「……スケルトン?」
その姿を見た瞬間、俺の口から思わずそう言葉が漏れ出る。
骨が自立して動き回る……本来俺がいる世界ならそれは創作の中にしかいない存在であるが、この世界では普通に存在するものだ。
以前俺が相対したレイスのように生者に憑依し操るほどの力は持たない低級霊は、意思を持たない存在──死体や人形に憑依する事でその体を得る。前者がゾンビやスケルトン、後者は騒霊……ポルターガイストと呼ばれる類の存在だ。
レイスのように倒した所で憑依されるわけではないから、倒すのはそう難しくない。まぁ物理的に倒しただけだと憑依している低級霊は残る訳だが。だが低級霊は憑依するにも力を使うらしくすぐに別の何かに憑依する事はできず当面は何もできない浮遊霊になるので、しばらくは問題なくなるわけだけど。
彼らは正式に処置されて埋葬された死体や人の生活の中にある人形にも手をだせない程の弱い存在なので。まぁそもそも死体や人形ならなんでも憑依できるなら街中とかでも安心して生活できないから対策するだろうけどな。
とにかく、その程度の存在だ。例えば館に居つく霊を浄化するとかなら<<ピュリファイ・スピリット>>の使える人間がいるけど、たまたまエンカウントした程度なら物理で対処できる。その程度の存在……なんだけど。
「こいつ……普通のスケルトンじゃないよね?」
三人の方へそう問いかけると、頷きが返ってくる。
「だな。ただのスケルトンがゴーレムを相手にできるわけがない」
「いくらここの中では小型の弱いゴーレムだとしても、普通なら砕かれて一発よねぇ」
「そもそも動きがスケルトンしては精緻すぎるな」
スケルトンと相対しているのは、俺達がこれまで戦ってきた中でも最低ランクともいえるゴーレムだ。とはいえスケルトンやゾンビは死体を動かしているだけで別段強化しているわけではないので、普通ならゴーレムの質量で勢いをつけて殴られたらあっさり砕かれて終わりだろう。
だがそのスケルトンは明らかに何度かは攻撃を受けているのに砕かれることもなく、逆にゴーレムを削っている。
「しかもあれ、ゴーレムの弱点をわかってるよねぇ」
テイルさんが視線を外さないまま、そう口にする。
スケルトンは明らかに一か所を集中して削っていた。……おそらく、そこに核となる魔石がある。その魔石をなんとかすれば、ゴーレムは止まる。
そして丁度俺達の目の前で、その時が訪れる。
先ほどまで激しく動き回っていたゴーレムは急に動きを止めると、次の瞬間ガラガラと崩れ落ちた。
「倒しちゃったわね……」
「間違いなく異常な個体だな。ギルドの方へ報告対象か」
「個体差っていえるレベルじゃないもんね」
「異常個体……」
人間がそのそれぞれで能力に違いがあるように、魔物たちにも当然個体差がある。スケルトンなどに憑依する低級霊もなかにはやや強い力を持つ個体もあり、そういった連中なら多少は強度などの能力も上がっている可能性がある。
──が、さすがにこれはその範疇を超えるのだろう。ここまでくるともう完全に別の種族だ。
そして通常その地域では見かけない種族を見た場合は、ギルドにその報告を行う事が求められている。これなら確かにその対象となる。
「というかさ、これボクらで倒しておかないと不味くないかなぁ?」
「義務はないけど……放置しておくと寝覚めの悪い事になる可能性があるわね……」
「ゴーレムを単体で倒すレベルとなると、旅人や駆け出しの探索者達が遭遇した場合に危険だな。人を襲うかはわからないが……」
「……ちょっとまって」
異常個体のスケルトンをどうするのか手練れの探索者達が話し合う中、自分が口を出すところじゃないとじっとスケルトンの方を観察していた俺は、有る事に気づき三人に声を掛けた。
「どうしたの? カズサちゃん」
「あいつ、なんかおかしくない? 魔石手に取ってじっと見つめてるんだけど……」
ゴーレムを倒した後、スケルトンはその場から動く事もなくじっとその場に立ち尽くし、右手の中にある魔石をじっと見つめたまま微動だにしない。そもそもなんでゴーレムと戦ってたかもわからないんだけど、行動としておかしくない?
その俺の言葉にアキラさんがはっとした顔をした後、眼を細めてスケルトンをじっと見つめた。
そして顔を顰める。
「……アイツ、ここで倒しましょう」
「何が見えた?」
先ほどまでの話し合いの内容を即座に結論付けたアキラさんに、何かを察したグウェンさんが武器を構えながらそう問いかける。
「あのスケルトン、魔石から魔力を吸収しているわ。放置すると不味いことになる可能性がある」
「──了解だ」
アキラさんの答えに状況を悟ったグウェンさん、テイルさんはそれ以上問いかける事もなく戦闘態勢をとる。
『あれ、アンデッド系なら聖女カズサちゃんなら一撃じゃね?』
おっと、そうだった。あと聖女ではない。能力的には否定しづらい方向に成長しているけどな。
まぁそれはおいておいて。
「俺が<<ピュリファイ・スピリット>>を使うよ」
「……そうね、お願い。グウェン達はカズサちゃんが<<ピュリファイ・スピリット>>を使った後、アイツが動きを止めないようだったら仕掛けて」
「了解」「了解したよ」
……レジストをされた後の事を考えているのかな。一応レイスにも通用した術なのでスケルトンなら問題ないと思うんだけど、異常個体だからな。警戒は必要か。とにかく俺は俺で自分の仕事をしよう。
テイルさんとグウェンさんが物陰から飛び出し、それに続いて俺も飛び出す。<<ピュリファイ・スピリット>>は射程がくっそ短いのでとにかく近づかないと話にならない。
……これまで微動だにしていなかったスケルトンは、さすがに現れた俺達の姿に反応を示した。奴は即座に身を翻すと……俺達とは反対側へ駆けだしたのだ。逃げるつもりか!
「テイルちゃん!」
「任せて! <<ハイスピード>>!」
アキラさんの声に、テイルさんが即座に反応して加速する。元々足の速いテイルさんだ、術による加速でぐんぐん距離を詰めると、
「<<レッグカバー>>……とりゃぁ!」
そのまま飛び上がり、勢いよくスケルトンの頭部へ飛び蹴りをかました。
勢いよく走っていたスケルトンはそれで思いっきりバランスを崩し、そこに更にテイルさんが追撃の蹴りを放った結果奴はその場へ倒れこむ。
「<<フリージングバレット>>!」
そこへ間髪いれず、アキラさんの放った氷の弾丸が着弾し、奴の足元を氷漬けにすることでスケルトンの動きが止まった。
メンバーの中では足が遅いグウェンさんと俺はその倒れたもとへとにかく走る……いや、俺も<<ハイスピード>>使えるやんけ! 咄嗟の行動の判断力が本当に足りてないと思いつつ今更なのでそのまま走る。
奴は氷から抜け出そうとじたばた動いているが、足元は完全に凍り付いており一歩も動けない。そうこうしている内に、俺は奴の10m手前までたどり着いた。
よっし、有効射程距離内!
俺はそこで足を止め、右手の平をスケルトンに向けて突き出して叫んだ。
「<<ピュリファイ・スピリット>>!」