「なに?春野さんが便を吐いただと?」
ウタおばあちゃんちの電話が診療所に繋がって、それですぐにK先生が出てくれて、もうほんとホッとしたんだわ。
「そうなんよ!マジで茶色っぽいウンチみたいな色と匂いのゲーってしたの!でもウタおばあちゃんはウンチ食べてないって言ってて!」
「それは吐糞症だな。お腹の中身が逆流しているんだ。すぐに診療所で検査をする必要がある」
やっぱり!ウンチ吐くなんて普通じゃないからヤバイって思ったけど、やっぱヤバイじゃん!
「じゃあ、またあたしがK先生のとこまでウタおばあちゃん背負って行けば良いんよね!?」
「いや駄目だ。背負っては腹部を圧迫して症状を悪化させてしまう恐れがある。すぐに近所から車を回してもらうから、それまで春野さんの容体を診ていてくれ」
ウマ娘自慢の脚が使えないって言われて、じゃあどうすれば良いんよって思ったら、なんかよく分かんない事を言われたんだけど?
「ヨウダイを見てって、そもそもヨウダイって何よ」
「む……、そうだな。春野さんは今目の前に居るのか?」
「うん、これリビングにあった電話で、そんでウタおばあちゃんお昼食べてる時に吐いちゃったみたいだから」
マジでトレセン学園の寮に置いてある電話でダイヤル式の使い方を覚えてて良かったわ。
「という事は、春野さんの家のリビングは座椅子だったな?まだ座ったままか?それとも寝かせているか?」
「うん、えっと、座らせたままで、テーブルに突っ伏してたから背もたれに寄りかからせてあげたんだけど」
「よし、なら大丈夫だ」
もしかしてマズったのかと思ったら大丈夫だったみたい。ちょい焦るわ。いやもう焦ってんだけど。
「後は、呼吸や脈が乱れていないか、唇など顔色がおかしくないか、手足に震えがないか、そういうのを車が来るまで診ていてくれ」
「え、え!?えっと、脈と呼吸と、唇の顔色と、手足の震え?」
「そうだ。できるか?」
「わかった。やってみる」
とりあえず、そのくらいならあたし1人でもできそうだから、なんとか返事は出来たんだ。
「あとそうだ、トーセンのウマホだったか?確か写真が撮れたよな?それで春野さんが吐いた便の写真を撮っておいて、後で見せてくれないか?」
「うん、わかった」
それからヨウダイとかいうのに変化も無く、むしろ顔色は良くなったウタおばあちゃんを診療所まで車で運び込んだんだけど。
「確かに、これは便だな」
「確かに便ですが、……このウマホという、スマートフォンですよね?ここまで高精細なカメラとディスプレイを搭載しているのですか」
「すごい。一眼レフで撮ったみたいだ」
あたしがウマホで撮ったウンチの写メに、というかウマホそのものに注目しちゃってるんだけど。
「CT検査の画像出ました。モニターに映します」
麻上さんが出したそのCTっていう白黒の画面が壁の大型テレビに映って、それでようやくあたしのウマホは返ってきた。
「小腸が絡まっている、絞扼性イレウスですな」
「じゃあ、もしかして昨日の晩から既にこうなってたってことォ……」
そういえばこの2人が昨晩に様子を見に行ってたんだっけ。それで見落としてたかもってのは怖いもんね。
「いや、昨晩は吐かずに容体が回復しているのだ。まだ完全には塞がっていなかったのだろう。だが、それから間もなく血行の阻害は始まっていたはずだ。吐いた便の色からして出血は明らか、既に腸管の一部は壊死していると考えられる」
「じゃあ、開腹手術ですね。壊死した腸管を切除する必要があるので腹腔鏡下手術は向かないですし」
あれ?これって一也が手術すんの?
「そうだ。……トーセンジョーダン、今回もやってみるか?」
「うん、あたしもやってみる。やらせてほしい」
じゃあ、って訳じゃないけどさ。
あたしだって出来る事をしたいんよ。
これ書いてる時に食後の回復体位について調べたんですけど、左側臥位が良いのかなと思ったら、意識があって姿勢を保持させられるなら座位でも良いらしいですね。
なので今話では左側臥位にはさせていません。
あるいは左右の間違いだとか、姿勢を変えさせた事で容体を急変させるリスクを避けたとも。