声のした方に視線を向ければ、そこには軽鎧を身に纏った金髪をポニーテールに束ねた碧眼の美しい女性が立っていた。アイリーン様である。先ほど大型アンデッドを吹っ飛ばした魔術を放ってくれたのは彼女だろうか?
いや、やってきたのは彼女だけではない、他にも7名ほど騎士らしき姿が見受けられる。
以前アイリーン様を回復させたときに一緒にいた人も含め、いずれも実力のある騎士達のハズだ。確か魔術も使いこなすエリートたち。恐らく主戦場の情勢がほぼ固まったことでこちらの支援に駆けつけてくれたんだろう。先ほどまでは姿が見えないから、多分誰かのテレポートで飛んできたハズ。
駆けつけてきた騎士達は魔術を放ち、アンデッドを倒していく。
だがあいつらの中身がアンノウンだとしたら、通常攻撃は意味がない。中から抜け出して別の体に憑依されればこちらの消耗が続くだけ。もし予想通りあのドラゴンゾンビから移ったのならそれくらいは出来るだろう。だから俺は声を張ってアイリーン様へ向けて声を掛ける。
「アイリーン様、攻撃ではなく拘束を! 出来れば<<チェインバインド>>で!」
パストラでもクアンドロ地下遺跡でも、<<チェインバインド>>で拘束したアイツは逃げ出す事ができなかった。他の術でも拘束可能かもしれないが、実証済みの<<チェインバインド>>が一番間違いがない。そう思っての言葉にアイリーン様は問い返す事もせず「わかった!」とだけ返すと、周囲に指示を出してから彼女も飛び出して術を話す。
「<<チェインバインド>>!」
アイリーン様が放った魔術は的確にアンデッドの一体を捉え、そいつを完全に拘束する。
それだけじゃない。他にも騎士のうち5人が同様に<<チェインバインド>>を放ち、他のアンデッドを拘束していた。しかも中には側にいた二体のアンデッドをまとめて拘束したり、二つの<<チェインバインド>>を行使してそれぞれ別のアンデッドを拘束している猛者もいる。さすがエリート。
これで俺が拘束しているものを含めて9体──大型とドラゴンゾンビ、テイルさんが砕いた2体と猿を除いて拘束できた。──本当は大型を除けばまとめて処理したかったけど、ここは確実に行く!
「誰か、こいつらを一か所に集められますか!」
「どこでもいいのか!」
「はい!」
「わかった! リカード!」
「了解!」
先ほどの<<チェインバインド>>に参加していなかった騎士の一人が、アイリーン様の言葉に応じて勢いよく飛び出す。そして拘束されたアンデッド達の中心部に飛び込むと、腰を落として魔術を放つ。
「<<アトラクション>>」
術と共に、彼の握りこむしの中から半透明のロープが周囲に伸びる。それらのロープが拘束されたアンデッドに触れると、次の瞬間アンデッド達がそのロープに引きずられるようにして、彼の元へ引き寄せられる。
確か<<アトラクション>>は引き寄せの魔術のハズ。それほど強力な術ではなく踏ん張られたりされたら抵抗可能な術だが<<チェインバインド>>で拘束されたアンデッド達は抵抗する事などできず。彼の元へ引き寄せられていく。そうして彼は転がっているアンデッド達をその周りに集めると、そこから脱出する。
完璧な仕事すぎる、これならっ……!
「<<ディスインテグレイト>>!」
クールタイムが完了をした術を放てば、その術は集められたアンデッド達すべてを飲み込む。魔術を分解する<<ディスインテグレイト>>は連中を拘束していた<<チェインバインド>>の鎖をも消失させるが、<<ディスインテグレイト>>の効果が消えた後も、アンデッド達は動くことはなかった。よおっし!
