先程までサエさんが投影されていた場所を見つめながら、俺は先ほどの質問に関して考える。
正直な所、回答は予想通りだったのでそれほど思うところはない。今の質問は概ね予測がついていた事を改めて確認したようなものだった。
それは、少なくとも召喚された目的を果たしてすぐ帰還するということはないということ。
これまでアキラさんに話を聞いたり書物で調べたりしてみたけど、記録に残っているいずれの人物も事を成し遂げた後即姿を消したということはなかった。記録に残っているくらいだからサエさん同様皆この世界の危機になりうる存在を滅ぼしたとあるんだけど、その後に姿を消したというのはある程度の時を経てからならあるけど、少なくとも滅ぼした直後というものはない。まぁ可能性からしたらその英雄の名を利用したいがために帰還していないと偽装したとか、あるいは記録上は存在したと残しただけの可能性はあったんだけど。
でも少なくともサエさんは、即時に送還されたわけではないだろう。ある時期以降の記憶はないのは、もしかしたらしばらくしてから帰還できたからそこまでしかないのかもしれないけど……戻ったタイミング以降の記憶がなくてもその前段での記憶で帰れることを認識してそうだし、まぁサエさんに関しては戻れていないと考えるのが妥当かな。
まぁ何にしろ、持っていた心配事の一つに関しては答えが出た形にはなったので(あくまで俺とサエさんがこっちの世界に来た理由が一緒ならという前提がつくけど)、小さく安堵の息を吐きながら振り返った──そこで俺は、他の3人がこちらに視線を向けている事にようやく気付いた。
しかもその顔には明らかに憐みを含んだ表情が浮かんでいる。
え、なんで?
ついでにコメント欄に流れるのも「気を落とさないで」等の励まそうとしている言葉や、「きっと帰る方法はあるから」って──
あ。
もしかして、サエさんから帰る方法に関する情報が手に入らなくて、俺が落ち込んでいると思ってる!?
俺が慌てて質問が自分の想定の確証を取る事が目的だったことを説明し、別段解っていた事だから落ち込んでいないと伝える。が、それでもまだ皆の表情が晴れることはなかった。なので、俺はそもそもの理由を続けて口にする。
「えっと、とりあえずさ。目的を果たした時にいきなり強制帰還をさせられるかが知りたかったのは、事をなしたら帰れるかが知りたかったわけじゃないんだ」
「……? どういうこと?」
テイルさんが首を傾げ、他の二人も同じ反応を見せたので、俺は言葉を続ける。
「……だって、目的果たした時にいきなり帰されるんだったら、みんなとちゃんとお別れできないじゃ……わぷ!」
言葉を最後まで言い切る前に、左右から柔らかいものが押し付けられる。アキラさんとテイルさんが両側から抱き着いてきたのだ。さらに、グウェンさんも近寄ってくる……え、グウェンさんも抱き着いてくる? この状況できたらグウェンさん炎上しない? なんてことを一瞬思ったが、彼はその大きな手を俺の頭にのせてわしわしと頭を撫でて来ただけだった。そうだよね、グウェンさんそういうキャラじゃないもんね。
あとアキラさんはほっぺた擦りつけてくるのはやり過ぎでは? みんな見てるから!
