トーセンジョーダンがN県T村でちょっと過ごす話   作:鶴岡

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第26話 1600m坂路トレーニング

「ッしゃーー!芝、じゃないけど草だああーーー!」

 

 目の前に広がる草原、久々に見た一面の緑でもうあたしの気分は最高にアゲアゲよ。

 

 ここはT村からちょっと車で走った所にあるタカボッチ山って所の牧場で、今日はここで走って良いって言うのよ。なんかK先生が牧場の人と知り合いみたいな?

 

  昨日の帝都大学病院での検査で、ちょっとくらいならウマ娘のスピードでも走って良いってお墨付きも貰ったし、目の前には一面の草原、これは走るっきゃないっしょ!

 

 まあシューズは蹄鉄シューズじゃなくて代わりのラグビー用スパイクシューズだし、もっと言えば―――。

 

「モーーー」

「モーーー」

「モーーー」

 

 ……まあ、牧場なワケだから所々に牛は居るし、レース場みたいな1周2000mくらいあるようなコースは無いし、山の中だからか坂も凄いんだけど。

 

「あーもーじっとしてらんない!ねえK先生!もう走って良いよね!?」

 

「ああ。だがウォーミングアップはしっかりな」

 

 もう返事を聞き終わる前にあたしは駆け出して、目の前の柵に手を掛けてバッと乗り越える。

 なんならその爪には昨日の帰り、麻上さんと一緒に新宿へ買いに行ったグッズでネイルもバッチリキメてあるからもう何も文句無しよ。

 

 そして着地。久々に味わう、地面から帰ってくる柔らかい感触をじっくりと味わう。

 

 よし、イイ感じ。

 

 着地して脚を縮めた姿勢そのまま、軽く姿勢を前に傾けたら、ぐっと伸ばす!

 

 そしたらゴウッっと風を切る感覚を全身で受け止めて、前へ!

 

 もちろんあたしの耳はK先生が言ったウォーミングアップってのをちゃんと聞いてたから、ペースは控えめ。

 

 それでも、草の地面にスパイクが引っ掛かる感じはちょっとだけ芝と蹄鉄のそれに似てて、村の砂利道なんかよりも簡単にスピードが出ちゃう。

 

 そのまま下り坂に任せるように、たまに牛や地面の窪みとかを避けて、だいたい400mくらい走ったら牧場の端っこに到着。

 

 振り返れば今度は上り坂、牧場の端からK先生達の目の前を通り過ぎて緩く左へ曲がるコース。だいたい800mくらい。

 

 傾斜はトレセン学園の坂路よりもちょっとキツめ。イイじゃん、燃えてきたわ。

 

 

 

「ここ、確か1600mはありましたよね……」

 

「ああ、後ろに見える高ボッチ山山頂で1665m。海抜0mと比べて僅かとはいえ大気中酸素濃度が低い。この2週間村の標高で慣らしたとはいえ、顔色の変化に注意しておくんだ」

 

「それはもちろん。でも加えてこの牧場の傾斜ですよ。端から端までで標高差だいたい30mくらいですか?こんな坂道を上るのにあのスピード、あれホントにウォーミングアップって言えるんすかね」

 

「だが、トーセンジョーダンの顔には余裕が見えた。時速30km程度は本当にウォーミングアップなのだろう」

 

「凄いなあ……。あ、牛が」

 

「モーーー」

 

 

 

 とりあえず牧場の端から端まで、途中からは牛達が追いかけて来たから併走しながらも3往復して、ウォーミングアップはこんなもんかなってK先生達の所に戻る。

 

「どうだった?」

 

「最高。マジ良かった」

 

 というか良すぎてガチの走りたさ押さえるのちょー大変だったわ。

 

「脚とシューズはどうだ?」

 

「んーっと、脚は大丈夫。シューズもまあそこまで悪くない。やっぱ砂利道とはぜんぜん違うわ」

 

「やはりか。大垣がツルマルツヨシの時はゴルフ場の芝でトレーニングをさせていたと聞いてもしやと思ったが」

 

「まあ、あたしそもそもダート苦手だし、それになんというか砂利にスパイクじゃ噛み合わせが悪い感じな?」

 

 草の上を走って気が付いたけど、スパイクが刺さって引っ掛かる感じが砂利じゃぜんぜん無くて滑ってたし。

 

「なるほどな。じゃあ次は爪の状態を見せてくれ」

 

「うん。ちょっと待ってて」

 

 言われた通りにシューズとソックスを脱いで足の爪をK先生に見せて、……あ。

 

「これは、足の爪にもネイルをしてたのか」

 

「うん、手足と揃いなんだけど……。もしかしてダメだった?その方が気合い入るんだけどさ。あ、もちろん爪に開いてる穴にジェルとかラメが入らないようにはしてるよ」

 

「ウムムム……。とりあえず、触っても大丈夫か?」

 

 なんつうか、K先生の目がネイルっていうか、ネイルの下の爪を見ようと凄く睨んできてちょっと恥ずいんだけど、でもまあ、爪も見てもらうのにネイルは不味かったなあ。

 

「……まあ、触って痛みも無いようだし、大丈夫だろう」

 

 次からはクリアにラメとラインだけで下の爪が透けて見えるデザインとか、すぐ剥がせるシールタイプとか、考えてネイルしておこ。

 

「ところで、途中から牛が追いかけて来て一緒に走っていたが、大丈夫だったか?」

 

「あー、あれね。足音も大きくてちょっとびっくりしたけど、牛よりあたしのが速いってのに気付いてからは大丈夫だったわ」

 

「……そうか、そうなのか」

 

 そっか、ヒト耳は牛なんかよりも走るの遅いから、牛に追いかけられたら普通は怖いのか。

 

「んじゃ、ウォーミングアップはさっきで終わったし、次からボチボチスピード上げてくわ」

 

「ああ、水分補給も忘れずにな」

 

「もち分かってっし。とりま2本行ってきまー」

 

 もうウォーミングアップで身体温まって走りたさエグいんよ。




標高1600m距離800m高低差30mの坂路、実はトレセンやレース場よりキツいけど誰も気付いてない問題。
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