過労スタッフとサーヴァント(病み)の日常   作:かゆ、うま2世

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夏の夜の夢

「……あれ、何してんの?」

「…別に、よくあることだろ、マスター」

 

 

自室に戻った俺を待っていたのは、両手を頭の後ろに置き、足を組んだ姿勢で俺のベッドに仰向けに寝そべる、一人の少女だった

腰まで伸ばしたグレーの髪に、王冠のように見える水色の髪飾り

シンプルながらも彼女によく似合う白のシャツに、髪と同色のミニスカート。シャツを押し上げる大きな胸と、すらりとした健康的な脚が艶めかしい

彼女は俺の部屋にいることが当たり前であるかのようにくつろいだ様子で、部屋の主よりもずっとリラックスした雰囲気を出していた

 

 

「入り浸ってるなぁ…オベロン」

「寝る度に僕のところに来る癖によく言うよ」

 

 

彼女──オベロンはため息混じりにそう言いながら起き上がり、ベッドの縁に座ったまま俺を見つめた

 

 

「それで?今日は随分遅かったけど、何してたの?」

「んー、ちょっと色々ありすぎて説明が難しいんよな…」

 

 

そのままオベロンの元へ近づき、太ももに頭を預けて横になる。オベロンの胸で表情は見えないけれど、きっと呆れた顔をしているだろう

でもなんだかんだでやってくれるあたり、オベロンはいい

他のサーヴァントが愛重めだとしたら、オベロンは距離感が近い女友達的な感じだ。一歩引いた、若干ドライな感じが関わりやすくていい

そんなことを考えていると、ふいに髪を撫でられる感覚がした 優しく触れるその手つきはとても心地良くて、思わず目を細める

 

 

「それで?寝るんだったらいつも通りやるけど、どうする?」

「……今日は、ちゃんと夜に寝ようかな。お前と会う度に寝てばっかなのもアレだし」

「……そっか」

 

 

こんなところもオベロンと関わりやすい理由だ

彼女は普段喋ると誰彼構わず悪態や皮肉を吐きまくるが、俺の時はそれがない。俺には毒舌を吐かないのだ

まぁ、彼女の性質を考えると喜ばしいことではないのかもしれないが、彼女曰く、俺と話している時は嘘しか話していないとの事なので信じるとしよう

 

 

「オベロ〜ン……」

「うわっと、どうしたんだよ急に」

 

 

オベロンの腰に手を回して顔を腹に埋める。女性特有の甘い香りに包まれながら、俺は小さく呟いた

 

 

「なんでこう俺の周りの女はヤンデレばっかなんだよ……」

「贅沢な悩みだね」

「まともなのオベロンしかいないよ……」

「っ……はいはい、お疲れ様」

 

 

オベロンの手が再び俺の髪を撫で始める。あぁ……気持ちいい……このまま眠ってしまいそうだ

 

 

「邪魔が入るといけないし、続きは夢の中で話そうか」

「は?おい、ちょ……」

 

 

意識が急速に薄れていく中、最後に見たのは結局オベロンの胸だった。素晴らしいね

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

「……寝ないって言ったよな」

「僕の夢なら起きてるのと同じだよ。僕が起こさない限り他のサーヴァントに邪魔されることもないし、君にとっては好都合じゃない?」

 

 

目覚めた……という表現が適切かどうかは置いておいて、次に目が覚めた時、俺は秋っぽい雰囲気の森の中で、木を背もたれにして座り込んでいた

隣ではオベロンが相変わらず気怠げな雰囲気のまま座っていて、どこか遠くを見つめていた

 

 

「お前の秋の森か?」

「そんなところ」

 

 

周りを見ると一面の紅葉で彩られた木々達があった。少し離れたところには湖があって、水面は太陽の光を浴びてキラキラ輝いている

 

 

「綺麗だな……」

「僕にはわからない感想だけど」

 

 

素直に感動を口にすると、オベロンは興味無さそうに返事をした。俺がいない時の彼女のようだが、こうなってはどちらが素なのか分からなくなる

 

 

「それで、わざわざ夢に連れて来た理由は?」

「……ここは僕の夢の中だ。それと同時に、君の夢でもある」

「……えぇっと?」

「夢の主導権は僕にある。つまり、この中なら何だってできるのさ。例えば──」

 

 

俺がオベロンの方を向くのと同時に、額にオベロンの指先が触れた

 

 

「君の記憶を再現したり、とか」

「その為に俺をここに呼んだのか?言っとくけど、碌なものじゃないぞ」

「……君は僕のことを知ってる。どうやって生まれた、どういう存在なのか。でも僕は君を知らない。不公平だと思わないかい?」

「……勝手にしろ。忠告はした」

 

 

オベロンは勢いよく指を鳴らす。瞬間、世界が変わった

 

 

「………」

「……おかしいな、君の子供の頃の記憶を再現した筈なんだけど」

「いいや、合ってるよ。これで」

 

 

目の前に広がるのは、一面灰色の世界。何もかもが無機質で冷たい、色のない景色

 

 

「ここは、どこなんだい?」

「……さ、どこだっけな。言えることがあるとすれば、ここには俺以外の命はないってのと、カルデアに来る前はこんな所にばっか居たって事ぐらいか」

「……そう」

 

