「まずお前の考えはどうなんだ、アキラ」
アキラさんの言葉に対して、答えるのではなくそう問い返したのはグウェンさんだった。
「この先をどう考えている? すでに頭の中にあるだろう」
「まぁね」
アキラさんはコクリと頷き、それから肩を竦めて嘆息してから言葉を続けた。
「まぁ面倒だけど付き合うしかないでしょうね。この状況下でフェードアウトは印象が悪すぎるわ」
「だよねぇ。ここまでに関わってなかったらそれも問題なかったんだろうけどさ」
テーブルに両手で頬杖をついてテイルさんも同意する。
探索者にはきちんと仕事の選択の自由がある。だから森で危険があったからと今依頼を受けても俺達に特に引き受ける義務はない。俺達はこの街の住人ではなくただの観光客なので、危険を避けて退避するのはおかしくないだろう。
ただ俺達はすでに依頼を受けてしまっているわけで……一応今回受けた依頼は探索任務だけだから奴等の討伐や迎撃は別に受けたわけではないんだけど、
「カズサの対霊能力を知られている以上、軍や協会はこちらに強く協力を要請してくるだろう。無論こちらには拒否する権利はあるが……」
グウェンさんの言う通り、問題は俺の能力だ。それでなくとも対霊術を使う人間の人手が足りてないなかで、更に森の中でみたあの数だ。軽く見ても3桁は存在するのは確実、実際はアレが全部ではないだろうから更にいるのは間違いないだろう。そんな状況下で味方へのバフの付与や範囲に対する対霊術は絶対に確保したい人材である。
実際ひとまず探索が終わったのに待機を求められているのはそれが理由だろうしな。その状況下でノーと言えるかっていうと、うん……国に対しても探索者協会に対しても印象が悪くなりすぎる。
そう考えるとやむなしだよなぁ、と思ってそう口を出そうとしたら、一呼吸早いタイミングでアキラさんが口を開いた。
「とはいえ、何よりカズサちゃんの安全が優先よね」
「え?」
「アタシ達の雇い主はカズサちゃんよ? 雇い主の安全を優先するのは当然でしょう」
いや、テイルさん達はともかく貴女私から報酬受け取ってないじゃないですか。ちなみに今はテイルさんとグウェンさんも"お友達価格”(テイルさん談)にしてくれている。
「ただまぁ例え協力するにしても最後まで戦う契約をする気はないがな」
「<<ポイントテレポート>>があるから戦場のど真ん中に放り込まれなければ、ボクたちの安全は割と確保できるよねぇ」
続けて語る二人の言葉にアキラさんは頷き、そのまま俺に向けて告げる。
「というわけで、理想はカズサちゃんは後方支援で協力するのが無難だと思うけど、どうかしら?」
「その場合は、アキラさん達はどうするの?」
「さすがに私は前線に出ると思うわ。連中の数を考えると、対霊術は使えないとはいえ高位の術士は前線に欲しいでしょうし、貴重な<<ポイントテレポート>>持ちだしね」
「その場合は俺がアキラの護衛について、テイルはカズサの護衛に残す事になるだろうな」
「相手がアンデッドならボクよりグウェンの方が間違いなく向いてるもんねぇ」
アンデッドの種類にもよるが、ゾンビやスケルトン程度なら対霊術を使わなくても物理的に動けないようにしてしまえば無力化できる。そうした場合、一点に対する攻撃が多いテイルさんより攻撃の影響範囲が多いグウェンさんの方が向いているだろうからそうなるのはわかる。
俺の安全を考え、尚且つリンヴルムの軍や協会に対する義理を果たすのであればそれが一番無難であるのは俺でもわかる。でも……
皆の視線が俺に集まる。その視線に押されて思わず口を開きそうになるが、なんとかそれを押しとどめる。ちゃんと考えてから答えを出したい。
リンヴルムの街、アイリーン様やカシュナート様、探索で顔を合せた騎士や巫女様、これまでの街並み、そしてアキラさん、テイルさん、グウェンさん。それらを頭に思い浮かべたら自然と答えは頭に浮かんでいた。
