その規則的なリズムを聞いていると心が落ち着く

奇襲をくらった不特定多数の人には申し訳ないが、今日は少しだけいい日になりそうだ

 

ただ一つ、引っかかることがあるとすれば、彼女───トラロックは、大丈夫だろうか

 

同じ大学に通う同級生。だが、それ以上のことはよく知らない。顔がいいせいか、色んな先輩やサークルに誘われる事が多いらしいが、その全てを適当にあしらっているとか、誰でも知ってるような噂話程度しか耳にしていない

そんな彼女と俺は……まぁ、仲が悪い訳では無いと思う。会えば話すし、連絡先も交換しているし、たまに一緒に昼食を摂ったりもする

 

この奇襲をくらっていないか心配ではあるが、大丈夫?なんて連絡を送るような仲でもない気がして、メッセージを送る事はせず、ただぼんやりとスマホを見つめていた

 

 

「……?」

 

 

その時、インターホンが鳴った。宅配便は頼んでいないし、両親とは東京に来たっきり連絡を取っていない。そもそもこんな雨の中訪ねてはこないだろう。となると宗教勧誘……この雨の中で?

 

考えれば疑問はいくらでも出てきたが、単純な話、直接見れば分かる事だ

玄関に向かい、ドアを開けると───

 

 

「──え?」

 

 

そこには、ずぶ濡れになったトラロックの姿があった。傘を持っていなかったのか、髪や服からは水が滴り落ちている

 

 

「何で、俺の家知って──」

「……雨に降られまして、お邪魔しますね?」

 

 

当然のように家に上がり込む彼女を呆然と眺めること数秒。我に帰った俺は慌ててタオルを取りに行く。ただでさえ狭い部屋を濡らされてはたまらない

タオルを取りに行く時には、先程の疑問はとっくに頭から抜けていた

 

 

「風呂貸すから、風邪引く前にシャワー浴びてきなよ」

「えぇ、そうさせてもらいます。それと───」

 

 

そこで言葉を切り、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべると、こう言ったのだ

 

 

「覗いてもいいです、よ?」

「バカ言ってないではやく入れ」

 

 

そんな会話を交わした後、彼女が脱衣所に入った事を確認してから俺はため息をつく。まさかあの子があんな冗談を言うとは思わなかった。それともあれが素なのか…?

とにかく彼女の着替えだ。まぁ…俺のジャージでいいだろ、置いとこ

 

 

数分後、ドアが開く音と共に彼女が出てくる。手には玄関に置いてあった彼女の物であろうレジ袋を持っている

 

 

「送るから家教えてくれるか?」

「……?泊まりますけど」

「……は!?」

「元々この辺に来たのはその為です」

 

 

テレビの前の小さなテーブルの側に座り込み、レジ袋の中からビール缶を取り出すトラロック

 

 

「飲めますか?」

「……わかったよ、諦めた」

 

 

彼女は一度言い出したら聞かない。もう何を言っても無駄なのだ

 

 

「よし、シェフは任せろ」

「ふふっ、楽しみにしてます」

 

 

予定外の晩酌がスタートし、時は過ぎていく。大学のこと、趣味のこと、色んなことを話しながら飲んでいるうちに、時間はどんどん進んでいく。そして、日付が変わる頃──

 

 

「あー…飲んだな」

「飲みました、ね」

 

 

顔が赤い事を自覚しながら呟く。トラロックの顔もほんのり赤い

 

 

(……なんか)

 

 

色気があるな、と感じる。酒のせいで赤くなった頬に、体温が上がったせいで流れた汗が首筋を伝う。なんというか……扇情的だ

見惚れていると、ある一つの疑問が頭をよぎる

 

 

「そういや下着ってどうしたの?」

「え?」

「あ」

 

 

やらかした、と心の底から思った。酔った勢いでやってしまった。どうにか弁解を…と頭を働かせていると、予想外の答えが飛んできた

 

 

「つけてませんよ?」

「はい?」

「上も下も濡れてしまったので、この下は裸ですが───あぁ、そうです、ね」

 

 

トラロックは悪戯っぽく笑うと、とんでもない爆弾発言を投下してきた

 

 

「確かめてみます?」

 

 

手を掴まれ、引き寄せられる。柔らかな感触が手のひらに伝わる

今思えば、酔っていたのだと思う。正常な判断ができていなかったのだ 俺はそのまま、その誘いに乗るように──

 

 

「…………んん……」

 

 

目が覚める。カーテンの向こう側は明るくなっており、雨音が聞こえないことから晴れていることが予想される

昨日のあれは……夢か、と一人で納得し、寝返りをうつと──

 

 

「……おはよう、ございます」

 

 

トラロックが居た。布団で隠れているが裸だ。つまりそう言う事だ

 

 

「責任、取ってください、ね?」

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

「───ハッ!?」

「どうしまし、た?」

 

 

何だ……今の記憶は?

 

 

「私を見るなり放心状態でしたが……」

「……わからない…誰の記憶だろう……?」

「記憶?何の話ですか?」

「……何でもない」

 

 

大学に通っていた時期はあるが、その時期に俺とトラロックが出会う筈がないし、そもそもトラロックと出会ったのは最近だ。こんな記憶が存在する筈がない

 

 

「…とりあえず入れよ、何しに来たか知らないけど」

「はい」

 

 

彼女を部屋に招き入れ、残りわずかな仕事を仕上げるべくパソコンに向かう

 

 

「……シャワーでも浴びますか。私の着替えは……」

「タンスの一番下の段。お前のはそこに入れてる……下着は着ろよ」

「?着ますけど…?あぁ、上がったら晩酌でもしましょう。私のコップは……」

「コップ入れてる棚の二段目に入ってる」

 

 

目の前で服を脱ぐのはもう見慣れた。そのまま風呂場へと消えていった彼女を見送った時、ふと思った

 

 

なんか───

 

 

「あいつの私物、多くねぇ…?」

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