トーセンジョーダンがN県T村でちょっと過ごす話   作:鶴岡

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第6話 腕相撲

「皐月賞では芝の2000mを2分3秒、東京優駿では芝の2400mを2分31秒だと。……人体で時速60km近い速度をトキノミノルさんは出していたのか?」

 

 翌日、イシさんがアルバムと一緒に持って来たトキちゃんのカルテ?を見て医者のお兄さんが凄く驚いてた。ちなみにK先生って言うらしい。

 

「いや、脚の速さもそうですけど、昭和26年に破傷風を村で作られてたヒト免疫グロブリンで治療していた一道先生も中々ですよ。村の外、それも海外と比べてさえ20年は進んでる」

 

 それともう一人、昨日は居なかった富永っていうもっと若い医者の先生がなんか言ってるけど、まあ分かんないや。

 

「東京ゆーしゅんってそれ昨日言ってたダービーのタイムっしょ?タイムだけならチケゾー先輩は2分25秒だし、バ場にもよるけど2分31秒はそこまで早くないよ」

 

「それは、また凄いな」

 

「じゃあこの皐月賞、トーセンジョーダンさんも一昨日走ったというこの芝の2000mレースで出した2分3秒というタイムも?」

 

「あたしの時の皐月は1着が2分切ってたっけ?同じ中山で芝2000mのあたしが勝ったホープフルの時は2分00秒とちょっとだったし、まあちょっと遅いくらいじゃない?」

 

「馬と同じ時速60kmの速さで走るのが普通のレース、それもあの脚力が為せる記録か」

 

 え?あたしってここの病院に来てから一度も走ってないよね?

 

「昨日の爪下血腫を処理した時にトーセンジョーダンさんが暴れた時の脚力、とてつもなかったですからね。もしや馬並の脚力かと半ば覚悟して押さえたら、両手でもギリギリでした」

 

「あーそれ!なんであたしマジで脚抜こうとしたのに抜けなかったの!?しかもK先生なんか片手で押さえてたし!」

 

 まじでありえねーし!あたしウマ娘なのに力でヒト耳に負けてたじゃん!?

 

「いや、もう少し君が強く暴れてたら諦めて処置を中断していたさ」

 

「K先生が処置を諦めるって、そんなにウマ娘の、トーセンジョーダンさんって力が強いんですか」

 

「爪が治っていないのであまり脚は動かしてもらいたくないが、おそらく脚力以外の身体全体の力も相当に強いはず。腕相撲でも試してもらったらどうだ?」

 

「良いんですか?僕だって村に来てからけっこう身体使って力付いてきた思うんですけど、女の子相手に腕相撲なんて」

 

「やる!ヒト耳相手に負けっ放しは嫌じゃん、やってやるっしょ」

 

 黒沼トレーナー並にガタイが良いK先生や村井さんならともかく、この富永って奴にまで負けちゃもうウマ娘のトーセンジョーダンだなんて名乗れねえんだわ。

 

 そんなこんなでテーブルで富永と腕を構え合って、村井さんの合図で一気に押し込んで―――。

 

 「い゙ッ!」

 

 そんな悲鳴と一緒に富永の拳がテーブルにめり込んじゃって、あとバキッとかメキッって音がした。

 

 うわっ…、ヒト耳の力、弱すぎ…?

 

「あっ、あっ!俺の腕が!?」

 

「瞬殺でしたな」

 

「富永、肘が脱臼しているぞ。治してやるから腕を貸せ」

 

「え、ちょっ、待ってK先生、待って!麻酔は!?」

 

「このくらいで麻酔なんか使わん。耐えろ」

 

「ぎゃああああああ!?!?」

 

「……まあヒト耳相手なら普通こんなもんっしょ」

 

 やっぱりK先生と村井さんがおかしいだけのでは?

 

 にしても、このアルバムの写真でイシさんとあとウマ?っていう生き物と一緒に写ってるトキちゃん、ていうかトキノミノルさん、どっかで見た事あるような気すんだよなー。

 写真が白黒じゃなければ分かるような気がするんだけど。

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