「な、な、いきなりなんなの、アキラさん?」
「いいからいいから。ほらお口開けて? はいあーん」
ニコニコ笑いながらアキラさんがスプーンは口に押し付けてきたので、仕方なく俺はそのスプーンを口の中に招き入れる。
……あ、美味しい……
「美味しいでしょ?」
口の中のゼリーを飲み込みながら、俺はコクリと頷く。
そんな俺に対して彼女は今度は悪戯っぽく笑い
「それに彼らにとっても美味しいみたいだし?」
そう言って、こちらに向けていた視線を正面に戻したアキラさんの視線の先にはコメント欄がある。
『さすアキ! さすアキ!』
『アッアッ、ゴチソウサマデス』
『戸惑ってるカズサちゃんの表情がまた良い……』
「本当に貴方達、百合?だっけ? が好きよねぇ。まぁ私とカズサちゃんが可愛いのが大きいと思うけど!」
『理解が完璧で草』
『姐さんついていかせて頂きます』
『カズサちゃんよりアキラさんの方が配信者向いてない?』
『でもいつまでたっても照れが消えないカズサちゃんが好き。ずっとそのままでいて欲しい』
「そうよねー。照れてるカズサちゃん可愛いのよ。だからつい揶揄いたくなっちゃう」
『わかるわ』
『個人的には童〇ムーブをしつつ女の子の恥じらいも身に付きつつある今のカズサちゃんは絶妙なバランスといえる』
あ、やっぱり揶揄われてるんですね。わかってるけども。くっそ、俺も余計な事考えずに抱き着かれた時の柔らかい感触とか純粋に堪能できるような性格だったら……そんな性格だったらアキラさん今みたいな事してこないと思うけど。
それと反応が受けているなら、結果として今みたいな感じで良かったのか……? 勿論俺も性欲はあるけど、それに身を委ねるような性格だったらそれこそ今このチャンネルクソみたいな状態になっていただろうし……後ベルダさんに邪悪な思考を感づかれてそもそも今のアパートメントに住めてなかった気がすると。そうするとテイルさんと出会う機会がなかった可能性は高い訳で……うん、今の性格で良かったと思おう。
あと女の子の恥じらいは演技ですよ。多分。きっと。恐らく。完全に体に染みついてしまった場合は、元の姿に戻すためにリハビリが必要になるなぁ……
『そういや最近カズサちゃんアーンしてくれなくて寂しい』
ん?
『確かに』
『外食多めなのもあるけど確かにしてくれない』
『カズサちゃん! 一度餌を与えて懐かせたのならちゃんと最後まで面倒見ないと!』
「カズサちゃん、そんなことしてたの?」
「ええ、まぁ……」
コメントで言われるのはともかく、交友関係のある人間に真正面から聞かれるとつらいんですけど!?
確かに最近あんまりしてなかったけどさぁ……なんでこのタイミングで言うんだよと思ったけど、よく考えたらいうタイミングだったな……
頷く俺に、アキラさんはちょっと口元に手を当てて考えるそぶりをみせつつ、カメラの方へ眼を向け
「そういうのも貴方達嬉しいの?」
『はい』
『はい』
『はい』
『はい』
『はい』
統率取れすぎだろ。
そんなリスナー達の反応に、アキラさんは「そっか」と頷くとスプーンでゼリーを掬うと、カメラの方に向けて差し出した。
「はい、あーん」
『!?』
『アキラさんがアーンしてくれるだと!?』
『ちょっとまって冷蔵庫にみかんゼリーがあるから取ってくる』
『丁度ゼリー食べてた俺勝ち組。食べなれたゼリーがいつもより美味く感じるぜ』
「おーおー、確かに反応いいわね」
湧き上がるコメント欄にくすくす笑いつつ、アキラさんはこっちにスプーンを差し出してきた。
「? なんですか?」
「カズサちゃんもやるんだよ?」
「えっ?」
「カズサちゃんのチャンネルだよ?」
『ごもっとも』
『完全に第三者のつもりになってて草』
『美女二人からの連続あーんとか、今俺人生の絶頂期では?』
え、こんな表でそんな恥ずかしいことやるの!? いや、周囲の人間にはカメラもコメント欄も見えていないからなんか虚空にスプーンを差し出しているように見えるだけなんで、何してるんだろと思われるだけかもしれないけど! でもすぐ横でアキラさんが見てるんですよ!
後さすがに配信越しのあーんを人生の絶頂期とみなすのは、悲しすぎるからやめておきなさい。
「ほらカズサちゃんはやくはやく」
『はやくはやく』
『はやくはやく』
『はやくはやく』
「私もやったんだからね?」
あ、これアキラさん俺にやらせるために先に自分で先にやったな!?
くっ、これアキラさんがやってなかったら家に帰った時にやってあげるからで済ませる事が出来たのに……俺の配信チャンネルでアキラさんはなんだかんだいって俺の為にやってくれているわけで……やらんわけにはいかんなぁ。
一応周囲をきょろきょろを確認し、あまりこちらに注目している人がいない事を確認する。いやチラチラ見てくる人はいるけど、これはまぁ美人二人が並んで座っているからだろう。ガン見じゃなければいい。
よし。
俺は受け取ったスプーンでアキラさんの持っている器からゼリーを掬うと、カメラの方にすっと差し出した。
『あーんは?』
『大事な事を忘れているよね?』
解ってるよ!
「……はい、あーん」
あー、くそ! 割と何回もやったことだから慣れていると思ったけど、どうしても横のアキラさんの視線が気になって照れが入る! でもここまでやったら今更止めるのもあれなので、そのまま数秒待機してからスプーンを下げて、それから自分の口元に──持って行こうとした所で、アキラさんに手首を掴まれて止められた。
「アキラさん?」
俺の問いに答えず、こちらを向いたアキラさんは口を開けた。
アキラさん綺麗な歯してるよね……ではなく!
え、これそういったことだよな?
「アキラさん、あの」
「ん」
催促するように、アキラさんが舌をちろちろと動かす。え、ちょっとこれ不味いんですけど。アキラさんみたいな人にそういったことやられるとドキドキしてきちゃうんですけど? とりあえずカメラの方を確認して、角度的にアキラさんの口の中が映っていない事を確認する。よし。
「えっと、それじゃ、失礼します」
失礼しますって何だよと自分に頭の中で突っ込みを入れつつゆっくりと彼女の口の中にスプーンを持っていくと、その口が閉じられた。そして彼女が小さく顔を引き……再び彼女の口の中から姿を現したスプーンの上からゼリーが消えていた。
「うん、美味しいわね」
「だ、だよね」
『明らかに動揺してて草』
『カズサちゃん顔赤いよ~』
うるさいな! さすがにこんなのよっぽど女慣れしている奴じゃないとどう足掻いたって赤くなるだろ!
「ホントカズサちゃんからか……愛でがいがあるわよね」
さっきも口にしてたし、もう普通に揶揄うって口にしていいですよ。
「でもこれで、リスナーの皆を少しは満足させられたんじゃない? カズサちゃん結構旅に出てから気にしてたでしょ」
「え」
「そういったことも、もっとお姉さんを頼りなさいな」
……そこまで気にしてくれているんだ。本当に感謝しかない。揶揄うって言っても結局リスナーの喜ぶような行為だし、それはひいては俺の力の為だもんな。
『てかマジアキラさんが有能すぎる』
『アキラPだなこれ』
『カズサちゃん今後はアキラさんにプロデュースを全部任せよう』
そこまでアキラさんに負担掛けるわけにはいかないし、なによりちょっと何をさせられるか怖いところがあるから駄目!