結局対霊魔術に関してはリスナーの意見を受け入れて《ポセッションガード》を取得することにした。《サンクチュアリ》《コンセクレーション》は保留。
《サンクチュアリ》にしろ《コンセクレーション》しろ結構お値段がするし、俺の場合は取得したらすぐ使えるようになるから状況に応じて取得という事になった。今回の探索でうちのパーティが分かれて行動する可能性はあまりないだろうから取るんだったら《サンクチュアリ》なんだろうけど……今回確実にアンデッドと遭遇するって訳じゃないし、ここで70万を使って取得して使いどころ無しだと空しいからね……。
それに対して《ポセッションガード》は15万と比較的安いし、何より前二つと違いこの術はいわば"予防"なので、事が起きてから取得するのじゃ遅い。ということで《ポセッションガード》は確定なわけだ。
「で、後は何がいいかな」
『前回移動がかなり辛かったぽいし、移動を楽にする術とかあった方が良くね?』
『体力きつそうだから、体力回復系の術ないかなぁ? 汗だくカズサちゃん色気があって良かったんだけど、今回は前回より移動距離長くなるだろうしさすがにね』
『視界の通り悪いし、なんか敵を感知する魔術を取った方がよくない? スライムの時みたいな事故防げるし』
ふむふむ、成程? 勿論ふざけた意見もなくはないけど結構みんな真面目に考えてくれているようなのでありがたい。
「えっと……意見が多いのは移動系、体力回復系、感知系かな?」
「あー、感知系はやめた方がいいと思うわ」
コメントに目を通しながら呟くと、すぐ横からアキラさんがそう口にした。
「どうして?」
覗き込むのをやめたのか少し体を離してくれていたので、俺は彼女の方に体を向き直るとその言葉の理由を問う。
それに対して、答えは端的に返された。
「間違いなく酔うからよ」
「酔う?」
「カズサちゃんって術はこの謎画面で簡単に取得できるし発動も簡単にできるけど、その術を行使する際の強さとかは自分で制御する必要があるのよね?」
俺はコクリと頷いて答える。
「感知術式ってね、いろいろ制御して拾う情報を絞る必要があるのよ。サイズとか速度とか温度とかね。で、その辺の制御ができないと、なんでも拾っちゃうのよ。でね、感知術式ってある意味、体の受け取れる情報器官、しかも強力なものが一つ増えることになるから──」
「……情報量の多さに酔ってしまう?」
「そう言う事ね。しかもレンオアム大森林なんて森自体があの密度だし、虫とか小動物もいっぱいいるからね」
「あー……」
特に拾ってしまう情報の量が多いってことか。
「となると感知系はなしかー」
「そうね、そっちに関してはグウェンやテイルちゃんに任せていいと思うわ。勿論あたしもちゃーんと守ってあげるからね!」
そう言ってアキラさんがぎゅーっと抱き着いてくる──すぐ離れたけど。アキラさん、ちょっとリスナーにサービスしすぎですよ。
まぁでも実際の所慣れない事をやるのはろくなことにはならない予感しかしないので、感知系は任せるとしよう。とすると残りは移動系か体力回復系だけど……
「あそこで使える移動系ってなかなかなさそうだよなあ」
『加速系やジャンプ系は意味がないしねぇ』
『あんなところで《ハイスピード》とか使っても躓いて転んで涙目になるカズサちゃんか、木に衝突して涙目になるカズサちゃんしか想像できない。──想像してたら可愛くて仕方なくなってきたのでやってみませんか!』
誰がやるんだよ、そんなこと。そもそも冗談抜きに痛い奴じゃないかそれ。
「飛行系とかはなんか燃費悪そうな気がするしなぁ」
「それもあるけどあの森で空飛ぶのは危ないわよ。下から水やらなにやらで狙い打ってくるのがいるはずだし」
「テッポウウオみたいなのがいるのね……」