「もうこいつらは大丈夫です! 残りのアンデッドの拘束もお願いします!」
残りは満足に動けなくなっている三体……まだ動いてはいる以上中身が抜け出ている感じはないので、拘束してしまえば後はドラゴンゾンビと大型一体のみ。大型はサイズが大きいとはいえ、一回の<<ディスインテグレイト>>でなんとか出来るサイズだ。アイリーン様達が来てくれたおかげで危うく向こう側に傾きかけた戦況が再びこちら倒れてきた、
「アイリーン様」
「ああ、どうした?」
「ドラゴンゾンビを数秒でも足を止めることは可能ですか?」
俺の問いに、アイリーン様は即座に頷く。
「そのくらいなら可能だ」
「でしたら俺が合図したら奴を足止めしてください。<<ディスインテグレイト>>を叩き込みます──それまでは俺は逃げ回るので、残っている連中の対応を。合図は大きく腕を上げます」
「了解だ」
アイリーン様の返事を確認し、俺はテイルさんと一緒に駆けだす。こう人が多い場所にいたら突っ込んできたドラゴンゾンビを躱しても他の人に被害がでる可能性がある。俺の回避先を見極めてから突っ込んで来ようとしていたドラゴンゾンビだが、用意した罠が崩壊したのに気づいて再びこちらに向かって来ている。<<テレポート>>で回避する事を考えたら皆と離れ、なおかつ支援は受けられる位置にいる必要がある。いや、彼らも<<テレポート>>で追跡してこれるか。
……というか。
申し訳ないんだけど、冴さんの体走りにくい!
普段でも走るのに胸が邪魔だと感じているのに(さすがに慣れたけど)、滅茶苦茶ご立派なものを胸に抱えているからな。日常生活でも大分邪魔だろこれ、足元全然見えないし。やっぱりずっと抱えて暮らしてたら慣れるもんなんだろうか?
ドラゴンゾンビの位置を確認しつつテイルさんに先導されて走りながらそんな事を考えていると、前を走っているテイルさんが腰のポーチから通信機を取り出して耳にあてた。まさか、もしかして──
通信機相手に二言三言交わしたテイルさんが、走りながらこちらに通信機を手渡してくる。俺はそれを耳にあてるとすぐに涼やかな声が聞こえた。
『終わりました』
酷く端的な言葉。だけど、その言葉を発している人物が冴さんであることを考えたら、意図は伝わる。このわずかな時間で死霊の王──ゼノギアを倒してくれたのだ。
「ありが……」
『術の解除を』
ひとまず告げようとした感謝の言葉に、またも端的な言葉が被せられる。ただ今度はその後に一呼吸おいてから言葉が続いた。
『状況は把握しています。気にせず、力の温存を』
……呼び出して戦うだけ戦わせてようが済んだら即消し去る。ゲーム等では当然だとしても現実で考えれば酷い話だといえる行為に感じている俺の罪悪感まで把握されている。なんかもう彼女は何もかもが器が大きい。
『自身の不始末を片付ける事が出来ました。感謝を』
「……ありがとうございます。本当に助かりました。それでは」
『ええ、それでは』
最後に別れの挨拶を交わし、俺はメニューを操作し"英雄の召喚"を解除する。通信機の向こうでパシッと何かを受け止める音がした。落ちた通信機をアキラさんかグウェンさんが拾ったのだろう。それを確認せずに、俺はテイルさんに返す。
……残りMPは約150万。英雄の召喚を切ったから、後15分はこのまま力を借りていられる。最早アンデッドは殆どいなくなってきているが、まだ殲滅し終えたわけではない。とっさの対応を考えればまだ"能力の召喚"の解除はまだ早い。
というか、後15分は俺の力の方が持たないだろう。だから──この残りでこちらの戦いも終わらせる。確実に。
前回残MP:6112630
藤堂冴召喚までの能力の召喚の消費:-1200000
藤堂冴召喚の消費:-2500000
藤堂冴召喚後の能力の召喚の消費:-1000000
追加スパチャ分:128800
残MP:1541430