『モザイクの出番全くないね』
「いい事だろ」
コメント欄に流れて来たコメントの一つにそう呟くように返すと、『ごもっとも』という旨のコメントが一気に流れる。
初のダンジョンアタックから1ヵ月ちょっとが経過した今、俺達は再びクアンドロ地下遺跡にやってきている。
ちなみに前回以来一か月ぶりに来たとかではなく、今回で4回目のアタックだ。
クアンドロ地下遺跡のエネミーは倒した後すぐに復活はしないが、しばらくするとその数が回復してくる。その基準が大体10日~12日前後という事で、俺達は13日おき位でダンジョンアタックを繰り返していた。……なんか短期間で育つ野菜を収穫している気分にちょっとなる。
そして例の石ドラゴンに関してはかかる労力と見返りが合わないと引き続きスルーしているので、遭遇するエネミーは概ね毎回変わらないという状況。最初の時ですら大きなダメージを受けなかったグウェンさん達だ、慣れてくる上に、しかも毎回きっちり俺の<<ワイドプロテクション>>や彼ら自身のバフを掛けているので、殆どダメージを受ける事はなくなった。それでも戦闘スタイル的にグウェンさんはある程度のダメージを受けていたが、4回目となるともう効率的な倒し方や対象の襲撃方法も完全に理解してきているので、いよいよ作業感が出てきているくらいで、少なくとも出血するようなダメージを受けていなかった。
なのでさきほどのモザイクの出番云々のアレは出血の事に関する話である。スライムに溶かされて俺のイケナイところが露出してしまうとかそういう話ではない。というか2回目以降はそんなイベント一切起きてないからな。後そっちの話だったらリスナー共が『ごもっとも』とか返してこない。
まぁせっかくの新機能なのに有効活用できていないと何となくもったいない気がして気になってしまうのはわからなくもないけど。
当然日常生活の中でも使いどころはほぼないからね。お風呂配信も相変わらずカメラは壁とかに押し付けた状態にしているし。まぁ事故が起こらなくなったので細かく気にしなくて良くなったという、俺の精神的なメリットはあるけども。
だからモザイクを使って遊ぼうという話もでたりして……
『カズサちゃん、第二回ギリギリモザイクチキンレースはまだですか』
おいやめろ。その件を今話題に出すんじゃない!
そのコメントが見えた瞬間、俺はさりげなくコメント欄の向きを調整した。
──が、遅かった。
「モザイクチキンレースって何?」
なんでそんな目ざといんですかね、アキラさん!? 確かにいつものフォーメーションで俺の横についていたけれども!
「ナンデモナイデスヨ……?」
「モザイクってカメラに映っちゃいけないものを映さない機能だったわよね?それで何か遊んでたの?」
「うっぐっ」
獲得検討の時にモザイクは説明済みだし、獲得後に実際に見せている(ちなみに目線隠しが何故かテイルさんにめっちゃ受けた)ので、それで何をしたのか気になったのだろう。
だが、さすがに詳細は細かく説明できない。というかしたくない。
いやね、一時の気の迷いだったんですよ。上手く乗せられたというか。
ここ一か月くらいあまり大規模な企画はやっていなかったので(要望があった上に簡単にやれる囁き系配信とかはやったけど)、リスナーの方からモザイクを使ったネタとかかなり提案されてたんだよね。んで、その後紆余曲折あったというか、口の上手い妖精さんにはめられたというか──胸元のモザイクがどこまでいったら掛かるか実験しようという話が出てね?
最初はきっちり拒否ってたけど、気が付いたらなんでかやる事になってたんだよ。正直なんで乗せられたのか自分でも理解不能。女性配信者とかで最初はそうでもなかったのにリスナーに乗せられてだんだん際どい事をやり始める人の気持ちがちょっと分かってしまったよ。わかりたくなかった。
まぁ俺の場合そういった事には女性的な羞恥で否定しているわけではなく、"見せるようなものじゃない"という常識と見せたらBANされる可能性が高いというおれの生命線に直結した事情があるから、その後者が事実上解決した今気が緩んでいたのもあるのだろう。俺の思考回路が結局男なので結果も気になるしその程度だったらいいかなって、ノリにのってしまった感じがあった、
んで、結局ノーブラでシャツの胸元を少しずつずり下げていくなんて事をやってしまった。しかも後で言われてたけど、なんか俺リスナーを挑発するような笑みを浮かべていたらしい。冗談だろ……?
ちなみにチャレンジ自体はアレだ、色が変わる部分が出る前にモザイク発動したのでそこで終了となった。んでその後大盛り上がりするコメント欄を見て逆に冷静になって2度とやらないと心に決めたし、何よりこっちの知り合いにこんな事やったとか絶対に話せない。直接視線が見えないリスナー相手はともかく、リアルで「へー、そういった事するんだ」っいう目で見られるのはつらい。
だからちゃんと他の人がいる時はその件の話題は出すなって言い含めておいたのに……多分その時はいなくて、後で切り抜き見てきた奴だろうな……
さすがにこの件は詳細説明したくない。多分アキラさんはそれでこっちを軽蔑してくるような事はない気がするけど、俺をいじってくるネタの一つにはしてくる気がするので。
こちらを覗き込んでくるアキラさんの視線から逃れつつ、なんとかいい言い訳方法がないかと考えはじめた──丁度その時だった。
洞窟の先から何か硬質なものがぶつかり合う、恐らくは戦闘音であろうものが聞こえて来たのは。