「新機能? このタイミングで?」
何がトリガーだろう? 少なくともつい先日森の中で新規能力を取得した時には出ていなかったメッセージだ。その後にMPはあまり増えていないし、MPの消費もしていないからそこはトリガーになってないだろうけど。
『タイミング的にはあの骸骨が関係あるかな』
『特定の場所に行くとみたいな感じかもしれんね』
『コラボ機能解放の時みたいに、行動でフラグが立つ感じかな』
確かに、前回の確認の間に起きた出来事としたら大量のゾンビの討伐と、あの骸骨及びアンデッド軍団との遭遇だ。リスナーが言う通り、コラボ機能の解放の時のように俺の何かしらの行動でフラグが立つのだとしたら、あの骸骨──ゼノギア(仮)の可能性が高いだろう。
で、新たに解放されたヒロイックサーガだけど……単純に読み取れば英雄譚かな? この世界の英雄に関する物語? トウドウ サエって誰だろう。聞いた事のない……いや、なんか引っかかるところがあるような……
「トウドウ サエ……500年前ゼノギアを滅ぼした、異世界の英雄の名前ね」
そうだった!
横からメニュー画面をのぞき込んだアキラさんの言葉で、俺は自身の記憶を呼び覚ます。確かにパストラにいる時に読んでいた本の中にのっていた、この世界の英雄の名前だ。別に皆覚えているわけではないけど、トウドウ サエって日本人っぽい名前に見えたからなんとなく覚えてたんだよな。多分 藤堂 冴とか藤堂 紗枝とかそんな感じ?
とりあえずどんな能力か確認したところ、以下のような記述があった。
<<トウドウ サエの召喚>>
"知識の召喚” 1分 10000MP 対象の英雄の保持していた情報を引き出す事が出来る。
"能力の召喚” 1分 100000MP 対象の英雄の能力を使用できるようになる。本来の英雄の能力の威力をそのまま引き出す事はできない。
"英雄の召喚" 1分 250000MP 対象の英雄を一定時間実体化させることができる。
「……いや、たっか!」
1分だけで10000はともかく、1分で100000か250000って……特に"英雄の召喚"は今の保持MPだと5分くらいしか呼び出せないぞ。
『うおお、召喚魔術とな?』
『コスト重いけど、その分強そうだな』
『早速使ってみようぜ!』
「出来るか!」
テストで使うには消費が重すぎる!
「……"知識の召喚"くらいなら試していいんじゃないかしら」
多分好奇心からか軽い気持ちで機能を使わせようとする連中に突っ込みを入れる俺の横で、アキラさんがそう口にした。確かに"知識の召喚"だったら1分10000だから、数分程度の利用なら確かにそこまで痛くはないけど……
「これが、500年前の英雄トウドウ サエなのであれば、ゼノギアに関する情報を入手できるかもしれないわ。試してみる価値はあると思う」
確かに。
「じゃあ、使ってみる?」
『先に質問内容をまとめた方がよくない?』
「お、ナイス助言」
確かに時間制限のある質問タイムなら、ちゃんと内容まとめてからの方がいいな。助かるぜ。
「それじゃ、皆で質問をまとめようか」
グウェンさんとテイルさんが頷く。
「皆も協力してな」
『任せて』
『数の力というものをお見せしますよ、フフフ……』
『それにしても、いよいよカズサちゃんはそっちの世界を護るために呼びだされた可能性が確定して来たな。この機能とかそういう意図がなければ与えられない能力だろ』
だよなぁ。俺もそう思った。過去の英雄の召喚とか、普通に暮らしていく上では絶対にいらない能力だし。
『これは確実に勇者カズサちゃん!』
『むしろ聖女カズサちゃんでは?』
『カズサちゃんが聖女だと、最終的に王子様と結婚してしまうのでは? お誂えむきに王子様出てきてるし。脳破壊ガガガ』
変な称号つけるのやめて。あと王子様と結婚はネット小説とかの読みすぎだろう。
