確かにそれが可能なら、二つの戦場をどちらもカバーすることができる。<<ディスインテグレイト>>を使える俺がこちらの戦場に残らざるを得ない以上ゼノギアの方が呼び出した"英雄"に対応してもらう必要があるけど、使用するのに必要なコストから考えても呼び出した英雄の方が強いのは間違いない。だとしたら戦力的には問題ないハズ。
ただ、懸念が二つあった。
俺はメニューを開き、残りのMPの量を確認する。
残りMPは491万。開始時点では611万だったからこれまで12分が経過したことになる。このまま俺一人だけが力を使い続けるのであればまだ49分戦える計算になるけど、平行で使用した場合14分と大幅に短くなってしまう。
もう一つの懸念は、呼び出された"英雄"がどれだけ状況を理解してくれているか。まったく理解がないなら状況の説明が必要だし、説得にも時間が必要になる。なんならそれだけで時間を使い切ってしまう可能性がある。
こちらでアンノウンが憑依しているハズのドラゴンゾンビを倒してから行くという選択肢も存在する。どうする──
頭の中で思考が錯綜する。
そんなタイミングで俺の背中を押してくれたのは、グリッドの時と同じようにリスナーのみんなだった。
『カズサちゃんなんか考え込んでる?』
『さっきの提案かな? 平行使用のMP心配してるのかも』
『異世界の話とはいえカズサちゃんやアキラさん達が暮らしている世界だ、いくらでも力を貸すよ!』
『あるぜっ! ここにカズサちゃん専用の燃料タンクがな!』
『寝覚めが悪くなるからな、仕方ないから手を貸すぜ』
『明日から始まるアニバのガチャ予算、カズサちゃんに託すぜ! さよなら期間限定レア……』
『ここに今月の生活費があります。──後はお分かりですね?』
『カズサちゃんが悲しむような事、俺達がさせねぇぜ!』
『カズサちゃんがしたい事をしなよ、出来るだけ支えるからさ』
──こいつら。
コメント共にカラフルなスパチャが飛んでくる。前回のブルマ企画で高額が飛びまくっているのでさすがにその時程ではないが、それでも数が多いし一部赤も混じっているのでそれなりに伸びている。今は1分でも継続時間が伸びるのが助かるので本当にありがたい。
うん、みんなが望んでくれる事なら悩む必要はない。そもそも悩む時間がもったいない。行こう。
「ありがと皆。"英雄の召喚"を使わせてもらうよ……あ、生活費の人はさすがに無理しないでね」
そう口にしながらメニューを操作してゆく。
「この戦いが終わったら、精いっぱいのお礼はするからね、皆」
『エッ』
『マジで!? どこまでOK?』
『これは期待せざるをえない』
『してもらいたいこと考えなきゃ』
そう言うところはブレないよね皆、と心の中で苦笑しつつ、俺は最後の選択を行う。
次の瞬間、正面の空間が歪んだ。その歪みは色を纏い──一秒も立たないうちに、その場には今の俺と瓜二つの女性が目を閉じて立っていた。
「トウドウ サエさん、ですね? 今は──」
「状況は理解していますので説明は不要です、今は時間がないのでしょう?」
話しかけようとした声の途中で、サエさんが目を開き、そう口にする。どういう仕組みなのかはわからないけど状況を理解してくれているのは非常に助かる。
更に、こちらが言葉を作る前にサエさんは言葉を続ける。
「私をゼノギアの元へ。過去の不始末です、私が片付けます」
本当に状況を理解しているんだな。だったら、
「アキラさん」
「うん」
「グウェンさんと一緒に、クーストス側の方へ飛んでもらえますか? サエさんの案内と護衛を頼みます」
「……わかったわ、任せて」
アキラさんが頷いてくれたのを確認してから、俺はカシュナート様に連絡を入れる。
「カシュナート様。クーストスの方には"英雄"に向かって頂きます。天幕に戻ればいいですか」
『……ああ、<<ポイントテレポート>>の術士は天幕で待機をしている』
「了解しました──アキラさん、天幕へ」
「わかったわ、グウェン、サエさん、手を。飛びます」
差し出された手にグウェンさんは即座に、サエさんは一瞬戸惑う様子を見せてから触れ、その瞬間3人の姿は消え去った。アキラさんの<<テレポート>>で天幕の方へ飛んだんだろう。
よし、これでひとまずクーストスの事は頭から追いやろう。あの二人もついているし絶対に大丈夫!
