お金の力で世界を救ってあげます!   作:みずち

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森の中を格好よく疾走……できませんでしたぁ!

 

男の差し出したブレスレットには、精緻な紋章が刻まれていた。その紋章を見た瞬間、一瞬アキラさんが眉を顰めるのが目に入る。

 

どうしたんだろ? と思ったが、その理由は彼女のつぶやきですぐわかった。

 

「王国騎士団の紋章……」

「知っていてくれたか。これで身分の証明にはなるか?」

「……盗賊の類が拾って使うにしてもリスクが高すぎる代物だからね。鎧も王国の物のようだし、信じるしかないわね」

 

成程、王国絡みか。となると彼女が眉を顰めた理由もわかる。王国からの要請、それも救助要請となると断りづらいだろう。時にここにいるとなるとリンヴルム所属の騎士団だろうし。断って後でリンヴルムで顔を合せでもしたら、印象が悪いどころも騒ぎではないだろう。

 

尤もこれが討伐に協力しろという要請ならさすがに断る事は可能だろうが──

 

「怪我人といったが、危険はないのか」

 

近いことを思ったらしいグウェンさんがアキラさんに並ぶように位置に踏み出し、一度俺に視線を向けてから言う。

 

「我々は彼女を護衛している。彼女は戦闘は不得手だから、危険な場所につれていくわけにはいかない」

「それは大丈夫だ。追跡していた魔獣は全て討伐は完了している」

 

男は即答した。多分嘘を言っている感じはない、と思う。

 

その男の言葉を聞いて、アキラさん達は全員俺の方を見た。……そっか、一応俺が雇い主になるから(アキラさんは違うけど)最終判断は俺になるのかな。

 

だとしたら、悩むところではないわな。

 

「行きましょう」

 

これで後で騎士団に死者が出たとか聞いたら、後味悪いってレベルじゃないんで。

 

◇◆

 

『いやぁ、最高の光景ですなぁ』

『てぇてぇ絵面だ』

『そのままちゅーしてもいいのよ?』

『テイルちゃんすごいな』

『カズサちゃーん、こっち向いて?』

「うるさい、見るな!」

 

嫌でも視界に飛び込んでくるコメント欄に思わず毒づく俺に、すぐ側にあるテイルさんの顔が向けられる。

 

「あ、ごめんなさい、リスナー達にいったので……」

「そう?」

 

こちらの弁解に、テイルさんの視線はすぐに前へとむけられた。今視線をあまり逸らせていられる状況ではないからね。

 

今、俺達は先ほどの騎士の先導で森の中を走っている。騎士とグウェンさんが先行し、その後ろをテイルさんとアキラさんが続いている状態だ。ちなみに全員<<ハイスピード>>もしくはそれと同様の効果を持つスキルを使用しているため、かなりの速度で走っている。明らかに人が走る時とは違う景色の流れ方をしてるし。

 

ちなみに俺は──テイルさんにお姫様抱っこされた状態で走っていた。

 

いやちゃうねん。俺も<<ハイスピード>>は使えるし、最初はその術を使って走っていくつもりだったんだ。

 

でもこの場所、森なんですよ、しかも街中でも偶に見かけるようなある程度整備された林のようなものではなく、草木は生い茂り、あちこちに根が張り出し、そもそも地面も平坦ではない森の中。

 

そんな場所を、特に山育ちでもない俺が、陸上競技者もかくやという速度で走り抜けられると思いますか?

 

まあ当然無理だったよね。速攻で根っこに足をとられて、落ち葉の敷き詰められた地面にダイブ。正直、木の幹に突っ込んでたら治療に行く前に自分にヒーリング使う羽目になるところだったので幸運だった。

 

その結果、テイルさんが物を持ち上げる為の補助術式を使い、俺をお姫様抱っこで運ぶことになったわけである。

そして俺はそんな彼女の首元に手を回して縋りついているので顔が近いし(速度が速いし道も不安定で安定しないから怖いんだよ!)、テイルさんの息遣いもすごく感じる。

──どうもそれに対する反応が顔に出ているらしく、それ以降先ほどのコメント欄のように揶揄われ続けているというわけだ。

 

後揶揄われているのはもう一種類。

 

『やはりポンコツカズサちゃんでは、テイルさん達みたいに恰好よい姿は見せれなかったか』

『格好良い姿はテイルちゃんやアキラさん達に任せておけばいいのよ』

 

いや、別に俺がポンコツとか運動音痴とかそういう話じゃなくてな?

 

この速度で全く整備されていないこの森の中を走るのって、普段からトレイルランをやっているような人だって無理なんだよ。今俺の事コメント欄で揶揄っている奴ら全員俺と同じことになるって断言してもいい。この速度で平然と森の中を駆け抜けているこの人たちが凄いだけだからな?

 

ちなみに先導している騎士の人は、この速度で走りつつ状況の説明までしてきている。なんなん?

 

やはり彼らはリンヴルムに駐留する騎士らしく、今回森の深部からいくつかの魔獣の類が人のいる街の方へ向かって来ていたため、その討伐に出てきていたそうだ。

 

その際足の速い一部の魔物に防衛線を突破されてしまい、更にはその方角をそのまま進むと街(クーストスではなく、街道沿いからは外れた所にある小さな街)に到達してしまうと判断されたことから高速移動を可能としている一部の騎士が追跡を行った。

 

結果、街へと向かっていた魔獣達を討伐する事は出来たのだが、その魔獣達が予想を超えて強く、後続の騎士たちが追い付いたときには先行した5人はいずれも酷い傷を負っていたそうだ。

 

更には回復能力の高い術士はいずれも移動速度に難があったため追撃部隊には追従しておらず、そちらにも支援依頼は出した者の到達にも時間がかかるため、彼は他の回復能力者を探しに街道に出て街へ向かおうとしていたらしい。レンオアム大森林の中を抜ける街道はその危険度から利用する人間はそれなりの実力者を含む事が多いため、可能性としてはなくはないのはそうだ。確かにこちらが歩いている最中すれ違った人たちの中には、何人か傭兵や探索者のような装備の人たちは存在していた。

 

まぁさすがに森を出た瞬間に遭遇するとは思っていなかっただろうけど。

 

「あと少しでたどり着く」

 

先頭を走る騎士がこちらは振り返らずに声を掛けてくる。

 

場所だけ指示して貰って、彼自身はそのまま別の人間を探しに行った方がいいのではとも思ったが、これ先導ないと無理だったな。距離的には10分も走ってないけど、もう俺どっちの方角から来たかわからないし……

 

「……ん?」

 

そこでふと、有る事に気づいた。なんだか生臭いに匂いがする?

 

その理由はすぐ気づく。森の中、少し開けた所に体のあちこちから血を流して倒れ伏している巨大な獣らしきものの死骸があった。その向こうにもやはり赤いものが見える。

 

これ、モザイクちゃんと掛かっているよな? そのまま映ったら不味い光景だろ。

 

そんな事を考えつつその光景と匂いに顔を顰める俺とは違い、騎士とグウェンさんは顔色一つ変える事はなくその横を駆け抜ける。続いてアキラさんと俺を抱えたテイルさんも。……俺は思わずその死骸から目をそらしてしまった。

 

と、皆の速度が止まった。あの獣を超えたところで、更に開けた場所に出たらしい。

 

そしてその光景を見た時、思わず俺は息をのみ、固まってしまった。

 

何故ならそこには体の節々を鮮血に染めた、何人もの人たちが転がっていたから。

 

 

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