トーセンジョーダンがN県T村でちょっと過ごす話   作:鶴岡

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第19話 魔法みたいな(1)

 あたしがこの世界に来た頃、こっちではとあるアニメが話題になってたみたい。

 錬金術っていう魔法みたいな技を使う、片腕片脚が義手義足でチビ*1な兄と全身鎧でデカい弟が活躍するアニメ。

 診療所の面子だと富永と一也が見てて、あたしがこっちに来た日にはちょうど第3話が放送されてたらしい。

 

 それで今日は、週一でK先生と一緒に行く事になった帝都大学病院でのナントカレーザーを使った爪の治療から村の診療所に帰ったタイミングでそろそろ始まるからって、一緒に見る事になったんだけど。

 

 まあ5話から見てもワケ分かんなかったわ。

 弟の鎧の中身がすっからかんってどーいうことよ?オバケか何か?

 

 っていうかストーリー暗くない?めっちゃ暗くない?あとグロいんだわ。この30分だけで何人の人が死んだのよ?

 この2人ってば日常的に血を見過ぎてグロいのに麻痺してんじゃないの?

 

「まあ……、曲は良いんじゃない?オープニングもエンディングも」

 

「そうか?ああいや、序盤とはいえ途中の5話から見ても感想なんてそんなもんか」

 

「録画もしてあるから最初の1話からも見れるよ」

 

「……じゃあ、昼間の勉強の合間に息抜きがてら見とくわ」

 

 これで1話目からずっとグロかったらどうしようか?

 

「曲といえば、5年くらい前に放送してたシリーズも良い曲揃いだったんだよな。あの頃はまだ学生でアニメを見てる余裕も無かったけど、曲はよく聴いてたよ」

 

「5年前?じゃあこれってその続編なん?そりゃ余計にストーリー分かんないって」

 

「いや、リメイクなんだ。このアニメの原作はちょうど来週に最新刊の22巻が発売されるんだけど、その頃はまだ5巻辺りまでしか出てなくてね、だから殆どがオリジナルストーリーだったんだよ」

 

「え、なにそれ。めちゃくちゃじゃん」

 

「いや、うーん。どうなんだろ。そこまで悪くはなかったらしいんだけど、結局僕も観れてないしなあ」

 

「2回もアニメ化されてるってなら元の漫画も面白いんだろうけど、どうなのよそれ」

 

「まあ、曲のCDは実家にあるはずだし、アニメのビデオも町まで行けばレンタルがあるよ。こんど観てみない?一也くんも一緒に」

 

「うーん、とりまパス。とりあえず今やってる奴から観てくわ」

 

「僕も、同じ漫画が原作で違うストーリーのアニメまで一緒に見たら頭こんがらがっちゃいそうだし」

 

「それもそうか」

 

 それでその日のアニメ話はお開きになって、いつも通り診療所のみんなとイシおばあちゃんが作った晩御飯を食べてから麻上さんと帰る事になったんだけど、その帰り道でやっぱり気になって聞いたのよ。

 

「ねえ麻上さん、あのアニメなんだけどさあ」

 

「え、何?私アニメとか分からないわよ?」

 

「あ、うん。大丈夫。私もよく分かんなかったんだけどさ。高校1年生のウマ娘、じゃなくてヒト耳の女の子に人が一杯死んじゃう重いストーリーのアニメを見せるのって、この世界じゃ普通なの?」

 

「ア、アハハハ。……ええ、この世界でも普通じゃないわよ」

 

「あー、良かった。それ聞けて安心したわ。今更まじでヤバイ世界に来ちゃったのかと」

 

 やっぱりおかしいのはこの世界じゃなくて一也と富永だったか。

 

「あーでも、トーセンちゃんと一緒にそのアニメを観たらどうだって2人に勧めたのはK先生なのよねえ」

 

「……は?」

 

 うそでしょ。

 

「ほら、トーセンちゃんこっちの世界での趣味ってのがあんまり無いじゃない?勉強と治療だけじゃ気が滅入るだろうから、何かしらの趣味を見つけてもらう切欠になればって」

 

「あー、あんなのでも一応、あたしを心配してくれてたからだったのね」

 

