「それで?おまえが紹介してきたそいつ、顔も表に出せないトウセンさんをわざわざ俺の部屋にまで連れて来た理由ってのを教えてもらおうじゃねえか。ネタは足の爪だけじゃねえんだろ?」
「ああ、それは見てもらった方が早いだろう。トーセンジョーダン、フードを取ってくれ」
「ん、わかった」
大きな病院の、無精ひげの大垣教授っていう人の部屋に着いて中にはあたしとK先生、大垣教授と寺井さんだけになった。つまりこの2人が前に言っていた専門の医者なんだよね。
ここに来るまでずっとウマ耳に擦れてむず痒かったフードをようやく脱ぐ。
「は?トーセンジョーダン?その耳、おいおい……」
「な、なによそれ……」
村でもK先生の病院、じゃなくて診療所に来る初見の村の人達からは似たような反応をされたけど、やっぱり慣れないなあ。と思ったら、続く反応は寺井さんと大垣教授とで違った。
「その耳、まさかK先生ェ人体実験は駄目よおォ!」
「う、ウマ娘じゃねえかよおい!どっから連れて来たんだ!?」
寺井さんの反応は村でも偶にされたけど、大垣教授の反応はイシさんみたいだった。
「えーっと、K先生、どーすんの?」
「うむ。ひとまず、寺井さんは落ち着いてください。彼女は人体実験の産物ではありません」
「え、えー?本当にそうなのォ?」
「ええ、誓って。彼女は我々とは違う世界から来たウマ娘という種族なのです」
「馬、むすめ……」
とりあえず寺井さんは落ち着いてくれた。そしてもう1人、ウマ娘が居ない世界で何故かウマ娘を知っていた大垣教授は。
「大垣教授、ウマ娘を知っていたのですか?」
「知ってるもなにも、忘れられるわけが無い。俺は、……俺とKAZUYAは11年前、ここでウマ娘の治療をやったんだぞ」
「なんだって」
わあ、てことはトキノミノルみたいなウマ娘がもう1人いたってことじゃん。
「彼女の名前はツルマルツヨシ、御茶ノ水駅で倒れてウチに救急搬送されて来た彼女は腎性貧血と診断された。……それだけだと俺たちは勘違いしていた。ああ、俺とKAZUYAがやっちまった唯一の医療ミスが彼女だ」
「腎性貧血、であれば
うーん、また医者同士のよく分からない話が始まったぞ。
ていうかツルマルツヨシって、11年前って事は先輩?
「EPOの投与を始めてから2週目の検査でな、赤血球が異常上昇していた。ウマ娘の正常値そのものが俺らにとっちゃ分かる筈もなかったが、ツルマルツヨシの自覚症状は間違いなく多血症そのものだった」
「腎性貧血の患者にEPOを投与して僅か半月で多血症の症状、という事はウマ娘の身体がEPOに対し過剰反応を起こした?いえ、それは医療ミスとまでは言えないのでは?いや、腎性貧血?まさか?」
「そのまさかだ。ツルマルツヨシの腎臓には腫瘍があった。EPO産生腫瘍がだ。入院時に行ったレントゲンで映っていた、結石だろうと思いこんでいたほんの小さな影が、それが僅か半月で2cmにまで大きくなっていたんだ」
「つまり、元々の腎性貧血が腎臓にあった腫瘍の進行とEPO産生作用を抑制していた所に、体外からEPOを投与した事によって貧血が解消されて、その腫瘍が、目覚めた?」
「ああ、そうだ。とはいえ、元よりツルマルツヨシの腎臓が弱かった事もあってEPOの投与を止めたら赤血球は人間の正常値に落ち着き多血症の症状は治まった。だが問題はその後だ」
「腫瘍が進行すればEPO産生量も増加し、それに伴い多血症が再発する。……しかし腫瘍さえ摘出してしまえば問題無いのでは?腎臓の腫瘍で2cmの大きさならステージ1のかなり早い早期発見、腎性貧血こそ残るでしょうがそれ以外の予後はまず良好となるでしょう?」
「問題はな、ツルマルツヨシが腫瘍摘出手術を拒否したんだよ」
ツルマルツヨシ先輩、なんか聞いた事あるんだよなあ。……あ!
「あーーー!思い出した!ツルマルツヨシ先輩って、京都の絶対じゃん!」
「京都の、絶対?」
「ああ、やっぱりアイツ、向こうに戻ってから走ったんだな」
という事でドクターK世界に来たウマ娘2人目はツルマルツヨシです。
作中のツルマルツヨシの症例に関しては全くのオリジナルです。
ウマ娘キャラクターとしての貧血描写と、実馬の多血症という相反する症状にある程度の整合性を持たせようとした結果こう構成しました。
次話はツルマルツヨシがなぜ腫瘍摘出手術を拒否したかがテーマです。