お金の力で世界を救ってあげます!   作:みずち

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重傷者の治療

 

『え、ちょっとまって画面そこら中黒塗り状態なんだけど』

『これヤバい状況なんじゃ……』

『カズサちゃん、顔色青いけど大丈夫?』

 

コメント欄が勢いよく流れるのが目に入るが、その内容は一切頭に入ってこずに、俺は完全に硬直してしまった。

 

そんな俺を後目に、他の面子は即座に動き出す。

 

「状況はコイツに聞いてくれ。俺はまた別の術士を探しに行ってくる」

 

ここまで俺達を案内してきた騎士はそういって別の騎士に引き継ぐと、再び森の中を駆けて行ってしまった。

そしてその引き継いだ騎士に対してアキラさんが声を掛ける。

 

「誰が一番怪我が酷いの?」

 

その問いに、騎士は最初とある女性の方に視線を向けた。恐らくアキラさんと同じくらいの年齢であろう女性騎士。確かに腹部や腕、それに頭部に巻かれた包帯は鮮血に染まっており顔色も青い。だがその視線を受けた彼女は背中を木にあずけ力の抜けている状態にも関わらず強い声音で言った。

 

「どう考えても私よりレダの方が重体だ、そちらの治療を頼む」

「ですが……」

「ゼダン」

「…………承知しました」

 

女性騎士の言葉に一度は反論をする様子を見せた騎士は、だが続けて名前を呼ばれると、顔を歪めて頷いた。そして地面に倒れ伏している別の騎士の方へとアキラさんを案内する。その騎士は意識を失っており、確かに重体に見えたので、女性騎士の判断が正しいようにしか見えない。

 

それなのにも関わらずゼダンという騎士が彼女の治療を優先させようとしたのは──彼女がこの中で一番位が高いということだろうか? 年も若いしそんなようにはみえないが……でもアキラさんみたいに20前後の年齢で高スペックな人もいるんだからおかしくないか。魔術があるから外見だけでその実力は判断できないし。

 

「他者への治癒術は習得していないが、応急処置の覚えはある。手伝う事はあるか?」

「ああ、重傷とまではいかないが他にも怪我人はいる。手を貸してもらえれば助かる」

「了解だ。テイル、お前はカズサの護衛を頼む」

「わかったよ」

 

グウェンさんも別の騎士の指示に従い、手荷物の中から応急処置用の道具を取り出して手当を始める。

 

その光景を見て、ようやく俺は硬直が解けた。

 

「あの、お……私も、回復術、使えます!」

 

解けた瞬間に口から絞り出した声は震えた声になった。凄惨な状況に足も震えるのを感じるけど、ここで動けなければ結局後で後悔に繋がる事になる。

 

「何が使えるんだ?」

「その、<<ワイドヒーリング>>を」

「であれば、他の重体者をお願い出来るか? せめて命に問題ないところまで回復してくれればいい。しばらくすれば、こちらの治癒術使いも来るはずだ」

 

<<ワイドヒーリング>>は複数の対象をまとめて回復させることが出来る分、その回復力は普通の<<ヒーリング>>に劣る。だけどそれでも何もしないよりマシなのは当然で、俺の言葉を聞き留めて問いかけてくれたこの騎士もその辺を理解した上でそう言ってくれているのだろう。

 

俺が彼の言葉に頷くと、彼は先ほどの女性騎士の元に俺を導いた。そして現在アキラさんの治療を受けているレダと呼ばれた騎士を除く他の3人の重体の騎士も、その側に集められる。

 

「カズサちゃん、大丈夫?」

 

心配そうに聞いてくるテイルさんへ頷きを返すと、俺は女性騎士たちに意識を向けて術を発動した。

 

「<<ワイドヒーリング>>」

 

──術を使った瞬間、体から一気に力が抜けるのを感じ、俺は体勢を崩しかけた。

 

すぐにテイルさんが支えてくれて事なきを得たが、俺はその感覚に息を呑む。

 

これまでも<<ワイドヒーリング>>を使った事はあったが、こんなに力をいきなり消耗する事はなかった。これまで治してきたのはあくまで軽傷だったせいか? そういえば以前アキラさんに、術を使う際の力の調節があまり出来ていないと言われたことがあった。普通は同じ術でもその出力をきっちり制御して使うが、俺の場合出力の変化はあるもののその内容は大雑把で、多分頭の中でのイメージ通りに発動するせいで逆に精緻な調整が出来ていないのではないのかとのこと。まぁそれは当然と言える。俺の場合はこの世界の人間と異なり、修練の末で術を覚えているのではなくボタン一つで習得している。そんな俺が細かい制御を出来るかと言えば難しいだろう。何度も繰り返し使っていけばだんだん慣れてくるだろうが。

 

そんな状態の俺が、今この光景を見て心の中でなんとか治療しないとと強く思い術を行使した。その結果、恐らく最大出力で術が行使されたのだろう。

 

そして、その結果状況が絶望的な事に気づいてしまった。

 

これだけ力を消費しているのを考えれば、術をそれほど長く使い続ける事はできないのは間違いない。それなのに、重体の騎士達はそこまで回復しているようには感じられない。それほどまでに傷が深いということなのか。

 

いざ始めてしまってから、上位の回復術を覚えて使った方がよかったのでは気づく。ただこの場合の単純な上位術は術の出力上昇により回復速度が上がるだけ、精度も上がるから多少は消耗は避けられるけれども、それでも消耗は大きい。恐らく上位術を覚えてもせいぜい一人回復させきるのが限界なのではないか……?

 

俺はMPのおかげで術はチートじみた覚え方が出来ているが、その身体スペックに関してはチートじみたものは持っていない。魔力に関してだって、少ないということはないものの、膨大な量を持っているわけじゃない。むしろこちらの術士のように長い間修行をしていない分、基礎値は悪くないもののそこまで豊富な方ではなかった。

 

その欠点が、今ここで出てしまっている。アキラさんも治療術はそこまで適性がないといっていた。だとすると、二人がかりでもせいぜい2、3人が限度か。全員治療するのは難しい。先ほどの騎士が言った通り、なんとか命に別状がない状態まで持っていければ御の字の状態なのか。確か回復術の更に上位……最高位の術ならもっと効率的に回復できるのかもしれないが、こないだ増えた<<リジェネイト>>にしろ、元から一覧にあった<<リザレクション>>にしろ、価格は数百万MPしていたはず。今の手持ちを全部突っ込んでも習得できない。

 

『カズサちゃん、つらそうな顔しないで』

『もしかして回復うまく行ってない?』

『状況わかんないけどカズサちゃん無理しないで』

 

今は重体者の方にカメラは向けていないからリスナーには状況はわからないはずだけど、俺の表情とかからある程度察したのだろう。心配げなコメントが続く。

 

そんな勢いよく流れていくコメントの中で、たまたま一つのコメントが目に入った。

 

『カズサちゃんなんかきつそう、体力つらいのかな……<<チャージ>>で代用できない? スパチャ投げるよ?』

 

そうだ、<<チャージ>>があった! 普段全然使わないスキルだから頭から抜け落ちてた!

 

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