「有名な話題作らしいから教育に悪いって事は無いだろうって話だったけど、とはいえもうちょっと2人から内容について話を聞いておくべきだったわ」

 

「いやまあ、ちょっとは面白かったからさ。とりあえず何話かは観ておくけど……」

 

 とりあえず疑問も解決して、まああのアニメも何話か観てつまらなければ、それはそれで話のネタにはなるでしょ。

 

「つっても趣味ねえ。……あたしの趣味なんて、ダチとゲーセンとかカラオケとかで遊んだりはもう出来ないし、ネイルもこの村じゃショップが無いからラメもジェルも買えないし。……そういやあたしもう1週間はネイルしてないじゃん」

 

「あら?帝都大学病院の帰りに新宿にでも寄り道すれば良いんじゃない?お金はあの金塊を換金してお小遣いにしてもらったんでしょう?」

 

「うん、お小遣いはあるんだけどさあ。ほら、あのK先生を連れてネイルショップに行くって……」

 

「それは、……無いわね」

 

 どう考えてもネイルショップには場違いなんよK先生って。

 

「でしょー。通販で買おうにもあたしのウマホはこっちのネットに繋がらないし―――?」

 

 そんな話の最中、どっかから何か声が聴こえたような気がした。

 

「トーセンちゃん?どうしたの?」

 

「ごめん、ちょっと静かに」

 

 あたしが立ち止まったのに気付いた麻上さんが何かと聞いてくるのも黙ってもらって、夜道の暗闇の中で耳をつんと立てる。

 

「……誰か……助けてえ」

 

 聞こえた。ほんの微かに弱った声、脇の農道の先の暗闇の中から。

 

「誰か居るっぽい。たぶん怪我してる」

 

「え!?ほんとに?」

 

「うん、声が聴こえた」

 

 ポケットの中からウマホを出して、ライトを付けてその先へと足を進めていく。

 後ろから麻上さんもペンライトで辺りを照らしながら付いて来て、2人で声の主を探して農道を進んで行く。

 

 そうしてしばらく歩いた先、農道にぽつんと背負い籠だけが置いてあるのを見つけた。

 

「これ、農作業用の籠じゃない。……中身は、そこの畑のアスパラ?」

 

「てことは、この籠の持ち主が近くにいるってことじゃん?」

 

 それで農道から畑に降りる段差の下をウマホのライトで照らしてみれば。……おばあちゃんが1人、倒れてる。

 

「居た!麻上さん!おばあちゃんが倒れてる!」

 

「ほんとだ!宇原さんじゃない!大丈夫ですか!?」

 

 慌てて麻上さんと宇原のおばあちゃんに駆け寄ってみる。どうも転んでどこか怪我しちゃったみたいなんだけども。

 

「おばあちゃん!ねえ大丈夫?どっか怪我してんの!?」

 

「うん?あぁ……麻上さんとトーセンちゃんや。肘が、肘が両方とも痛くてねえ、夕方に転んでからもうこんな暮れるまでずっと起き上がれんでの」

 

「夕方って、それじゃ3時間もずっと倒れてたの!?喉は乾いてない!?」

 

「喉は、もうカラカラじゃあ」

 

「えっとじゃあ、水とか何か飲み物は……。やっば!麻上さん私も飲み物なんも持ってない!」

 

 どーしよ。脱水はめちゃやばってトレーナーがよく言ってたのに!

 

「大丈夫、トーセンちゃん。宇原さんの籠の中にアスパラがあったでしょ。野菜にはたくさん水分が含まれてるから。それを食べさせながらK先生の所に連れて行きましょう」

 

「あ、あー!マジ焦ったわ。じゃああたしおばあちゃん背負うよ!歩きでもそっちの方が早いし!」

 

 そうだよね。野菜ってよくみずみずしいとか言うもんね。忘れてたわ。

 

「え、でもトーセンちゃん足の爪がまだ治ってないんでしょ?」

 

「大丈夫!ちゃんとチップは貼ってるし、走るんじゃないし!」

 

 それに治療費とか払ってるとはいえ、あたしはこれからこの村でお世話になるんだから、怪我したおばあちゃんを助けるのにあたしの爪くらい安いもんよ。

 

「じゃ、おばあちゃん!K先生のとこ行くよ!」

*1
誰がドチビじゃあ!!

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