とりあえずまずはこっちかな、と"近くの門の探知"を開いてみる。
「……なんじゃこりゃ」
表示されたのは、上下左右にグリッド線が引かれた黒い画面だった。そして右側の砲に外側を指し示す矢印が表示されている。なんか情報量少なくない?
『探知って名前だし、レーダー的なアレじゃね?』
『門とやらの方向を指し示しているのかな』
「名前からして、そんな感じだよねぇ」
というかこれ方向とか書いてないんだけど、どっち差してるのさ。と思って体の向きを変えてみても矢印の方向は一定の方向を指し示していた。成程、方位磁石みたいな感じか。
で、それが指し示している方角だけど……
「レンオアム大森林の方角だねぇ、これ」
『だねー』
『またあそこか』
まぁ今いるリンヴルムは街の西側を除いた大部分を大森林に囲まれているような立地ではあるんだけど。でも指しているのは東側だ。という事は最深部の方角を指しているのかな? 前行った時はゼノギアに遭遇して撤退したから、そこから先? 少なくともあそこにつくまではそれっぽいものなかったよな。あんな鬱蒼と茂った場所だからあったとしても見落としていた可能性が高いけど。
うーん、まだ何かあるってこと?
ただこれ距離が示されていないから、大森林よりもっと先の可能性もあるんだよな……
「とりあえず、アキラさんやテイルさんと相談してみる」
『んだね』
『これ近くによったらもうちょっと具体的な位置が表示されるのかな』
「矢印出すだけならこのグリッド線引かれた部分いらないし、そうじゃないかな?」
近くに寄っても方角しか出してくれないならクソ機能すぎる。
この扉がアンノウンに関連しているとなるとあまり放置しておくわけにはいかなそうだけど、具体的な場所がわからないと気軽には動けないからな。森の奥まで行くなら準備が必要だし、場合によってはアイリーン様とかに協力を仰いだ方がいいかもしれない。
……しかし、またあの森の中捜索するのか。やだなぁ、あそこあるくの疲れるんだもん。
まぁこっちはちょっと後回しにしよう。まだ体に疲れが残っているから、あの森に行くのつらいし……放置はできないけど緊急性はないと考えさせてもらおう。というか緊急性があるのであればEMERGENCYの表示でもつけてくれ。
「もいっこの方は……あ、こっちはちゃんと説明が書いてある」
"近くの門の探知"を閉じて"門の封印"を開くと、そちらにはちゃんとテキストが記載されていた。
「ええっと……『この機能では、視界内にある、あるいは"近くの門の探知"で一定の範囲に表示されている"異界と通ずる門"をMPで消費する事で封印することができます』」
その文言を見て 俺は自分の眉間に皺がよるのを感じた。またか! またMPか! ヒロイックサーガという(能力としては強力だけど)くっそコストの重い機能を追加したばかりなのに、またMPが必要な機能か!
……たまにはMPを使わない機能も増やしてくださいよ、コラボ機能みたいな。
そんな俺の思いは皆も同じだった様で
『あー、予想はしてたけどやっぱりMP必要なんだ』
『課金圧が強すぎる』
『絞り取れるところまで絞りとろうとしてますねこれは』
『さすがに厳しいだろ』
……。
そうだよ、な。
皆、と同じじゃない。俺はあくまで皆が投げてくれることによって生み出されたポイントを使っているだけだけど、皆が投げてくれいるのはリアルマネーだ。他に欲しいものとかより優先して投げてくれている大事なお金。俺が元からこっちの世界の人間だったらわからなかったけど、同じ世界にいたからこそ知っているその価値。
「……みんな、ごめんね」
気が付けば、自然と口から謝罪の言葉が口に出ていた。特にここ最近ではかなり投げてもらったのに、更に投げ銭を求めるような機能だったので。
直後にコメント欄が加速した。
『なんでカズサちゃんが謝るの!?』
『カズサちゃんは被害者ポジじゃね』
『俺らが好きで投げてるんだからカズサちゃん泣かないで』
『カズサちゃんにいったんじゃないからね!?』
『すみませんでした』
「いや皆が謝るところじゃないから!」
なんか反応が俺を宥めるのと謝る流れになったので、慌ててそれを否定する。ここで皆に謝られる理由はない。
『俺らも謝られるより、ありがとうって言ってもらえる方が嬉しいよ』
「……うん、そうだよね。みんなありがとう、本当に感謝してる」
『うむ』
『というかむしろカズサちゃんはそっちの世界のためにそれこそ体を張って頑張ってるわけで……聖人君子か何か?』
『つまりカズサちゃんは聖女』
『せいじょ! せいじょ!』
「聖女はやめてぇ!?」
女の子扱いされるのはもう慣れたもんだけど、さすがに聖女呼びは恥ずかしすぎるから! あとひらがなよびは別の意味にも聞こえるから特に!
