トーセンジョーダンがN県T村でちょっと過ごす話   作:鶴岡

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第25話 手術介助

「それじゃ、ウタおばあちゃんの手術ってのは一也がやんの?」

 

「え、いや僕は……」

 

 こう言ってから気付いたけどさ、一也ってあたしの1つ年下の中3じゃん。中坊が手術するのホントはおかしいじゃん。

 

「うむ、今回は富永。やれるな?」

 

「はい。元はといえば僕の見落としです。やらせて下さい」

 

 とか思ってたら富永が手術するっぽい。そういや富永ってば頼りないナリしてるけど医者なんだよな。

 

「それでは助手は私ですかな」

 

「ああ。だが第1助手は一也に、村井は第2助手だ」

 

 そうそう、やらせるにしてもあたしみたく助手を……。いややっぱおかしくない?

 

 昨日の夜に助手をやったあたしが思うのもなんだけど、やっぱこの診療所っておかしくない?

 

 あと、あたしが助手をやった事に頭抱えた村井さんと麻上さんがなるほどって顔してるのおかしくない?

 

「それじゃ私とトーセンちゃんとで介助をやればいいのね?」

 

「ああ、そうだ」

 

 カイジョって、何?

 

 

 

「それでは開腹下での絞扼性小腸閉塞手術を始めます。メスを」

 

 そんなこんなで始まったウタおばあちゃんの手術なんだけど、あたしがやる介助ってのはなんと宇原のおばあちゃんの手術の時にあたしがやった助手の事らしい。

 

 あの時は人数が居なかったから、本当の助手を無しにして道具出しっていう介助だけで手術をしたみたいなんよ。

 

 という事で富永にメスを手渡して、そのメスで富永がウタおばあちゃんのお腹の真ん中、ヘソから右にちょっとズレたところを縦に切り開く。

 

 スパッと、とかそんな漫画みたいな音も無く出来た切れ目に、今度は一也が麻上さんから受け取った金具を突っ込んで皮膚を抉じ開ける。

 

 抉じ開けた皮膚のさらに内側にある膜も切り開いて、そして出て来たのはソーセージみたいなのが一杯詰まったようなの。これが腸って奴か。

 

「絡まっているのは、この部分か。確かに壊死もしちゃってる。一也くん、この前後を塞いでくれ」

 

「わかりました。腸鉗子とペアン鉗子を2つずつ」

 

 麻上さんが渡したのはハサミみたいな、でも先端はラジオペンチみたいで大きさが違う2種類を2つ。それで一也が腸の絡まって黒くなってる部分の前と後ろを2ヵ所ずつ挟む。

 

 ていうか腹の中の腸に前と後ろってあるん?

 

「よしトーセンさん、電気メスを」

 

 ここであたしが渡すのは電気メスっていう青い棒みたいな道具。それがコードであたしの後ろにある機械にまで繋がってて、さらにその機械からもう1本のコードが富永の足元にあるペダルまで繋がってる。

 

 そのペダルに富永が足を載せて、青い棒は先端をハサミで挟まれた間の腸に当てて―――。

 

「じゃあ切除開始」

 

 カチンとペダルが踏まれると青い棒の先端から煙が出て、見る見るうちに腸が切れていく。

 

「よし、切除完了。吻合に移る。端々吻合で、一也は断面の消毒を、トーセンさんは6-0のモノフィラメント吸収糸を」

 

「えーっと、6-0、6-0っと……」

 

 まあ何言ってるのかよく分かんないのは今までと同じなんだけど、宇原のおばあちゃんの肘の手術の時に使ったのと同じように6-0って書いてあるピンク色の小さい袋から糸の付いた曲がった針を取り出して、持針器っていう持ち手の長いハサミの先端に針を挟んで固定。その状態で富永にハサミの持ち手を向けて渡す。

 

「はい」

 

「ん。よし、ありがとう」

 

 それで富永が腸を縫い合わせていって。

 

「トーセンさん、同じ奴をもう1本」

 

「えぇっ!?えっと、同じ奴。ピンク色の6-0でっと」

 

 まじ焦ったわ。宇原のおばあちゃんの時は管を通す穴1つに糸1本しか使わなかったけど、腸を縫う時は何本も使うんだ。

 

 でもあたしの手先の器用さ舐めんなし。こんなちょっと焦ったくらいでミスったりしないもんね。ちょちょいのちょいで針をハサミに挟んで手渡す。

 

「へいお待ち」

 

「うん、よし。焦らなくて大丈夫だからね」

 

 そんなこんなで腸を縫い合わせて、腸を包んでた膜も同じ種類の糸で切れ目を縫い合わせていく。

 

 これで後は皮膚を縫い合わせれば終わりだとなって、それに使う針をハサミにセットしておこうとして、何かこう、記憶に何かが引っ掛かった。

 

 宇原のおばあちゃんの肘の手術の時も、肘の中にある膜を縫い合わせるのに使ったのはピンク色の袋に入ってた糸だったけど、皮膚を縫い合わせるのに使ったのは緑色の袋に入ってた糸だったよね。

 

 そんな記憶を頼りに左手を緑色の袋の上で待たせる。

 

「トーセンさん、5-0のモノフィラメント、ナイロンの糸を」

 

 はい来た。予想通り吸収糸って言う溶ける糸じゃなくてナイロンの糸で、だから緑色の袋の中から富永が言った5-0のを選び出して、袋から取り出した針をハサミにセット、それを手渡す。

 

「はい」

 

「ん……?」

 

 なんでか受け取った富永の視線があたしの顔と受け取った針とで何度か往復した。

 

「いや、合ってるね。ありがとう」

 

 それで皮膚を縫い合わせて手術は無事終了した。

 

 あー、マジ疲れた。




第21話で縫合描写を省略した事を後悔してます。
余裕があったら追加するかも。

2024年2月29日、追加しました。
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