「すまんな、待たせた」
イケメンはそのまま部屋の中へと足を踏みこんでくる。そのすぐ後ろには見覚えのあるイケメンと同じ配色の美女の姿。髪を結い上げその身を包むものはドレスへと変わっているが、アイリーン様である。
彼女は、青年の斜め後ろを歩いていた。位置関係的にも青年の態度的にも、青年が彼女よりも上の立場なのが見て取れる。王女であるアイリーン様より上だ。ということは青年の立場はかなり絞られる。
ちらりと隣をみてグウェンさんの様子を確認すると腰をあげようとしていたので、俺も慌ててソファから立ち上がろうとした。
「ああ、構わない。そのまま座っていてくれ」
が、青年からそう声を掛けられてその動きを止める。そうしているうちに青年とアイリーン様は俺達の正面に回ると、対面のソファに腰を落とした。そしてその左右に二人の軽装の騎士が控えて立つ。近衛的なアレかな。
「改めてもう一度。こちらより呼び出したのに待たせてすまない。ちょっと前の予定が食い込んでしまってな」
「いえ、こちらが早く来てしまっただけですので」
青年の言葉に、即座に反応を返したのはアキラさんだった。実力者だし王子かはともかくそれなりの権力者の相手をしたことがきっとあるのだろう、王子相手にまったくひるんでいない。グウェンさんも同じだな。テイルさんはちょっと緊張しているようで肩に力が入っているのを見てちょっと安心してしまった。
「自己紹介させて頂こう。私の名前はカシュナート・アストラ。王国の第四王子で、このリンヴルムの総督、そして貴女達に救ってもらったアイリーンの兄だ」
チラリと横に振っていた視線を王子様の方に戻す。相手が相手なので目を背けていて不敬と取られても不味いし。
しかし総督……ってことは、このリンヴルムの一番偉い人ってことかな。軍権だけを持っているのか、統治まで行っているのかはわからないけど。でも王子なんだから少なくとも名目上はトップなのだろう。
彼は入って来たときから変わらない薄い笑みをその顔に浮かべたまま、言葉を続ける。
「一応アイリーンや騎士達から話を聞いてはいるのだが、改めて名前を聞かせてもらってもよいだろうか?」
その言葉にグウェンさんとアキラさんが頷いたので、俺とテイルさんも追従する。とりあえず二人の反応を見て追従しておけば良さそう。
しかし本当に造形が整っている。アイリーンさんもそうだが日本で街を歩いてたら5分以内にスカウトされるんじゃないかってレベルだ……いや、むしろ整いすぎて近寄る事を躊躇うレベルか? 外見だけじゃなくて動き自体が洗練されていると俺ですらわかるレベル。日本で見かける事などまずないだろう。
ちなみにカメラはそっと彼らの方に向けておいた。このタイミングなら彼らが映っちゃまずいような行動をすることはありえないし、王族に盗撮とか知られたらマジで処刑モノでは? と思わなくもないが、彼らにカメラを気づく術はないしそもそも配信というもの自体知らないのだから問題ないだろう。
間違いなく撮れ高だもんなぁ、彼ら。外見は元より、日本で日常生活を送っていたらまず見る事はない王族という肩書も大きいと思うので利用させて頂きます。
ほら、配信コメントも盛り上がり……?
『あかん、ついに恐れて来たものが……』
『大丈夫? カズサちゃんきゅんきゅんきてたりしていない?』
『男でも惚れておかしくない美形。しかも権力も財力も持ち。強すぎない?』
『カズサちゃん最近内面も女の子になってきてるから危ない』
『あかん、俺達のカズサちゃんが寝取られるぅ。脳破壊ががが』
「ねとっ……」
正面側においたコメント欄に意識を向けた瞬間飛び込んできたコメントの群れに、思わず口から突っ込みが漏れそうになり慌てて俺は唇をかんで言葉を止めた。が、最初の数音が間に合わず漏れ出てしまい、カシュナート様がこちらを怪訝そうな顔で見てくる。
「あのっ、そのっ、なんでもないです。その、私、王族の方に会うの初めてなんで緊張しちゃって……」
慌てて俺は言い訳を並べ立てる。その際に緊張ではないが焦ったせいで声が若干うらがえったせいか、カシュナート様は一瞬目を細めたが、すぐに元の柔らかい笑みに戻った。
「そんなに緊張しなくて構わない……と言うのは私の立場を考えれば難しいか。だがここは言ってしまえば公式な場所ではないし、発言に対してとやかくいうつもりもない。だから心配しすぎないでも大丈夫だよ」
『くっ、イケメンが! 笑顔をキラキラさせやがって……』
『お前乙女ゲーの攻略対象か?』
『カズサちゃん、チョロインの系譜な感じがするのが俺を不安にさせる……!』
誰 が チ ョ ロ イ ン だ。
こいつと寝取られ発言した奴は折檻したい……! どうせ折檻しても喜ばれそうだけど!
