「また、ここに来るとは思わなかったなぁ」
「背負うか?」
「ううん。だいじょぶ、グウェンさん」
頭上を鬱蒼と生い茂る木々に塞がれ、薄暗い森の中。張り出した樹の根や縦横無尽に伸び捲っている蔦に足を取られつつもぼそっと呟いた俺の言葉が耳に入ったらしい。すぐ横を歩いていたグウェンさんが掛けてくれた言葉に、首を振りつつそう答える。
まぁ前回程気を張ってはいないので、疲労に関してはまだマシだし。移動距離もまだそれまでじゃないしな。
──メニューに組み込まれた新機能を確認してから数日後、俺達は今再びレンオアム大森林の奥深くへとやってきていた。
……本当は、ここ最近くっそ忙しかったし、何より先の戦闘で皆に助けてもらったからお礼も兼ねて何か企画でも考えつつのんびり過ごそうと思ってたんだけど。結局こんな何かを示唆する情報を見せられておいて放置したままだと気になって夜も寝られず──いや、リスナー曰く『すやっすやだったよ!』らしいけど──結局あの昨日の指し示す場所へとやってきているわけである。
勿論、すぐに来たわけじゃないけど。
まずなんだけど、新機能をしって最初にアキラさん達に相談した後にアイリーン様達にもゲートの件に関して連絡した。残ったアンデッド達の掃討の為、軍や探索者協会から人員を出してレンオアム大森林の探索をしているという話だったので。もしかしたらそれらしい何かを見つけている可能性もあるかもしれない、と思ったのだ。
結論からいうと、そんな事はなかったけど。レンオアム大森林広大だからね、仕方ないね。
その際にアイリーン様から「方角を指し示しているのであれば、クーストスの街で確認してみるのはどうだろう?」という提案を受けた。先の戦いで冴さんやアキラさん達をクーストスの街まで運んだ<<ポイントテレポート>>の使い手がまだポイントの設定そのままにリンヴルムに滞在しているとのことだったので、お言葉に甘えることにした。二点から方角を確認すれば大体の位置が特定できるからね。距離が遠ければ同じような方角しか差さないだろうけど、それはそれで今考えても仕方ない場所に在るって判断できるし。
で、クーストスから測定した結果。差した方角は北東だった。その方角をリンヴルムで確認した方角と合わせて地図上で検証した結果──レンオアム大森林の奥地を指しているのが確認された。というか、以前俺達がゼノギアと遭遇した辺りだ。
当然、これは確認すべきだという事になった。といってもさっきいった通りいきなり来たわけじゃない。
まずカシュナート様がレンオアム大森林を調査しているメンバーの中から優秀な部隊を使って最深部の調査を実施してくれた。俺がいけば早いんだけど、消耗している俺の体をおもんばかってくれてまずはそちらで調査となったんだ。
ただ結局それらしきものは発見できなくて、俺がこうやってやってくることになったんだけど。先遣隊の中に組み込まれていた術士(クーストスに運んでくれた人)が最深部にポイントを設定してくれていたおかげで前回のように夜営をせずに一気にここまでやってこれている。マジ助かります。
……まぁそこから先はくっそ動きにくいジャングルの中を進むんですけどね。
「カズサさん、このまままっすぐで良いのだよな?」
「はい、大丈夫です」
前を歩いて確認してくるアイリーン様に、俺は出しっぱなしのゲートレーダー(仮命名)を確認して頷く。
……うん、何故かアイリーン様も来ているんだ。
今回の探索に来ているのは、俺達4人にアイリーン様、シグレさん、術士さん二人、騎士さん二人である。俺の正体の都合上同行できる人材は限られるとはいえさすがにここにいる面子だけってわけでもないのに、なんでこのお姫様は一緒に来ているんだろうか……まぁ今回の事を重要視しているのかもしれないけど。
ちなみにレーダーを使っている俺が先頭を歩いているのは安全の為もあるけど、少しでも歩きやすいルートを選ぶためでもある。マップがあってもこんな森の中を素人がまっすぐあるくとか不可能なんで。
ついでにいうとレーダー見ながら歩いているせいかちょくちょく転びそうになってて、テイルさんやグウェンさんに支えてもらっている。すみません。
でもまぁ、それもあともうちょっとだ。
「止ってください」
俺は周囲の皆に声を掛ける。
転移してきた時点でレーダーはこれまでのように方向を指し示すのではなく、とある特定のポイントに光る点が表示される形となっていた。そしてそちらの方向へ進むたびにその点は中央へと近づいていき──もう殆どど真ん中と言える場所になっていた。恐らくこの辺りに、"ゲート”とやらがあるハズ。
「多分この辺りに、何かあると思います」
「……それらしきものは見当たらないわね」
俺の言葉に、アキラさんがそう口にする。確かにぱっと見それらしいものは周囲には見当たらない。とはいえさすがに何もないとは考えづらいんだけど……
「……ちょっと来てくれ」
そのまま全員で周辺を確認し──そう皆を呼び寄せたのはグウェンさんだった。
全員が彼の元へと集まり、彼の向けた視線の先を追って……眉をひそめた。
「成程、これは解りにくいな」
「アイリーン様、余り不用意に近づかない方が……」
"それ"に近寄り覗き込むアイリーン様の前にすっと騎士の一人が体を差し込むと、アイリーン様は苦笑いして少し下がった。やっぱりアイリーン様は好奇心が強すぎる気がするなぁ。まあ実力のある人だから大抵の事は対処できるというのはあるんだろうけど、親御さんとか部下の方々とか結構胃を痛めていたりしない?
それはおいておいて、アイリーン様の言う通りこれは確かにわかりづらい。"それ"は、一つの巨木のウロの中にあった。
「……これ、"門"というか"穴"だよね」
「そうね」
アイリーン様に変わって覗き込んだ俺がこぼした言葉に、すぐ横に立つアキラさんが頷く。
それはまさに穴だった。ウロの中の地面に空いた穴。直径は多分1mない。穴といったけど、地面がへこんでいるとかではなく円形に黒く塗りつぶされているような感じではあるんだけど……表現するとなればやっぱり穴という言葉が正しい気はする。元々薄暗い森の中で更に木のうろの中にあったせいで非常にわかりづらくなっているけど見た目が明らかに自然のものではないし、多分これで間違いはないと思う。
「となると、これを塞ぐ感じ?」
俺の背中に体重をかけて、肩越しに覗き込んでいるテイルさんがそう聞いてくる。うん、そうなんだけど……そんな耳元で喋られるとこそばゆいよテイルさん。ぞわぞわしちゃう。そしてリスナー達よ、『カズサちゃんは耳が弱い』じゃねーんだよ。なんで感づくんだというか誰だって耳元に息があたったらゾワゾワくらいするだろ!
いや、そうじゃない。さすがにちょっとやばげな物を前にして阿呆な反応をしている場合じゃない。テイルさんの言う通り、予定通りで言えばこれを新機能で塞ぐことになるんだけど……
「あまり大きくないから塞げればいいんだけど……」
穴を塞ぐためにはMPを消費するわけで。先の戦いで大量に消費したMPは普段からちょこちょこ投げてくれる皆のおかげで少し増えてはいるものの、大分心許ないのは変わらない。
とはいえ、まずは試してみないと始まらないか。想像したものよりしょぼ──小さいサイズだったから足りてくれると助かるんだが……足りないのが少しならこの場で芸披露しておひねり貰うか? 芸って何だよ。
そんな事を考えつつ、メニューを操作しようとしたその時だった。
穴の中から腕が生えてきた。