お金の力で世界を救ってあげます!   作:みずち

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作業配信

 

「~♪」

『鼻唄歌っちゃって可愛いね』

『鼻唄じゃなくて、がっつり歌ってくれてもいいのよ?』

『足パタパタしててぎゃんきゃわ』

 

「うっ……」

 

鼻唄は意識してたけど、足ぱたぱたは無意識だった。こういうの指摘されるとなんか恥ずかしい。うつ伏せで曲げていた足をゆっくりとベッドの上に降ろす。

 

『余計な事を……!』

『可愛かったのに~』

『この度は誠に申し訳ございませんでした』

 

足パタパタを指摘したリスナーが総バッシングを受けているが、まぁ雰囲気はふざけた感じだったので放っておく。

 

──レンオアム大森林でカメラの設置をしてからすでに数日が経過した。装置はアキラさんの<<アポート>>で回収済み。若干不安だったが特に破損もなく回収できて一安心である。

 

ちなみに今このリンヴルムの我が家にいるのは俺だけだったりする。

 

設置をしてしまえばレンオアム大森林に行く必要は特になく、そもそも現在レンオアム大森林は立ち入り制限が掛かっているのもありあまり探索者向けのお仕事がない状況である。そうなるとグウェンさんとテイルさんは手持無沙汰になるとのことで、二人は今一時的にパストラに戻っている。元々予定はある程度たっていたので、先日魔石や記録装置を確保しに戻った時に話を受けていたそうだ。数日で片付く仕事だそうで、明後日に迎えに行く予定である。

 

というかまぁひとまず撮影は終わったんで全員で向こう戻るって選択肢もあったんだけど。今後もレンオアム大森林には向かう予定だし、向こうに戻ると食料とかの消耗品とかまた整理しなくちゃいけないから俺はこっちの方に残っている。

 

ちなみにアキラさんも居残り組だ。というか俺がこっちで生活する以上、<<ポイントテレポート>>の都合上彼女にはこっちにいてもらわざるを得ないからね。ただそのアキラさんも今日は不在。どうやら名の知れた実力者である彼女は探索者協会の方からご指名で依頼が来たらしく、その仕事に出向いている。「さすがに探索依頼だけしかやらないってのも印象悪いしね?」とのこと。

 

で、一人お家でお留守番している俺だけど、勿論ゴロゴロしているわけじゃないぞ?

 

『今北。なんかカズサちゃんの背後に湖の画像映ってるけど、何……何?』

 

今やってきたばかりであろうリスナーが、困惑した様子でそうコメントする。

 

そう、今、俺の背後では森の中にひっそりとたたずむ湖の光景が流れている。回収してきた記録装置が投射している映像だ。

 

『あー、いま作業配信中だから』

『映像を編集するための編集ポイント検索中みたいな?』

『オラ、お前も作業するんだよ!』

『目を凝らして動物を見つけるんだよ! 第一発見者は名前呼びのサービスがあるぞ!』

 

リスナーのいう通り、今は撮影結果をリスナーに見せるための配信ではなく、その配信をするための準備中ともいえる時間だ。何せ記録された映像は約2日分。それが二つあるので実質4日分の映像データがあることになる。

 

照明の類がないから夜の映像は実質使えないのですっ飛ばすとしても単純計算で50時間分くらいの映像データがあるわけで。更に当然の話だが、その映像の間にずっと動物の姿が出ているなんてことはなく、大半は静かな湖畔の森の陰が流れているだけである。

 

なので、動画編集だ。記録した映像を流し、その中で動物が姿を現した部分だけをもう一個確保していた記録装置で記録する。そうすることで、ひたすら虚無に近い映像を流し続ける事が避けられるという訳だ。

 

『でもなんでカズサちゃん映像に背を向けてるの?』

 

うん、その質問はごもっともだね。

 

俺は今、映像を見ていない。というか完全に映像に背を向けた状態で、ベッドの上にうつ伏せに寝そべっていた。顔の前にはいつものコメント欄にカメラ、それにそこそこ分厚い本と下に木の板を敷いた紙とペンがある。

 

いやね、最初は俺が一人で映像見てたわけよ。ただね、これは速攻で取りやめになった。

 

正直映像を気にしていると、リスナーに反応している余裕がないのだ。更にコメント欄を見てると映像全体に注意を払うとか無理。トドメにある程度倍速で流せるとはいえ、何時間もこんなことを続けていたら精神も眼も死ぬ。かといってあまり日数かけすぎるのは微妙すぎる訳で。

 

で、皆にお願いして一緒に映像チェックをしてもらう事にした。ちょっと上目遣いで頼んだら勢いよく前のめりで了承してくれたからな。ちょろいぜ……ただこれも早々に取りやめになった。こっちは非常に単純な理由で、俺が映像をみつつ映像を映そうとすると後ろから取るしかなくなるんだよね。ようするにずっとリスナーは俺の背中を見ることになる訳で。

 

一部のリスナーにとってはご褒美ではあったらしいんだけど、大多数のリスナーにはやはり不評だった。

 

その結果──「映像のチェックはリスナーに任せ、俺はカメラの方を向いて別の作業をする」というスタイルに落ち着いた。今日は配信告知してない平常配信(平常配信とは……?)な上に会社勤めや学生さんは視聴しづらい日中の時間帯だけど、それでも数千人の視聴者がいるわけで。その中にはROMの人間もいるし、そもそも流しっぱなしで画面を見ていない人間もいるだろうが、たとえ手伝ってくれるのが1割であっても数百人になるわけで、人手の数としては充分すぎる。

 

『寝そべってるカズサちゃんの胸元エッすぎる』

 

……まぁ、俺の方ばっかりみて映像みてない奴もいそうだけどなぁ。

 

ちなみにウチの常駐コメントするリスナーの中でも数少ない生真面目なリスナーに「胸元大丈夫?」と聞かれたが、半分くらいはわざとである。別段胸元開いている服じゃないから谷間がチラみえするくらいだしな。仕事手伝ってもらってるしご褒美だよと冗談半分に言ったら

 

『カズサちゃんがお色気技覚えたらもう無敵では』

『カズサちゃんが小悪魔的なムーヴまでするように成長するとは……』

『わりとしばらく前からしてなかったっけ?』

 

とか言われたが、お前らがそういうムーブをしろとか求めてきてたからしているだけだぞ。まぁ少し前までは色気を出すような動きをするのは抵抗があったのは確かだけどさ。

 

フフフ、俺はMPの為に体を売った男……女か? いや、過剰なお色気路線はやらないけどね! 元の体に戻った時に死にたくなりそうだし!

 

……うん……うん、自覚してるよ。ゴールラインがどんどんズレて行っているの。とりあえず身内やリアル友人達にはカズサとしての配信の話してなかったって本当によかったと思う。切実に。

 

 

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