『元々カズサちゃんは俺達の性女だしなんのかわりもないな!』
「いや、その誤字はわざとだろう! そもそも俺はえっちな要素のある配信してないだろ」
『えっ』
『えっ』
『えっ』
「えっ?」
確かに常時配信しているからちょっとだけえっちな部分が映っちゃっている事はあるからと少しだけ受け入れつつも、さすがに性女呼ばわりはセクハラだぞと説教をしてからリスナーも含めた皆で話しあって、俺達はひととおりの質問をまとめた。まぁ質問の回答に応じて別の聞きたい事ができるかもしれないが、そこら辺は臨機応変だろう。だいたい累計で100000MP、10分くらいは許容範囲としたので、大抵の事は聴くことが可能なハズだ。
「それじゃ、能力使うよ」
どのような感じで出てくるかはわからないので一応部屋の中で空いてるスペースの所に並んでから召喚を行う事にした。全員が頷くのを確認してから、俺はメニューを操作する。
「"ヒロイックサーガ"、"トウドウ サエ"、"知識の召喚"っと」
ポンポンポンっと軽快にタッチすると、俺の目の前の空間が一瞬少しだけ歪んだようにみえて、次の瞬間にはそこに一人の女性の姿が映し出された。
黒髪黒目。顔の造形も欧米人のようなものではなく日本人的な顔だ。やっぱりこれ日本人なのでは? 年のころは……多分20代後半くらい。色白で、俺の感覚でいえば間違いなく和風美人と呼べる顔だ。視界に映るコメント欄が沸き立っているのが見える。
そんな女性の姿が、全身ではなくバストアップくらいの感じで表示される。立体的ではなく平面な感じなので、ディスプレイに映されているような感じだ。そしてそんな情報量の削られた映像であっても、ご立派なお胸をお持ちになっているのがわかる。見た目自体は清楚な雰囲気なのにそれなので、ちょっとアンバランスな色気を感じてしまう。リスナーが興奮しているのはこれもあるだろうなぁ。
っと、そんな分析をしている場合ではなかった。時間制限付きなんだからのんびりしてちゃ駄目だ。
「貴女は、500年程前に"不死の王"ゼノギアを倒した、トウドウ サエさんですか?」
まず確認事項としてはこれが大前提だ。ここが違っていると以降の質問は殆ど無駄になるからな。
応答は、女性の声で返された。
「はい。私はトウドウ サエと申します。過去にゼノギアをレンオアム大森林で倒しました」
発せられる声は、抑揚のないひと昔前の機械音声のようなものだった。ただ単語を無理やりつなげたような不自然な感じではなく、喋り自体は流暢なものだった。
とにかく、大前提は確定できた。あとはもう一つの前提を満たせれば、今の状況で有益な情報を引き出せることになる。
次の質問は、アキラさんが口にする。
「くすんだ黄色のローブ、骸骨の姿に眼窩の奥に赤い光を湛え、流暢に喋る。多数のアンデッドを生み出し、地面の中から骨の槍を作り出す。この者は"不死の王"ゼノギアと考えていいかしら」
「その情報から断定はできませんが、私の記憶の中に存在する"不死の王"ゼノギアの条件には全て合致しているため、その可能性は高いと思われます」
……よし! いや、過去に猛威を振るった怪物が蘇った可能性がこれで非常に高くなったから決して良くはないんだが、これで彼女からヒアリングを行う事で、奴に対策を行う事ができる。
……まぁこれで手に入れた情報を、アイリーン様とかにどうやって伝えるのかという問題もあるけど。アイリーン様だけにでも俺の能力を開示して、一緒に聞いてもらうとかの方が良かったのかな。ただその場合アイリーン様は今すごい忙しいハズだから、情報の入手が遅れる可能性がある。能力を信じてもらうために能力開示するのは後でもできるから、うん、今はとにかく情報を入手しよう。
次の質問を、今度はグウェンさんが口にする。
「ゼノギアの能力を、知っている限り教えてくれ」