「と、とりあえず一度離れてください」
正直な所押し当てられた柔らかい感触は離れがたいなんてものじゃないけど、この状態で会話できるとも思えない! 俺がアキラさんの肩を押すと、彼女は特に抵抗もすっと離れてしまった。
ああ、柔らかい感触が……
『顔真っ赤過ぎて可愛い』
『明らかに視線が名残惜しそうに特定の場所を追ってて草』
『●REC』
うるさいだまれこっちみんな。
──という事を感情に任せて言えないのが配信者のつらいところである。
「……顔真っ赤ね。照れてるのかしら? 女の子同士じゃない」
う゛っ……
そうだよ、カメラの向こうの人間は俺の中身が男だと知っているけど、当然アキラさんはそんな事を知っているわけではなく、女の子だと思ってるからさっきみたいな事をしてきたわけであって……
うわぁぁぁぁぁぁぁ……
これあれかな? 女装して痴漢行為しているような感じになってないかな? 自分から抱き着いてないからセーフ?
……
「ちょっと、何してるの!?」
俺は視線をがっくりと落とすと、そのまま地面に膝を落とした。そして慌てるアキラさんの前でゆっくり上体を倒して──
『土下座wwwwwww』
『罪悪感に耐えられなかったか』
『美少女の土下座は絵面が強すぎるな』
『流れるようなきれいな土下座。これは土下座慣れしてますね』
うるせぇ、慣れててたまるか。
カメラは固定しているがコメント欄は俺の体の向きに追随するように設定していたので土下座しても追随した上に、カメラ同様別の物体と重ならないようにしていたため地面に押し出されて眼前に来たのでがっつり目に入っていたので思わず心の中で突っ込む。いや違う、今俺がすべきことは突っ込みではない。
多分みんなには突拍子のない行動に出たと思われているかもしれないが、この行動に出た俺の頭の中はむしろ冷静に状況を分析していた。分析した結果がこの土下座である。
何故なら、真実をカミングアウトしてすべてを謝罪するにはこのタイミングしかないと思ったからだ。
一期一会の関係なら特に問題ない。だけどアキラさんとはすでに2回目の遭遇、しかも住居を構えているのは同じ町。しかもアキラさんは明らかに俺という存在に強い興味を持っていらっしゃる。間違いなくここ限りの関係にはならないだろう。
しかも俺の正体はばれてるし、なんならコメント欄も見られているわけで。今更隠す事も出来ないだろうし、そしたら絶対に俺の中身が男だってバレるようなコメントをする奴が絶対に出てくる。そしてなんとなくアキラさんはそれをピンポイントで拾ってしまう気がする。ものすごく。
「あの、それ何かのあなたの世界の儀式なの?」
頭上から、アキラさんの困惑した声が降ってくる。
あ、しまった。土下座は万国共通の謝罪の手段じゃねぇ。こっちの世界謝罪の時は頭下げてたから同じかと思ったけど、こっちの世界じゃ土下座は通用しないのか。あかん、そうするともう完全に突然地面に這いつくばった変人じゃないか! 俺は慌てて立ち上がると、改めて頭を下げ声を上げる。
「すみません、実は俺男なんです!」
さっきも告げた通り、カミングアウトはここしかない。
俺が異世界人と知らないテイルさんには、後日ばれたとしても俺が男なんて告げても荒唐無稽な話で信じられないだろうから話してないと言い切れると思うけど、もはや隠すべきところがばれているアキラさんの場合、ここで黙っていたらどんどん状況が悪くなるだけである。それこそさっきみたいな事されて黙っていたら、いざバレた時にドブネズミを見るような蔑んだ目で見られるのは確実だ。
言い訳が利くタイミングはここしかないのだ!
「おと……こ?」
発せられた言葉に下げた頭を上げれば、彼女が困惑の表情でこちらを見ていた。俺の顔を見て、視線を一度下に向けて、再びこちらを見る。
「でも、胸はちゃんと柔らかかったわよ? どう考えても詰め物じゃなくて本物だと思うのだけど……というか先ほど透けてたし。それに他の部分も柔らかくて男の子って感じじゃないわ」
『カズサちゃんの胸の感触レポありがとうございます』
『カズサちゃんは全身ふにふに柔らかい、把握した』
お前らそれセクハラ発言だからな? 今更だけど。
「えっと、これには色々と事情がありましてですね……」
一息に説明できることでもないので、事の経緯を俺は順序だてて説明する事にした。元の世界の事、アバターの事等だ。正直アバターやVRに関する事を理解してもらうにはかなり苦労したが、一応納得はしてもらえた。もらえたんだけど……
「えっと、結局こっちの世界にいる限りは貴女は女の子なのよね?」
「はい、そうなると思います」
獲得可能能力の中に性転換する能力なんてなかったので。というか今回のコラボ機能のように今後解放されたとしても、それを使う訳にはいかないんだよなぁ……今配信で皆が見てくれるのは異世界とか常時配信とかという特異性があるにしろ、その核は今の俺の外見が美少女だってことだと思うので。元の世界に戻ってからならともかくこっちの世界にいる間に元の姿に戻るのはMP獲得の手段を失う自殺行為に等しい。なので、こちらの世界にいる限り俺は今の外見のままだろう。
その俺の返答を聞いてアキラさんは口に手を当ててから「うん」と小さな声と共に小さく頷いて、
「だったら、私……というかこっちの世界の人間にとってカズサちゃんは女の子って事でいいんじゃない?」
「……ええと?」
「だってこっちの世界で貴女の男の子の姿って認識できないもの。だとしたら私達にとって貴女はやっぱり女の子だわ」
……そういうもんだろうか?
『まぁ男から記憶残して転生して女性になった場合に男扱いするのかって話になるしな』
『確かに男という事実を観測できない以上そうなるのか』
『そもそもカズサちゃんは俺達にとっても可愛いTS女の子だよ❤』
そういうものだろうか……まぁ、お風呂の件とか抱き着きの件とかそれで怒られないので済むのならいいかな……
「というか、もし男の子だとしても初心すぎじゃない? 正直反応可愛くて少しドキドキしちゃったんだけど?」
あれ? アキラさんなんかさっきとは違う目の輝かせ方してません?