ドラゴンゾンビから他の死体へと憑依しなおした先ほどの策は、奴にとっての賭けだったのだろう。
いくら強靭とはいえ図体がでかく小回りが利かない体は、<<テレポート>>が使える俺との相性が悪すぎた。だから強靭さではなく数と速度で攻めようとしてきて、その選択は間違いがなかった。実際アイツと戦い始めて傷ついたのも危ういところになったのも、先ほどが初めてだ。
だけど、その判断が遅かったことによりアイリーン様達の増援が間に合った。それにより奴は賭けに負けた。
動きのぎこちなさは増し、突撃の勢いも明らかに落ちている。アンノウンの数が減った事により、体の制御が追い付かなくなってきたんだろう。先ほどまでと同じような事をしようとしたところで、こちら側に戦力が揃った現状同じ事が起こるだけだ。最早奴は詰んでいるといえる。勝てる可能性があるとすれば、俺が術の使いすぎでぶっ倒れる事くらいだ。
……最初から街の方へ向かっていたら、こっちはもっと苦労をしたんだけどな。何故か奴だけはひたすら俺に固執をしていた。ゼノギアとアンノウンの繋がりがわからないが、俺が冴さんに変身出来る事に感づいたゼノギアが、対霊術式は意味をなさないアンノウンに俺を殺すように指示したということだろうか。まぁ奴が滅んだ以上それは最早わわからないが。
走りながら時間を数える。<<ディスインテグレイト>>のクールタイムが終了するまでは、こちらから出来ることはない。とはいえ、冴さんとのやりとりの時間もあったしもうちょっとでクールタイムは終わる。そこで今度はこちらが勝負に出ようと思う。
アンデッドとの戦いはまだ続いているとはいえ、終息に向かっている。大型がほぼ片付いているから、待てるギリギリまで待って後もう一回くらい"雪椿"を使えばその後俺が離脱しても問題ないだろう、他の心霊術使いもいるしな。
ようするに変身が解ける。
顔は仮面で隠しているし、髪の長さは違うけど黒髪は一緒だ。問題はお胸の立派なものだけど……今近場には増援で来てくれた人たちしかいないし、まぁなんとかなるだろう。増援の人たちはいろいろ気づくだろうけど、その人たちの対応はもうアイリーン様達にお任せする! 最悪かん口令を敷いてくれて広々と俺の素性に繋がる話が広がらなければいい。今はそこまで気にする状況じゃない。
問題はテストをしていない一発勝負なことだけど……まぁ失敗したら終わるというわけでもないので気負い過ぎずに行こう。……最悪は皆に"BANにならない範囲で何でもいう事聞く"という条件で助力をお願いするくらいの覚悟はある。
頭の中で数を数える。 5……4……3……2……1……
「テイルさん、跳ぶよ!」
「ん!」
即座に手を出してきたテイルさんの手を掴み<<テレポート>>。飛び先は──先ほどまでいた場所、アイリーン様達の側。これまでと違い、奴の突撃した正反対の位置ではく、側面に近い場所。ダッシュで逃げていた俺達を追って方向転換をしていたその巨躯は、それに気づいて動きを止め、こちらに転回しようとするがやはりその動きがぎこちない。これまでだったら大きく勢いよく体を回して尻尾の一撃を叩き込んでこれたかもしれないが、とても今の動きでそれは望めない。
──もうお前は詰んでいるんだ、とっとと消えてくれ。
「"雪椿"」
戦場へ向けて再び術を放つと共に、俺は大きく腕を上げた。……先ほど指定した合図。その合図に即座にその場にいた皆は反応してくれた。
残りのアンノウンの拘束をしている者以外の術者がドラゴンゾンビに向けて<<チェインバインド>>を放つ。更にいくつもの攻撃魔術が叩き込まれ、体を転回中で勢いを失っていたドラゴンゾンビは完全に動きを止めた。
そのドラゴンゾンビに向けて俺は飛び出し、手を向ける。
「<<チャージ>> 130MP ──<<ディスインテグレイト>>!」
残りのMPをほぼつぎ込んだ<<チャージ>>で増強した<<ディスインテグレイト>>。それが俺の切り札だった。
