『岩ですね』
『まごう事なき岩だな』
「岩だねぇ……」
ここまで見て来た中で尤も広いフロア。天井も高く、なんでこれで柱無しで崩れてこないんだと思わせるレベルだが、まぁゴーレムとか動かしてた文明の遺跡だ。きっと謎パワーが働いているんだろう。
俺達は今、そのでかいフロアの中……ではなく、フロアの入り口付近に立っている。
全員の視線は、そのフロアの奥の方へ。そこには、巨大な岩の塊があった。
……そう、岩の塊。
うん、そりゃそうだよね。"ロック"ドラゴンだもんね。動いてなければただの岩だもんね。てっきりドラゴンの像みたいなのが立ってると思ってたんだけど、今はまるで生物のように丸まって床に伏せているらしく、こうなると本当に岩の塊にしか見えない。まぁ注意してみれば首っぽい所とか腕っぽいところとか見えるけど。
「これって、もしかして中に入らないと動かないとか、そういう感じですか?」
横を見たらグウェンさんがいたので、聞いてみる。
もしそういう仕様なのであれば、残念だけどここで撤退かな。さすがに"でかい怪物が動いているところを見たい(というか見せたい)"という理由だけでそこまでのリスクを背負うのもあれだろう。
そう思ってした問いだったが、グウェンさんの答えは否だった。
「いや、このフロアにある程度近づいた時点で起動自体はしているハズだ」
グウェンさん曰く、話に聞く限りは大体姿が見えるようになった時には動いているハズとの事。まぁ普通に考えたら部屋に入るまで動かないんだったら思いっきり今俺達がいる位置から先制攻撃ぶち込めるしな。むしろ今回なんで動いてないんだ。バグか?
「って、動いたよ。カズサちゃん」
「……あ、本当だ」
テイルさんの声に視線を戻せば、先ほどまではほぼ岩山に見えていた巨大な存在が、ゆっくりとその体を伸ばし始めていた。
それと同時、テイルさんとアキラさんが前方に手を伸ばしていた。恐らくいつでも術を使えるようにだろう。攻撃は仕掛けないハズなので防御系の術式のハズだが、とりあえず一撃は受けるつもりだろうか……? まぁさっき大丈夫だっていってたし、皆が大丈夫っていうなら俺はそれを信じるだけだけど。
そんな事を考えている間にも、ロックドラゴンは体を起こし、やがてその全体像が明確になった。
「すっげ……」
その威容を誇る姿に、声が漏れる。
『これは迫力あるなぁ』
『ゴーレムドラゴンって感じ』
コメント欄も同様だ。
全身岩でできているので鱗などはないが、その形状はまさにドラゴン──というか、どちらかというと巨大トカゲって感じではあった。翼がないせいだ。そりゃ岩製だし、こんなダンジョンの中にいるんだから空飛ぶわけないしな。ただ顔の辺りはトカゲっぽくはなく、まさにファンタジーのドラゴンの顔だったので、ドラゴンらしさはちゃんとある。
高さはビルの2階くらいあるだろうか? 俺が背を伸ばしてもその顔には触れられそうにない……というかあんなのの攻撃喰らったら秒で死にそう。
そのドラゴンの顔がこちらを向いた。
ビクッと震える俺の体の前に、テイルさんとアキラさんが進み出る。
「来るわよ」
アキラさんが静かに告げる言葉。同時にロックドラゴンがその口を大きく開く。
次の瞬間、その口の中にいくつもの岩塊が出現し──そして放たれた。
思わず反射的に顔を守るようにボクサーのガード状態みたいな体勢になった俺を後目に、テイルさんとアキラさんの声が立て続けに響く。
「<<ブロウウインド>>!」
「<<マジックシールド>>!」
先に響いたのはテイルさんの声だった。彼女の声と共に、我々の前方に強い風の音が轟く。その風を正面から受け、石のいくつかが明確に勢いを失うのがわかった。だが当然それだけで石礫がすべて撃墜できるわけがなく、こちらに向けて飛来し……そしてアキラさんの生み出した不可視の盾によって叩き落される。
尤もさすがに全ての礫が落とせたわけではなく、細かい礫がいくつかは抜けてきた。が、勢いを完全に失っている上に、俺達の体には今<<ワイドプロテクション>>が張られている。実際俺の体にも細かいのがいくつかあたったが、勢いを失ったこぶりな石礫程度だと痛みすら殆ど感じなかった。成程、ここまで減衰できるなら確かに、大丈夫と言えるだろう。勿論、距離がある事が前提だけど。近場だったらアキラさんの方はともかくテイルさんの方の術は、石礫を減衰しきれなかっただろうしな。
──さて、のんびりしてはいられない。
「撤退するぞ!」
グウェンさんが声を上げ、俺達は全員身を翻し走り始める。
俺達はあくまでコイツの姿を見に来ただけである。ブレスまで見る事ができたし、コメント欄もおお盛り上がりなので目的は果たした。となればもうこの場所に残っている意味はない。
俺達がいる通路はドラゴンより小さいから奴が追ってくる恐れはないが、またブレスを叩き込まれる可能性だってある。この距離なら防ぎきれるだろうが、これ以上余計なリスクを負う必要はない。
『なんか危険な物とか撮影にいってるバラエティの取材班みたいだね』
そうだね!!!
逃走ルートは事前に確認済み。奴がこちらの通路にやってこれない以上、奴から射線が通らない場所にさえ飛び込んでしまえばそれで退避完了だ。最後尾をグウェンさんに守られて、俺達は尤も近い曲がり角へと飛び込んだ。
「はー……二射目はこなかったね」
「そうね、元々連射は利かないと聞いていたから大丈夫だとは思っていたけど。一応術は用意してたけど、無駄になってよかったわ」
そう言葉を交わす女性陣二人の前で、俺はやや前傾になって大きく息を吐く。
心臓がバクバクしていた。
別に走ったせいじゃない。そもそも大した距離を走ってないし。このドキドキは、興奮と、恐怖だ。
元の世界では見る事のないような巨大な化け物。ゴーレムとかも巨大ではあったが、それと比べ物にならないほどアイツは巨大だった。それに守って貰える事を信じていたとはいえ、あんな攻撃を向けられて平常心でいられるほど図太い神経はしていない。
とはいえ、これでもう危険はない。後はこのまま<<ポイントテレポート>>で街に帰って、俺の初ダンジョン探索は終了だ。
昨日一昨日とお風呂入ってないし、まず帰ったらお風呂入りたいなー。そんな事を考えながら、俺はゆっくりと体を起こし。
──次の瞬間、俺の全身を冷たいものが覆った。