『最近カズサちゃん元から可愛い女の子だったんじゃないかと気になってたんだけど、今の姿を見ると〇貞の男の子だったって事を思い出すね』
うるさい黙れ。いや男だった事は全然思い出してくれて構わないが(というか忘れるな)その枕詞はいらないだろ! モデレーターさん仕事して!
──という事を普段なら口に出して言っている所だったが、今は口に出せる状況ではなかった。
何故なら、右隣は俺と肩を触れ合わせながらニコニコとカメラに向けて手を小さく振っているテイルさんがいて。
左隣には、ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべて俺にしなだれかかっているアキラさんがいるからだ。
『なんか電車の中でギャルに挟まれて縮こまっている思春期の男の子みたいだよね』
カメラに映る自分の姿を見ているとその言葉が納得できちゃうからやめてくれ。というか元の俺はちゃんとした成人男性だし思春期も終わってるが?
「思春期って何?」
アキラさんの以前の話を聞く限りコメント欄の言葉はこっちの言葉に変換されていて、こっちの言葉に変換できないものだけがそのままの言葉として表示されるらしい。こっち思春期って概念ないの?
とりあえず子供から大人になりつつある時期の事って伝えたら、何故かテイルさんじゃなくアキラさんの方がうんうん頷いていた。はいそこそこニマニマしない! 別に女の子の接触がこれまでなかったわけじゃないけどこれだけ可愛い子二人にこの距離で挟まれる事なんてそうそうないからね?
さて、今のこの状況についてまず説明しよう。
まず、正体を明かすと決めた後に最初にしたのはテイルさんに土下座する事だった。
『土下座を持ち芸にする気かな?』
『流れるようなきれいな土下座だった。これは大会に出れる』
『そっちの世界に土下座の文化ないのに、何故土下座したんですかね……』
『土下座したがり娘カズサちゃん』
とかいろいろな事を言われたが、気持ちの問題である。ところで大会って何?
土下座した理由は、主に例のお風呂の一件である。それ以外にも細々とあるけど。
アキラさんの時もそうだったが、自分の正体を明かしてコメント欄が見れるようになる以上俺が元男だと感づかれるのは時間の問題なわけで、であれば一刻も早く謝罪するしかないのである。特にテイルさんは一度産まれたままの姿を見ちゃっているので猶更状況が悪い。
という訳で俺は自身の正体を明かし、コラボ対象に入れて証明を行った後速攻で謝罪を行った。
ちなみにそれに対するテイルさんの反応はあっけらかんとしたものだった。さすがに怒られて一度ひっぱたかれる位は覚悟していたけど怒ってすらいなかった。
何でもテイルさん曰く「だってカズサちゃん可愛いしどう見ても女の子だから、今更男って言われても実感ないし……それに自分の体で見慣れてるでしょ?」
だそうである。
……彼女が怒ってないのは助かるんだけど、"どう見ても女の子"という発言はちょっと微妙な気持ちになった。「そうなんだ、ちょっと言動が男の子っぽいかと思ったらそうだったんだね」位言われると思っていたのに。確かにこの世界で人と相対するときは変なボロがでないように今自分が女の子である事を意識してるけどさ……
『カズサちゃんはもう身も心も女の子だよ』
なってねぇよ。……なってないと思う。
ちなみに殴られはしなかったが、最初胸に触られた。最初は女装をしているのだと思ったらしく、混乱して何か詰まっているのかと思い思わず触ってしまったらしい。結構強く触られたので思わず変な声が漏れてしまい後ですげぇリスナーに揶揄われた。
とまぁそんな事もありつつも、だ。俺は今の自分の事情を話し、ありがたい事に納得してもらえた。彼女も異世界人の事に関して話を知っていたのが、受け入れてもらうのに役にたったと思う。異世界人に関しては近年表舞台にほぼ登場してないから知っている人間は少ないが、やはり冒険者稼業等をやっている人間は知っている割合が比較的多いそうだ。いろんな所行ったり調べたりするからかね?
基本的には正体は他言無用とする事にも同意して貰えた。ただグウェンさんだけには伝えていいか聞かれたので、これは頷いた。テイルさんの相方の彼は依頼時に同行するはずだし、説明しないといけないとは思っていたので。テイルさん曰く口も固いそうだしね。
ともあれこれで状況は整ったわけで──いよいよ、俺は初めてのダンジョン探索へと向かう事になったのである。
依頼料に関しては幸いな事に成功報酬込みではあるが手持ちの現金だけで収まる範囲だった。そうして手続きやテイルさんに相談していろいろ必要な道具を揃えつつ、ダンジョンへと旅立った。
目的地は勿論クアンドロ地下遺跡だ。というかここ以外だと俺何の役にも立たないし。いや心霊ダンジョンならワンチャン……? そんなホラーダンジョンあるかどうかもしらんけど。
クアンドロ地下遺跡は当然といえば当然だが街から歩いてすぐたどり着ける場所にはない。距離的には数十kmは離れており荷物を担いだ状態での移動となると、大体二日近くかかる距離である。
なので初日の今日は野営だ。キャンプとかした事ない人間なので、人生初の野営だ!
……まぁ野営の準備とかはテイルさん達がぱぱっと済ませてくれちゃったので、俺は少し手伝っただけなんですけどね……今後こういう事も増えるだろうから慣れて行かないとなぁ……
そうして夜食も終え、今は4人でのんびり過ごしている所だ。
そう4人だ。俺、テイルさん、グウェンさん、アキラさんである。ちなみにアキラさんには依頼していないというか、パストラでも上位の実力者であるアキラさんは当然単価も高いので依頼とか無理である。
じゃあなんでいるのかというと、クアンドロ地下遺跡に向かう事を話したら「じゃあ私もついていくわね」とものすごく軽い調子でついてきちゃったのである。「今仕事受けてないし今私の一番の興味はカズサちゃんにあるしー」だそうだ。いや、滅茶苦茶心強くはあるけどいいの?
ちなみにそういう理由なので依頼料は払っていないが、さすがに申し訳なさが過ぎるのでテイルさん達と相談の上で成功報酬は払う事にした。当人は「お金には困ってないけど」っていってたけどさすがにね。