「明日以降はアイリーン様とウチの隊だけで深部も探索ですか」
あれから更に森の奥へ向かう事数時間。更に追加で2度ほど<<トランスファー・バイタリティ>>の力に頼りつつも進行を続け当然それだけ時間が経過すれば陽も完全に沈み、俺達は日中ですら薄暗かった森の中で野営をすることになった。
一応クアンドロ地下遺跡に向かう時とか、リンヴルム到着直前のドタバタで野営の経験はあるけど、ここまで鬱蒼と茂った森の中では初めてだなぁ。
ま、周囲にめっちゃ人がいるから不安はないけど。
今俺達は森の中である程度木々の密度が低く開けた場所で野営の陣を張っている。
この場にはアキラさん達は勿論、アイリーン様の隊6人と、もう一つの隊も同じく6人、合計で16人も人がいるわけで。さすがにこれだけいれば薄暗い不気味な森でも怖いとはならない。
そもそもアンデッドが大量にうろついているのは最早確定しているので、薄暗くなくても不気味ではあるんだけども。
あれからこの場にくるまで、俺達だけでも5回、他の隊を含めれば2桁超えの回数アンデッドと遭遇している。これまでほぼアンデッドが見られなかったこのレンオアム大森林でこの遭遇率は異常としか言えない。最早どこかから迷い込んでいるというレベルではないのは間違いなく、この森で何かが起きているのは確実だろう。
なので調査は当然明日以降も継続。それに伴い各隊の代表格(ウチは全員)が揃って明日の作戦会議をしていたのだが、そこで出て来たのが先ほどの言葉だ。
アイリーン様より、今回特に深部の探索に向かう予定だった3隊のうち1隊を離脱させるという話を受けてのグウェンさんのセリフである。
彼の言葉にアイリーン様は頷いてから、その理由を説明してくれた。大きな理由としては二つだ。
一つは、対霊術者の力量不足。今回探索に出ている各部隊にはそれぞれ一人ずつ術者が配属されている。アイリーン様の隊にいる女性は北方の国家に属している巫女でありかなりの能力を保有しているが、他はあくまで探索者の中にいる"対霊術式も使える"レベルの術者でしかないということだ。その中では一番能力が高い人間を配置はしていたが、その当人からこれ以上アンデッドの数が増えると自分では対処できない可能性が高いと自己申告があったとのこと。
明らかに深部に向かうほどアンデッドは増えているので、そう言う事であれば厳しいのは確かだろう。
そしてもう一つは<<ポイントテレポート>>の術者の不在だ。
うちのパーティーに2人いるから忘れそうになるけれど、<<ポイントテレポート>>の術者はかなり希少だ。実際今回動員できたのは一人だけらしく、その一人はアイリーン様の隊に配属されているため、もう一人の隊には術者がいない。ということはいざという時に緊急回避できないわけで、そのリスクを加味した結果だ。
これ、じゃあもう一つの部隊もアイリーン様の隊に合流すればいいのでは? なんてリスナーのコメントが目に入ったんだけど、<<ポイントテレポート>>って対象になるには術者に触れている必要があるからさ。とっさの時に使う事を考えると、まぁ今くらいの人数が限界だよねって話。
というわけで、明日からは2隊での探索となる。そうなれば探索できる範囲も狭くなってしまうけど……これは正直問題ないかと思う。
先に述べた通り、先に進むごとにアンデッドの数が増えているからだ。これが殆ど存在しないアンデッドをこの広大な森の中で探すとなれば大変な話になるけど、今の状況ならよりアンデッド達の密度が多い方を探せばその要因に近づけるのは間違いない。その分危険性も増すけど……あくまで調査が目的だからいざとなったら逃げればいいので気が楽である、実際アイリーン様達にも身の安全を優先していいって言われてるしね。現在リンヴルムに向けて対霊術者等の増援も増えているらしく、その場合は戦力を強化して再調査を行うという事。