こちらに向いた皆の視線を受け止めて、俺は答えを返す。
「俺も前線に出るよ」
その答えにだが三人は驚く事はなく、たた静かにアキラさんが口を開く。
「理由を聞いてもいいかしら?」
彼女の言葉に小さく頷いてから、俺は言葉を続ける。
「まず一切何もせずに撤収っていうのはないよね。さっき皆が話した評判の話もそうだけど、そもそもの話寝覚めが悪くなる」
「だねー。別にボク達がいれば万事解決! ってわけでもないけど、そうして何かあった場合もやもやするよねー」
「で、さっきアキラさん達が上げてくれた案だけど……俺は皆が前線に出るんならその場にいたい。アキラさんやグウェンさんの実力は疑ってないけど、今回は相手がアンデッドだ。何か想定外の事が起きたとき……例えば《ポセッションガード》が切れてレイスに憑依されてもその場にいればすぐ助けられるから、それに……」
「それに?」
「今回の件はさんざん話し合っている通り、タイミングが俺の召喚に絡んでいる気がする。だとしたら、俺に出来る事がある可能性もあるかもしれない……例えばゼノギアに全力<<チャージ>>の<<ピュリファイ・スピリット>>をぶち込むとか」
「無理やりこちらの世界に連れてこられているカズサちゃんに、そういった事をする義務はないのよ?」
「解ってる。けど、アキラさん達がいるこの世界が荒れるのを防げるなら防ぎたいよ」
英雄願望があるわけではない俺には、世界を護るんだ!って気持ちは今だって起きていない。だけど、身の回りの人、特に大事な人たち……アキラさん達やアパートメントの住人達が暮らす世界を荒れさせる存在に対抗する力があるならなんとかしたいくらいには愛着だって産まれているんだ。
「勿論、命の危険を感じるようだったらとっとと逃げさせてもらうけど……ってどうしたのアキラさん?」
自分的に格好良いセリフを言った後に情けない補足を入れていると、何故かアキラさんが席を立って俺の方へと寄って来た。そしてこちらの方を見下ろして、
「もー、カズサちゃんったら! そこまで私達の事好きになってくれてたのね!」
「わぷっ!?」
次の瞬間その胸に思いっきり抱き寄せられていた。
「あー、いいな、ボクも!」
更に視界がふさがれている中、反対側からも柔らかい何が押し付けられる。というかテイルさんの体だよね!?
「うー!」
「もう、可愛いわねカズサちゃん」
「うんうん可愛い!」
ジタバタ暴れてるのに思ったよりアキラさんのホールドが強く離れない。というかテイルさんも加わったせいであまりジタバタもできない。
「グウェンは駄目よ?」
「そうだよ、こーゆーのは女の子同士のスキンシップ!」
「するか! というか、そろそろ離してやれ。ジタバタしてるぞ」
「はーい」
グウェンさんのおかげで解放された。ふう……ありがとうグウェンさん。
『あら~』
『あら~』
『あら~』
『顔真っ赤にしてて可愛い』
『カズサちゃんもうほぼ女の子だけど、その照れはずっと無くさないでほしい』
そりゃ、赤くもなるわい! スキンシップ激しいから柔らかさは耐えられるけど、風呂上がりだから二人ともいい香りするし……何より急に来たから心構えが出来ていなかったのもある。
──話を戻す!
結局今後の方針に関しては俺の意思が優先という事で、このまま仕事を継続する事になった。といってもこちらから積極的に動くわけではなくアイリーン様達からの依頼待ちだけどね。
で。あのアンデッド軍団を相手取る事を決めた以上、他にも有効な能力がないかなとメニューを開いたところ、俺はある所に気づいた。
「あれ、これ……」
メニューの中の通知領域。そこには、以下のメッセージが表示されていた。
【InfomationMessage】
──新しい機能がアンロックされました。ヒロイックサーガが利用可能になりました──
──ヒロイックサーガにトウドウ サエが登録されました──