「……お風呂入りたいなぁ」
『さっき川あったじゃん? あそこで水浴びしてもいいんだよ』
『モザイク機能あるからデリケートな所が映っちゃう可能性もないしね!』
『勿論テイルちゃんやアキラさんもご一緒に!』
「いやだよ。絶対にいやだよ」
ぼそっと呟いた俺の愚痴をきっちり拾ったリスナー達のコメントに、俺は強い否定の言葉を返しておく。
いくらモザイクがあるから大事な所が隠れるとはいえ万を超える視聴者がいるカメラの前で全裸になるのはいやだし、そもそもの話、
「こんなアンデッドがうろちょろしている場所で水浴びとかしてたまるか」
『それはそう』
『サービスシーンの後に殺されるアレになっちゃうしね』
『よく考えたら向こうの人間の視界には当然モザイクかかることないから万が一姫様の部隊がそのタイミングできちゃうとカズサちゃんの神聖なボディがみられてしまうか。無しだな、脳破壊される』
その程度で脳破壊されるなよ。あと神聖なボディって何?
そもそもの話として、アンデッドがいなくても他の獣もいるし、更には水の中にも何がいるかわかったものじゃないので、このレンオアム大森林での水浴びなんて自殺行為に等しいだろう。それに服溶かされるくらいならまだしもそれこそR18になりそうなもの喰らったら後悔どころじゃすまないぞ。
「まぁ長くても後1日くらいの我慢だよ。がんばろ?」
「あ、うん。ごめんテイルさん」
リスナーと同様に俺の呟きを耳にしたらしいテイルさんにそう励まされる。
そうだよなぁ、テイルさんやアキラさんも基本綺麗好きなのに我慢してるのに甘ったれた事をいってしまった。もろに生まれ育った環境が影響しているんだよなぁ。こちらの世界でも便利な魔術があるからそこそこ風呂に入る文化はちゃんとあるんだけど、だからといって毎日入る人は少なくとも平民の中ではそれほど多くないし、ましてや旅先では数日は体を拭くだけで済ますなんてのは珍しくない話だ。毎日当然のように風呂に入り旅先でもさして労せず風呂に入れる環境に慣らされたわが身が憎い。
というか、以前向かった遺跡の時に比べて道のりが困難すぎて汗をすごい掻くから、猶更風呂に入りたくなるんだよな。
探索に出てからすでに4日目。先に進む程植生も変わり、更には足場も悪くなっているので体力の浪費スピードも加速している。今俺が皆についてこれているのは<<トランスファー・バイタリティ>>のおかげ以外の何物でもない。
そして森の密度が増すのと同時に、アンデッドの密度も増している。先ほどなどは8体の群れと遭遇した位だ。
まあ、俺が<<サンクチュアリ>>で一掃したけどな! カズサちゃん無双タイムだぜ!
……すんません、グウェンさんやテイルさんが上手く誘導してくれたからです。俺一人だったら何回も使う必要があったと思います。
それはおいておくとして、結局追加で覚えた<<サンクチュアリ>>と<<コンセクレーション>>は中々に役に立ってくれている。奥に進むにつれてどんどん数が増えており、アンデッドの癖に動きが早い奴も多いため、<<ピュリファイ・スピリット>>だけだったら対処追いついてなかったと思う。ゾンビとかスケルトンだけならアキラさんが魔術で足止めしてくれたりするけど、ゴースト型とかだと対霊術がないとどうにもならないしね……
ただ当然と言えば当然というか、<<サンクチュアリ>>は<<ピュリファイ・スピリット>>に比べて消耗が多い。<<トランスファー・バイタリティ>>は体力は回復してくれるけど魔力は無理だから正直な所、近々限界を迎えそうな気がする。テイルさんは長くて後1日といったけど、結果として今日の夜にはお風呂入れるかもね。
……いや、さすがにお風呂入りたいからってもう限界とか嘘は言わないよ? そこまでアレじゃないよ? 真面目な話俺は魔力が豊富な方なわけじゃなからな。さすがにぶっ倒れるまで使うのもアレだし。この後の遭遇率によるけど、今より更に上がったら多分無理だと思う。