ただ、出来るだけ今回核心に近づいておいた方がいい気はするんだよな。物語的な話をすれば、俺がこの世界に来てから数百年レベルでほぼアンデッドが発生していなかった場所で大量発生だ。過去も俺みたいな存在が出現した時の話を考えると、いやなかみ合わせが起きている感じが否めないんだよな。
「よいしょっと」
作戦会議を終えてからしばらく時間がたち、俺はゆっくと寝床について体を横たえた。皆のお金の力で体力は都度回復してるからもう限界ってわけではないんだけど、フル回復していたわけでもないからこうやって横たえると、なんか体からちからがじんわりと抜けていく感じがする。疲れ溜まってたんだろうなー。あと今日は術も結構使ったし、なによりここまで一日の中で戦闘をした事って遺跡くらいだから気疲れもしてしまった。しかもあっちはどちらかというとこちらが奇襲をするのが基本だったけど、今回は完全にこちらが襲われる側だからね。
まぁありがたいことに、見張り番はグウェンさんと騎士の方々がしてくれるらしいので、体はゆっくり休める事ができるけど。アイリーン様いるのに、騎士様がこちら任せにはできないよね。
その分昼間はちゃんと働かせて頂きますっ。
まだ取得はしていないけど、状況を鑑みて取得を保留にしていた2つの術を取得する事に決めた。遭遇するアンデッドが大体複数体になってきてるし、これから先も増えていく可能性が高い事を考えると正直必須レベルでしょう。明日アイリーン様と別れた後みんなに話をしてから覚えるつもり。
「ふぁ……」
欠伸が漏れる。
まだ時間的にはちょっと早いんだけど、疲れとあと正直考える事が他にあんまりないせいか、眠気が結構湧いて来てる。探索ルートとかはアイリーン様の隊の方から指示受けているしねぇ。
それに、さすがにこの周囲にいつもの皆以外がいる状態だと、リスナーの相手をすることもできないからなぁ。
合流前の日中も前半は結構相手出来てたけど、後半はモンスター(アンデッド以外も含めて)の遭遇率増えてあんまり相手できてなかったし。
別に今までも半日とか相手できない時は普通にあったけどさ。ここ最近が大体一日相手にしてたから、なんか物足りなさを感じるというか……
カメラを手に取り、近くに寄って見つめている。
『あっ何、お顔近いんだけど!?』
『急にサービスタイムキター!』
夜は基本あんまり相手できないと言ってあるにも関わらず、視聴者数は結構多い。アイリーン様いるしね。あと巫女のお姉さんも清楚美人!って人だった。何この探索隊、美女率高すぎない? 俺含めてだけど。なので絵面としては悪くないだろう。勿論向こうの人たちは自身の姿が配信されているなんてことは知らないから、あまり映らないようにしていたけどさ。
顔近づけただけでコメント急加速したから、流しっぱなしにしているだけじゃなくて見ている人も多いんだなぁ。このカメラの向こうに万を超える瞳があるのである。もう慣れたけどトンデモない話だ。
「ふぁぁ」
またあくびが出る。あーもう駄目そう。んーと、大分早めに寝ちゃうことになりそうだし、ほんの少しだけサービスしとく?
コメント欄を見て、とあるコメントを拾った俺はそれを実践してやることにする。
両手を伸ばし、カメラの後ろに手を回す。頭の後ろに手を回すような感じね。それからもう少しだけカメラを引き寄せてから、少しだけ首を傾げてから口を開く。
「おやすみぃ、みんなぁ」
すやぁ……
──翌朝、半分寝ている頭でやった行為をきっちり覚えていた俺は、眼を覚ました後ちょっと赤面して悶えることになりました。いやまあこの程度とか今更大したことないんだけどね! 寝ぼけてなかば無意識にやったのがちょっとね!
前回残MP:2510280
今回増減:
トランスファー・バイタリティ費用 -19000
残MP:2491280