前も宣言したけど、俺が男に対してトキメキを感じる事はねぇよ。女性であるテイルさんやアキラさんには偶にきゅんきゅんしてるけど、二人が優しい上に美人さんなんだからこれは男として仕方ない事だろうから決してチョロいわけではない。
というか突っ込みたくなるから、コメント欄を視線の外に移動したい。でも今の状態でコメント欄つかんで移動させるのは謎の動きすぎるしなぁ……
できるだけそっちに気が向かないようにカシナート様とアイリーン様の顔に意識を集中しよう。話し相手の顔を見るのは基本中の基本だしね。
と、その王子の顔から今までずっと浮かべていた薄い笑みが消えた。そして、
「まずは礼を言わせて欲しい。王国の優秀な騎士達、そしてわが妹を救ってくれて感謝する」
そこまでは喋り方は柔らかいが、立場に準じたであろう尊大に見える動きをしていた彼が、小さくではあるが頭を下げた。
「王国の騎士たちは私も含め国の為には命をささげる覚悟は持っている。だが、それは命を無駄に浪費するという事ではない。失われる可能性があった者達の命を、その身を賭して救ってくれたことは、繰り返すが本当に感謝しかないのだ」
それから続けてカシュナート様は、「こういった形で申し訳ないが」という言葉と共に今回の謝意としての金銭報酬や、リンヴルムに滞在する上でのいくつかの特典を与えられる事になった。
この辺り事前にアキラさんやグウェンさんが想定していた範囲内のもので、法外な報酬というわけでもないし断るのも失礼なので素直に受け取る事とした。
それからこっちも想定通りだったけど、探索者としての依頼のようなものも受けた。といっても拘束されるような話ではなく、滞在時の協力要請的な話だった。こちらも普通に受諾。ただ騎士団からの直接要請だといろいろ面倒な事になりそうなので、探索者ギルドの方を経由してもらうことになったが。
後俺の回復能力に関してはその後の俺の状況を説明して求める事はやめて欲しいという事は伝え、これも納得してもらった。ぶっちゃけ制御覚えればあんなぶっ倒れ方はしないけど、アレ今のほぼ全財産ぶっこんでるんで乱用できないんですよね。<<チャージ>>の効果はそこにつぎ込むMP次第でかなり有効だという事はわかったけど、一回の術で100万使う術なんかどう考えても乱用できないだろう。あれはもう完全に最後の切り札に確定だ。そもそも今は使いたくても使えないし。
その後要件を伝えたカシュナート様はやはりその立場上忙しいらしく席を外し、残ったアイリーン様としばし会談した後、俺達は庁舎の方を去る事になった。
結果をいえば概ね予想の範囲内だった。無茶な話も振られなかったし、今後の協力についても……あれ多分アキラさんがメインだよな。情報を集めれば彼女がパストラの実力者っていうのは割とすぐにわかるだろうし。そして彼女くらいの実力者が滞在していると知れば緊急時に協力が来るのは当たり前なので、別に問題がある話ではない。
だからこっちに関しては問題なし。問題があるとすればアイリーン様だ。
いや別にアイリーン様が何かしてきたとかそういったことでは全然なくて。問題があったのは彼女の今日の恰好だった。
初めて会った時の姿は軍人としだったから凛々しさが前に出ていたけど、今日の彼女はドレス姿だったから美しく気品に溢れ、まさにイメージの中にあるお姫様だった。それがいい、それはいいんだ。第三者視点で見れば眼福だたっし、リスナーの皆にも好評だった。
そう、好評だったんだよなぁ……