少々困った事になった。
いや、何かしらトラブルが起きたわけではない。起きたわけじゃないんだが。
配信で決めた二つの魔術を取得し、さらにパストラでの用件を済ませたグウェンさんテイルさんもこちらに帰ってきてから数日後、俺達はギルドの要請の元、再びレンオアム大森林に向かう事になった。
それに関しては予定通りだ。グウェンさんテイルさんも問題ないと言ってくれたしな。そして俺達は探査チームの中でもより森の深い位置に向かう事になったが、まぁこれも予定通りだ。アキラさんの実力、俺という対霊魔術持ち、<<ポイントテレポート>>という緊急退避手段もあるし、グウェンさんとテイルさんの二人も実力者だ。そういった役割を求められるのは予想していた。していたんだけど……
今回の一件、事が事なので、探索者ギルドだけじゃなく、リンヴルムの常駐軍も動いている。数名の対霊術式持ちが確保できたということで常駐軍の中からも精鋭と呼ばれる騎士達が選抜され、ギルドの集めた人材と同タイミングで調査に出る事になった。ようするにギルドと軍の合同調査という訳である。
ここまではいいんだけど……問題は最深部に向かう俺達は、同様に最深部に向かう群の最精鋭部隊と連携して動かないといけないということだった。
調査範囲が狭くなってしまうので、軍の部隊と一緒に動くというわけではない。だが連携を可能するために一定の距離を保って調査を進めるとの話になり、そのための道具も渡された(同じ波長を設定した魔道具の位置を示す魔道具と、短距離間ではあるが遠隔通話を可能とする魔道具)。更に今回の調査は数日間に及ぶ可能性があることからから安全性を鑑みて、夜営は合流して行うことになった。
これはちょっと困った。こちらの世界(少なくとも王国周辺)と日本側の時間帯はほぼ一緒だ。という事は、夜は配信の時間と言えばゴールデンタイムである。だけど騎士達と一緒では正直配信で皆の相手はできないだろう。コラボ登録している皆以外から見れば、俺はずっと虚空に話しかけているようにしか見えないからな。まぁこれまでも一日や二日は皆を相手に出来ない時もあったので、そこまで大きな問題にはならないかと思うけど……移動中は一緒じゃないから一応ある程度は相手に出来るからな。
ただそれとは別に更にもう一つ困ったことがあって、それはその連携を取る軍の精鋭部隊の隊長がアイリーン王女なのだ。いや王女様が何してんの? と思わなくないが、よくよく考えたらあの王女様俺達と会った時も先頭を切って魔物の追撃をしていたわけで、ようは普段からそういう人なんだろう。俺の単純なイメージだと王族ってのは後方でどっしり構えているイメージなんだけど、この世界ではガンガン前に出る感じなのかね? あの人が特殊なのかもしれないけど。
それと彼女の他にもあの時あの場にいた人間が何人かいた。助けを呼びに来た彼もだ。……正直アイリーン様より彼の方がよくない。あの時抱えて運ばれていた俺があの時よりも鬱蒼とした森の中を平然と数時間歩いていたら違和感を感じるだろう。
それは考えすぎかもしれないけど、俺の体力回復の為に余裕があるとはいえ無駄にMPも消費するのもどうかという事で、<<トランスファー・バイタリティ>>を常時使用するのは取りやめとした。ただ術だけは覚えておく。多分途中で何度か使わないと探索の足を引っ張るのは見え見えなので、休憩時の体力回復的な扱いで全快しない程度で、疲労で体の動きが鈍らない程度に使うつもりだ。後襲撃を受けた時に疲労で動けないとか話にもならんしな。
まぁ何より一番の問題は<<インベントリ>>が使いずらいことだけどね。前回来た時とか必要なものはこまめに使うモノや突発的に必要になる物を除いて全部インベントリにしまってたからほぼ手ぶらだったけど今回はそういう訳にはいかずに皆が荷物を持っている……俺以外。俺に関しては荷物がなくても前回あの有様だったのに荷物持たせるわけにはいかないということでグウェンさんが持ってくれている。申し訳ない。
