トーセンジョーダンがN県T村でちょっと過ごす話   作:鶴岡

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第13話 帰りたくない

「は?え?……なんで?」

 

 なんか、なんかそれおかしいじゃん。

 あたしにはツルマルツヨシ先輩が言ってる事が、その秋川理事長の伝言ってのが訳分かんない。

 

「だって、だって!あたしってこっちに居たらちょっとの怪我とか病気で死んじゃうかもしれないんでしょ!?だったら帰らなくちゃダメじゃん!?……なのに今すぐ帰らなくても良いって、どういう事よ!?」

 

「でも、帰りたくないんですよね?」

 

「いや、だってそれは……」

 

 確かにトレセン学園には、ウマ娘のレースがある向こうの世界には帰りたくないけど、だけどそれはあたしのワガママじゃん。

 

 いくらあたしだってワガママを言って良い時と悪い時くらい分かる。帰りたくないって言っちゃいけないって分かってるのに。

 

「だから、待ちます。ずっと待ち続ける事は出来ませんから、1年という期限こそ設けていますが、トーセンジョーダンさんが納得して帰るその日まで、トレセン学園は待っています」

 

 あたしは、今すぐ帰りたいっていう、ただそれだけの言葉を言えなかった。

 

「あー、なんだ、その、そろそろトーセンジョーダンの血液検査と検疫の時間なんだが、ここで一旦話を区切っても良いか?」

 

 その大垣教授の言葉でツルマルツヨシ先輩との話はおしまいになって、あたしは丹波とK先生に連れられて大垣教授の部屋を出た。

 

「おい、何をボサッとしてるんだツルマルツヨシ。お前も検疫だ」

 

 あとツルマルツヨシ先輩も一緒に。

 

 

 

 連れてかれた先は丹波が仕事をしてるっていう感染制御室で、そこであたしとツルマルツヨシ先輩は注射器で血を抜かれたり、尻尾の毛を何本か抜かれたり、綿棒を鼻に突っ込まれてぐりぐりされたり、まあ色々されてるわけなんだけど。

 

 うん、普段のあたしだったら滅茶苦茶に騒いで暴れるような事をされてる訳なんだけど、でもあたしはそんな事にすら気分が乗らなかった。

 

 今は靴と靴下を脱いで、丹波に足の指と指の隙間を綿棒でぐりぐりされているわけなんだけど、そこでなんとなくK先生と目が合っちゃって話しかけてしまった。

 

「ねえ、K先生」

 

「なんだ?トーセンジョーダン」

 

「あたしって、……元の世界に帰らないといけないんだよね?」

 

 そんな答えも分かりきってる質問をしちゃったけど、だけどK先生は違う答えを返してきた。

 

「帰った方が、良いのだろう。だが、ずっとT村に居続けるという事も出来なくはないな」

 

「は?……え、だってあたしお金無いよ?ウマ娘っていう宇宙人みたいな生き物よ?」

 

「金の無いウマ娘であろうと問題ない。あの村は少々特殊でな。その昔にトキノミノルというウマ娘を1人受け入れていたくらいには」

 

「ええ、なにそれ」

 

 でも、そういえばそっか。T村は写真が白黒だったような昔にウマ娘を受け入れてたんだ。

 

「それに輸血の問題も、トキノミノルの時にもやっていたそうだが怪我や病気に備えて自分の血をあらかじめ抜いて保管しておいて輸血に使う自己血輸血という方法がある。定期的に血を抜き取る必要があるのに加え、それでも輸血の量が足りなかったり、あるいは自分の血を保管している村から遠くに出掛けた先で怪我をした時のリスクが残るが」

 

「じゃあ、ずっと村に居るとしてお金の問題は?あたし働けないし治療費も払えないよ?」

 

「村で働くなら身分なんて無くともその身1つで問題無い。なにせ俺だって数年前まではあの村でずっと無免許なのに医者をやっていたくらいだ」

 

「うわ、K先生やっぱりモグラだったんじゃん」

 

「過去には確かにそうだったとはいえ、流石にこの世界でウマ娘を知らなかったからといってモグリとはな……」

 

