「……っとと」
アンノウン憑依のドラゴンゾンビの突撃を<<テレポート>>で回避し、出現した先で着地時にぐらついてしまい、俺は慌てて足に力を入れて踏みとどまる。
「大丈夫?」
「うん」
すぐに俺の側に駆け寄ってきてくれたテイルさんの言葉に、俺は短く返事を返す。
うん、まだ大丈夫だ。ぶっ倒れるほどじゃない。でも間違いなく消耗しているのは感じ取れている。
冴さんの能力を使った際に感じる消耗はあくまで冴さんの体としての消耗で自身の力が削れている感じではなかったけど(この辺感覚的にそう感じているので詳細な説明は難しいけど)、今使っている<<テレポート>>と<<ディスインテグレイト>>は本来の俺の力を使っている。その消耗が表に出てきていた。今の体は冴さんなのに、あくまでベースは元の俺の体って事なのかな……
そして消耗する程度には何度か<<ディスインテグレイト>>をドラゴンゾンビに叩き込んではいるんだけど、奴はまだ動いている。ただその動きがぎこちなくなっているのを見ると、効いてはいるハズではある。
後何発叩き込めば終わるかわからないのがきつくはあるけど……とにかく戦い続けるしかない。
あと、ちょっと気になってることが
「いやー、みんな、単調すぎてごめんな?」
何せやってることが向こうの動きを予測してそこに<<ディスインテグレイト>>を発動、その後術の待機時間に突っ込んできたドラゴンゾンビを<<テレポート>>で回避の繰り返しである。なんか戦い方が完全にルーチン化されているゲームのボス戦をやっているみたいで絵面が地味なんだよな。
まぁそんな単調な戦いだからこそこんな余計な事を考える余裕があるわけだけど……
『いやあの馬鹿でかい図体のドラゴンが突っ込んでくるとか迫力凄すぎだけど!?』
『背景の他の人たちのバトルが割と派手なので単調って事はなくね』
『カズサちゃんがピンチになるくらいならずっとこのままであってほしい』
コメント欄はそう優しいフォローをしてくれているけど。
『しかしドラゴンゾンビ、味方の扱いが本当に雑だね』
「本当にね。そもそもアンデッドを味方と認識していないのかもしれないけど」
ドラゴンゾンビは先ほどから自分の進行方向にいる普通に弾き飛ばしたり踏みつぶしたりしている。今も俺が"竜舌蘭"で倒した大型のアンデッドを雑に足で押しのけていた。アンノウンが何故ゼノギアのアンデッドの軍勢の中に混じっているかはわからないが、協力関係というわけではなく単純にその中の一体を乗っ取っただけなのかもしれない。こちらとしてはアンデッドを倒してくれるのは普通に助かるけど。
戦闘自体は大分楽になってきている。アンデッドの数も大分減り、残っていた大型も他の人たちの手で倒されたのだろう、動いている姿は見当たらない。当然負傷者が出ているであろうこちらの数も減ってはいるが戦力のバランスは完全にこちらに傾いている。ゼノギアがこちらに合流でもしない限りはこの戦力比が覆ることはもうないだろう。
であれば、このドラゴンゾンビを倒せば事実上後は掃討戦になるんだが……!
自分の進行位置にいる亡骸を押しのけたドラゴンゾンビが体をわずかに沈める。突撃を開始する前の初期動作だ。実際、一呼吸置いて再びドラゴンゾンビはこちらへ突進してくる。相変わらず単調な動きだ。俺は再び奴の速度から到達位置を計算してその位置に向けて術を行使する。
そうして再び奴はその術に飲み込──めなかった。
「さすがに学習したか!」
俺が魔術の行使を行った瞬間、奴が減速を行った。その結果<<ディスインテグレイト>>を展開した場所に奴の巨体は到達せず、<<ディスインテグレイト>>は何もない場所で空しく発動する。さすがにタイミングを読まれたらしい。
熟練の術者なら毎回うまくタイミングをずらしたりするんだろうけど、経験不足とやはり巨体が迫ってくる恐怖もあってか、射程の問題もあり同じようなタイミングで発動させてしまったのだろう。
大分速度を落としていたドラゴンゾンビが、再び速度を加速してこちらに向かってくる。……奴への攻撃方法をを考えないといけないけど、まずは回避だ。俺は左右を見て回避方向を確定する。テイルさんは……奴への術の行使を失敗したのを確認したためか、スケルトンを砕いてからこっちに向かっている。
「テイルさん!」
「カズサちゃん!」
駆け寄ってきたテイルさんに手を伸ばせば、彼女はぎゅっとそれを握りこんでくる。その感触を感じた瞬間俺は視線の方向を変え、術を発動する。
「<<テレポート>>!」
視界が切り替わる。再びわずかに感じる落下の感覚と共に。足元にぐにっとした感覚を覚え、バランスを崩す。
「カズサちゃん!」
一緒に転移したテイルさんが支えてくれたので倒れこむ事は避けられたけど、何だ今の感触……? と思ってそちらを見たら上半身だけとなった猿のような生物のアンデッドの亡骸があった。<<テレポート>>先の足元に転がっていたらしい。術を回避されたせいで少し動揺していたのかな……気を付けないと。
そこに霊体の気配はないのでただの亡骸ではある。ただスケルトンと違いゾンビ体だったので気持ち悪さもあり少しだけ距離を取る。
ドラゴンゾンビは転移も予測していたのか、すでにこちらに巨体を向けつるある。ただどうあがいても巨体では旋回力が劣る。少しだけ時間の余裕はある。側に向かって来ていた獣型のアンデッドはテイルさんが対処に向かってくれたので、思考をめぐらすことはできそうだ。とはいえ、どうする? 射程距離と発動までのラグ、クールタイムを考えると正直これまでと同様に上手く叩き込める自信がない。
……先ほど確認した通り、周囲の戦況自体は終息に向かいつつある。他の人たちを巻き込まないように主戦場から離れた場所に転移をしていたが、手が空いた術士がいれば協力を要請した方がいいかもしれない。先ほどアキラさんがしたように攻撃術を使って足止めをしてもらえれば、<<ディスインテグレイト>>を叩き込むのが容易になる。
そう思って、主戦場の方に視線を向けた時だった。
「……は?」
そこに黒い体毛に覆われた巨体があった。その姿には見覚えがある、先ほど"竜舌蘭"で倒したハズの奴だった。ゼノギア狙いで突っ込んで倒した奴なので、肉体自体はさほど傷ついていない。というか霊体の気配を感じないのに何故動いている!?
いや、そんな事は後でいい。<<テレポート>>は使ったばかりで、すぐには使えない。起き上がった大型アンデッドはこちらに向かってこようとしている。まずは回避しないと…・…
体を翻し、大型アンデッドから離れるように駆けだそうとして──足に衝撃を感じた。
「……な」
そこには、先ほど俺が踏みつけた上半身だけのアンデッドの姿があった。いつの間にか俺の足元にやってきたソイツが、俺の足を掴んでいる。
「"鳳仙花"!」
咄嗟にソイツに対して術を放つ……が、猿型アンデッドが俺の足を掴む手からの力が抜けない。むしろ力が増し、爪が足に喰い込み痛みが走る。
更に状況が悪化する。
周囲のボロボロになったアンデッド達が起き上がる。アンデッドは出来るだけ足や腕を潰すように倒してもらっているが、この辺りは俺が術で一気に倒したのもありまだ形を大きく保っているものが多かった。そいつらが立ち上がり、その中でも一番近くにいた奴が別のアンデッドの骨が砕けたものらしきとがった骨を振り上げて──