一応MPを魔力にも変換できる術があるんだけど、こっちは<<トランスファーバイタリティ>>と違ってコスト激重だからまだ取得無理だからな。
ちなみに魔力の残量に関してはあくまで感覚だけど皆には伝えてある。下手に黙ってていざというときに駄目ですじゃきかんからな、今回の場合だと。
今くらいのペースでいくなら持ちそうではあるけど、ペースがあがった場合は日が暮れる前に撤退になって後はアイリーン様の隊に任せる事になりそう。さすがにあちらの巫女さんは本業なだけあって余裕ありそうだったからな。
……うーん、それにしても体がべたつくなぁ。
額から流れ落ちる汗を手ぬぐいで拭くけど、もうその手ぬぐいもびちゃびちゃだ。水分はアキラさんに<<ドライ>>で飛ばしてもらえばいいけど……。
「あの、ちょっと休憩入れない?」
先頭をあるくテイルさんに声を掛けると、彼女はコクリと頷いた。
「いいよー、少し休もっか」
「そうだな。アンデッド相手はカズサに頼らざるを得ないし、カズサが休憩をとりたいならそうした方がいいだろう」
最後尾を歩いていたグウェンさんも同意してくれる。
「少し行ったところに平坦な場所があるみたいだから、そこで休みましょうか」
アキラさんの言葉に従って少し進むと、確かにある程度平坦な場所があった。そこに辿り着いた俺は一応周囲を確認してから<<インベントリ>>を使い、中から大き目の鍋を取り出した。
気付かれたり不信に思われないように今回出来るだけ<<インベントリ>>は使わないようにしているけど、この場で使うだけのものを出すなら問題ないだろう。俺はその鍋を張り出した木の根の平らになっているところにおいて、その上に手を翳す。
「<<クリエイトウォーター>>」
俺の術によって生み出された水がそのまま鍋の中を満たしていき、丁度8割くらいを満たした所で止まった。……俺も少しは術の制御上手くなってきたな。以前だったら普通に鍋溢れさせてたし。
とにかくこれで準備はOK。続けて今の恰好から胸当てだけ外すと、手ぬぐいを鍋の水で湿らせてから服をたくし上げてその下に突っ込んだ。
あー、濡れた手ぬぐいが気持ちい。そうしてそのまま汗をかいたり溜まりやすい場所を拭っていく。わきの下とか胸の辺りとかね。ちなみにたくしあげた服の下の方から手を突っ込んで拭いているせいで、コメント欄が『おへそ』で埋まっていてちょっと怖い。
「カズサちゃん、この水使わせてもらっていい?」
「あ、どうぞー」
俺程は汗を書いてないし平気そうにしているけど、さすがにテイルさん達も汗は拭きたかったらしい。それぞれ手持ちの手ぬぐい濡らして服の中に突っ込んでいた。多分俺と同じところ拭いてる感じかな。うんそうだよね、そことか汗溜まるしね。ちなみに俺達の中では一番重装備なグウェンさんは流石に首元とか顔とか腕とか拭いてただけだったけど。
「洗い終わったら貸して頂戴。<<ドライ>>で乾かすから」
汗を拭った手ぬぐいを鍋の水で洗ってたらアキラさんがそう言ってくれたので、軽く絞ってから彼女に渡す。ついでにアキラさんやテイルさん、グウェンさんの分も洗ってゆく。
『カズサちゃん達の汗の溶け込んだ水』
『聖水では?』
『これは間違いなく売れる。こちらの世界に転送する手段があればっ……!』
『飲みたい』
リスナーに変質者が混じっているのはいつものことだが、さすがに飲みたいは気持ち悪いぞ。後グウェンさんの汗も混じってるからそれは忘れるなよ?
さて変質者は置いておいて、さすがにこの水は捨てるしかないと鍋を持ち上げた時の事だった。
「うひゃあっ!?」
地面が大きく揺れたのは。
前回残MP:2491280
今回増減:
サンクチュアリ -700000
コンセクレーション -340000
トランスファー・バイタリティ費用 -64050
残MP:1387230