 

どこかバツの悪い表情を浮かべながら、すぐさま指を鳴らすオベロン。また風景が一変した

 

 

「……おっと、失敗しちゃった…すぐに戻すよ」

 

 

世界が変わってから一番に感じたのは、自分の手を何かが這い回る感触だった。チラリと目を向けると、そこには無数の虫がいた。ムカデ、アリ、ハチ、クモ、ゲジ、トンボ、ハエ、カマキリ、バッタ……その他諸々

俺の周りだけじゃない、世界中が、虫で満たされていた

 

 

「いや、変えなくてもいいぞ。いい景色だ」

「……は?それ本気で言ってるのかい?」

「あぁ、最高の景色じゃないか、こんなにも命が溢れてる。この世には、虫どころか人間すら生きていけないような場所がどれほどあるか」

「……僕が嫌なんだ」

 

 

そう言って指を鳴らし、世界は秋の森へと戻った

 

 

「……君、感性が終わってるんじゃない?普通、あんなの気持ち悪くて仕方がないと思うけど」

「俺がおかしいんじゃなくて、他の奴らがおかしいんだ。あんなに沢山の命が生きている光景なんて、素晴らしい以外の感想が浮かばないだろうに」

「ふーん……」

 

 

オベロンは俺の言葉に納得していないようで、胡散臭いものを見るかのような視線を向けたまま黙ってしまった

 

 

「命が素晴らしいものなら……僕みたいに、最初から世界を滅ぼす為に生まれたものはどうなるんだい?」

「そりゃ勿論、尊いものだろ」

「………本当、頭に虫でも沸いてるんじゃないかな」

 

 

オベロンは俺にもたれかかってきて、小さく呟いた

 

 

「…そろそろ起きて、寝よっか」

「そうだな」

 

 

指を鳴らす音と共に、俺達は目覚めた

 

 

 

─────────────────

 

 

 

「……え?」

「………」

 

 

起きてすぐ目に飛び込んで来たのは、俺の下で、俺に腕を押さえつけられて寝ているオベロンの姿だった。俺はオベロンを押し倒していた

一瞬思考が追いつかなくなるが、とにかく手は離すべきだ

 

 

「ダメだよ」

「ちょっ!?」

 

 

手を離すと、すぐさまオベロンが俺の手に指を絡めて握ってきた。サーヴァントの力で引き寄せられ、さらに密着する体制になってしまう

 

 

「……離れたくない」

「おまっ……」

 

 

耳元で囁かれる甘い声。普段からは考えられない程の弱々しい態度に、思わずドキッとした

 

 

「君はいつも……そうやって、僕が欲しい言葉をくれる。そんなんだから、君の周りには色んなやつが集まるんだ」

「……」

「…君相手だと、僕は僕で居られなくなる。人並みの嫉妬も、人並みの愛情も、君になら向けられるんだよ」

 

 

やばい、なんかすごいこと話してる気がしないでもないけど、当たってる胸の感触が凄すぎて全く頭に入らない。柔らかいし、めちゃくちゃ良い匂いだし、何より顔近い

 

 

「……いいよ」

「へっ…?」

 

 

右手に感じる柔らかい感触。オベロンが俺の手を掴み、自分の胸に押し当てていた

それと同時に、ぷちん、という無機質な音が耳に入る

 

 

「──どうする?」

 

 

次の瞬間には、音の正体はオベロンが自分のシャツのボタンを一つ外した音だと気づく。そのままボタンを一つずつ丁寧に外して行き、遂に全てのボタンを開け放つが、露わになったのはお腹と胸の谷間だけで、他の部分はまだシャツに覆われている

服を着ているというには、あまりにも無防備すぎた

 

 

「寝るか、それとも、僕と一緒に起きてるか。電気は消したままでね、僕は──君となら起きてたいかな」

「………!」

 

 

その余りにも甘美な提案に、俺は───

 

 

 

 

「じゃあ寝る」

「はぁっ!?ちょ、もう!」

「早く寝かせてー、明日仕事なんよ」

 

 

明日は仕事だ、やる事やる余裕はない。それにやる体力あったら仕事に回す

 

 

「……ブレないなぁ」

 

 

意識が消える前に聞いたのは、どこか残念そうな声だった

 

 

 

─────────────────

 

 

 

「何というか……まぁいいや」

 

 

自分に覆い被さるようにして眠る男を見て、オベロンは苦笑した。眠る肉体を抱きしめると、規則正しい呼吸音が聞こえてくる。それだけで心が安らいでいく

 

 

「一番先を行ってるのは僕なんだし、焦る必要もない」

 

ここまでして進展がなかったのは、僕ではなく彼に原因が有る。そう思いながら、彼の頭を優しく撫でた。すると、眠ったままの彼が微笑んだような気がした

 

 

「僕みたいなのに頼るから、こんなことになるんだよ?」

 

 

彼はもう、普通に眠ることができない。今はまだ辛うじて寝落ちという手段を取ることができているが、今の生活を続けていたらそれすらできなくなっていくだろう

そうなると、彼は僕無しで寝られなくなる

僕が居ないと眠れないという事は、僕が居ないと生きていけない事と同義だ

 

 

「一緒に奈落に堕ちてもらうよ、マスター」

 

 

 

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