お金の力で世界を救ってあげます!   作:みずち

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願う事は

 

このメニューの製作者(?)が横着な性格なのかどれも説明が少ないんだけど、これはそれに輪をかけて酷いと思う。確かに一言でも内容を表しているのかもしれないが、もう少し制約とかをちゃんと書いて欲しいと思うのはおかしくないはずだ。

 

万が一の可能性としてこちらに類似の能力的なのがないかと考えていたんだけど、そんな特殊な能力なのに好奇心旺盛なアキラさんが知らないということは、やはり俺特有の能力なんだと思うけど。

 

「……ねぇ、これ。カズサちゃんが元の世界に帰る事もできるんじゃない?」

 

ふと、そう口にしたのはアキラさんだった。その言葉にテイルさんも「えっ、カズサちゃん帰っちゃうの?」と声を上げる。視線を向ければ、テイルさんが少し悲し気な顔をしていた。

 

……

 

『カズサちゃん、ちょっと口元緩んでる』

 

仕方ないだろ!

 

俺はごほんと咳払いを一つしてから、口を開く。

 

「えっとですね、それに関してですが現時点で戻るのは無理だと結論を出してます」

 

増加した能力に関しては気づいた時点で説明文は確認しているわけで、この能力の説明を見た時に当然そういった話題が出たんだけど、ほぼ満場一致でないなという話になった。(まぁこの満場一致には「配信を続けさせたい」という意思も大分混っているだろうが)

 

「どうして? 帰りたくないわけじゃないんでしょう?」

 

勿論、元の世界に帰りたいという気持ちがない訳ではない。だけど……

 

「根本的な問題としてですね、この能力が叶えてくれる事が一つだけというのが問題なんですよ」

「というと?」

「お話してあるとおり、俺元の世界では外見違うし男なんです。ようするに、この姿のまま戻っても向こうの世界には元々この姿の俺は存在していない。居場所がないんです」

 

まぁこの居場所がないというのは語弊がある。

 

こんな配信をやっている以上俺という存在を知っている人間自体は大量にいるわけで、そんな彼らの力を頼れば居場所くらいは作れるだろう。もしかしたら知り合いたちにも信じてもらえるかもしれない。

 

ただその場合、平穏な生活とはオサラバである。こんなありえない体験をした人間が放っておかれるわけはないし、面倒事になる未来しか見えない。間違いなく今のこちらでの生活よりしんどい事になるだろう。今はあくまでコメント欄でしか向こうと接触する手段がないからこうやって穏やか(?)に過ごせているわけだしな。

 

ちなみに、もう一つの願いの案として"男に戻る"というのがあったけどこれもありえない。今の俺の生命線は配信によって提供されるお金の力──MPな訳で、元の平凡な男の姿になったら間違いなく視聴者もスパチャの額も減る。これは悲しい事に絶対に起こりうることである。今の俺は、この美少女の姿を捨てるわけには行かないのだ。俺に突出したトーク力とか企画力があれば別だったんだけど……

 

「後そもそもその願いが通らないと思ってます」

「えっ、なんで?」

「あー……そうかもね」

 

俺の言葉にテイルさんは疑問の声をあげたが、アキラさんの方は感づいたらしい。俺はそんな彼女に小さく頷いて言葉を続ける。

 

「だって、こんな何も成していない時点で向こうに帰れる能力なんて与えるくらいだったら、何で俺こっちに呼ばれたか意味不明なんで」

 

単純にこっちの世界へやって来ただけだったら"運悪く転移してしまった"ととらえることもできるが、こんなチート能力が与えられている時点でなんらかの意図をもってこちらに呼ばれたのは間違いない訳で。だから帰還の希望は恐らく通る事はないだろうという予測はつく。まぁ先の理由があるから試してみる事もしないけど。

 

「と、ここまでが主な理由ですね。後は向こうに戻っちゃうとこっちを確認する方法がなくて、この後何かが起きたのかもやもやしちゃうのもありますし、後……」

「後?」

「その、せっかくテイルさんとかアキラさんと親しくなれたのに、もうお別れするのも寂しいですし」

 

これはとっさに口をついて出た言葉だった。先ほどのテイルさんの寂しそうな顔が浮かんできて、つい。

 

でもその反応は劇的だった。

 

「あー、もー、カズサちゃんは可愛いわね!」

「ボクもまだ別れたくなーい!」

 

先ほど体を寄せて来た時は比べ物にならないい勢いで、二人が体をぶつけて来た。というか抱き着いてきた。

 

「ちょっと二人とも?」

「勿論私もカズサちゃんともっと一緒に過ごしたいわよ?」

「ボクもボクも」

 

あ、ちょっと耳元で声、腕にさっきよりも更に柔らかい感触が、体の両側から暖かいものに挟まれてるぅぅぅぅぅぅ、あっ、ぐりぐりしてこないで!

