瞼の向こう側から光を感じて、ゆっくりと意識が覚醒する。
目を開けば、そこには最近見慣れた天井があった。リンヴルムの自宅の天井だ。
「えっと……」
あまりまだはっきりしていない頭のまま、とりあえずゆっくりと体を起こして背伸びする。そのまま窓の外を見れば、そこは明るい陽の光に照らされていた。朝……いや、もう昼に近いかな、これ。
えーと、確か昨日は……うん、意識がハッキリして思い出してきた。
昨日戦いを終えた後カシュナート様の天幕でアキラさん達と合流した俺達は、事後処理はこちらで済ますので後は休んでもらって構わないという言葉に甘えて、アキラさんの<<ポイントテレポート>>で自宅に帰還した。正直俺が限界近かったしね。
そうして、帰還した後は皆(というかまぁ現状では同性のアキラさんとテイルさん)の手を借りてお風呂に入って……といっても汗と汚れを流しただけだし、全裸になっていたのは俺だけだったけど……で、そこまでは体はともかく意識はまだはっきりしていたんだけどお風呂でアキラさんが沸かしてくれた温かいお湯に身をさらしたせいか、そこで一気に眠気が来て……その後はあんまりはっきり覚えていない。
体を見下ろせば、恰好はちゃんと寝間着姿だ。多分アキラさんかテイルさんが着せてくれたんだろう。……着せ替え中の姿映ってないか一瞬不安になってけど、まぁテイルさんとアキラさんはカメラ見えてるし大丈夫か。ちゃんと胸元もきっちりボタンがとめられていたので、睡眠中に事故ったりもしてなさそうだな。
そういやカメラの位置は……? と思ったら寝る時の定位置にあった。カメラの配置変更は俺にしかできないから、寝る前にちゃんと設定したっぽい。習慣って怖いね。
ともあれ、カメラ位置を調整して、と。
「おはよ、昨日はそのまま寝ちゃってごめんね?」
『おはよーカズサちゃん』
『昨日は大変だったしやむなしよ』
『それにしても良く寝てたね?』
「俺どれくらい寝てたの?」
『おやすみしたのが昨日の午後4時くらいで今10時くらいだから、18時間くらい?』
「マジか」
さすがに寝過ぎだろう。まぁ記憶にないけど途中で目を覚ましてまた寝てたりしてたのかも。身体的にも精神的にも自分が思った以上に疲労してたんだなぁ。
「ごめんなー、全然相手できなくて」
『問題ないです。カズサちゃんは寝てる姿もかわいいので!』
『すやすやカズサちゃんめっちゃ可愛かったよ……』
『とりあえず顔は洗ってきた方がいいかも』
なんかやたらと可愛い行ってくるコメントの中、そんなコメントが目に入る。え、顔? いや、確かに皆に見られてるんだからまずは顔を洗うべきだな、と思いつつカメラに映っている自分の姿を改めて確認したら。
──めちゃくちゃ、ヨダレの後がついていた。
気付いた瞬間、頬が赤くなるのを感じる。嘘、この状態で皆の前で話してたの!?
「っ、顔洗ってくる!」
俺はベッドから飛び降りるとそのまま部屋を飛び出した。教えてくれた人マジありがとう! でももうちょっと早く教えて欲しかったな!
◇◆
『本当に疲れてたんだねぇ、口開けて幸せそうに寝てたよ』
『久々の覇権コンテンツヨダレカズサちゃんが見れて良かった』
『拙者カズサちゃんが疲れた後に寝た時に見せる油断しきった寝姿大好き侍』
『カズサちゃん疲れてるときって夢見てるのか、妙にもぞもぞ動いたり表情変わったりするから見てて飽きない』
『途中おくちむぐむぐしたり、「ているしゃん、ごはん……」とか舌ったらずな寝言いってた時、萌え死ぬかと思った……』
「うう~」
顔を洗って戻ったら、コメント欄は俺の寝姿を品評する会になった。そこそこだらしない寝姿を教えてもらう度に頬が赤くなっていくのを感じつつ、口からは呻き声が漏れる。というか寝言とか完全に夢を見ていた時の反応なんだろうけど、全く記憶がないんだよな……
『今朝がた速攻であがった切り抜き、滅茶苦茶再生数が伸びてるな』
『夜の視聴者数また増えそう』
『めちゃ可愛かったしやむなし』
わぁい、やったねチャンネル登録者が増えるよ。
『いやぁここ最近の配信満足度がすごいね。リアルお姫様の体育授業、巨大モンスターとのバトル(巨乳巫女さん付き)、美少女の寝姿配信と一つのチャンネルと思えない多彩さ』
「まぁ満足してくれたなら俺としても良かったよ。今回の戦いも皆のおかげでなんとかなったようなもんだし」
火照った顔から手を離し、ちゃんとカメラを見つめてそう口にする。発した言葉はまごうことなき事実だ。皆が投げてくれた大切なスパチャから生み出されるMPがなければ、今回の戦いで圧勝といえる結末を迎える事はできなかっただろう。
そう、今回の戦いは圧勝といって差し支えない結果を迎えていた。
天幕を去る前に聞いた話なんだけど、あれだけの戦いを終えてさすがに怪我人は多数出た者のこちらの犠牲者は一人も出ていなかったのだ。完勝といって差し支えない結果である。戦場に一定以上の実力者を配置し、負傷者は即座に後退させるという方策を取り、回復系の術の使い手もそろえるという事前の準備を徹底的に行った故の結果だった。
そして何よりも大きかったのは過去の英雄の力を借りれた事だろう。正直な話、冴さんの力を借りれなければここまでの勝利は迎えられていなかったハズだ。その力の源はリスナーのお金なんだから、間違いなく皆の力で勝てたようなもんである。
『ようするに、俺達も町を救った英雄ってコト?』
「うんうん」
『美少女の生活見てスパチャ投げてたら英雄の一員になっていた件』
『あれあれ俺達また異世界を救っちゃいました?』
『過去の経歴で街を救う手助けをしたって言って誇張じゃないの、すごい事じゃね?』
『履歴書に書けますか!?』
「さすがに履歴書には書けないと思う……」
そもそも何の面接の履歴書に書く気なのか。
「いやでも本当にありがと、改めてお礼を言うね」
『いいってことよ』
『カズサちゃんが無事で笑っていられるのが一番のご褒美だよ』
『食事のランクは落ちたけど、すがすがしい気分だぜ!』
「いつもいってるけど、あまり無理はしすぎないでね。今後お礼配信の事皆で話し合おっか」
後で精一杯のお礼はするっていったからね。
「でも、しばらくは待ってね?」
『うん、今はのんびりしよー』
『お歌配信聞きたいなぁ』
『次の衣装考えておきます』
あ、やっぱり次もコスプレするんですね? うちのメインコンテンツの一つ(?)だから当たり前かもしれないけど。
まぁ覚悟は決めておこう。今回は事前にさんざん投げて貰ってるからMPの増加は無理があるから本当にストレートでのお礼配信だなぁ。MP狙いじゃない企画配信なんて初めてじゃない?
ま、しばらくしたらMP狙いの企画配信もしなきゃいけないけど。せめて日本側の月が変わってからかな? 皆の給料を狙っているみたいでちょっとアレだけど、MP殆どない状況はちょっといろいろ不安があるしねぇ。
そういえば、最終的にいくら残ってるんだっけ? あの後メニューも開いてないから残高正確には確認してないわ。10万を切っているのは間違いないんだけど……そう思ってメニューを開いた俺の眼の中に、あるものが飛び込んできた。
「……あれ?」