通常術の威力を増強させる<<チャージ>>だけど、<<ディスインテグレイト>>は魔術を問答無用で分解する術なので威力の増強もクソもない。そういった術の場合、効果範囲が増加するという効果がある。
発動にかかる時間があり、射程の問題もあり、奴の動きの速度もあり、何よりゼノギアを倒するまではMPも無駄遣いが出来ないという問題があったけど、増援の到着・奴の弱体化・ゼノギアの撃破で条件は完全に揃った。転回中だった上に周囲の皆の支援により奴は動きを止め、動かぬ的になった。そこへ向けて術を叩き込む。
狙いは尻尾と頭部を除いた奴の体の中心の位置だった。過去に試した事がない以上効果範囲がどこまで広がるのかは推測でしかない賭けだったが、最悪確実に憑依している4本の足と首を飲み込んでくれれば……との考えだった。
そして、その結果は……広がった術の効果範囲は期待以上でも期待以下でもなく、胴体と首を飲み込み──そうして奴は崩れ落ちた。
「……やったか?」
『カズサちゃん、そのセリフは不味い!』
『フラグぅ!』
うるさい、自然に出ちゃったんだから仕方ないだろ!
地面に倒れ伏すドラゴンゾンビ。その様子を見ているが……動く気配はない。やはり、頭部や尻尾にまで憑依している余力はなかったんだろう。
終わった……いや、まだか。アンデッドはともかくとして、残っている拘束されたアンノウンも消し去っておかないと……そう思って振り返ったところで体にむず痒い感覚が走って、突如として体の前面への重みが軽くなった。
え? と思って視線を落とせば、胸元の双丘が見慣れたサイズに戻っている。……ああそっか、MP切れでヒロイックサーガが強制的に解除されたのか。まぁわかってたことがしそれはいいんだけど……。
あかん、疲労感はヤバイ。ヒロイックサーガ中はそちら側からの力もあるのかある程度疲労は緩和されてたようだけど……かなりギリギリだった気がするな。
ひとまずアイリーン様にお願いし、大型アンデッドの場所に残りのアンノウンも集めてもらってまとめて処理。うん、これで少なくともこの場にいるアンノウンは全て消失しただろう。"能力の召喚"も解除されている以上、ここで俺がやれることはもうない。
「アイリーン様、俺達はこれで離脱させてもらおうと思います」
「ああ、カズサさん。本当にありがとう……貴女がいなければ、ここまで確実な勝利は望めなかったハズだ。後で改めて感謝は示させてもらうが、今はゆっくり休んでくれ……ルーグ!」
「はっ!」
言葉の最後でアイリーン様は後ろに控えていた騎士を振り返て名を呼ぶと、呼ばれた壮年の騎士は前へ進み出る。……この人は以前治療した時にいた人で、俺の正体も伝えられている人材だ。
「二人を兄上の天幕まで運んでくれ」
「はっ!」
「それは……」
「念のため、あまり他の人間には見られない方がいいだろう? それにもう自分で術を使うのは出来るだけ避けた方がいい」
「……そうですね、お言葉に甘えます」
そうして俺とテイルさんは天幕に戻った。本当は家の方まで帰りたいけど、俺のポイントのセット先はパストラだからな。パストラの家に戻るにしろ、リンヴルムの家に戻るにしろ、まずはアキラさん達と合流してからだ。それまでは天幕で休ませてもらうか……そう思って天幕の中に入った途端、本当の意味での安堵が来たのだろう。体から完全に緊張が消え、その結果膝の力が抜けて崩れ落ちそうになった。その体をテイルさんが優しく受け止めてくれるとそのまま彼女は力の抜けた俺の体をぎゅっと抱きしめてくれた。
「本当にお疲れ様、カズサちゃん。後はゆっくり休もうね」
前回残MP:6112630
今回増減:
ヒロイックサーガによる消費 -4900000
<<チャージ>>による消費 -1300000
スパチャ +131000(前回からの増減分含む)
残MP:43630