街道からやや外れた場所、背が高めの草むらの中に身を隠し息を潜める。左右にはグウェンさんとアキラさんがそれぞれやや離れた場所で同じように身を隠している。そして、テイルさんは──
大きな声を上げながら、こちらに向かって走ってきていた。
そしてその間には、ガゼルによく似た動物が、テイルさんに追い立てられる事で彼女と同じようにこちらに向けて走ってきている。速度強化しているテイルさんとほぼ同じ速度で走っているガゼル擬きは、まっすぐ俺の方に向かって来て……残り僅かな所でこちらに気づいたガゼル擬きは急制動し進行方向を変えた。
それと同時に俺は立ち上がり、腕を突きだして叫ぶ。
「<<チェインバインド>>!」
次の瞬間、虚空から生み出された魔力の鎖はガゼル擬きの体に瞬く間に絡みつき、その動きを止めた。急にその身を拘束されたガゼル擬きはジタバタと暴れるが、魔力の鎖はビクともしない。
「っし!」
その光景を目にし、俺は思わず右腕でガッツポーズしていた。
「カズサちゃん、喜ぶのはいいけどまずはあの子を開放して上げて」
「あ、うん」
背後からアキラさんに言われて<<チェインバインド>>を解除すると、拘束から解き放たれたガゼル擬きはびっくりしたように周囲をきょろきょろと見回した後慌てて逃げだしていった。
俺はそんな彼(彼女?)の後ろ姿に、感謝と謝罪を心の中で思いながら頭を下げる。
「いやぁ、綺麗に決まったねぇ」
「とりあえず、こんな所でいいんじゃないか」
ゆっくりと顔を上げると、小走りにこちらに駆けよって来たテイルさんとグウェンさんにそう声を掛けられて、俺はこくりと頷いた。
「なんとなくだけど、感覚は掴めたと思う」
「後は本当の実戦で動けるかどうかね」
今ここで行っていたのは、新規に覚えた術の一つ、<<チェインバインド>>を実際に動く動物に使う事による訓練だった。遺跡やパストラの街でアンノウンを拘束するのに使っていたアレだ。
<<チェインバインド>>は拘束系の術式では最高クラスの術で、物理的な拘束だけではなく魔力的な拘束も行う為それこそスライムのような不定形な存在ですら拘束する事ができる。さすがにゴースト系は無理みたいだけど、これさえ覚えて入れば拘束術式は充分だということで覚える事にした。高かったけどな!
ちなみにもう一個は相手を気絶される<<ショック>>を覚えている。これはアキラさんが温泉の時に使ってた術だね。流れとしては<<チェインバインド>>で拘束し、ショックで気絶させることが出来ればこの先の森で身を守る手段になるだろうというアキラさんの助言に従ってのものだ。
「まぁ、基本的に私達が守るけどね」
とは言ってくれたけど、確かに身を守る手段はあった方がいい。攻撃術は殆どもってないし、遺跡で猛威を振るった<<ディスインテグレイト>>は動物の類には効果が薄いし。
ちなみに魔物や動物を"殺す"術ではないのは、配信絡みであまり望ましくない(モザイク機能で映さない事は出来るといえ、ゴーレムやスライムと違い俺達の世界の動物に似た存在を殺すという行為はあまりよくは捉えられないだろう。こっちの命が掛かってる問題ではあるので言われても困るのだが)
だがそれより強い理由はアキラさんやテイルさんに、「多分咄嗟の対応が出来ないだろうから」と言われたからだ。
俺がここまで経験した戦闘では、相手に血を流すような事をしていない。レイス戦は血自体は見ているけどあの時俺がしたのは<<ピュリファイ・スピリット>>による浄化だけだし、ゴーレムやスライムは現実離れしてるし血も流さないからな。
だがこの先の森で出てくるのは基本動物型だ。そういった相手を"殺す"ような動きには、事前に覚悟しても間違いなく最初のうちは躊躇いが出る。これは三人全員に断言された。それに死体とかもあまり見慣れていないから最初のウチは多分いろいろ無理が出るよって言われてしまったので。そしてそういった躊躇いは自身や仲間の危険に繋がる。
それは事実だと思う。だって俺は元の世界では、虫とかはともかくとして一定以上のサイズの動物死体を見た経験なんて殆どないのだから。しかも映像ではなく自身の目で直接なんてね。ただもし、俺がこちらの世界に来た理由が以前アキラさんから聞いた過去の転移者や物語のように、この世界を護るために戦う為だったら……いつまでもそういった事はいってられないなぁ。
いまだ俺がこっちの世界にやって来た明確な理由はわからないけど、もしもの時の為にそういったことには慣れていくのしかないのかもしれない。でも……
もし、そういった事に慣れてしまった場合。俺は元の世界に戻ってやっていけるのだろうか?
……わからない、今は考えるのはやめておこう。何せ戻れるかどうかもわからないんだから。
「さて、そろそろ行くか」
「そうね、あまりのんびりしていると森に入る前に陽が暮れちゃうわ」
「暗くなったらやっぱり帰還だよね?」
「夜営を張る事もないし、どうしても早く到着しなくちゃいけない理由もないからそれで問題ないだろうな。夜間移動はどうしてもリスクが高くなる」
「だねっ。ほら、カズサちゃん行こっ」
テイルさんが手を差し出してくる。え、手を繋いでいくの? と思ったけどさすがにそんな事はなくて、歩き出したらすぐに手は離されてしまった。テイルさん近接戦闘している割に手は柔らかいんだよなー……彼女は格闘戦主体であまり武器を握らないからかもしれないけど。
「あら、なんか残念そうな顔」
「えっ、カズサちゃん手を繋いで行きたかった?」
「……森に近づくまでは別に構わないが、森に入ったら陣形をとるからやめておけよ?」
「いやそんな事考えてませんから! グウェンさんもそんな真面目な顔で注意しなくていいんで!」
なんとなく離れていくテイルさんの手を目で追っちゃったのに目ざとく感づいたアキラさんの言葉にテイルさんとグウェンさんが乗って来たので、俺は慌てて否定する。いやテイルさんと手を繋ぐのが嫌だとかはないけど、さすがに長距離歩くのに手を繋いで行くのは無理がある。
そんな俺の反応に、アキラさんだけではなくテイルさんもくすくすと笑い、まさかのグウェンさんまで口角を上げた表情を上げた。
ちょっと! テイルさんやグウェンまでアキラさんみたいな事やめていただけますか!? 俺の周りの人物(リスナーを含め)俺を揶揄う人間ばっかりになっちゃうから!
前回残MP:1450790
今回増減:
<<チェインバインド>>獲得費用 -500000
<<ショック>>獲得費用 -200000
スパチャ +773190(※前回からの増加分トータル)
残MP:1523980