一応<<アポート>>で引き寄せたって言い張れるので、使うかどうかわからないようなものはインベントリに突っ込んできているから、他のチームよりは荷物が少なかったりするんだけどさ。
というわけでひとまず<<ポセッションガード>>と<<トランスファー・バイタリティ>>を取得し、俺達は他の探索者や軍の部隊と一緒に、森の中へと突入した。
そして今、俺達は前回の最終目的地をである湖を少し超えた場所にいる。
前回ゾンビらしきものを目撃したのがこの湖のほとり沿いだったので、まず最初に丁度あいつがいた対岸の辺りにやってきたのだ。まぁあれから大分日付もたっているので、アイツの姿は欠片も見当たらなかったけど。
ここから手前でもアンデッドの姿は見かけなかったし、他のチームからも目撃の連絡は入っていない。このまま見つからずに終わればいいなぁなんて気持ちもあるけど、まだまだこの辺りはレンオアム大森林の大分浅い部分だ。探索はここからが本番である。
「それじゃ、<<ポセッションガード>>使うね」
「ああ、頼む」
正直な所、この辺りまではアンデッドの類に合う可能性は低いというのは予測できていた。この辺りまでは元々こまめに調査の手が入っているはずだが、俺達以降にアンデッドの目撃例は殆ど出ていなかったので。だがこの先は別だ。なのでここからいよいよ心霊対策を行っておく。
「<<ポセッションガード>>」
差し出されたグウェンさんの大きくごつごつした手を取って術を使う。この術、なんか対象に触れてないと駄目みたいなんだよね。だからいざというとき皆にまとめてかけるという事ができない。なので、事前にこうやってかけておくしかない。効果時間がそこまで長いわけじゃないけど、いざ出現した時に術をかけてなくて後悔するのもいやだしな。
術をかけると、うっすらと、注意してみない限りわからないくらい本当にうっすらとだけど光の膜がグウェンさんの全身を覆う。これで<<ポセッションガード>>の効果は発動したハズ。同様にテイルさんとアキラさんにも術をかけ、最後に自分にもかける。
「よし。これで憑依は防げるし、ゴースト系の攻撃自体軽減できるハズ」
ゾンビとかスケルトンは攻撃自体は物理なので意味はないけど、そっちは出現した時に物理防御系の術を使えばよい。
「準備OK。それじゃ進もうか」
「大丈夫? 汗は引いたみたいだけど、カズサちゃん疲れてない? もう少し休んでから進んでもいいんだよ?」
「大丈夫。きつくなってきたら<<トランスファー・バイタリティ>>を使うつもりだけど、まだそこまでではないし」
心配げにそう声をかけてきたテイルさんに向けて、笑みを浮かべながらそう返す。
「それに、アイリーン様の部隊とちょっと離れてきてる。あんまり遅れるわけにもいかないでしょ?」
事前にこちらの進行速度は伝えてあるので向こうもある程度ペースは抑えてくれていると思うんだけど、俺が持っている魔道具を見る限りアイリーン様達は進むのを再開している。多分こっちと離れ過ぎたら止まってくれると思うけど、あまり俺の為に全体の進行を遅れさせるわけにもいかない。多少無理をしても<<トランスファー・バイタリティ>>で回復はできるし。
レンオアム大森林は広い。そこをのんびり進んでいたら、いつまでたっても探索が終わらないし……そしたら何日間お風呂に入れないかわからなくなるからね! 一日二日ならまだしもずっとリスナーの皆には見られているのに数日お風呂入らないのとか嫌だし、頑張ろう!
前回残MP:2788980
今回増減:
ポセッションガード -150000
トランスファー・バイタリティ -220000
残MP:2518980