お金の力で世界を救ってあげます!   作:みずち

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体力回復のお時間

 

『やっぱり美少女の頬を伝う汗は神々しい』

『しっとりとした黒髪……』

『カズサちゃんはこんな汗かいてるのに、アキラさんやテイルちゃんは全く汗かいてないのおかしくない?』

 

本当にな。

 

俺別に汗かき体質でもないと思うんだけど……いや、単純に前回と同様で慣れてないから無駄に体を動かしてるせいってのはわかってるんだけど、さすがに全然汗かいてないのはあれじゃない?

 

「そんなことないよー? ちゃんとボクも汗かいてるよ?」

 

そんな事を考えてたらコメントが目に入ったらしく、テイルさんがこちらにやってくる。そうして耳元の髪をかき上げてカメラに向けると、確かにそこには耳元を伝うような一筋の汗が伝っていた。

 

俺のかいている汗に比べたら微々たるものだけど。

 

ちなみにそのテイルさんの行動にリスナー達は

 

『あっ、あっ、おみみかわいい』

『テイルちゃんも肌綺麗よねー』

『髪の毛からいい匂いしそう』

 

流石に美少女に変な幻想を持ちすぎな気がするぞ、それ。別に美少女の汗でも甘い匂いがしたりはしない。というか汗が甘い匂いがしたら糖尿病の疑いがあるだろう。

 

閑話休題。

 

今俺達は森の木々が途切れやや開けた場所で休憩中だった。やや先行していたアイリーン様の隊だが、更にもう一個の隊が魔物の群れと遭遇した結果遅れ気味だそうで、その部隊と足並みをそろえる為に進行を止めたため、追いついた俺達も丁度いい場所で足を止めたというところだ。

 

正直助かりました。すでに前回の倍近い距離を進んでるからねー。

 

あの日以降ちゃんとトレーニングして体力をつける努力はしてたけど、いうて十数日前後の期間では気休め程度にもならない。結構足も上がらなくなってきたので、そろそろ例の術試してみるべきかなぁ。

 

「ほーら、カズサちゃん。拭いて上げるからおいで」

 

声を掛けられたのでそちらを向いたら、アキラさんがにこにこ顔で手ぬぐいを掲げていた。

 

「いや、拭くくらい自分で……」

「自分の手じゃ届かない所もあるでしょ? いいから来なさい」

「あ、ボクも拭いてあげるよ」

 

いや、どこまで拭くつもりなの!? 顔とかだけじゃないの? テイルさん押さないで! というかせめてカメラを背けさせ──

 

「ひとまず後回しにしろ。警戒だ」

 

ちょっとふざけた感じの弛緩した空気は、グウェンさんのその言葉で一気に引き締まった。二人の表情も一瞬で真剣なものに切り替わる。さすがにプロって感じ。

 

二人に遅れて俺も皆と同じ方向に視線を向けるが、特に何かの姿は見えない。だが他の皆はすでに対象を捉えているらしく、

 

「二匹ね。右側の方は受け持つわ」

「左は俺が抑えよう。テイル、お前は念のためカズサのガードを」

「うん、任せて」

「……ありゃアンデッドだな。カズサ、動きを止めるから準備頼む」

「あ、はい」

 

話の展開が早い。ただ求められていることはわかったので、いつでも<<ピュリファイ・スピリット>>を使えるように心構えをしておく。

 

そんなやりとりから数秒後。ようやく森の奥から何かがこちらに向かって来ているのを捉える。まっすぐこちらに向かって来ているのは狼のような外見の獣だった。だがサイズがでかい。熊くらいない?

 

アキラさんとグウェンさんが前の方に足を進める。テイルさんは俺の斜め前方に位置する場所に移動した。

 

こちらに向かってくる獣が二手に分かれた……俺らの世界だとアンデッドって脳みそも腐っているから単純な行動しかしてこないケースが多いけど(物語の話な)、こちらの世界のこういったアンデッドは霊が憑依して動かしているのである程度頭を使った行動をとる。単純に分かれて攻撃を分散させようという思考だろうか?