『顔赤くしちゃってかーいー』
『何でしょうかねこの可愛い生き物』
『信じられるか? この可愛い生き物ワイらが育てたんだぜ?』
チャンネル名的に否定できねぇ……
「やめよっかこの話」
『やめないよ?』
『皆の者、今が攻め時じゃ!』
攻め時ってなんだよ!
──数分後。
何故か始まった「とにかくいろんな言葉で俺を褒め立てて俺を照れさせる」流れはようやく終息へと向かっていた。めちゃくちゃ歯の浮くような褒め言葉まで書かれたので、正直頬が熱い。ただ「かわいい」とか言われるだけならもう全然平気なのになんで君達そんなにボキャブラリーが豊富なの?
「…・…そういえばちょっと今回気になった事があったんだけど」
『あ、話逸らそうとしてる?』
『もうちょっと続けようか』
やめてー。
『ともかくカズサちゃんはあまり余計な事は気にしないようにね?』
『俺達スキで投げてるんだからさ』
「……うん、ありがと。そのかわりコンテンツ供給は頑張る」
『期待してまっす』
『いうて疲れてるだろうし今はゆっくり休みのよ』
「うん。…・…で、気になったことなんだけど」
『あ、それは本当にあるんだ』
『なんや。おばちゃんに話してみい』
「いやまぁ素朴な疑問なんだけどさ。なんで機能の追加って、こうやって少しずつなんだろ?」
これまで何回か機能や能力の追加が入っているけど、わざわざ段階を踏んでの取得なんだろうか。ヒロイックサーガはその由来の地にいく必要があるとかそんな理由でわからんでもないんだけど、今回の追加機能とか別に最初からあっても良くない?
『ん-、やっぱり何らかのゲームがベースになってんじゃね?』
『UIゲームっぽいし、やっぱりゲームとしては段階踏んで成長するものでしょう』
確かにゲームっぽくはあるんだけど。ただこんなUIも世界観も知っている人はいなかったから、最近の小説とかでよくある既存のゲーム世界に転移したとかそういう感じではなさそうなんだよな。
『カズサちゃんの体がそっちに馴染むのを待ってるんじゃないかな。異なる世界だし、体がそっちの世界に適応する事によって、その力を使えるような体ができあがっていく感じとか?』
「あー、成程。馴染む説はそれっぽいかも」
世界に馴染むというか、この体自体が元の俺の体とは別のものだし、この体に俺の魂が馴染むとかそういった理湯があるかも。証明は出来ないけど、なんとなく納得も出来なくもない。
「まぁ単純に経験値たまったからーって感じではないけどね。後は必要に応じてって感じかな」
『そだね、何かしらのイベントがあった前後に取得しているっぽいし』
『カズサちゃんの成長のともなって、その都度必要な能力が解放されているって感じかな』
「とりあえずその辺で考えておこっか」
<<オラクル>>を使えば教えてその理由とかも効けたかもしれないけど、それより優先する事なんかいくらでもあったしな。配信の都合上モザイク機能は絶対に必要だったと思うし。これ気になるだけで知っても知らなくても結果が変わらない類の話だしなぁ。
『てかちょっと気づいたんだけどさ。カズサちゃんそっちの世界に適合して言っているって事は、こっちに戻ってこれるのかな?』
「どうなんだろうねぇ……」
『あら割と反応薄い』
「ある種の覚悟は決まってるからねぇ……」
正直なこっちの世界にどっぷりつかりすぎて、今更帰れるのか? という気持ちは強くなっているんだよね。
あと冴さんとかやっぱり帰れなかったみたいだし。
『すでにカズサちゃんは生活の一部となっているから、完全にリスナー目線の願望でいえばそっちで配信は続けて欲しいんだけどね』
『毎日を生きる活力を失いそう』
重い、生きる活力とか言葉が重い! でもまぁ、
「みんなの活力になってるなら嬉しいね。これからも続けられる限りは配信頑張るからね」
そういって小さく胸の前でガッツポーズしたらめちゃくちゃ皆に可愛いと言われたけど、最早意識せずともこういう仕草がでちゃうのも、戻れるのか? と考える理由の一つだよなぁ。