結局、体から完全に怠さが抜けるまで4日程かかった。
体を起こしているのも怠い、という状態はさすがに翌日には回復したし、その次の日には動き回れるようにはなっていたけども、どうにも微妙な怠さが抜けず、という感じだ。
アキラさんには、ちょっと制御の訓練頑張りましょうね、と寝てるときに額をツン、と押されながら言われてしまった。
俺の使う術が果たして彼らの常識に当たるかどうかははっきりはしないけれど、本来の術の制御から外れた魔術の行使による過剰な魔力の消費は、かなり危険な行為となるそうだ。それこそ場合によっては命を落とす可能性だってある。
ゲーム的な能力である俺の術はきちんと練りこまれた術式として発動しているそうで、普通なら今回のようなことはない。だが術の限界を超える<<チャージ>>と併用した場合過剰な魔力の消費をしてしまうケースがあることが分かったので、今後はちゃんとその辺を意識して使えるようにすべきとのこと。まぁ訓練方法で言えば実際術を使う時に効果を抑える事を繰り返して体に覚えさせることになるので、落ち着いてからだけど。
しかし、これはあれかね。バグみたいな感じなのかね? 習得方法も発動方法もそれっぽいので、そんなイメージを持ってしまう。<<オラクル>>使えればバグ修正してくださーいって報告すれば治ったのかね? まぁこのバグが先に解っていたとしても優先度はモザイクだったから、頼めなかったとは思うけどさ。
ちなみに、到着して3日目に俺達はリンヴルムで空き家を一軒借りた。それなりに長期滞在するとなるとそちらの方が安上がりになるし、<<ポイントテレポート>>と<<インベントリ>>でパストラの方から物資を持ち込めば宿よりも過ごしやすくカスタマイズできるからね。
丁度2DK的な広さの空き家があったので、ここを賃貸する事にした。さすがに全員分の個室を用意すると費用がかかりすぎるからね……男性(グウェンさん)用と、女性用(俺含む)で別れる事になった。
一人部屋となるグウェンさんはともかく、女性陣(俺含む)は個人のプライベートがないことになるけど……まぁたまにそうやって過ごしたいときはパストラに戻ればいいしな。便利です、<<ポイントテレポート>>持ち二人によるファストトラベル機能。さすがに距離があるから消耗するので、「全快するまでは駄目」になってるけどね。
あ、ちなみに当然お風呂はついてます。そこはマストだったので。俺とアキラさんが二人とも沸かせるので風呂桶がればよゆーで毎日お風呂いけます!
『三人でのお風呂配信まだですか!』とかコメントあったけど一生ありません。ご了承ください。
まぁお風呂配信は無理としても、もっとリスナーに媚──いや、言い方悪いな。リスナーの要望を多めに聞いていかないとな。目指せMP長者! いや溜めるのではなく能力取得や<<チャージ>>の燃料にするのが目的だけど。
まぁそういった事も完調してからね、と皆に言われてここ数日を過ごし。
ようやく完全回復となった俺は、他の皆と一緒にリンヴルムの東部にある庁舎へと来ています。
勿論、何かやらかして呼び出しを喰らったわけではなく。
リンヴルムの庁舎は港町であるパストラとは違い、物々しい感じがある建物だった。恐らくは庁舎の職員であろう文官らしき外見の人たちとは他に、騎士らしき風貌の人たちも見かけた。あと規模もパストラに比べると大きいし、訓練場のようなものもある。どうも庁舎と騎士団の施設が一緒になっているようで、全体の規模はかなりでかい。それで街の中心部ではなく端の方に作成されているのかな、と思う。
で、そんな所にやってきているのは、先日の一件の為だ。一度ギルドに言った時に連絡先を伝えておいたので、それ経由でアイリーン様から連絡が来た。その時には俺の体調も回復していたので承諾の意を届け、こうして今やってきている訳ではある。
招待状をもってやって来た俺達は、そのまま庁舎の中の応接間のような所に通された。立派な調度品が並んでいる、結構な広さの部屋だ。コンビニ位の広さはあるんじゃない?
「これ、もっと重要な人たちを迎えるための応接間じゃないのかな」
「曲がりなりにも王女を救ったんだから、重要な人たち扱いじゃない?」
周囲をきょろきょろ見回しながらつぶやいた俺の言葉に、そうアキラさんが応答を返してくる。そういう認識はしないで貰った方が助かるんだけどなぁ。
ちなみに部屋の中には俺達4人の他に、メイドさんみたいな人が二人控えている。メイドさんは秋葉原とかちょっとえっちな漫画に出てくる奴ではなく、クラシカルな奴だ。そう、俺が穿いた膝丈までの奴ではないロングスカートな。まぁ俺のアレは予算削減のためだったけど。
そのメイドさんが入れてくれた紅茶に口を着けつつ、俺達はアイリーン様を待っていた。別に彼女が遅れているわけではなく、単純に俺達が早くきすぎてしまっただけだ。
だって王女様の呼び出しだよ? 間違っても遅刻するわけにもいかんでしょう。今の所特に動く用事はなく割と暇をしていた事もあり、主に俺の提案で予定時間より早めに到着していたわけだ。すみません小心者なんです。
「うー、それにしても王女様かぁ」
考えると肩に力が入ってしまう。初めて会う訳にはないにしろ、前の時は俺は礼と説明を横になった状態で聞いていただけだし、翌日は別の馬車だったので殆ど話してはいない。そして過去に王女様を待つなんて経験は当然ない。
一応、割と人当たりの良い感じにする人だったから気にしすぎだと思うけど……
「そう心配するな。協力に対する改めての礼と、報酬の話をするだけだ」
「そうね、そんな固くならないでも大丈夫よ? 公の場所じゃないしね」
俺の緊張を見て取ったグウェンさんとアキラさんがそう声を掛けてくれる。
そうだよな、余り固くなる必要はないよな。こちらの世界の偉い人とかへの礼儀がわからないのも不安だったけど(いや多少は皆に聞いたし、その結果が俺が頭に思い浮かべていたのと大差はなかったけど)アイリーン様はそういったことで機嫌を悪くするような感じではなかったし、周りの皆に合わせておけば問題ないハズ。うん、大丈夫。
「うん、ありが……」
気を使ってくれた二人に礼を云おうとしたその時だった、ドアの音からノッカーの音が来た。その後、誰かの声。その声の応じてメイドたちが動き、部屋の扉がゆっくりと開かれる。
──その扉の向こう側から現れたのは、軍服のような制服を身に纏った、金髪碧眼のイケメンだった。