イフリート以降、出てくる魔術生物の種類は増えたが非常に優秀な同行者のおかげで特に問題が生じる事もなく、順調に魔石採集は進んでいった。20個を超える数が集まっており、これだけあれば三人と報酬分割してもしばらくは生活費に困ることはないだろう。<<ディスインレグレイト>>とこのダンジョンの事を調べた俺超えらい。
「広いところに出るわね」
「あ、じゃあ<<ワイドプロテクション>>掛けますね」
<<ワイドプロテクション>>は効果時間がそれほど長くないので、遺跡に潜っている最中にずっとかけておくことはさすがにできない。なので大物の敵や奇襲を受けやすい広い空間に出た時だけ掛けるようにしていた。最悪俺の場合魔力の練り上げが不要な分、咄嗟の戦闘でも掛ける事は出来るしね──パニクってなければだけど。
ちなみに<<ワイドプロテクション>>を掛けるのは俺の役目である。アキラさんは当然のように使えるしテイルさんとグウェンさんも<<プロテクション>>は使えるみたいだけど、俺が自分から立候補した。なにせ俺のお仕事は動きを止めてもらった魔術生物に<<ディスインレグレイト>>を掛けるだけだからね……あと普通に覚えた能力を使ってみたかったのもある。ほら、仲間にバフをかけるのってものすごく異世界ファンタジーっぽい感じがしない。
一番最初に掛ける時、その気持ちが顔に出ていたみたいでリスナーの皆にすごく揶揄われたけど。
「<<ワイドプロテクション>>」
<<ワイドプロテクション>>の掛け方は簡単だ。対象を視界に捉え、この人に術を掛けると意識して行使するだけでいい。実際はどうだかしらないけど、俺の場合はこれだけで行ける。あと自分を忘れないように。一番この術掛かってなくちゃいけないのは俺だしね。
まぁすでに何回か使ってきてはいるので、もう慣れたものである。
「……っ」
ただ、今回はこれまでと少し違っていた。
別に魔術の効果に変化があったわけではない。違っていたのは俺の体だ。
術を使用した直後、一瞬膝から力ががくっと抜けた。そのせいで一瞬よろめいてしまう。さすがに膝をつくほどではなかったけど。
「大丈夫? 魔力切れが近い?」
「魔力切れ?」
その様子を見てアキラさんから掛けられた声に、俺はオウム返しに問い返す。
「あー……カズサちゃん、これまで魔術を使いまくった事ってある?」
「いや、ないですね……成程、力使いすぎるとこうなるんだ」
そういえばここまで術をつかったのってほぼ単発で、ここまで一日の間に術を使ったのってないな。レイス戦では何回か使ったし疲労感はあったけど、あの時は力抜けたのは精神的な安堵が大きいと思うし。
成程、魔術を使いすぎるとこうなるのかー。普通に体力使いすぎた感じみたいなのかな。さすがに異世界チートで無尽蔵に魔術が使えるとかなかったね。
「まだちょっと力抜けたくらいだから、切れたっていうか残り少なくなってきた感じですかね」
「そんな感じね」
「それじゃ、ここで引き上げか?」
「だね」
撤退を口にしたのはグウェンさんだ。その言葉に、テイルさんも同意する。
俺達は別にこのダンジョンを別に完全攻略しに来たのではないので、力が切れるのも近いのに無理して進む必要はない。なので、俺も二人の意見に頷いた。
ちなみに、帰路の事は考える必要はない。ここには<<ポイントテレポート>>が使える人間が二人もいるからね。帰りはひとっとびだ。尚、帰りの<<ポイントテレポート>>は俺じゃなくアキラさんが使う事に決まっている。これは魔力がどうのではなくて、単純にグウェンさんがいるからだ。俺やテイルさんの住んでいるアパートメントは基本男子禁制だから。
「それじゃアキラさん、お願い……アキラさん?」
撤退で話もまとまりそうだったのでアキラさんにお願いしようと顔を向けたら、アキラさんはこちらを向いていなかった。何かを察したのか、こちらとは違う方向を向いている。その様子を見たグウェンさんとテイルさんがすっと戦闘体勢に入った。俺も続く。……グウェンさん達の後ろに隠れるだけだけどな!
「何かいるのか?」
「……ああ、いるんだけど別にすぐそこにいるわけじゃないから、大丈夫よ」
言葉の通り、アキラさんはすっと力を抜く。
「気が付いたら結構深くまで潜ってたみたいね。この近くにロックドラゴンがいるわ」
「ドラゴン!?」
思わず声を上げて反応してしまった。
ドラゴン! ファンタジーの大定番のモンスター! 思わずさっきまでアキラさんがみていた方角を見てみるけど壁があるだけで何も見えなかった。感知魔術でも使ってたのかな?
「なんだ、だとしたらカズサが疲れてなくても結局ここまでだったな」
「やっぱりヤバい相手なんですか?」
「ドラゴンといってもガーゴイルやゴーレムの同類だからさ。硬いんだよね。それにおっきくて攻撃力も強いから戦いたくはないかなー」
ああ、そっか生物じゃないのか。場所を考えれば当然といえば当然だよね。という事はドラゴンの像が動いているみたいな感じだろうか。うう、見てみたくてちょっとうずうずする。
コメント欄を見たら、リスナーの皆も同様で見たいという意見が多かった。ただ危険そうだからやめといた方がいいという意見も結構多い。
配信者として考えれば当然視聴者が求めているなら見に行きたいところではあるけど、ただそれは命をかけてやる事じゃないよな。俺か、あるいはアキラさん達がそいつを圧倒できるほどの無双ができるなら全然ありだけど、テイルさんも言っている通り楽な相手じゃなさそうなのは確かなので。
うん、諦めようと口を開こうとした時だった。
「見に行ってみる?」
「へ?」
想定外の言葉が、アキラさんの口から出た。顔を見上げると、ちょっとにまぁと笑ってる。
「戦うのは御免被りたいけど、見に行くくらいなら出来るわよ?」
そういったアキラさんの視線がちらりと横を見た。多分コメント欄をみたんだと思う。アキラさんは割とリスナーの要望に答えたがるのそれを見て行ってくれたのかな。
どうなんだろうと思ってグウェンさん達の方へ視線を向けると、彼はコクリと頷いた。
「ここのロックドラゴンはサイズの都合で部屋の外には出てこないからな。見に行くくらいなら大丈夫だろ。……一発くらいブレスはもらうかもしれないが」
「ブレス!? 炎ですか!?」
「いや、石礫のハズだな。ちゃんとガード張れば耐えられるだろ?」
「カズサちゃんの<<ワイドプロテクション>>はかかってるし、後は<<マジックシールド>>使えばまぁ被弾しても大したダメージではないでしょ。一応自身の防御強化も使って、カズサちゃんカバーできる体勢にしとけば万全よ」
「ストーンブレスならボクも防御手段あるしいけるね。カズサちゃん、どうする?」
二人の意見を受けて、テイルさんがニコニコしながら聞いてくる。
その言葉に、俺はこくりと頷いた。
「見に行きたい!」