「これは……誰かが戦っている?」
「この音は硬いモノを勢いよくぶつけ合った時のものだ。ほぼ間違いなく、戦闘音だろう」
俺の言葉に、先頭に立つグウェンさんがこちらを振り返らず同意を返してくれる。
これが街中なら他の理由があるかもしれないが、ここはゴーレムのようなエネミーしか存在しないダンジョンの中だ。戦闘音とみなしてほぼ間違いないだろう。
「ボクたち以外に潜っている人いたんだ」
テイルさんが戦っているのが俺達のような探索者であると断定するように、口にする。尤も俺も同意するが。
普通のダンジョンならモンスター同士の戦闘の可能性もあるが、ここはクアンドロ地下遺跡だ。基本的にここのダンジョンの中には恐らくダンジョンに制御された魔術生物のような存在しかいないため、モンスター同士の戦いが起こるとは考えづらい。であれば、俺達のように魔石目当てかあるいは別の素材を求めて来た探索者とゴーレム辺りとの戦いと考えるのは当然だろう。
ただ以前言った通りこのクアンドロ地下遺跡は俺のように<<ディスインテグレイト>>が使えないとコストパフォーマンスが悪すぎるし、<<ディスインテグレイト>>が使えるような一流の術士であればクアンドロ地下遺跡で得られる利益はそこまで美味しいものでもない。だからこのダンジョンにやってくる探索者はあまりおらず、実際これまではこのダンジョンの中で他のパーティとエンカウントする事はなかったんだけど。
「どうしよう。迂回する?」
俺は皆を見回してそう聞いてみる。音は進行方向から聞こえてきてはいるが、もし探索者ならある意味商売敵のようなものなので、下手にその場所に近寄ってしまうと横殴りしにきたかもと思われてトラブルに発展するかもしれない。ここは別に俺ら専用の狩場ってわけでもないし、別段その音の方向以外にも進む道はある。
「いや……進もう」
だが、グウェンさんからそう答えが返って来た。その言葉にテイルさんもアキラさんも頷く。どうして、と思いグウェンさんを見上げると、意図を察し彼は音の方へ足を進めつつもは答えを返してくれる。
「声が聞こえないからな」
「声?」
「そう、声だ。戦闘している場合一人でなければ戦闘音以外にも声が聞こえるハズだが、それが聞こえない。ここは別に声を潜めて戦うような場所ではないのにな」
「それに、音の感じからして戦っているのは一人だけだよ。そう考えるとちょっとおかしいんだ」
「おかしいって?」
テイルさんの言葉を聞いても消えない疑問に声を上げると、横についてきたアキラさんがその疑問を引き取ってくれた。
「繰り返し音が聞こえている以上近接戦闘をしているわけだけど、ここにいるのはゴーレム達が殆どでしょ。近接戦闘主体の人間がここでひとりだとどうなると思う?」
「あっ……」
ここまで言われて、よくやく俺は気づいた。ここにいるエネミーの事を理解していれば、普通は近接戦闘者一人でやってくるハズがない。それこそ打撃で倒そうとすると武器が大きく消耗するし、採算があまりとれないのだ。となると、やってきているのはここの事をあまり知らない人間の可能性が高いか? まぁ近接戦闘でアイツラを倒せる程の実力者の可能性もあるが、前述の通りそれほどの実力者がここへやってくる理由が薄い。ないとは言わないが……
「放置して後で死体でも見つけると寝覚めが悪い。逆に問題があるようなら、俺達はもう帰還すると話せばいい。カズサも大分消耗してるだろ?」
「うん」
グウェンさんはこちらを見ずに声をかけてきたので、声を出して頷く。今日も潜ってそれなりに立っているので、多分戦っても後数体と言ったところだったろう。逆に言えばここで帰っても充分予定の収入は稼げているといえる。
「グウェン、ボクがひとまず先行するよ」
「任せた」
テイルさんが自身に加速の術を掛け、一気に勢いを上げて先行してゆく。音的に複数のエネミーに襲われているという事はないだろうから、テイルさん一人で倒す事は無理でも俺達全員が駆けつけるまでに時間を稼ぐことができるだろう。そして俺が駆けつければ後は<<ディスインテグレイト>>で一発だ。
俺達も周囲をちゃんと警戒しつつ、テイルさんの後を追ってダンジョン内を走る。……そういやここ最近走る事ってあんまりないなと思いつつ視界に入るコメント欄に『カズサちゃんの荒れた息……!』とか『お胸が……お胸が揺れない!』とか目に入り、お前らいつでも変わらないなと思いが頭をよぎるが今は相手をするタイミングではない。ちなみに例の胸当て付きの服を着ていて固定されているので、当然揺れる事はない。残念だったなお前ら。
そんなくだらない事を考えている間にも、衝突音は響いてくる。まだ逃げる事も倒す事もできていないという事だが、逆にいえば倒されていないという事でもある。この分で行けば、辿り着いたときには手遅れ……という事はなさそうだ。
「……何やってるんだ、アイツ?」
そう丁度思った時、目の前のグウェンさんがそう疑念を含んだ声を上げると共に速度を落とした。どうしたのだろうと彼の大きな体から前を見るために位置をずらすと、その理由がわかった。
先行したテイルさんが、戦闘に参加するでもなく立ち止まっていた。音はまだ聞こえているから、戦闘が終わったわけでもない。何故と思いつつ彼女の元に駆け寄り「どうした」と声を掛けるグウェンさんに、テイルさんはその愛らしい顔に困惑の色を浮かべながら、先ほどまで見ていた視線の先を指し示した。
丁度通路の曲がり角で、遮蔽となって見えていなかった先を覗き込むと、彼女の困惑の理由が分かった。
そこでゴーレムと戦っていたのは人ではなく……なんらかの獣の骨だったからだ。