 

そんなアンデッド達に対して前に出た二人は慌てず位置を調整し、そして奴等が開けた場所に飛び込んできた瞬間一気に動いた。

 

「<<チェインバインド>>」

 

アキラさん側のアンデッドはアキラさんの生み出した魔力の鎖によって瞬く間に拘束される。そしてグウェンさんの方は彼の振るったハンマーによって弾き飛ばされていた。いや直接あたってないなアレ。<<エアブロウ>>だっけ、空気を打撃して衝撃波起こす術。多分それだろう。

 

その術によって弾き飛ばされたアンデッドは、だが脳みそが作動していないだけあって、即座に起き上がる。だが動きは止まった。

 

その時間だけで十分だった。

 

「<<バインディングアイヴィ>>」

 

グウェンさんの腕からあふれるように出現した緑の蔦はするすると地面を伝ってのび、もう一体のアンデッドと同様に拘束された。てかグウェンさん近接戦闘向けの術ばっかりだと思ってたけど、そういう術も使えるのね……

 

「ほら、カズサちゃん、お仕事だよー」

 

あっと、そうだった。感心してみてる場合じゃなくて、今回は俺の仕事があるんだった。

 

◆◇

 

「しかしやっぱり何か起きているみたいだな」

 

拘束されたアンデッドを<<ピュリファイスピリット>>で元の動かぬ死体に戻して。とりあえずの一仕事を終えてふうと息を吐いた俺の後ろで、グウェンさんがそう言葉にした。

 

「他所を含めてすでにアンデッドが7体確認されている。これはもう流れて来たとかそういうレベルじゃないだろう」

 

俺達が今回潜って遭遇したアンデッドは先の二匹が初めてだから他のグループでもそれぞれアンデッドと遭遇したという連絡が入っていた。まだ最深部まで行っていないのにすでに7体。アンデッドを生み出す何かが存在している可能性は高くなってきた。

 

「これはカズサちゃんが頼りねぇ」

 

そんな事をいいつつ、アキラさんが俺の汗を拭ってくる。あの、顔だけでいいからね? いや、テイルさん背中とかいいから! ただ胸の辺りは拭きたい。自分でやるけど。

 

「カズサちゃん、体力回復しておいた方が良くない?」

「そうかも」

 

とりあえず背中を拭くのは諦めてくれたテイルさんに掛けられた言葉に、俺は頷く。憑依して死体を動かしているゾンビ程度であれば今みたいに皆が動きを止めてくれるから問題ないけど、ゴーストタイプが現れた時に動けないとか話にならないからな。

 

「<<トランスファー・バイタリティ>>」

 

<<コンセクレーション>と一緒に覚えた術を宣言する。すると、まるで風呂にしばらく浸かった後のような、体の中からじんわりと暖まり疲れが抜けていくような感覚が体……特に足に広がっていく。

 

「あ、なんかこれ気持ちいいかも……」

 

『表情もほわわとしてきた』

『カズサちゃんが俺達の金で……なんでもありません』

 

よく我慢した……いや、最初からいうなよそもそも? だがそっちを相手する前にっと。

 

十数秒術を発動したままにしてから、魔術を解除する。そして少し歩いてみるが……

 

「ああ、間違いなく回復しているな、これ」

 

大分上がらなくなってきていた足が軽々上がる。感じ始めていた足の痛みもなくなっていたし、全身に感じていた疲労感も消えた。強いな、これ。

 

それから今度はメニューを確認すると、MPは10000に届かない程度で消費していた。うーん、この程度で済むならとも思うけど、継続的に消耗すると考えるとさすがにもったいないか。全快するまで使ったらもう少し消費するだろうし。やっぱり今回みたいに足を引っ張るような状況に絞って使うのが正解っぽい。……これ本来は激しく動き回る時に使う事を想定してるんだろうなぁ。

 

とりあえず状況次第によるけど、残り時間を考えればもう一回か二回くらい使えばなんとかなりそう。……何日間も使うだろうからトータルで考えるとそれなりの出費になるかもしれないけど、まぁ必要経費と考えるしかないか。

 

「カズサちゃん、行けそう? 他の隊が再度進行を開始したみたいだから、問題ないなら私達も再開しようかと思うけど」

 

本来この世界には存在しない魔術なので効果の程がわからないのであろう、アキラさんがそう聞いてきたので俺は頷く。

 

「問題ないです、行きましょう」

 

さて、あと数時間かな? お金(MP)の力を借りつつになるけど頑張るとしよう。

 

 

 

 




前回残MP:2518980
今回増減:
トランスファー・バイタリティ費用 -8700
残MP:2510280
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