 

あーーーーーーっ!

 

 

……

 

……

 

それからどれほど時間がたっただろうか。いや実質時間は一分とかだと思うけど、一瞬だった気もするし、数十分経過した気もする。時間感覚がおかしい。胸がばくばくして心臓の鼓動がやばい。絶対今俺顔赤くなってる。

 

『とてつもなくてぇてぇものをみた気がする』

『ファンタジー美少女が美少女をサンドイッチするのを見れるのはこのチャンネルだけ!』

『あの中に挟まれる権利はいくらで買えますか!』

『カズサちゃんすげぇ顔してたな』

『アッアッアッ……』

『(昇天)』

 

……いつも通りのコメント欄をみたら少し落ち着いた。後俺どんな顔してたの? 怖くてあまり知りたくないけど。

 

「あはは、ごめんね。カズサちゃんが私達と別れたくないなんていってくれて、思わず抱き着いちゃった」

「うん、ごめんね? カズサちゃん」

 

 

アキラさんは最初は純粋な気持ちで抱き着いてくれたと思いますけど、離れた時の表情を見るに途中からいつものように俺の反応楽しんでましたよね? 気づいてますよ? ちなみにテイルさんは多分純粋に最後まで喜んでくれてたっぽい。やはり大天使。

 

しかし……さっきまでの感触、さすがに脳内から当面消せそうにない……いやいや、消せないまでも今はなんとか隅にやらないと。お鼻がぴすぴすしてしまってアキラさんやリスナーに揶揄われ続けてしまう。いやでも仕方ないと思わん? 女の体になったから見る事にはなれても感触にはそうそう慣れないからな?

 

いや思い出すな思い出すなほらアキラさんニヤニヤしてるから。

 

「ほーんっと可愛いわよねカズサちゃん」

「? うん、そうだよね、可愛いよねカズサちゃん」

 

テイルさんはそのままでいて欲しいです。あとコメント欄で滅茶苦茶『おまかわ』が流れてるけどそれには同意する。

 

「ところでカズサちゃんが帰らないでくれるのは解ったけど、そうするとこの能力は当面放置になるのかな?」

 

テイルさんのその問いに、俺は首を振る。

 

「あー、それに関してだけど、使う事にしたよ。この手の能力って、いざという時に使おうと思ったら一生使わないオチになりそうだから」

 

俗にいうエリクサー症候群って奴だな。

 

「でも将来的に、帰るのにこの能力が必要とかになった場合どうするのかしら?」

「だったら正直このタイミングで取得可能にしないで欲しいです」

『それはそう』

 

本当にな。一応皆と話し合った見解として"元の姿に戻って帰れるのであれば"、さすがにこんなトラップみたいな掲示はしないだろう。普通に目的を達成した時に、その能力が与えられるハズっていうのが予測だ。ていうかマジでもうすこしちゃんと情報をよこせ。

 

「でもだったらもう何を願うか決めてるの?」

「うん、みんなと相談して決定した」

 

昨日パジャマのモデリングしながら皆とずっと相談してたんだよね。

 

……まぁひどいアイデアが多かったけどな! 例を挙げると、

 

『胸を盛ろう』

 

現時点でも結構動くときに邪魔になるのに、これ以上デカくして堪るか。

 

『つるぺたになろう』

 

胸から離れろ。いやない方が邪魔にはならないんだろうけど、"人気"を考えると今程度はあった方がいい気がするしな。さすがにそれを売りにする気がないとはいえ。

 

『幼女化しよう』

 

それになんの意味があるんだよ。後体サイズ小さくしたら明らかに不便だし、子ども扱いだと日常的な行動にも支障が出るだろ。

 

『ケモミミつけよう』

 

街歩いてれば普通に獣人の方見かけるんだから、そっちで我慢しといてくれ! 

 

とまぁ"ろくでもない案"の大部分は俺の体に関する事だった。人の肉体を改造しようとするのはやめろ。

 

後それ以外だと『無制限にMPを使えるように』とか『自由に能力が獲得できるように』って案もあったが、それが出来るなら最初から今みたいなシステムになってないだろということで没となった。とりあえず頼んでみればって意見もあったけど、願いが叶うにせよ叶わないにせよ一回きりとかになると無駄になる可能性が高いんだよな。すべて説明不足が悪い。

 

で、だ。そんな感じで皆とだらだら相談した結果、最後に大部分の人間が納得した案があったので、今日アキラさんに話を聞いて情報が増えなければそれにすることに決めたのだ。

 

その願う事とは──

 

「カメラにモザイク機能をつけてくれるように願おうと思います」

 

 

 

 

 

 

 

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