そうやって事前に気合を入れた森の中の街道の道程は、入れた気合が風船から抜けるように消えていくほど平穏な旅路となった。
いやまあ動物自体とは遭遇したけどそれらは軒並みむしろ人を避けるような動物ばかりで、こちらの姿に気づくと逃げて行ってしまう。
……平和なのはいいんだけど、撮れ高的にはスカスカな状態だ。
アキラさんもふたりの時と違い、露骨な揶揄いもあまりしてこなくなったし……いや揶揄われたいわけじゃないけど!
そんな感じで森に入ってから全体の3分の2がすでに消化されたが、これまでは無味無臭の配信となってしまった。リスナーの中には俺やアキラさん達が映っていて偶に話しかけてくれればいいのよと言ってくれる人たちも結構いるけど、やはり視聴者数は最近の中では大分低空飛行になってきている。それでも、総登録者数が以前に比べればすごく伸びているから結構な人数が見てはいるんだけど。いや、大部分はチャンネル開いているだけで見ていないと思うけどさ、今平日昼間だし。
あ、ちなみにテイルさんアキラさん登場以降登録者はガンガン伸びていてもうすぐ50万人も見えてきました。50万人記念配信はリンヴルムかなぁ。一応もうリクエスト受けて衣装の準備は進んでるしさ。
とにかくそんな感じで俺達は平穏な旅を続け、今は最終目的地のリンヴルムの手前にある最後の大きな街、クーストスに辿り着いていた。
尚、別に森の中にある街という訳ではない。俺達が通って来た森とリンヴルムの周囲の森は別の森で繋がっているわけではないので、その二つの森の間にある街である。この後、リンヴルムに向かう最後の関門とも呼べる魔物の巣窟、レンオアム大森林を俺達は通過する事になる。まあ魔物の巣窟といっても街道が通っている部分はその外れの方であり、そこまでヤバイ訳ではないらしいけどね。ヤバイのはむしろリンヴルムより北側と東側なので。俺達が通るのは南側、そもそもそこまでヤバイ所ならいくら最短ルートとはいえ街道なんか通さないだろうし。
俺達は本日、このクーストスで一泊する予定である。
パストラに戻らない理由は一つはパストラから大分距離が離れたことにより、それに比例して<<ポイントテレポート>>による消耗も大きくなったこと。この先一日で突破するのは難しい距離ではあるのだが、一日で半分以上の距離は進める。その距離をこなすのには出来るだけ万全なコンディションの方がいいだろうという考えだ。街道途中ならパストラ一択だけど、街にいるなら戻らないデメリットは金がかかるってことだけだからな。
それともう一つの理由は情報収集の為。
レンオアム大森林では割と魔物たちの生息域が変わるらしい。大半はその移動先も先ほどいった東側か北側になるのだが、時たま外れである南側の方にもやってくることがあるそうだ。なのでそういった情報を収集するのはここからリンヴルムへ向かう旅人に関しては必須のことだった。
なので、本日この街に到着して宿を確保してから、二手に分かれて(※アブなっかしいので俺一人で街は廻らせられないといわれました。いや、一応戦うのはともかく逃げる能力ならかなり高くなったと思うんだけど……<<ショック>>もあるし)情報収集をする事になったんだけど……
「リンヴルムから軍が出撃しているそうだ」
日も暮れた夕飯時。宿屋に併設された食堂で晩御飯を終えた一服中にそう口にしたのはグウェンさんだった。
「軍? 戦争でも始まるの?」
デザートの果物を食べていたテイルさんが口を話してそう聞くと、グウェンさんは首を振ってから答える。
「いや、魔物の討伐の為だ」
「……わざわざ軍が動くんだ?」
「どうもレンオアム大森林で魔物の大移動が起きているらしい。その移動先が大森林の奥側から、リンヴルムよりの手前側なので、それの迎撃に動いているらしいな」
グウェンさんとテイルさんは情報獲得の為この街の探索者ギルドの方に行っていたはずなので、そこで入手した情報だろう。という事は眉唾ものではなく、正確に近い情報なのはほぼ間違いない。
「もしかして、タイミング悪かったですかね俺達」
「……魔物の迎撃で軍が動くこと自体は、リンヴルムではそれほど珍しい事でもない。移動しているのも東側が中心だから、一概に悪いとは言い切れないだろう」
「深部にいる魔物が視認できる範囲に来てるなら、カズサちゃんにとってはむしろ僥倖じゃないかしら? リンヴルムの人間にとっては望まない状況ではあるだろうけど」
確かに配信的にはより多くの種類の動物や魔物が見えた方がいいのは確かだけど……ありがたい状況とは間違ってもいえないよなぁ。
そういや遠隔の撮影の術式まだ覚えてなかったな……今はMPが割と潤沢になるから問題ないけど、リンヴルムについたらちゃんと取得しよう。遠隔で豆粒みたいなのを映しても意味ないし。
「それでだ、この先どうする?」
そう告げたグウェンさんの言いたい事は、勿論解る。このままリンヴルムへ進むかということだ。
その問いに即応じたのはアキラさんだった。
「どうするも何も進む一択でしょう。ここから迂回しようとすると山越えルートになるわよ?」
「その山越えを避けようとするととんでもない大回りになるしないよねぇ」
リンヴルムの南から西に関しては丘陵地帯になっており、あまり道としては整備されていない。そこを避けようとすれば、当初少し考えた迂回ルートまで向かわなければいけなくなる。残り二日程度の道のりが数倍に伸びる事になる。二人のいう通り、ここまで来てその選択肢は取りたくないところだ。
「元々の考え通りでいいでしょ。別段現時点ではこちらの方まで向かって来ているわけではないし、遭遇しても大きな群れでなければ私達は充分対処できる。群れと遭遇したらテレポートでここに戻ってギルドへ報告。何も問題ないわ」
「……カズサもそれで構わないな?」
「あ、はい。OKです」
正直俺は皆さんの言う事に従う気しかないので。旅やこの世界に慣れていない俺なんかより旅慣れているこの世界の住人である彼らの方が正しい判断が下せるだろうし。
「よし、意見はまとまったな。じゃあ明日は予定通り夜明けと共に出発するぞ……だからお前ら、今回は夜更かしするなよ」
「アッハイ、こないだはすみませんでした」
「善処するわ」
「もー、グウェン。何度も言わなくても大丈夫だってば!」
「──二人は信用できんので、頼むぞカズサ」
割とマジな声音で言われたのでコクコク頷いておく。
実は合流後に今日とは別に一回宿に泊まってるんだけど、その時久々にだからってちょっと夜遅くまで話し込んじゃったんだよね。その結果寝過ごしてグウェンさんに怒られました。
ここから先は今回の旅で一番の難所になる可能性があるし、語り合いたいならリンヴルムに到着してからでいい。今日は熟睡して万全の態勢で臨むべきである。
……でも、テイルさんはともかくアキラさんはちゃんと言う事を聞いてくれるかなぁ……後今日は絶対一緒のベッドには寝ませんからね! 諸般の事情で俺の寝つきが悪くなる可能性が高いので!