「両肘の靭帯が切れているな。転倒して手を地面に付いた時にという事であればおそらくMCL、肘関節内側側副靭帯である可能性が高い」
宇原のおばあちゃんを診療所まで背負っていってK先生に見せたんだけど、まあ何言ってんのか分かんねーんだわ。いや、でも靭帯って何かトレーナーが大事だって言ってたような?
「ねえK先生、靭帯って大事なんだよね?」
「ああ、靭帯が切れたまま放置すれば関節がちゃんと動かなくなったり、骨の位置が不安定になる事で神経麻痺が起こり関節から先の部位でシビレを生じさせたりするリスクがある。……トーセン、よく知ってたな?」
「う、うん。……そこまで色々は知らなかったけど、たしかその靭帯っていう奴の怪我で引退したウマ娘は多いんだってトレーナーがよく言ってたような?だからトレーニング前の柔軟とかウォーミングアップが大事だとかさ?」
「ああ、そうだ。こちらの世界でもスポーツ選手の引退の原因になる事が多い。そして靭帯の損傷を予防する方法もそれで正しい。さて一也、肘関節の
「はい、トミー・ジョン手術です。患者の長掌筋腱を肘関節に移植します」
「そうだ。だが
「ええと、じゃあ回復に要する期間がTJよりも短い手術ですよね。ええと……」
ちなみに一也はあたしの1つ年下の中学3年生なんだけど、なんでかK先生は一也に医者のあれこれをこうやってよく教えてるんだよね。
やっぱりあたし、やばい診療所に来ちゃったんじゃ?
でもさ、あたしはK先生と一也が何言ってるのかさっぱり分からないんだけどさ?
「ねえK先生、これから宇原のおばあちゃんの肘の切れちゃった靭帯を繋ぎ直すんだよね?あのさ、その手術って奴、あたしも見てて良い?」
「ちょ、ちょっとトーセンちゃん!?」
「……あ!」
麻上さんを吃驚させちゃったけど、あと一也が何か別の事に驚いてる気もするけど。でも、なんかあたしはその手術って奴を見ていなきゃいけない気がするんだ。
「……フッ、正解だトーセンジョーダン。これよりスーチャーアンカーを使用した両肘関節のMCL修復手術を行う。俺が右肘、一也が左肘の同時手術だ。それでだな、ちょうどさっき春野さんが体調を崩したとの連絡があって富永と村井が出払っていてな、イシさんも帰った後で助手が1人足りなかったんだ。トーセンジョーダン、やってみるか?」
また、なんかK先生に笑われたんだけどさ。
でも返事なんて1つしか無いんよ。緊張して顔の上で汗が流れてる気もするけど、でもあたしは言ってやるんだ。
「やってやんよ!」
「よし」*1
「よし。じゃないわよK先生!トーセンちゃんはまだ高校1年生なのよ!それなのに手術の助手なんて、どうかしてるわ!」
「問題無い。俺なんて最初の手術は小学生の時にやったんだ。助手くらい高校生なら出来る」
あれ?ちょっと待って。……あれ???
「え!!あたしが手術の助手やるって!?」
なんかいつの間にか話が変わってるんだけど!!!
「ほらやっぱり!トーセンちゃんがよく分かってなかっただけじゃない!」
「なに、トーセンジョーダンには麻上さんと同じように道具の受け渡しをしてもらうだけだ。多少間違ったとして俺にはどうとでも出来る。」
「もう……、もう……。大丈夫なんですね?トーセンちゃんも」
「大丈夫だ、問題ない」
なんか、なんか乗せられてるような気もするんだけど。
でもそのおかげで何か気付けた気がする。
あたしは、これからこの村でお世話になるんだから、だとか、そんな気持ちじゃないんだ。
「うん、あたしも、宇原のおばあちゃんを助けたいから」