トーセンジョーダンがN県T村でちょっと過ごす話   作:鶴岡

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第17話 顔見せ

 お医者さんってのは自分の病院にずっと居るもんだと、あたしはそう思ってた。

 

 帝都大学ってところの病院での治療をした次の日、あたしはK先生に連れられてT村のあちこちの家を歩き回る事になっている。

 先週みたくずっとベッドに寝たきり、あるいは昨日ツルマルツヨシ先輩から渡された宿題1年分をずっとやってる、なんてのよりはずっとマシなんだけど、それにしたって―――。

 

「ねえK先生、K先生ってお医者さんなんだからずっと病院に居れば良いんじゃないの?」

 

 この午前で5軒目になる水畑さん家の、先々週に草刈り機で脚をちょっと怪我したっていうおじいちゃんの様子を見終わって、それでまたしても村では珍しい若い子だからと果物とお菓子を貰っちゃって、あたしの両手はもう貰い物を抱えるのでいっぱいになっちゃった。

 

「ああ、村人達の今日の体調を診るだけなら、それでも問題無いんだがな」

 

「えっと……、それで良いんじゃないの?」

 

「うむ。だが、怪我や病気で体調を悪くした人というのは、出歩く気が無くなって生活習慣を崩してしまい、余計に症状を悪くしたり、別の病気まで引き起こしてしまう場合もある」

 

「あー、うん。なんとなく分かるかも?」

 

 気分が不調になって更に絶不調的な?

 

「だが、例えば先ほどの水畑さんの家の玄関にあった農作業用の長靴はまだ少し湿った土で汚れていた。そしてトーセンジョーダン、君が貰ったサクランボはどうだ?」

 

「あ!今朝畑で採ったばっかって言ってた!」

 

「そうだ。あるいは部屋のゴミ箱を見るだけでも、カップ麺ばかりなど偏った食事になってないか、部屋の掃除やゴミ捨てをちゃんと出来ているかといった、日々の生活を健康に過ごせているかを診る事が出来る。特に水畑さんが怪我をしたのは脚だ。歩行機能には殆ど支障無いとはいえ、それでも傷が気になって外出どころか部屋の中で動く事すら億劫になってしまうなんて事も考えられる」

 

「おー、なるほど。……でもそれってお医者さんの仕事なん?」

 

「ああ、やや難しい言葉で言えば訪問診療と呼ばれるものだ」

 

「へー」

 

 なるほど、お医者さんってのは色々なやり方でみんなを見てるんだなあと納得して、だけどあたしはもう一つの気になる事を思いついた。

 

「じゃあちなみになんだけどさ、あたしがこうしてK先生について歩いてるのは何で?荷物持ち?」

 

 あたしが両手で抱えてる貰い物の山を軽く揺すって聞いてみる。

 

「……なんだ、気付いてなかったのか?トーセンジョーダン、君のリハビリを兼ねたウォーキングと、それから村の皆さんへの顔見せだ。初めましてと、君もさっき言っていただろうに」

 

「あ、あー。忘れてた。……そうだよね、あたし、これからこの村で生きてくんだもんね」

 

「まあ、ほらここが次の鳥羽さんの家だ。高齢の夫婦2人暮らしで、おばあさんの方に軽度の嚥下障害がある。それでここを診終わったら診療所に戻って昼食にしよう」

 

「はーい。……ところでK先生、あたし麻上さんみたいな看護師さんじゃなくて学生よ?ちょっとした怪我はともかく病気の事なんてぜんぜんわけわかめよ」

 

「ム……、そうだったな」

 

 そして鳥羽さん家を出る頃には、あたしの両手だけじゃ貰い物を抱えきれなくなって、K先生にもいくつか持ってもらう事になっちゃった。

 

「ねえK先生、さすがにウマ娘がたくさん食べるからって、毎日こんなに貰ってちゃ食べきれないよ。それに午後も挨拶しに回るんでしょ?」

 

「なに、それだけこの村に受け入れてもらえたという事だ。それに午後は宿題をやってもらわなければ」

 

「げ、うそでしょ?」

 

「学生の本分は勉強だからな。元の世界に帰る帰らないはともかく、しっかりやってもらうぞ」

 

 うーー、これからイシおばあちゃんが作った美味しい昼ごはんが待ってるっていうのに。

 あたしの気分はもうずるずると落ち込んでいってるような感じがした。




なお美味しい昼ごはんで回復した模様。
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