「あははウケるー」

 

 なんだ、そういう選択肢もあるんじゃん。

 ずっとこっちで、村でK先生達と一緒に居るのだって良いかもしれない。うん、そうしよう。

 

「えっと、あのー。その、そういうのはせめて私の居ない時にというか、やっぱりトーセンジョーダンさんにはトレセン学園に戻って来て欲しくてですね」

 

 あ、そうだツルマルツヨシ先輩が隣に居たの忘れてた。

 

「あー、うん。……ごめん。でもやっぱ向こうには戻りたくないんだわ」

 

「そう、ですか」

 

「まったく、君たちはとことん正反対だな。ツルマルツヨシの時はとにかく帰りたがって大変だったというのに」

 

「え?」

 

 なんか急に丹波が思い出語り始めたんだけど?

 でもそっか、ツルマルツヨシ先輩だってこっちに来てからのアレコレがあった訳で、そして実際にトレセン学園に帰ってレース走ってるんよな。

 

「ちょ!わっ!丹波さんその話は無しで!無し!!」

 

 と思ったらツルマルツヨシ先輩が慌てだした。なんかバクシンオーみたいな反応しててウケるー。

 

「なんだ、今更恥ずかしがる事も無いだろう。トーセンジョーダン、こいつはな、重度の貧血にも関わらず激しい運動をし続けた為に骨も筋肉も内臓も、身体全部がズタボロだったんだ。それで怪我しなかったのは貧血のせいで実力を出し切れなかったからなんじゃないかってくらいに。なのに(EPO)で貧血が治ったからとウマ娘の馬鹿力で帰ろうとそれはそれは暴れてな」

 

「ちょっと、ストップ!恥ずかしいので!やめて!KAZUYA先生も放して下さい!」

 

 わあー、すっげ。ウマ娘を羽交い絞めに出来るとかK先生やっぱヒト耳じゃねえわ。面白いから撮っとこ。

 てか、そういやカズヤって誰?K先生の名前ってカズトなのに、ツルマルツヨシ先輩ずっとカズヤって呼んでるじゃん?

 

「そう、あの時もこんな感じにKAZUYAの怪力でなんとか押さえつけてな、たづな秘書とみんなで説得したもんだ。あとツルマルツヨシ、そいつはKAZUYAじゃないぞ。KAZUYAの親戚の一人だ」

 

「……え?KAZUYA先生、じゃない?カズト、さん?」

 

「ええ、紹介が遅れてすみません。KAZUYAの親戚で神代一人と言います。長野県のT村で診療所を開いており、そこにトーセンジョーダンが行き着いた縁で治療を行っております」

 

「えっと、じゃあ、KAZUYA先生は?どちらに?」

 

「亡くなりました。ちょうど時期としてはツルマルツヨシさんが帰られてから数か月後といった辺りでしょうか」

 

「……え?」

 

「昔患った癌が再発していてな、ツルマルツヨシがウチに来た頃には既に末期みたいなもんだったんだが、まあ気に病む事は無い。あいつも俺達も、誰もそういうのは望んでいない。それにKAZUYAが最期に診た患者もツルマルツヨシじゃないしな。あの後もずっと何人も何人も治療して、死ぬほんの数日前ですら手術していたくらいだ」

 

「そうなんですか。……その、私、ここに来たのは。私がこっちに来たのは元々行く予定だったたづなさんが忙しくなっちゃったからってものあるんですけど、KAZUYA先生にメスと治療費を返しに来たってのもあって。ほら、結局私ってこっちで手術せず腫瘍残したまま帰るからって、次もしこっちに来た時の為にってメスを貰ってたし、治療費もKAZUYA先生に立て替えてもらってたし」

 

「メスなら、それを引き継いでいるのはここに居る一人だ。今はこいつがKをやっている。だが、治療費となると、……KAZUYAの遺産を相続したのは誰だったか、大垣なら知ってるだろうか?」

 

 えーっと、なんか重い話?




次話、重い話です。だいたい30kgくらい。
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