アキラさんの術の一撃で一度倒れていたドラゴンゾンビだが、すでに体勢を立て直しこちらに再び向かって来ている。というか割と平然と皆話していたけど、実際はコメ欄で「早く逃げて!」とコメントするリスナーがいる程度にはすでに奴は近くに寄ってきていた。とはいえ、途中で一度勢いを消されたせいでその巨体の速度はそれほどではない。だから俺は余裕をもってテイルさんの手を握り、
「<<テレポート>>」
再び術を使って、奴から離れた位置に移動する。そして奴の方へ向き直る前に、術を行使する。
「"雪椿"」
まずは戦場で戦っている戦士たちにバフを。最初にかけてからそれなりに時間が経っているから効果も薄れているだろうからね。再び戦場に霊力の雪が降り注ぎ、戦い続ける戦士たちに霊と戦う力を与えてゆく。
それから間髪入れずに"竜舌蘭"、近場にいて戦士たちが攻めあぐねていた大型アンデッドの一体の憑依している霊を消失させる。これで下準備は完了。
「テイルさん」
「うん」
「この後、俺はドラゴンゾンビに集中するから、周囲のアンデッドの掃討を騎士と連携してお願い」
「わかった。……カズサちゃん、気を付けてね」
「大丈夫!」
あれが動きの速い人型モンスターとかだとヤバかったけど。幸いな事にあの大きさのおかげでテレポートが使える俺はあいつを容易に回避できる。
あいつがアンノウンであるなら、アイツに有効打を打てるのはこの戦場では俺だけ。だったらそちらに専念しやすいように周囲のスケルトンやゾンビたちを処理してくれる方がありがたい。
ドラゴンゾンビは再び馬鹿の一つ覚えのようにこちらに向かってくる。……憑依しているのが霊ならゼノギアの天敵であろう姿をしている俺の眼の敵にしてくるのはわかるが、霊を消失させた後でも俺狙いのは何故なんだろうな? まぁこっちにとっては都合がいいが。なにせ<<ディスインテグレイト>>は発動までのラグがある上に術の使用は場所指定、しかも射程が長くない。激しく動きまわる相手だったらとてもじゃないが当てられない。アキラさん達の力を借りて動きを止めてもらう必要があるだろう。
だけどこっちを狙ってくるアイツ相手なら──せまりくる巨体を恐れない心がありさえすればいい。
そしてさすがに、それくらいの覚悟はできている。怖くないわけではないけれど、逃げ出すような心はない。
「<<ディスインテグレイト>>!」
迫りくる巨躯から目を逸らさず、射程のギリギリ外側まで奴が近寄ってきたところで俺は術を発動した。使用した位置は奴のわずか前方。数秒後、奴がいるであろう場所。
その予測は外れることもなく発動した術は奴の右前足の辺りを飲み込み──ドラゴンゾンビは突如力の抜けた足でバランスを崩し、地面に転がる事になった。その奴とぶつかる前に、俺は<<テレポート>>で奴の側面へ移動する。勢いついてるからそのままだと吹っ飛ばされるからね。
しかし、これでアキラさんの予想は確定だ。あれを動かしているのはアンノウンで間違いない。
倒れ伏したドラゴンゾンビは、だが再び右前足に力を入れ、ゆっくりと起き上がろうとしている。多分別の所から力を流しなおしたのだろう。
<<ディスインテグレイト>>の効果範囲では、アイツの全身を包み込むことはできない。だから少しずつ削っていくしかない。
「さぁて、こっからは消耗戦だが……皆の力も託されたんだ。絶対に勝つからな!」