だとしたらそんな危ない事できないか。そもそも目的地に直行するならともかく今回は調査なわけで、あの鬱蒼と茂った森の中をその上から見ても見える気がしないから意味がないよな。
足場が悪いのが体力を浪費する原因だから、ちょっとだけ宙に浮いて移動すればいいのかもしれないけど、結局燃費悪くて体力浪費してたら本末転倒だもんなぁ……。ちょっとした難所を超えるだけだったら以前テイルさんが使っていた足場を作る魔術が使えそうだけど、レンオアム大森林はいわば常時難所な訳だし……
「移動系もだめかー」
「あそこは視界が通らないから<<テレポート>>も使いづらいしね」
「だとすると体力回復系か……っていってもそんな術あったっけ」
一覧結構眺めてるけど、体力回復系魔術ってみたことないんだよなぁ。いや、くっそ高い獲得コストで他者に活力を与える術があった気がしたけど、あれは確か他者だけにしか効果を発しなかったはず。そもそも数百万の獲得コストがかかるものを、疲れるのを何とかするために獲得するのはちょっとな……
ちらりとアキラさんの方を見ると、その視線に気づいた彼女は首を振る。
「さすがにそういった術は記憶にないわね。多少疲労を回復するポーションはあるけど……」
栄養ドリンクかな? ただアキラさんも多少といっているくらいだし、多分気休めに近い感じなんだろうな。ゲームみたいに飲んだだけで全快ってわけにはいかない。
『回復魔法は?』
『ヒーリングとかは駄目なの?』
「回復魔法はあくまで傷を塞ぐだけであって、体力を回復するものじゃないわよ」
だよね。お姫様とかを治療した時も傷は塞がってたけど、出血とかで失った体力は回復してなかったみたいだし。
うーん、本当にないのかな? 俺が獲得できる能力は<<インベントリ>>みたいにこっちの世界の魔術では実現不可能なものもあるし、他者の回復が出来るなら自分の回復も出来るのでは?
体力回復体力回復っと……能力一覧をスクロールさせて能力の内容をチェックしていく。んー、ないかなー……あ。
「あったわ、体力回復」
『マジで?』
『どんな効果なの?』
『わりとなんでもあるね、カズサちゃんのそれ』
本当にな。
んで、効果っと。
「えーっと、魔術名は<<トランスファー・バイタリティ>>。効果は……端的に言うと、MPを変換して体力を回復するって感じだね」
完全にクソ高コストの他者回復魔術の自分版って感じだわ、やっぱりちゃんとあったのね。MPも20万ちょっとで、全然獲得可能だな。ただMPを変換するわけだから、取得した後もコストがかかる魔術になるんだけど……
『つまり、俺達のお金がカズサちゃんの体力になるってこと?』
『俺達がカズサちゃんの血肉に?』
いやそれじゃ俺がお前ら喰ってることになるだろ。いやだよそんなの。
『カズサちゃんの中に俺達の力が注がれる……言葉尻だけとるとドキドキするね?』
『カズサちゃんと俺達が一心同体に!?』
『興奮してきました!』
「……いや、さすがにちょっと気持ち悪いんだけど?」
他の奴はともかく特に最初の奴の表現が。
『あっ……すみません』
『調子に乗りました……』
『許してください……』
『ごめんなさい……そしてそのお目目でやっぱり興奮しちゃってごめんなさい……』
「ちゃんと謝れるリスナーは好きだよ。アキラさんや今は居ないけどテイルさんもコメント欄みえるんだから、あんまりな発言は自重してね?」
俺自身はまぁともかく、テイルさんやアキラさんにはあんまりなコメントは見せたくないからな。見せたくない理由は別だけど。あとさっきの奴はフツーにキモさを感じて声出ちゃったアレだけどね!
『ほわぁぁぁぁぁぁぁ』
『はい、わかりました!』
『あっ、私もしゅき』
『誰か今の部分切り抜きを! 上手くつなげて耐久切り抜きをお願いします!』
相変わらずチョロいね君達。