「そうだよね、カズサちゃんと別れたくないけど、戻るんだったら盛大なお別れ会やりたいよね」
逆にテイルさんの方は体を離して正面からそう言ってくれたので、コクリと頷く。
「まぁそれと、この格好のまま還されるのも困るってのもあるけど。向こうの俺は男だから、戸籍とかどうなるのかってのもあるし」
『そこは国に働きかければなんとかなるんじゃない?』
『俺達が証人になるぜ! カズサちゃんの過去の姿しらんけど』
『後その恰好でこっちに帰ってくると、静かな生活送れないのは確実だよね』
だよなぁ。美少女だからそれでなくとも目につくだろうし、登録者は50万を超えて視聴者も万を超えているレベルだ。街を歩いてたら気づかれるのは確実だし、間違いなくメディアにも押しかけられるのは確定だからなぁ。
今も多くの目で見られているのは同じっちゃ同じだけど、こっちは直線視線を感じるわけではないし、コメント欄を見ない限りは向こう側から何かできることはないしな。
だから日本に戻るのは前も思った通り男の姿に戻った後なのが前提条件。それに戻ったらさすがにアキラさん達と今のような関係は難しいだろうし。だけど、もし、帰る方法があっても戻る方法がないのであれば──いろいろ考えることがあるけど、今は口に出さない。そんなまだずっと先になるであろうことより、今は話す事が先にある。
「アキラさん、ちょっと離れて」
「えー、可愛い事いうカズサちゃんをもうちょっとむにむにしてたいんだけど」
「いや、ゼノギアの話ししよ?」
「あー、それもそうだわ。むにむには後でしましょう」
後でするんだ。まぁそれはいいとして。
アキラさんが素直に離れてくれたので、俺達は皆を促し先ほどのテーブルに戻った。
「で、どうする?」
「今聞いた話を、全部アイリーン様に伝えよう」
問いかけの言葉を口にしたグウェンさんに、俺はそう即答した。テイルさんとアキラさんがその俺の反応に驚いたのか、目をぱちぱちと瞬いている。
「いいのか?」
「いいも何も、こんなの俺達だけで抱え込めないよ。情報を流さない事によっておこりえる問題が大きすぎる」
「でも向こうもゼノギアの情報はある程度残っているハズだよね。ボク達が伝えなくても知っているかもしれないよ?」
「それに、私たちが伝えても信じてもらえるかしら」
「今の状況で、情報元がはっきりしない話を信じてもらえるかは五分だな」
眉尻を下げた表情でテイルさんが口にした言葉に、アキラさんとグウェンさんがそう言葉を続ける。皆がそう口にするのは俺の事を心配してくれての事だろう。俺が否定的な意見を言えるような空気を作ってくれている。でも逆に言えば、俺が決断すればそれで終わる話だ。だから、俺は口を開く。
「サエさんをアイリーン様の前で呼び出して、先ほどの一部を語って貰う。後はコラボ機能を使って俺の能力も見せればさすがに信じてもらえるでしょ」
「……いいのね?」
「うん。アイリーン様に出来るだけ口外しないようにはお願いしたいけどね。それと……」
「それと?」
「サエさんの召喚……状況によっては能力の召喚も使って最前線で参戦しようと思う」
元々サエさんの話を聞く前から前線に出るって話にはなっていたけど、多分3人の考えはあくまでサポート役で俺を前に出す気はなかったと思う。実際"最前線"という言葉に、アキラさんは身を震わせ、テイルさんはガタっと立ち上がった。そうして口を開きそうになった二人を手のひらを向ける事で留めて、俺は言葉を続ける。
「こうなった以上、俺が過去の人たちと同じ理由で召喚されたのはほぼ確定と考えていいと思う。別に英雄になりたいとかそういう願望はないけど……これまで俺は大体受け身で動いてきたけどさ、さすがにこんな大勢の被害がでそうな状況でそれに対応できそうな力もあるのにしないってのは流石にかっこ悪すぎて男としてできないよ。配信者としても呆れられそうだし」
「女の子よ?」
「カズサちゃんは女の子!」
「女の子だなぁ」
『カズサちゃんに呆れるなんてとんでもない』
『完全無欠の美少女だよ!』
『駄目よ、カズサちゃん。そう言う事に男の子も女の子もないの。だからカズサちゃんは男の子ぶらないで女の子のままでいいのよ』
『カズサちゃんはかっこよくなくても可愛ければいいんだよ?』
『まだ自覚が足りませんねぇ……これは教育しないと』
『情けない姿はそれはそれで好物なのでヨシ!』
『まーたカズサちゃんが元男だったなんて妄想してる』
「いや話の腰を折らないでくれる?」
後最後の奴、妄想じゃねえよ、ちゃんとチャンネル名見ろ。