トーセンジョーダンがN県T村でちょっと過ごす話   作:鶴岡

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第22話 カンファレンス

 宇原のおばあちゃんの手術の翌朝、あたしは麻上さんの家から診療所までのいつもは歩いてた道を走ってた。

 走るって言ってもウマ娘の走る速さじゃなくて、ヒト耳の走るくらいの速さでゆっくりとおっかなびっくりなんだけどさ。

 

 本当はこのトレーニングを始めるのは来週からって予定だったらしいんだけど、昨日に宇原のおばあちゃんを背負って診療所まであの爪で歩いたじゃん?

 まあK先生の前まで背負って行ったんだからモロバレだったんだけど、でも爪はなんともなかったのよ。

 

 だから、予定より爪の具合が良いから軽く走ってみようかって。

 

 それでいつもよりだいぶ早く診療所まで着いてみたら、入口の前でK先生が突っ立ってるじゃん。

 

「K先生、おっはー!」

 

「おはよう、トーセンジョーダン。どうだ、足の調子は?」

 

 こんなのはいつもの挨拶なんだけど、でも今日のあたしは言いたい事があった。

 

「足は大丈夫。爪も痛くない。でも、シューズはめっちゃダメ」

 

 ていうのも、今あたしが履いてるのって昨日の帝都大学病院で貰ってたラグビー用のスパイクシューズなんよ。

 

「やはり大垣が言っていた通り、蹄鉄とスパイクとではモノが違うか。だが、ツルマルツヨシの時にはしばらくの代用としては使えたと言っていたが」

 

「いや、マジでムリ。ヒト耳みたいなペースで走ってたけど、それよりペース上げたら滑ってコケるわコレ」

 

「そんなにか……。とりあえず、中で脚を見せてくれ。それとスパイクシューズの状態も」

 

「りょーかい。あたしも早くコッチに履き替えたいわ」

 

 そう言って荷物の1つに持ってるトレセン学園指定の蹄鉄ローファーが入ったシューズバッグを揺らして見せる。

 

「ふむ、何が違うのだろうな……」

 

 

 

「じゃ、あたし病室行ってんねー」

 

 そんでK先生に爪とか見てもらって、その内に富永とか村井さんとか診療所の面子が揃ってきて、そろそろいつもの奴が始まるなって思って、その間は病室のあたし指定席になってるベッドで勉強でもしてようかと診察室から出ようとしたらさ。

 

「いや、今日はトーセンジョーダンもこっちだ」

 

「はい?」

 

「K先生?トーセンさんに何かあったんすか?」

 

 なんか事情を知ってそうな顔してるのはK先生に一也と、それと麻上さんだけ?

 この面子って昨日の?

 

「ああ、トーセンジョーダンには昨晩、宇原さんの両肘関節のMCL修復手術で助手をしてもらっているからな。カンファレンスにも参加してもらう」

 

「な、何やってんすかK先生!?通院患者のトーセンさんに手術の助手をさせたんすか!?」

 

「ああ、ちょうど人手が足りなくてな。本人の希望もあってやらせてみた」

 

「ま、マジかあ……」

 

 わー、村井さんも頭抱えててウケる。なんなら麻上さんもだわ。

 あとこの空気にキョトンとしてる一也はK先生と同類じゃん?

 

 まあ、そんな反応するだろうなってのはあたしでもなんとなく分かってんだけど。

 

「ねえそんでさK先生、いつも朝やってる、その、なんだっけ?カンフーレース?あたしもやるの?何やるの?」

 

「ああ、カンファレンスだ。会議という意味で、今から昨日の手術の反省会であるとか、あるいは今日の訪問診療の打ち合わせをしたりする」

 

「へー」

 

 なんかあたしもトレセン学園でトレーナーと似たような事をしていたような気がした。

 

 ほら、レースの後だったり、トレーニングの前だったりに。

 

「あれ?……それって、ミーティングって言うんじゃないの?」

 

「……そうとも言うな」

 

 なんだろ?何か違うのかな?

 

 

 

 そんであたしが助手をした宇原さんおばあちゃんの手術を振り返ってみたんだけどさ、あのカメラって録画も出来るのすげえ便利じゃん?

 

 まあその録画を見て皆が何言ってるのかはさっぱり分からなかったんだけど。

 

「しかし、ウマ娘というのは聴力さえ馬のように遠くの声さえ聞こえるほど優れているのですな」

 

「100mは先にいた宇原さんの、叫んだわけでもないか細い声を聞き取れたんですもんね。トーセンさんが居なかったら最悪脱水で亡くなっていたかも」

 

「トーセンちゃんを助手にしたのも、今でも思う所はありますよ。それでも手術時間を半分に短縮出来た事による宇原さんへの身体的な負担軽減は計り知れません」

 

 なんか、なんかあたしめっちゃ褒められてるっぽいじゃん?

 

「じゃあ次に、昨晩対応したもう1件。春野さんが腹痛を訴えて僕が村井さんと訪問して対応したんですけど、症状としては腹痛と吐き気。他は発熱なども無く血圧脈拍も正常。症状そのものも細かく触診しようとした頃には治まってしまって、一応一晩泊まらせてもらって様子を見てたんですけど何もなく。たぶん軽い食あたりだったのかな……」

 

「一時的な腸閉塞も疑いましたが、春野さんに腹部の手術歴はありませんし、体表に膨らみも無かったとの事でヘルニアでは無いかと。残るは腫瘍によるものですが、去年の人間ドッグで撮っていたCTを確認しましたが疑わしい影はありませんでした」

 

「うむ……。急性腸間膜虚血症が、血管が一時的に詰まった事で生じた可能性は?」

 

「ええ、なので採血もして村井さんには夜の内に検査をお願いしてたんですけど……」

 

「今朝出た検査結果ではFDPもDダイマーも正常値でした」

 

「となると、やはり食あたりの可能性が高いか」

 

 ちょっとさあ、マジで何か、やっぱこの村おかしくない?

 

「ね、ねえK先生。よく分からないんだけどさ、ちょっと聞いていい?」

 

「どうした、トーセンジョーダン?」

 

「食あたりってただ悪いモノ食べちゃっただけかもしれない腹痛で、そんなあれこれ疑ってさ。そんで、採血ってあれでしょ?注射で血抜いて検査まですんの?普通は胃薬とか飲んでおしまいじゃないの?」

 

「それで、助けられたはずの命までおしまいになってはいかんだろう?」

 

「あっ」

 

 その一言であたしの心はギュッって、嫌な汗がぶわーってなっちゃって、何て言ったらいいんだろう。

 

 何か取り返しのつかない失敗をしちゃったような気がしちゃったんだ。

 

「村の人達は高齢な、年寄りが多い。ほんの些細な切欠を見落としただけで次の日には亡くなっていたなんて事もあり得るんだ。何にしても徒労で済むに越した事は無い」

 

「そう、そうだよね。助かるなら、それが一番だもんね」

 

 助かれば、命が助かるのが一番なんだ。

 

「ああ、そうだ」

 

「あ、あとさ……」

 

「うん?どうした?」

 

 それはともかくとしてさ?

 

 ほら、分かったつもりでやり過ごすのはいけないってよく言うじゃん?

 それでテストの点が低かったあたしが言えたもんじゃないってのも分かってるんだけどさ、でもそんなあたしを変えたいってのもあったからさ。

 

 だから思い切って聞く事にしたのよ。

 

「トローって、何て意味なん?」




ヒント『賢さが不足しているようなので重点的に鍛えてみましょう。』
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